フリーソフトにしてターン制ストラテジーゲーム最高峰の作品……それがこの「Steel Panthers: World At War」(以下,SPWAW)だ。
SPWAWは,第二次世界大戦をテーマに,妥協の無い徹底的な作り込みによって構築されたゲームシステムと,当時活躍した5000近くもの兵科(ユニット)が登場する圧倒的なデータ量を誇る,まさに泣く子も黙る超硬派戦術級シミュレーションゲーム。ミリタリー系ゲームファンに力強くお勧めしたい大作である。
本作の最大の特徴は,市販ソフトと同等かそれ以上のクオリティを誇りながらも,フリーソフトとして扱われている点だろう。要するに,タダで遊べてしまうのである。ゲームをインストールした状態で幾つかのシナリオ/キャンペーンが用意されており,シングル/マルチの両方を機能制限もなくとことん遊び込むことができる。
SPWAWの売りは,とにかく"硬派"の一点に尽きる。オーソドックスなターン/ヘックス制のゲームシステムを基本に中隊〜大隊規模の戦いを再現しており,ユニットの最小単位は分隊/一車両。平たくいえば,日本でもお馴染みの「大戦略シリーズ」と同じタイプの作品といえる。しかしながらSPWAWでは,ユニットに経験や士気はもちろん,サイズ,重量,射程,体勢,無線の有無,車両ユニットに至っては射撃管制装置や砲身安定装置の有無,乗員数、車体と砲塔の前後左右別の装甲値,弾薬の種類による貫通力と対人攻撃力の違いなど,当時の戦いを再現するための非常に細かなパラメータが設定されており,その作り込みの凄まじさは,パッケージより上だといってもよいだろう。さらにユニットの士気や経験値は国(と年代)別に設定され,イタリア軍はすぐ敗走する,日本軍は絶対に退却しないというような,当時の軍隊の特性さえも忠実に再現している。
また,SPWAWは独特の"指揮システム"を採用しており,戦場における連絡の重要性,連携の難しさなどを絶妙な塩梅で表現している。例えば,連絡のつかないユニットは孤立状態と見なされ,命令の変更などが行えなくなる(ユニットを動かせない)。結果,前進や退却などが思うようにできないなど,混乱する戦場の様子をうまく再現しているのだ。また無線があれば指揮官ユニットと離れた位置にいても連絡が取れたりと,装備による修正も細かくチェックされるほか,士気の高さによって勝手に敗走したり移動ができなくなったりと,指揮官を悩ませるさまざまな状況が起こるなど,非常にルール的な芸が細かい。 ちなみにユニットを思うように動かせないというのは,ボードゲームの世界では「コマンド・コントロール・システム」という名で有名だ。戦場において"思うようにいかない司令官の苦悩"を表現することは,ストラテジーゲーム(主に海外の)が追い求める一つの題材といえる。兵士(ユニット)の行動/状態に一喜一憂しながら戦う面白さが,このルールにはあるのだ。
SPWAWは,決して簡単とはいえない複雑なルールを備えるゲームだが,ミリタリー系ゲームファンを自負するプレイヤーならばぜひ遊んでみてほしい作品である。これだけのボリュームを誇る作品が無料で遊べてしまうのだから,これを遊ばない手はないハズだ。ただ,開発元Matrix Gamesが制作している「MEGA CAMPAIGNS」と呼ばれるキャンペーンは有料となっており,25ドル前後で購入する必要がある。もっと深く楽しみたい!というプレイヤーは,ぜひ購入を検討してみるとよいだろう。とはいっても,デフォルトで用意されているキャンペーンだけでもかなりのボリューム。遊び尽くすには相当の時間を必要とするだろう。
最後となるが,日本語化されたSPWAWのマニュアル(PDF形式)を掲載したサイトを紹介しておきたい。SPWAWを遊んでみたいというプレイヤーは,ここでマニュアルをダウンロードしておくとよいだろう。途中までの和訳となっているが,ゲームに関する部分は網羅してあるので全く問題はない。本家のマニュアルの総ページ数はなんと239ページで,現在日本語化されているのはそのうち117ページ。とはいえ,この膨大の量の日本語化作業は,普通に考えてもとてつもないものだろう。マニュアルの日本語化を行った方の努力には,まったく頭が下がる思いだ。
■最新版(Version 8.20)リリース 2004.7.2追記
Matrix Gamesの泣く子も黙る超硬派戦術級ストラテジー「Steel Panthers:World At War」の最新版(Version 8.20)がついに登場。今回のリリースももちろん"すべて無料"のフリーソフト扱いとなっており,資料的価値も高い膨大なデータと,チュートリアル込みで39本に及ぶシナリオをごっそり入手して遊ぶことができる。
最新リリースとなるVersion 8.20では,ユニットデータの更新,AIの改変,また多少のバグフィックスが行われた(正直,筆者を始めとした初心者プレイヤーには,今回行われた細かな仕様変更は体感できないと思う)。少しでもウォーストラテジーに興味があるヒトは……なんていうお決まりの文句すら口に出せないほどエンターテイメント性を抑えた硬派&マニアックなゲームなので,明確にじっくり腰を据えて採りかかれる人向けのタイトルとしてお勧めしておこう。
なお,本作の拡張シナリオ「メガ・キャンペーン」の8.20対応版は,近日中にMatrix Gamesからリリースされる模様(こちらは有料)。本作を遊び尽くせるぐらいコアなファンなら,そちらにもぜひ挑戦してみてほしい。(Gueed)
(c)2000 - 2004 Matrix Games
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