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敵を排除しながら目標の達成を狙うターン制のストラテジー。状況に合わせて戦術を練り,武器を選び,兵士を動かしていく。一手ずつプレイを進めていくタイプの作品だ |
「サイレント ストーム」は,とても個性的なタイトルだ。マップを上から見下ろした視界の中に複数のキャラクターが並んでいるスクリーンショットからは,この作品が生産要素のないタイプのリアルタイムストラテジーであるかのような印象を受ける。しかし本作は,敵と味方が交互に手を進めるターンベースのストラテジーである。
ターンベースのストラテジーと聞いたとき,筆者の頭に真っ先に思い浮かぶのは"大戦略シリーズ"だ。移動力や射程を計算しつつ,六角形のマス(ヘックス)を組み合わせて作られたマップ上でユニットを進めていく国産ストラテジーである。サイレント
ストームのマップ上には,ヘックスは見られない。しかしこのゲームは,クラシックな大戦略のようなターン制ストラテジーといえる。リアルタイムで進行するゲームを見慣れた目には,このことがとても新鮮で個性的に映る。
サイレント ストームでは,第二次世界大戦時の連合国軍と枢軸軍との対立が描かれている。キャンペーンは各陣営のものが一本ずつ用意されており,どちらのシナリオでもプレイヤーは特殊部隊のリーダーに扮し,少数のメンバーを率いて戦っていくことになる。
用意されている兵種は,"兵士" "手榴弾兵" "狙撃兵" "衛生兵" "工兵"
"偵察兵"の6種類。基地で装備を調えた部隊が目的のマップに到着したところからゲームはスタートする。敵に見つかるまではターンに制限されることなく行動可能だ。敵兵を発見した時点でターンベースモードに移り,いよいよ戦いが開始される。
スニーク要素が強調されたゲームではないので銃撃戦になる場面も。衛生兵の存在も重要だ | 膠着状態を打開するためには,ときには強引な突撃も効果的だ。ただしセーブを忘れずに |
隊員構成は自由だが,チームメンバーは最大6人なので,大抵は6兵種で部隊を作ることに | 顔作成画面。"性別"というスライダーが面白い。右に寄せれば男性的に,左だと女性的に |
ミッションによっては大規模な乱戦になることも。集中攻撃を受けるとまず助からないので,行動は慎重に |
ここから先の行動は,すべてキャラクター達の持つ"アクションポイント"(AP)によって制限されていく。移動をしたり,攻撃をしたり,立ったりしゃがんだりといったすべての動作は,APを消費することで行うのだ。所持APが尽きるまでであれば,何をどのような順序で何回行っても構わないというルールになっている。
このAP周りの仕組みはゲームのキモとなる部分だけに,かなり多様で複雑に作られている。まず,APの消費量は行動によって異なる。しゃがんだまま移動するよりも,走ったほうが少ないAPでより遠くまで移動できるといった具合だ。また,使用する武器や道具によっても消費APは変わってくる。重傷の兵士を治療するにはそれだけの時間が必要だし,大振りな機関銃などはマガジンを取り替えるだけでも多くのAPを消費してしまう。さらに,ただ弾を撃つのにも"速射"
"狙いを定めた射撃" "慎重な射撃" "連発射撃"といったモードが用意されており,それぞれでAPの使い方や命中率などが異なる。とくに狙撃手の場合は,エイミングにどれだけのAPを使うのか,敵の身体のどの部分を狙うのかなど,より多くのオプションが選択可能になっている。
このような仕組みのために,本作のキャラクター達は"移動→攻撃→行動終了"などといった単純なルールに縛られることなく,かなり柔軟に行動できる。具体的には以下のような振る舞いが可能だ。
「敵がいると思われる方向を"警戒"しつつ,"しゃがむ"姿勢のまま建物の隅から先をうかがい,一か八かで一発だけ素早く"速射"して,また建物の影に隠れる」
「どうしても倒したい敵がいるので危険を承知で"狙撃兵"をその場に待機させ,そのターンに使える"すべてのAPを使用"して敵兵の"頭に狙いを定める"。そして次のターンに命中率が90%にまで高まったヘッドショットを"慎重な射撃"で放つ」
「こちらの"兵士"のダメージも大きいが,残った敵はあと二人。そこで"走行"して敵との距離を一気につめて命中率を上げ,両方に"狙いを定めた射撃"をお見舞いする。撃ちもらしがあった場合は,背後に控えている"偵察兵"と"手榴弾兵"の"慎重な射撃"でとどめを刺す」
個々の行動をこのように細かく組み上げていけるため,サイレント ストームではかなり複雑でテクニカルな戦術を考え,実行することが可能だ。すべてのAPを使い切るか,納得のいくところまで行動を終えたらプレイヤーのターンは終了。NPCのターン,敵のターンを経たのち,APが全回復した状態でまた自分のターンがやってくる。このようにして本作のプレイは進んでいく。
