[E3 2003#087]長い迷宮を潜り抜けた「Call of Cthulhu:Dark Corners of the Earth」 | - 05/19 17:33 |
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イギリスを拠点にするHeadfirst Productions社の開発する「Call of Cthulhu;Dark Corner of the Earth」(以下,CoC: Dark Corners)は,だいぶ以前から開発が進められていたにも関わらず,元の発売元だったFishtank Interactive社が買収された時に発売リストから切られてしまったり,その後に提携したRavenburger Interactive社との契約書の不備による訴訟問題などを経験し,1度は発売中止のウワサも伝えられていた。しかし,今月初旬になって「The Elder Scroll」シリーズでお馴染みのBethesda Interactive社が名乗りを挙げたことから,「CoC:Dark Corners」の運命も急展開。発売は2003年末へと延びてしまったものの,アメリカでの正式リリースが確定したために,3年目となるE3会場に帰ってきたのだった。 実際のところ, 「CoC: Dark Corners」は原作を忠実に再現しているのではなく,別の著者によって書かれた外伝をベースにして制作されている。さらに,世界観の表現に一役買っているのは,テーブルトークRPGとして存在するバージョンだという。 本作は,1920年頃が舞台。怪奇現象が続発するインスマスという海辺の寒村に,依頼調査にやってきた私立探偵ジャック・ウォルターズが主人公の物語だ。巨大な邸宅に篭ったカルト集団が,地元警察との銃撃戦を繰り広げた後,静かになった邸宅に,ジャックが忍び込んでいくのだが,もちろんカルト集団も生き残っているだけでなく,ラブクラフトの小説通りの不可解なイベントが次々に発生する。その過程で,この邸宅を包み込む狂気がジャックの精神を少しずつ蝕んでいくのである。 「CoC:Dark Corners」は,インタフェースが1つも存在していないという奇妙なゲームである。第1人称視点型のゲームなので,FPSのように銃器を扱うこともできるが,本来はアドベンチャーであるためか,相手から受けるダメージはシビアに作られている。2〜3人しかいないようなところに飛び込んでいくのでも非常に危険な行為なのだ。主人公がメガネをかけているという設定のため,体にダメージが加えられると,画面上(つまりメガネ)に付着する血糊の量が増えていく。これは,屋外での雨のシーンでも利用されているグラフィックス表現だが,実際に水滴が流れ落ちるような効果が生々しい。ヘルスパックのような便利なアイテムは落ちていないので,部屋の戸棚にある包帯を使うなどして,自分で治療する必要もある。 アドベンチャーゲームであるという特性から,筆者がデモで見たことを話すのは控えておくが,「CoC:Dark Corners」でインタフェースがないことを補う機能としてばかりでなく,他のゲームとは違うダークな仕様が"インサニティ(狂気)"効果である。プレイヤーが,なにか残酷だったり気味の悪いシーンに出くわすたびに,プレイヤーキャラクターの鼓動は激しさを増し,文字通り頭がクラクラしてくる。画面は何十にも重なって見え,普通にコントロールすることができなくなってしまうのだ。あまりにも酷くなってくると,視覚や聴覚にも異常を来たし,妙な映像がダブったり囁くような声が聞こえてきたりするのが怖い。夜中に1人でプレイできないようなタイプのゲームとなっている。 FPSに慣れている人には,突撃していけないもどかしさとか,1つ1つのドアノブを回さなければ通れないなど面倒臭く感じるかも知れないが,ホラー系のゲームや映画が好きな人には,「CoC:Dark Corners」は,たまらない作品となる筈だ。すでにゲームは基本的に仕上っているようだが,12月までにはコツコツと細かい部分でチューンナップする時間があるだけに,完成度も高くなるのではないだろうか。ゲームエンジンはNetImmerseをライセンスし,キャラクター1体につき1万ポリゴンで,物理エンジンもHavokを利用しており,それなりのクオリティで体験できるだろう。 さて,発売元が決まるまで暇だった時間を持て余したくなかったのか,Headfirst Priductions社では,続編の「Call of Cthulhu:Beyond the Mountain of Madness」も昨年末から開発しているらしい。この開発が決定された理由は,スピルバーグのDreamWorks社が,H.P.ラブクラフトの小説「At the Mountain of Madness」の映画化を決定したからだという。この映画によって,Cthulhuシリーズも大きな注目を浴びるかも知れず,今後の展開やHeadfirst Productionsの実力を知る上でも重要な一作である。(奥谷海人) |