連載
【山本一郎】ソーシャルゲーム業界の「ガチャ」商法,規制強化情報乱舞の怪。いま,おまえのソーシャルの危険が危ない
山本一郎 / ブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家
山本一郎:茹で蛙たちの最後の晩餐 |
巷ではソーシャル社会の発展と潜在的な危険性のバランスについて議論が進んでいます。巷ってどこよ? と聞かれた場合は,コンテンツ業界の周辺という話になるんですが。まぁそもそもソーシャル社会って訳すと社会社会じゃねえのか。シティバンク銀行が町銀行銀行だった逸話を思い出すけど,そんな話はどうでもいい。
とにかくそっち方面のご取材が最近とても多く,私自身あまり国内にいないこともあって,せめて問題の輪郭,概要だけでも知ってもらいたいということで,文句を言われない範囲内でソーシャルゲーム業界の現状をかいつまんで説明していきたいと存じますので,ご査収のほどよろしくお願い申し上げます。
序論:なんか温度上がってきたけど大丈夫なの?
まず,この記事をご参照。
当局がグリーに重大な関心
正念場迎えるソーシャルゲーム
【引用】ある政府関係者によれば最大手グリーの摘発に向けた検討が始まったもようで、「4〜5月が山場だ」というのだ。
うーん,ファクト(事実)が一個もないわけですね。これは困った。さらに経緯は不明ながら,ゲームジャーナリストの新清士さんのコメントも載っかっていたりして,それもなんだかなという。新さんは,またなんで,ほいほいこんなコメントを寄せてんのでしょうか。
そもそも,この記事には記名があるんですけど,誰だよその情報を流した「政府関係者」って……と聞いてみたい。個人的には,検察・司法記者クラブ発と言われる楽天の三木谷浩史社長の摘発情報を全面的に信じて週刊新潮が記事を書いてしまい,その後で摘発が見送られ,逮捕がないと知った三木谷さんサイドから訴えられて,全面敗訴に及んだあの日の侘び寂びを思い出してしまうわけですが。
ここらの話をちゃんと説明しておくと,通常,摘発情報というものは,その時期が明示される段階では,大抵の場合罪状とセットでお話が出回るものでして,それに欠けるこの記事は,常識的に考えるならば,伝聞か憶測に基づいた“飛ばし記事”の可能性が高いわけなんですね。
実際,他のメディアで報道記事が掲載されてないところを見ても,このダイヤモンドの記事は「まあ飛ばしだろう(少なくとも現段階では摘発時期までは書けるほどは固まっていないだろう)」というのが大方の見解になろうかと思われます。
ところが,当のグリーがこれに敏感に反応。まあ「お前,来月摘発らしいよ」と名指しで書かれれば「ちょっと待て」となるのが人情だろうとは思いますし,グリーの気持ちも痒い……じゃなくて痛いほど分かる。分かるんだけど,こういう反応をしますと「どう読んでも飛ばし記事だろうに……,でもこういう反応するということは何かあるのだな?」と,要らぬ疑惑を招いてしまうことになりかねません。
このあたりの問題,非常にデリケートなところではあるのですが,ライブドア事件同様に
「当局側に間違ったメッセージを与え続けた結果,本当に摘発されてしまい,必要以上の罪状を負わされてしまう危険性はあるよねえ」
ということを念頭においたうえで,以下の内容をお読みください。
ダイヤルQ2規制の歴史
現状のソーシャルゲーム,とりわけガチャがどういう論点で問題視されているのか,という部分について簡単に説明しますと,一つは,事実上の換金市場が成り立っており,これは賭博にあたるのではないか,という見られ方をしている点です。
要するに,ランダム性のあるガチャシステムがあって,そこでレアカードを引き当てたとして,それがYahoo!オークションで10万円で売れましたとなった場合,それってパチンコやパチスロと何が違うの?という話ですね。また,そこに目を付けた業者やユーザーが一儲けを企むといった動きが,さらにこの問題を難しくしていたりします。これは,オンラインゲーム業界における“RMT(リアルマネートレード)問題”と袂を同じにするところなのですが。
