人型戦闘ロボットを主力兵器とする未来の戦争を描くSFキャンペーン型RTS「ブルーフロウ 〜BlueFlow」。主人公の少年と女性隊員達の交流をとおして,ストーリーが展開していく |
今回俎上に乗せるのは,工画堂スタジオの「ブルーフロウ 〜BlueFlow」。2005年3月4日に発売されたばかりのSFキャンペーン型RTSだ。25世紀,人類が宇宙に進出して多数の殖民惑星を抱えた世界。そこで起こる地球政府と(殖民)惑星連合の独立戦争を舞台に,人型巨大ロボット"パワーローダー"を主役にした戦闘が描かれる。
工画堂スタジオの仕事といえば,多数の女性キャラを動員しつつもきっちりPCゲームらしい難度を備えたストラテジー作品"パワードールシリーズ"が筆頭に挙がる。いやまあ,近年"くろねこさんちーむ"や"くまさんちーむ"が,かなりキャラクターに寄った作品で活躍しているのも事実だが。
そのパワードールの"入門的タイトル"として世に送り出された本作は,例えば当サイトの「こちら」にUpされたデモムービーを見る限り,キャラクターゲームとしての色彩がかなり強いようにも思える。実際のところどうなのか,いつものようにキャラクター/ストーリー要素とゲーム性の両面から見ていこう。
工画堂スタジオの仕事といえば,多数の女性キャラを動員しつつもきっちりPCゲームらしい難度を備えたストラテジー作品"パワードールシリーズ"が筆頭に挙がる。いやまあ,近年"くろねこさんちーむ"や"くまさんちーむ"が,かなりキャラクターに寄った作品で活躍しているのも事実だが。
そのパワードールの"入門的タイトル"として世に送り出された本作は,例えば当サイトの「こちら」にUpされたデモムービーを見る限り,キャラクターゲームとしての色彩がかなり強いようにも思える。実際のところどうなのか,いつものようにキャラクター/ストーリー要素とゲーム性の両面から見ていこう。
広報部隊全員の集合写真。軍のマスコット兼精鋭部隊という,分かりにくい設定の彼女らだが,主人公は彼女らと交流してゆくことで人間として成長してゆく |
そのストーリーは,近年の"ガンダムシリーズ"に代表されるロボットヒーローアニメの文脈を踏まえたものだ。主人公およびその友人二人は,ふとしたことから戦闘に巻き込まれ,その場の成り行きで最高軍事機密の新型パワーローダー「ブルーフロウ」に乗ったことにより,戦争に関わらざるを得なくなる。
およそロボットヒーローアニメの主人公たるもの,熱血漢か意志薄弱か両極端でなければならないわけだが,本作の主人公は今日的作品らしくキレイに後者である。他人の評価や期待に右顧左眄(うこさべん)しつつ激しい戦闘と悲喜こもごもの日常を潜り抜け,それを通じて大人になっていくという,絵に描いたようなビルドゥングスロマン(少年の成長物語)だ。そのなかで個性的な点といえば,少年の成長を助けて見守る周囲の人々が,みんな女の子ということだろう。
本来ブルーフロウが配備される予定だったのは,女性隊員のみから成る広報部隊。いささか破天荒な設定だが,軍のマスコット的存在兼特殊部隊と聞けば,小説版「パワードール」を思い出すコアなファンの人もいることだろう。いきなりパワーローダーに乗って戦うことになった主人公を支え,先輩として指導していく女性隊員達という構図はアニメ「Vガンダム」のシュラク隊を髣髴とさせる。
注意しなければならないのは,本作がマルチエンディング作品でないことだ。幕間には選択肢も用意されているため,それに応じてストーリー展開が変わるものと思ってしまうが,実は純然たる幕間劇のバリエーション選択にすぎない。物語の核となるのは隊長のクロウディアで,それ以外のキャラはいわば脇役だ。誰々エンディングを目指すというゲームではなく,物語そのものと,そのなかで各キャラが演じる役どころやノリを堪能するのが,本作におけるキャラクターの楽しみ方といえる。
このように,主人公の少年の視点で「ぼくらの戦争」を描き出すのが本作であり,そこにはときに,戦争らしいというより最近のアニメっぽい,ややえげつない設定も出てくる。ひたすら流されていく主人公はどうもお姉さまにうまく騙されているような気もするのだが,若いうちに女性で身を持ち崩してみるのも,成長に不可欠な通過儀礼かもしれない。いや,このコメントはオヤジくさいか。
クロウディア
広報部隊隊長。容姿実力ともに,この部隊のリーダーとしてふさわしい女性。プライベートや経歴は一切不明だが,ストーリーの進行とともにその一部が明かされていく。ユアンを精神的にサポートし,彼の成長を手助けする存在だ。(CV:田中理恵) |
マキ
部隊の副隊長。きっぷのいい性格だが,大ざっぱで少々ちゃらんぽらん。主人公をおもちゃにしてからかうような言動が多い。隊員随一のプロポーションを持つという設定は,白兵格闘が得意というスポーツマン的特性と関連しているのだろうか。(CV:池澤春菜) |
レイチェル
大ざっぱな副隊長のマキに代わり,部隊の雰囲気を引き締める役目を担う。主人公の友人でいい加減な性格の"ジョーカー"とよく衝突し,幕間ではどつき漫才を繰り広げることが多い。それにしても,この形のヘッドセットでキツめの性格というのは,ある種のバランス取りなのか。(CV:森永理科) |
リンリン
