インタビュー
“ガンパレ”芝村裕吏氏,初の書き下ろし長編小説「マージナル・オペレーション 01」が刊行。芝村的世界観の原点に迫るロングインタビュー
ゲーム制作は賛否両論の課金モデルがネック?
潮流を見極められればガンパレの新作も……!
4Gamer:
小説の話が一段落したところで……。そのほかの活動についてもいろいろとお聞きしていきたいと思います。去年(2011年)の4月にベックとバンプレソフトが合併しましたが,芝村さんは現在どこの所属になっているのでしょうか?
現在はフリーです。とはいえ,会社とのラインが切れたというわけではありません。在籍中にゲームの設定協力などについていろいろとオファーが来ていたので,少し自由に仕事をしてみるのも良いかなと思い,フリーとして動くことにしました。
4Gamer:
では,現在も何らかのゲーム制作に携わってるということですか?
芝村氏:
まだ詳しくは話せないのですが,2本ほど関わっているタイトルがありますね。そのうちの1本は5月くらいのリリースになると思います。
4Gamer:
おお,どんなジャンルのゲームでしょうか?
芝村氏:
ブラウザゲームですね。そのあたりで「戦争モノをやりたいので,設定考証をお願いします」という内容でした。また,それ以外にもいろいろとお仕事をさせていただいています。
4Gamer:
つまり芝村さんの新作が出る日も近いと……期待しております!
芝村氏:
最近,ファンの皆さんからお叱りを受けることがありますし(笑)。そろそろ自分らしく仕事をせねばと感じております。
4Gamer:
ちなみに,芝村さんご自身が作ってみたいゲームの構想などはありますか?
芝村氏:
作りたいゲームはいっぱいあるんですが,現在は仕事を選ばなければやっていけない理由がありまして……なかなか手が回らないですね。
4Gamer:
やっていけない理由ですか?
芝村氏:
私のファンには現在のゲーム業界のお金の儲け方……具体的には,課金システムについていけない方が非常に多いと思うんです。パッケージを数千円払って買ったんだから,それ以上のお金を払わなければ楽しめないのはおかしい……という考え方ですね。
でも現在は,ダウンロードコンテンツを中心としたタイトルや,ソーシャルゲームが圧倒的に多いじゃないですか。なので,そういったタイトルに手を出すかどうかはまだ考え中です。
4Gamer:
そういったファンの気持ちは分からなくもないんですが……。
芝村氏:
飲み会などでファンの方々とお話をする機会がよくあるのですが,やはりこうした課金モデルは受け入れられていませんね。それこそ,「芝村さんがソーシャルゲームを作ったら業界は終わりだ!」くらいのことを言う方もいました。
4Gamer:
ならば芝村さん自身は,そういった課金モデルに対してどう思われているのでしょう?
私自身はめっちゃ課金しちゃうタイプの人間です。それこそiPhoneの「スペースインベーダー インフィニティジーン」で,新しい自機とか即買っちゃってましたし……ひょっとしたらいいカモなのかもしれません(笑)。
4Gamer:
好きな物には金を惜しまないと(笑)。
芝村氏:
私は誘惑に弱い人間なんです。しかし,課金モデルについては日本が割れるんじゃないかというくらい容認派と否定派が罵り合う光景をよく見かけますよね。どっちが良いか悪いか……なんていう答は出しようがありませんし,難しい問題ですよ。
4Gamer:
芝村さんのファンとしては,やはり「ガンパレード・マーチ」のようなゲームを期待してしまうと思うのですが……。
芝村氏:
そうですね。ですが,現状ダウンロードコンテンツを中心としたゲームが多い中で企画を立ち上げるのはハードルが高いんです。その結果,ファンに「裏切られた!」と言われてしまうのはとても悲しいことですので……。
4Gamer:
もし“発言力”がリアルマネーで買えてしまう……という事態になったら,確かに嫌がる人は多そうですねぇ。
芝村氏:
ある意味,金こそ力という感じで「これが本物の発言力!」なんていうネタにはなりますけどね(笑)。ただ,それでファンの方々が悲しむ光景はちょっと見たくない……。確かにお金のために仕事をしていますが,同じくらいファンを楽しませることを大切にしてきたつもりですので。時代の潮流を見極めるか,世の中の考え方が変わるまで待ってみるしかありませんね。
4Gamer:
昔と比べると,ゲーマーの性質もずいぶんと変わりました。
芝村氏:
年をとってライフスタイルが変化していくと,「ゲームが好きだ」と自称している人でも最近はゲームを買っていないというのは,よく聞く話じゃないですか。だから「4Gamerはチェックしてるけど,ゲームは買ってない」という人もいると思うんですよ。
4Gamer:
あ〜……。結構いると思います。
芝村氏:
その人はゲーム好きなんでしょうけど,ゲーマーとはちょっと違いますよね。「『ゲーム』とはなんだろう?」とか,「課金容認派と反対派はなぜ生まれたのだろう?」とか,最近よく考えます。
4Gamer:
哲学めいた話になっちゃいますね……。
ニンテンドーDSが出たとき,任天堂は「ゲーマーへ向けたハードではない」というようなことを言っていましたよね。また,「これからはネットの時代だ」という感じのことも言っていました。それらの話を現状に当てはめてみると,今の携帯電話でプレイするソーシャルゲームのモデルそのままですよね。そうなると,任天堂の目指していた夢のゲーム機って携帯電話なの? ……という解釈もできてしまいます。
4Gamer:
ゲーム業界全体の構図が,かなり複雑になってきているとは思いますね。
芝村氏:
そう考えると,昔は単純でした。一番売れているハードでゲームを作っていれば,それで良かったんですからね。
4Gamer:
話は尽きませんが,残念ながらそろそろお時間ということのようです。最後に,ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
芝村氏:
相変わらずやっていますので,「マージナル・オペレーション 01」も気になったら買ってください。
4Gamer:
ユルい感じですね(笑)。
芝村氏:
今の時代,どんなにプッシュしたって買わない人は買わないでしょう(笑)。
4Gamer:
芝村さんだなぁ(笑)。ありがとうございました!
以上,今回は小説についての話題だけに留まらず,予想以上に濃い方向まで話が発展してしまった。しかし作品作りに対するこだわりや,さまざまな体験談を通して“芝村イズム”の正体に迫ることができ,結果的には大変有意義なインタビューになったと思う。
最後に「マージナル・オペレーション 01」に対する感想を述べておくと,軍事関係に興味のある人や「ガンパレード・マーチ」が楽しめた人ならば,きっと気に入るに違いない作品になっている。主人公がモニター越しに無線で戦術単位に指示を出していく場面など,まさにガンパレの戦闘そのものでワクワクさせてくれる。
芝村氏曰く「ないわー」と評判のソフィアについても,個人的には新たな萌えを感じてムラムラきたタイプなので,ぜひともチェックしてほしい。今後どういった方向にストーリーが展開していくのか,筆者もいちファンとして続きに期待していきたいところだ。
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