レジェンド オブ マイト&マジック 日本語マニュアル付
Text by 朝倉 哲也
6th Jul.2001
アクションになったマイト&マジック
イマジニアから,マイト&マジックシリーズ最新作(というか外伝というか)となる「レジェンド オブ マイト&マジック 日本語マニュアル付」(以下,LOMM)が発売された。LOMMは,シリーズモノのコンピュータRPGとしてはBest3に入る長い歴史を持つマイト&マジックシリーズにおいて,異端児ともいえる存在だ。
これまでにもアクション&アドベンチャー色の強い「Warriors of Might and Magic」,完全なターンベースシミュレーションである「Heroes of Might and Magic」など,RPGであるマイト&マジックの世界観を生かした異色のマイト&マジックが登場してきた。しかし本作で開発元New World Computingは,RPG色(ここでいうRPG色とは,レベルアップのための経験値稼ぎや,レアな武具を求めてのアイテム探しなどという要素)を潔く削り落とし"カウンターストライク"や"Quake III Team Arena"などといった強豪ぞろいのFPS(ファースト・パーソン・シューティング=一人称視点3Dアクションシューティングゲーム)の世界へ真っ向から挑戦状を叩きつけてきた。
LOMMは,今までどれだけアクションゲームをこなしてきたかという経験と反射神経がものをいう,純然たるアクションゲームである。加えて一対一のデスマッチという形式は存在せず,必ず多数vs.多数というチーム同士の戦いとなることから,味方チームメイトとの連携や意思の疎通,敵チームとの駆け引きなどが要求される高度なアクションゲームとなっている。
最初はアクションRPGだったLOMM
さて,このように本格的なアクションゲームとなったLOMMも,当初は"アクション性の強いRPG"として開発が開始されたという経緯を持つ。2000年5月のE3に出展した海外販売元の3DOブースにおいて配布されたLOMMのプレスキットからちょっと引用してみよう。
「シングルプレイモードでは,プレイヤーは四つある街の内の一つを選んで冒険を開始する。ダンジョンに潜って四つの伝説の工芸品を見つけ出すことが目的で,伝説の工芸品を一つ見つけると,その力によって次の町へ移動できるようになり,次の工芸品を求めてダンジョンに潜ったり,クエストをこなしていくこととなる。プレイヤーはモンスターを倒したりクエストをこなすことで経験値を貯め,レベルアップして強くなっていく」
この時点ですでにマルチプレイでの対戦モードが考えられており,インターネット/LANでの協力プレイ&デスマッチプレイが取り入れられるとも書かれている。
しかしこの後,LOMMは急速にアクションゲームとしての要素を強めていったようで,2001年1月にStomped.comに掲載された,ゲームデザイナーチームとのインタビューによると,
「ゲームのテスト段階における社内でのプレイにおいて"プレイヤーはモンスターと戦うより,ほかのプレイヤーと戦いたがる"ということが分かったため,よりアクション性の強いゲームとして方向転換した」
と述べている。また,LOMMのリードデザイナーBryan Farina氏は,同インタビューにおいて「LoMMにはストーリーに沿ったシングルプレイモードというのはありません。シングルプレイは,マルチプレイに備えてマップの下見をすることと,武器の使い方を練習するプラクティスのためのものです」とはっきりと言い切っている。
ここについにマイト&マジックからRPGの要素を削ぎ落とし,その世界観だけを継承したシリーズ最新作「レジェンド オブ マイト&マジック」が誕生したのである。
ファンタジックで個性的なアクションゲームとしてのLOMM
インターネット/LANにおいてのチーム戦に特化した本作だが,ゲームの背景などは,母体となったマイト&マジックを継承して中世ヨーロッパ風のファンタジックなものとなっている。ほかのFPSゲームのテーマがSFや現代戦,第二次世界大戦などになっているところとはまったく異質で,プレイヤーキャラクターもWarrior=ウォーリア,Archer=アーチャー,Druid=ドルイドなどとなっており,全部で20種類入っているワールド(いわゆるマップ。LOMMではワールドと呼ばれている)も,洞窟の内部,ヨーロッパの地方都市,僻地の村,エジプトのピラミッドなどいかにもファンタジックなものになっている。