もともとはアクロバットパイロットという設定の隊員。おちゃらけた性格でムードメーカー的な存在だが,髪型といい雰囲気といい「しーぽん」呼ばわりされても仕方あるまい。戦闘中のセリフ「動体センサーが敵を見つけたよっ」と「妨害電波だぞ〜〜」は,強力なキャラクターボイスとあいまって耳に残ることだろう。(CV:村田あゆみ) |
アリシア
部隊の新人隊員の一人。パワーローダーによる格闘のエキスパートで,初期設定どおりなら白兵戦型ローダーに搭乗する。小悪魔的で自己中心的,幕間ではなにかと主人公にちょっかいを出し,台風の目となることが多い。(CV:カンザキカナリ) |
五十嵐たまお
入隊3年目ながらほぼ新人扱いというドジっ子。電子戦用ローダーに乗せたときの「え!? 敵さんに見られてるみたいですぅ」はかなり印象的な声だ。ストラテジー画面でユニットを指定したときのパイロット名表示が「タマチャン」なのも,なんとなく納得できるご面相である。(CV:森永理科) |
カナ
作戦中に部隊が保護した謎の少女。彼女の存在はストーリーに深く関わってくる。「カナ」という名前は,やはり病弱な保護対象キャラクター用の記号として定着しているものと見える。 |
幕間でのイベント的会話の一例。プレイヤーの選択で,見られるグラフィックスとイベントの内容が変わる。とはいうものの,ストーリー進行そのものは変化しないので要注意 |
戦闘中の画面。右には出撃している隊員の一覧が,下には現在選択しているユニットを含む小隊のステータスが表示されており,現在の状態が把握できる |
作戦内容を確認する「ミッションブリーフィング」,出撃させるパイロット・機体・その装備を決める「編成」に続いて戦闘に入る。ミッション内容にもよるが,ユニットを選択して目標地点まで移動,途中で出会った敵を撃破しつつ,誘導マーカーの設置や特定施設の占領など所定の任務をこなすのが基本的な展開である。
部隊は3機小隊単位で編成されており,任務によってはこの小隊単位や1機単位で命令を与えることになる。全体の進行速度は調整できないので,多数の敵と出くわしたときにはけっこう忙しくなるが,命令時にゲームの進行を一時停止する設定にもできるので,最適な戦い方を随時考えながら進めることは可能となっている。
パワーローダーの武装には,大きく実弾型とレーザー型があって,実弾型は連射性が高く,手数に物を言わせられるが携行弾数に限りがある。それに対してレーザー型は連射性が低いものの,リチャージ可能で弾切れがない。これらの武器をバランスよく持たせるのが重要だろう。また,絶大な威力を持つ航空支援や砲撃支援の要請が,重要になるミッションも存在する。
登場するパワーローダーには通常型のほか,接近戦に強い"白兵型",地雷の探知と除去,センサー/固定砲台の設置や味方機の修理もこなす"工作型",広い索敵視界を持ちミサイルの誘導妨害などが可能な"電子戦型",大型レーザー砲を装備する"火力支援型",光学迷彩で敵に発見されにくい"隠密型"など特徴ある機体が存在する。
マップ探索主体で視界が重要な本作では,索敵範囲を広げ,かつ長射程のミサイル兵器を無力化できる電子戦機はかなり使いでがある。工作型の持つ修理機能は便利だし,設置センサー類も例えば航空/砲撃支援と組み合わせるなど,使いどころの面白いアイテムだ。また,白兵型は単に装甲強度が高いだけでなく,一定時間敵の攻撃を完全に無効化する「シールドジェネレータ」を備える。
このように個性豊かなパワーローダーが登場し,それぞれの使いどころを自由に考えられるのが本作のおいしいところだ。だが,自動攻撃を基本としたRTSであるため,どうしてもオーソドックスな機体を揃えて一元運用したほうが効率のよい場面も増える。"入門的タイトル"である以上,パズル性の強いミッションばかりというわけにはいかないと思うが,ぜいたくをいえば,機体の個性を生かせるシチュエーションの工夫がほしかったところだ。
また,戦闘自体とはほとんど関係ない話だが,隊員達は戦闘中も状況報告を兼ねてしゃべりまくる。メッセージのバリエーションはあまり広くないものの,これがプレイの雰囲気を賑やかで明るいものにしているのは事実だろう。また,ミッションブリーフィング画面の左端にある隊長の立ち絵をクリックすると隊員紹介画面になり,ここで各隊員の口の部分をクリックすれば,それぞれ自己紹介が聞ける。立ち絵の各部分にはさまざまなリアクションが設定されているので,いろいろ試してみるとよいかもしれない。
ストラテジーゲームとしての難度はさほど高くないわけだが,ゲーム性そのものは,総じてほかのキャラクターゲームとは比較にならない高水準にある。というか,本作は女の子が出てきて賑やかにしゃべりまくりこそするものの,普通のゲームとしてきちんと成立している,ということだ。
前述のエンディングの問題も含め,キャラクターというよりはアニメ的なノリとストーリーを楽しむべき作品であり,キャラクター性,ゲーム性ともまだまだ詰められる余地は残っているが,ライトゲームとしてはきちんとまとまっている。
個性的なパワーローダーの存在など,さらに面白く使えるはずの材料があるだけに,できればキャラクター性,ゲーム性ともによりブラッシュアップした続編を期待したい。