=forGamer.net独占インタビュー=
Windows版PSOに息づく中 裕司氏の思想のすべて 5/5

2001/09/18

Text by Kazuhisa

■「今後ネットワークは絶対に重要なものになる。キチンとやれ」 −故大川 功氏

 PCゲームというものは,上へ上へと必要スペックをシフトしていきがちだ。1年に2,3本エポックメイクな作品が登場し,PCゲーマーの一部はマシンスペックの底上げを強いられることになりがちだ。そこまでPCのパフォーマンスを食い潰すのは,ゲームとビデオ編集ぐらいしかないのではないだろうか。
 しかしソニックチームはそこに疑問をとなえる。誰もが,容易に,楽しく遊べるオンラインゲームを作りたい。○○がないとキチンと動かない,そんなゲームはおかしいと語る。まさにコンシューマメーカーならではの逆の発想だといえるだろう。

forGamer.net:
 オンラインゲームに手を出すメーカーさんがもっとも悩むであろう課金についても何かお聞かせいただけますか?

中:
 実はですね。ドリームキャスト版のときに,月400円の課金で他社さんに怒られたことがあるんですよ。「後発で出すときに"PSOより安い!"って言えなくなるじゃないですか!」って(笑)。ほかとしては,もっと高い課金でやってほしかったようです(笑)。まぁPC版の課金に関しては,まったく新規のサーバーのこととかあるのでまだまだ検討中ですね。
 真面目な話,ネットワーク産業ってどんどん広がってるけど儲かってないじゃないですか。全然ビジネスになってなくて,みんなどんどんいなくなってしまってる。こんなのもったいないですよ。やりづらいのは分かるんですけど,いいものではキチンとお金を取って,将来的に値下げすればいいじゃないですか。ちゃんとビジネスとして成り立たせていくべきですよ。

forGamer.net:
 そうですね。みんな後先考えずに参入してくることが多くて。

中:
クリックすると拡大します  もっと言うと,元々僕は「タダでやるべきだ」と言ってたクチなんですよ。ドリームキャスト立ち上げ当時はもちろんPSOのときも。本体買うでしょ,ソフト買うでしょ,モデム買うでしょ,ながーい電話線を引いてお母さんに怒られるでしょ(笑),電話代払うでしょ,プロバイダにお金払うでしょ。で,そのうえ課金するなんて,こんなの絶対ひどすぎますよ。
 でもさっきも言ったように,キチンとお金を取っていいサービスを提供して利益を上げないと,業務として存続できませんからね。大川が(編注:むろん,元CSK取締役名誉会長にして,元セガ代表取締役会長兼社長の故大川 功氏のことだ)「今後ネットワークは絶対に重要なものになる。このビジネスをキチンと成り立たせるんだ」と。

forGamer.net:
 でも残念なことに,まだまだ"市民権"を得ているとは言いづらい状況ですよね。

中:
 そうですねぇ……。仕事柄いろんなクリエーターさん達と会うじゃないですか。みんな口々に「ネットワークゲーム大変だねぇ」とか「儲からないでしょ?」とかそんなことばかり言うんです。負のイメージしかなくて参入するのに二の足を踏んで,そんな状況なのでアイデアがしぼんじゃって面白くないと思うんです。すごく面白い分野なので,いろんな障壁があって。
 でもおかげさまでPSOはなんとか収益を上げているので,みんなビックリしながらも「俺もやろう」ってその気になってきた。やっぱそういうほうが面白いじゃないですか。楽しいこともいろいろできるし。

forGamer.net:
 そういう風に市場が発展していけば一番いいですよね。最期になりましたが,中さん個人が今後のPCゲームで出していきたいなと思っている作品を教えてください。

中:
 やっぱり大人数が関わるようなゲームをやってみたいですね。このPSOをきっかけにして,その延長線上でそういうことができるといいと思ってます。
 10年後には"ネットワークゲーム"なんていわなくなる日がきっときます。みんなが当たり前のようにネットワークにつながって遊んでいるそんな日が。「ネットワークゲーム? なにそれ?」と言われるそんな日が。その日のために,ソニックチームの第一歩としてPSOを発売するわけなんです。

 
 初の本格PC移植作品ということでとまどいを隠せない,そんな印象を受けたソニックチーム。もはやドリームキャストはそこにはない。自分たちで作ったハードの上で,自分たちの作ったOSが動いている,そんな環境ではないのだ。
 一台一台すべてが違う。CPUも,ビデオカードも,メモリ量も,OSも。でもそんな中でも「世界中の誰もが容易に楽しく遊べるように」とスペックの底上げをせず,下へ下へと落とし込んでいく。「全然PCらしくないし進歩ないね」と言うのは簡単だ。しかしPCゲーム業界でそれが成功すれば,ある意味誰もなしえていない偉業なのだ。

 インタビュー中に中 祐司氏が連発していた言葉は「でもそれじゃあ遊べない人が出ちゃいますし」。言葉どおりの意味で,本当に万人に遊んでほしいと思って作っているのが,この「ファンタシースターオンライン」のPC版なのだ。コアゲーマーも,初心者ゲーマーも,注意深く今後の動向を見守っていきたい。
 いずれPC版のサーバーの上で中氏と「Hello」とやりとりする日がくるかもしれない。そのときは思いっきり感想を述べることにしよう(笑)。それが,彼らクリエーターの明日の作品につながるのだ。

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