また,LOMMの大きな特徴としてNPC(=ノンプレイヤーキャラクター)としてのモンスターの存在があることが挙げられるだろう。モンスターはどのマップにも必ず数種類が登場し,プレイヤーキャラクターを見かけると容赦なく攻撃を加えてくるようになっている。LOMMではプレイヤーキャラクターの体力回復の方法が存在しないためにモンスターとの戦いは非情に厄介である。運が悪ければ,敵と戦う前にNPCにやられておしまい,というケースも多々発生しがちで,プレイヤー同士の戦闘に集中しきれないということもあってか,サーバーの設定でモンスターを登場させないようにしているところも見かけられる。
チームは,サーバーに接続した段階で"Evilチーム"と"Goodチーム"のどちらかに所属することを選択する。キャラクターによって所属するチームが決まっているので,PaladinになりたいけどEvilチームでプレイしたいというようなことはできない。どちらのチームにも,同じようなタイプのキャラクターが設定されているので,キャラクターの違いによるチームの戦力差は発生しづらいだろう。ただし,同一キャラクターで固めることはできるので,全員がPaladinのGoodチームや,全員がWarriorのEvilチームというようなチーム分けは可能だ。
ゲームエンジンには,Monolithが開発したLithTech2.5が使用されている(LithTechエンジン使用ゲームにはBlood 2,Shogo,KISS Psycho Circus,No One Lives Foreverなどがある)。つい先ごろLithTech3.0が発表されたので最新エンジンとはいえなくなってしまったが,明るめの色使いを多用している屋外のシーンなど,グラフィックスはかなり美しいといえるのではないだろうか。また,LithTechエンジンの特徴である"ゲームの軽さ"も遺憾なく発揮されており,Celeron/466MHz,メモリ256MB,GeForce256という筆者の環境でも,1024×768ドットでさほどストレスなくプレイすることができた(このあたりの感覚はかなり個人差がありそうなので,参考程度に聞いていただきたい。またシングルプレイ中心だったので,マルチプレイで多人数でやったときなどはまた違ったことになるだろう)。
ちなみに,LOMMでプレイできるゲームモードは以下の4種類だ。
- Sword in the Stone
CTF(キャプチャー・ザ・フラグ)での旗が両手剣に変わったものと考えてよいだろう。CTFと大きく違う点は,この両手剣は装備することができ,しかもかなり強力であるというところ。この剣の一振りは初期装備のプレイヤーキャラクターなどほぼ一撃で即死させる。
- Rescue Princess
これもCTFの変形で,Evilチームが捕らえているお姫様(NPC)を,Goodチームが救い出して救出ポイントまで連れて行かなければならないというもの。
- The Escort the Warlord
Warlord(=将軍役)のプレイヤーをガードするチームと,それを阻止するチームとに分かれての戦闘。阻止チームはWarlordを殺せば勝利となる。ただしWarlordは強力な装備をしているので,功をあせってうかつに近づくと瞬殺だ。
- Slay the Dragon
いかにもLOMMらしいゲームモードで,ワールドにいるドラゴンを先に倒したチームの勝利となる。ただしドラゴンの強さは半端でなく,ヒットポイントも相当なものを持っている。ちょっとやそっとでは倒すことはできないので心してかかろう。
意外と楽しいシングルプレイ
先ほどのインタビューで"シングルプレイは,マルチプレイの練習のためのものだ"とあった。実際,現在公開されている"First Look"と呼ばれるデモ版(これをデモ版と呼んでもいいのかどうかは微妙だが……)をプレイする限りでは,確かにそのように感じられる。二つしかワールドがなくて両方ともかなり狭いマップのため,オフラインのシングルプレイがはなはだ面白くないのである。