敵の頭部を狙う。部位を指定すると命中率が下がるので,より多くのAPを消費してじっくり狙いたい | 武器の種類はかなり豊富。威力や扱いやすさ,消費APが違うほか,それぞれ使用可能な弾薬も異なる | 物陰で敵の接近を待ち,ナイフで仕留めたところ。完全に身を隠すのは難しいので,キマると快感 |
敵NPCの位置が物音などで確認できたときには,耳のマークと赤いダミーモデルで表示される | 目標に向かって駆け寄る特殊部隊。点線は指定した進行ルート,○の中の数字は到達に必要なAPだ | ときおりイベントシーンも挿入される。ヒントが含まれている場合があるので,聞き漏らしのないように |
派手ではないが,精密で魅力あるグラフィックス。ドラマチックな配置になったときには思わず見入ってしまう |
サイレント ストームのもう一つの特徴は,キャラクターが成長することだ。戦闘行動を繰り返すことで隊員達は経験を得て,レベルアップしていく。
レベルアップすると能力値が上昇するのに加えて,"アビリティポイント"を得られる。このポイントを使うことで,兵士達は新たな専門能力を習得できるのだ。アビリティは好きなものを自由に選択していけるわけではなく,高度な能力を得るためにはその前提となる能力を習得しておく必要がある。結果としてアビリティはツリー式に伸長していく。
画面を見れば一目瞭然だが,この仕組みはRPG「ディアブロ II」のスキルシステムととてもよく似ている。そしてこのようにして高めた能力は,先のステージに持ち越すことが可能。つまり本作はターン制ストラテジーでありながら,RPGのようにキャラクターを育てていく要素も持っているのだ。
サイレント ストームは海外産のタイトルだが,このようなスタイルはむしろ国産の作品の多く見られるようである。コンシューマ向けの作品である「ファイアーエムブレム」や「ファイナルファンタジータクティクス」などが,ちょうどこのスタイルのゲームだ。ファイナルファンタジータクティクスと本作とでは見た目にかなりの差があるが,どちらも"シミュレーションRPG"とも呼ばれるジャンルといって構わないだろう。そう捉えると,このゲームのアウトラインは,カジュアルゲーマーにとっても理解しやすいものになるはずだ。
グラフィックスについても触れたい。本作の画面は一見地味だ。それはこの作品が誰にでも分かる"キレイキレイ感"ではなく,細部の表現にこだわっているためである。一つ一つのオブジェクトは,カメラを引いているときには気がつかないような部分まで丁寧に作られている。
キャラクターの動きのパターンも豊富だ。壁や床など多くの部分が破壊可能なのもこの作品の特徴で,物体が壊れていく様子もうまく表現されている。派手ではないが,「ああ,確かに窓はこう壊れるだろうな」と見ている側を納得させる説得力を持った描写である。
ゲームがターンベースで進行するので,キャラクター達はしばしば"走っているポーズ"や"銃を構えたポーズ"でストップする。緻密な箱庭の中にそのようなポーズをとったキャラクターが何体も並んでいる様子は,まるで戦場のジオラマのようだ。ついついカメラを寄せていろいろな角度から眺めてしまう。ターンベースのゲームであることも含めて考えると,この作品のプレイフィールは,格好いい兵士のフィギュアを盤上に置いて,対戦相手と交互に動かすボードゲームに近いのではないかと感じる。
ターン制のゲームの常で,一つのミッションを終わらせるまでに要する時間は結構長い。しかしこのゆっくりとしたペースは,ちょっと古めのゲーマーにとってはとても懐かしいものだ。
トライアンドエラーを繰り返しながら徐々に敵の数を減らしていく感覚や,クリティカルなダメージを受けはしないかとドキドキしながら敵ターンの終了を待つ感覚は,往年のストラテジー/シミュレーションゲームをプレイしているときの気持ちを思い出させてくれる。手軽にスイスイ楽しめるゲームではないが,そもそもPCゲームにそういったものを求めている人は少ないのではないだろうか。
コアゲーマーが要求するのは"手強さ"と"こだわり"だろう。サイレント ストームはそういった要求をしっかりと受け止めるだけの手応えを持った作品だ。
獲得できるアビリティは兵種によって異なる。これは衛生兵のものなので治療系技能が充実している | 爆発の威力によってオブジェクトの壊れ方も変化する。床に穴を開けて階下に降りることも可能だ |
カメラはズームできるほか角度も変えられる。しかしそれほど自由には動かせない。精巧なジオラマをもっといろいろな視点から楽しみたいと思うのは筆者だけではないはずだ |
■メーカー:メディアクエスト (C)2003 Nival Interactive. Silent Storm
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