2004年2月2日
Text by TAITAI

 本日(2004年2月23日)発表された対戦型3Dアクションゲーム「スティール・ファング」は,オンライン専用のアクションゲームという,日本では珍しいタイプの作品。「マクロス」のメカデザインで知られる宮武一貴氏や,「バンパイアハンターD」のキャラデザイナーとして有名な箕輪豊氏など,アニメ業界の著名人を起用している点が大きな特徴だ。
 forGamerでは,同作のディレクターである寺岡大介氏と,作品の世界観設定を手がけた宮武一貴氏の両名にインタビューを行い,ゲームの内容について,いくつかの質問を投げかけてみた。インタビュー自体は2月頭に行われたものだが,正式発表を待ってこの日付での公開になってしまった旨,ご了承いただきたい。

宮武一貴 プロフィール:
「スタジオぬえ」所属のデザイナーとして,アニメーション,特撮作品,漫画など幅広いジャンルでメカニックデザインを担当。代表作には,「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」「超時空要塞マクロス」「ダーティーペア」「マクロスプラス」「ラーゼフォン」などがある
寺岡大介 プロフィール:
「スティール・ファング」のディレクター。「バイオハザード コード:ベロニカ」や,国産MMORPGの先駆けである「ダークアイズ」等の開発実績を持つ

forGamer.net(以下,4G):
まず始めに,本作を作るにあたってとくに力を注いだ点について教えてください
寺岡大介(以下,寺岡氏):
まずは,キッチリとした世界観/コンセプトを作ることでしょうか。
4G:
というと?
寺岡氏:
元々この「スティール・ファング」は,とりあえず「オンラインゲームを開発する」ということだけが決まっていて,どういう作品にするか?など,細かい部分については何も決まっていませんでした。ただそれでも,「SFのシューティングゲーム」という方向性だけはあって,ゲームに深みを持たせる意味でも,まずは世界観/コンセンプトからこだわっていこうと。
4G:
本人の前で恐縮ですが,SFといえば,宮武一貴氏を連想してしまいますね。
寺岡氏:
そうなんですよ! そもそも僕は宮武さんの大ファンでして,世界観など諸々のデザインなら,どうしても宮武さんがいい! と(笑)
4G:
本作の資料を見ると,例えば"キャラクター達がやられてもすぐに復活する"という部分に,明確な設定が設けられていますよね。「DNAのデータパターンを再生/復元し……」というような。このあたりの"ゲームルールに肉付けを施す設定"というのは,やはり宮武さんが?
宮武一貴氏(以下,宮武氏):
いや,今回私が担当した部分は,もっと外枠というか,根本的な部分ですね。
4G:
根幹となるコンセプトデザインですか。
宮武氏:
そうです。何かを作るときは,そういう部分をキッチリと決めておかないといけません。 今回の私の仕事は,そういった大枠部分での"方向性"を決めるところだと考えました。
4G:
制作への参加は,企画の初期段階からなのでしょうか?
宮武氏:
ええ,そうです。むしろ初期の段階が一番出番が多かったですね(笑) 寺岡さんとは,非常に綿密な打ち合わせ……というか,討論を重ねましたね。
4G:
ゲームのどういった部分が主な議題となったのでしょうか?
寺岡氏:
ゲームのルールにも関係する世界観の設定部分です。例えば,このスティール・ファングは,最初は「人 対 人」という世界観(ルール)の作品になる予定でした。

宮武氏:
でも「人 対 人」というのは,かなり殺伐としすぎているよね,と。 何か違うアプローチにしたほうがいいんじゃないかという意見を出しました。

寺岡氏:
ならば,「人 対 ロボット」はどうだろうか? と次のステップに進んだわけですが……。

宮武氏:
それは私が一番反対しましたね(笑) なぜなら私は,「スティール・ファング」というタイトルが,この作品を最も端的に表わすものだと考えていました。その観点から見た場合,人工物(スティール)と生物的な物(ファング)というこの二つの要素は,単純に相反するモノなのだろうか? と。