ところが,今回イマジニアより入手したファイナルβ版は,文字どおりほとんど製品版に近い仕様だった。ワールドも20種類,登場モンスターもSkelton,Golem,Zombie,Titanなど30種類以上と格段に増えたことで,オフラインでのシングルプレイがかなり楽しいものになっていたし,広いワールドが増えたので,あちこちを探索する楽しみもできた。曲がり角を曲がったらいきなりSkeltonと鉢合わせして,慌てているうちにやられてしまったり(筆者は夜中に部屋の明かりを落としヘッドフォンでβ版をプレイしていたのだが,曲がった途端にSkeltonがいてかなりびっくりした),何気なく振り返ったら真後ろにZombieがいて心臓が止まるほど驚いたりと,寿命が縮まりそうな思いを何度かする羽目にもなったが……。
ただし先ほども触れたが体力回復の手段がまったくなく,受けたダメージはそのままどんどん蓄積されていくので,シングルプレイはかなりツラいものがある。しかも自分が死ぬと,倒したモンスターも全て復活して最初の状態からやり直しとなるのがつらい。なお,モンスターを倒して得たお金は死んでもそのまま引き継げるので,カウンターストライクなどでもお馴染みの"お買い物"で良いアイテムを買って装備することはできる。
アイテムには,魔法のワンドやチェインメイルなど,ファンタジーではお馴染みのものがいくつも登場する。唯一残念なのは,せっかく大枚はたいて購入した高価な武具も,装着した自分の姿を見ることができないところ。自分の姿を見たときは死んだとき,なのだ(チートコマンドで三人称視点に変更するようなものがあるのかもしれないが,現在チートの存在そのものが不明)。
だが,あくまでもLOMMのシングルプレイはオマケ。残念ながらシングルプレイを末永く楽しめるとまでは言い切れないので,その点は注意していただきたい。LOMMの真骨頂は,やはりマルチプレイなのだ。
最後に,気になる点をいくつか,まずモンスターの存在なのだが,シングルプレイで楽しむ分にはともかく,マルチプレイでモンスターの存在価値がはたしてあるのかどうか。筆者はマルチでプレイしたときに,モンスターの存在を非常にうっとうしく感じてしまった。敵チームと戦う前に,まず周りのモンスターを掃討しなければならないのが面倒である。同様に感じる人は多いようで,前述のようにサーバー側の設定でモンスターを登場させない設定にしているところも多々見受けられる。モンスターを倒してお金を稼いでアイテムを買う,というためには必要なのだろうが,もっとしっかりとした"マルチでの存在価値"をつけてほしかった。
体力回復アイテムが用意されていない点も気になる。ゲーム序盤のモンスター掃討戦で死んでしまったりすると,残りの時間をただ画面を見続けていなければならない。ゲーム時間は最長でも15分とはいえ,せっかくのファンタジックな設定なのだから,回復の魔法やポーションなどを用意してほしかったと思うのは筆者だけだろうか。
以上いろいろなことを述べてきたが,一言でLOMMを表すならば当サイトでも常々言ってきたように「マイト&マジック版カウンターストライク」であると。純然たるRPGのファンには,はっきりいってお勧めできない。RPGとしてのマイト&マジックが好きならば,先ごろ当サイトの「ここ」のニュースでもお伝えした「Might and Magic IX」の発売を待て,とったところか。LOMMは,FPSが好きだったり興味があったりして,既存の"現代戦"や"SF"なモノに辟易している(またはとっつきにくい)と思っているような人にこそ楽しんでもらいたいファンタジックアクションゲームだ。
言うならば"FPS初心者向け"といった感じだろうか。CSなどをバリバリとプレイしているコアプレイヤーには正直お勧めしづらいが,一通りの要素は揃っているし,日本人にとって(なぜか)とっつきやすいファンタジーの世界だし,"初めてのFPS"としてどうだろうか?
■発売元:イマジニア
■価格: 7800円
■問い合わせ先:イマジニア TEL 03-3343-8900
■動作環境:Windows 95/98/Me/2000,PentiumII300MHz以上(PentiumII400MHz以上推奨),メモリ64MB以上(128MB以上推奨),空きHDD容量550MB以上,要DierctX8,DirectX8およびDirect3D(16MB)対応3Dカード(Direct3D 32MB以上推奨),DirectX8対応サウンドカード
■英語版デモ(82.4MB):http://www.4gamer.net/files/demo/LegendsFirstLook.exe
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