寺岡氏:
相反するだけじゃないアプローチとして,最終的に「人 + ロボット」という今のスタイルに落ち着きました。人……といってもサイボーグですが(笑)
4G:
キャラクターとロボットが一緒に戦っていくというのはユニークですよね。
寺岡氏:
PCでアクションゲームというと,殺伐として無味乾燥な作品が多いわけですが,スティール・ファングでは,キャラクター性という側面を前面に押し出そうと考えました。
4G:
ゲーム中のキャラクターのアクションなどを見ていると,アメコミのキャラクターのような雰囲気を感じますね。ヒロイズム性というか。
寺岡氏:
まさしく,まさしく。実はこれは"あえて言うならば"という感じなのですが,私個人としては,「X-MEN」のようなノリをイメージして制作にあたりました。超人的な能力をベースにしたハイスピードアクションという意味でですけど。 またキャラクター性,ひいてはゲームの世界観をより知ってもらう手助けとなるように,公式サイト上ではWebコミックの連載なども行っていく予定です。キャラクターやロボットのプロフィール(武装などのスペック)もそこで紹介しているので,プレイヤーの皆さんにはぜひ一度は読んでみてほしいですね(※2月23日現在,Webコミックは連載中)。
4G:
そういえば,スティール・ファングには,サイクロップス(X-MENの主要キャラクターの一人)のオプティックブラスト(目から発射される怪光線)のような攻撃エフェクトもありますね(笑)。 キャラクターの移動,攻撃,ジャンプ時といった各種モーションについては,宮武さんが監修をしているのでしょうか?
宮武氏:
もちろん,そうです。 これは私自身のある種哲学になるのですが,何かをデザインするに当たっては,基幹となる"因子"といいますか,そういうモノが絶対に必要だと思います。例えば作品に物語があるとしても,その"因子"があるからこそ"旅の先"があるといいますか。そういった部分をカッチリと用意できれば,あとは現場の人間がそれをベースに"世界"を組み立てていけます。 スティール・ファングに関しては,開発陣の頑張りもあって,キャラクターの動きや各種エフェクトなどの出来は素晴らしいレベルだと思いますよ。
4G:
エフェクトなどゲーム全体の雰囲気は,非常に「アーケードゲーム」的というか,いわゆる"洋ゲー"にはないような"賑やかさ"を感じますよね。一番近いタイトルでいえば,アーケードで人気の「バーチャロン」を連想してしまうといいますか。
寺岡氏:
確かにこのスティール・ファングは,スピード性,アクション性を重視して制作にあたりました。社内でも「ストリートファイター IIに通じるモノがある」とか評価されていたりして,まさに"アーケードゲーム"という感覚に近い作品だと思います。
4G:
なるほど。使用できるキャラクターが明確に設定されているところなども,格闘ゲームに近いノリを感じますね。 またこれは寺岡さんにお聞きしたいのですが,失礼ながら本作における最大対戦人数は,既存の作品と比べて少なめですよね。このあたりの設計は意図的なモノなのでしょうか?
寺岡氏:
その点については,実は開発前の段階で何度か検討しました。ただ私がよく考えるのは,「人数が多い=面白い」のか? という部分なんですよね。例えば,100対100の戦場がある中で,自分がそこにログインした場合,自分(1プレイヤー)の存在は大勢にあまり影響しませんよね。ゲームの世界から見た場合,自分は200分の1の存在でしかないわけで。 私としては,そうじゃなくて「自分という存在が絶対的に重要」という,そういう作品に仕上げたかった。3対3のチーム戦なら,1人やられちゃうだけで,もの凄い影響をゲーム全体に与えちゃいますからね。自分の"アイデンティティ"をより大きく認識できるわけです。

宮武氏:
"自我の確認"というのは,ゲームのストーリーの中にも出てくる要素なんだよね。
4G:
……自我の確認?
寺岡氏:
つまり,スティール・ファングに登場するキャラクター達というのは,みんなある種のクローン技術というか,DNAパターンを再生して"作られた"人間達なんです。彼らは,戦い続けることによって"死と再生"をそれこそ何十回,何百回と繰り返すことになる。 そして再生を繰り返すたびに,少しずつ自分の存在意義,あるいは出生の秘密について疑問を抱いていくんです。
4G:
そういう部分は,シングル用のストーリーモードで語られるのですか? DNAパターンを再生して作られた人間……というと,もしかして,各キャラクターの"オリジナル"が世界のどこかに居たりするワケですか?
寺岡氏:
えーと,オリジナルは……どこにいるんでしょうね(笑)。ストーリーの真相は,ゲームを遊んで突き止めてくださいということで……。 ちなみに,ストーリーはキャラクターごとに用意されているんですが,全キャラクターでシングルモードをクリアすることで,真のエンディングへの道が開けるようになっています。プレイヤーの皆さんには,ぜひスティール・ファングの物語,テーマを読み取ってほしいですね。
4G:
なるほど,分かりました。 では最後に,スティール・ファングの最も注目してほしいポイントについて,お二人のコメントをお願いします。
宮武氏:
それはなかなか難しい質問ですね……。ひと言で言うと「雰囲気と余韻」を楽しんでください,ということになるかと思います。

寺岡氏:
「アクションをするということ」を体験/楽しんでほしいですね。
4G:
今日はありがとうございました。


「STEEL FANG(スティール・ファング)」の当サイト内の記事一覧は,「こちら」

(C)2004 CAPCOM CO.,LTD. SEGA CORPORATION.NEXTECH CORPORATION