ただ一方で,その問題意識はともかくとして,既存の法律の枠内――例えば,風営法でこれらを摘発することは困難です。なぜなら,そもそもソーシャルゲームは(少なくとも現状は)風俗営業ではないからです。言おうとして言えなくもない,というレベルでしょうか。このあたりは,現行法では弁護士によって見解が異なります。
博打性が高い,ということで摘発ができるだろうと安易に考えて取材をしてくる人たちが大勢おられますが,一般論で言えば,これらの法律で当局がグリーやディー・エヌ・エーの摘発を進めようとするならば,とんでもない「筋悪」の議論になってしまうんですよね。だから”よほどのこと”がない限り,そういう方面での大炎上は起きないでしょう。
私の考えで申しますならば,本件ソーシャル関連の議論では,さまざまな混同が見られるところが大きな問題です。つまり「摘発」と「規制」をごっちゃにしていて,ある事業者が問題のあるビジネスをしているときに,悪いのだから摘発するべきと考えたとしても,そこに明文化された法律上のルールがなければ,原則として摘発できません。まずは,そういう悪い事業を行えないようにする規制を,法律なり条例なりで行って,それになお違反する業者は摘発するよ――というのが本筋なのです。
ダイヤルQ2も,以前はかなりの社会問題になりましたが,結果としてダイヤルQ2を使った風俗ビジネスには順当に規制がかけられ,総務省も乗り出し,一気に市場がしぼんでいきました。その後はテレクラやデリヘルといった風俗関連に対する規制の一角として,風営法等の枠内で規制が行われています。
その意味で,ソーシャルゲームにおける”出玉”,すなわちレアカードの供出確率であるとか,コンプリートガチャのような射幸心を煽る仕掛けそのものについては,遠からず必ず規制の対象になり,一定のラインが引かれることは避けられない流れだと思います。
業界団体主導での自主規制は,EMA(一般社団法人モバイルコンテンツ審査・運用監視機構)の例を見る限り信頼に値しないということもありますが,既存の業界など,さまざまなところからの圧力も存在します。
まぁ実際,雀荘やゲームセンター,あるいはパチンコ店が法律の枠組みの中で規制されているのに,オンライン上のサービスがそうした規制と無縁でいられるというのも,普通に考えればおかしな話ですから。
こうした,商売の根幹となる射幸心を煽る仕組みという部分については,すでに大量の資料が当局側に寄せられているとされています。まあグリーやディー・エヌ・エーの社員自らがわざわざ資料に「ユーザーの競争心を煽る演出を心がけましょう」とか,モラルもランバラルもない提案を開発事業者に対して行ってきておりますので,運営だけではなく,開発会社方面へのお問い合わせも,当局からされている……はずです。
このような事情もあって,ソーシャルゲーム会社各社においては,この動きをいち早く察知して,夏以降のこれ系プロジェクトを次々とキャンセルにし始めている,という動きもあるようです。
そも,なぜガチャが賭博か?
〜良く分かる! 摘発規制最前線!!
「ガチャは昔からあるだろ!」「じゃあ,おもちゃ屋のあの筐体は何だ!」「TCGでは昔からああだったろ」と業界からの反発も多いですが,いままでがグレーであっただけで,公的には供出物が高額の換金性を備える場合は賭博の範疇に入ります。
そもそも,デジタルカードを「販売」するために,数百円を払わせ,その結果として数万円以上のカードが出る可能性がある,という時点ですでに賭博ですが,ここからさらに幾つかの論点に分かれます。
・有価証券か?
いままでオンラインゲーム協会はデジタルデータは有価証券ではない,という立場でガチャを実施してきました。その根拠は,あくまでデジタルデータは貸与であり,所有権をユーザーに譲ったわけではない,という考えからです。
途中までこの抗弁は機能しましたが,この前,金融商品取引法が改正されたため,「貸与したデジタルデータの総額が大きいようであれば,消費者保護のためにオンゲ会社は引当金を積んでね」「ほげえええ」という状況に陥りました。
・換金性は?
所有権だろうが貸与権だろうが,ゲーム内で使えることには変わりありませんので,換金が可能かどうかがポイントになります。Yahoo!オークションなどで出品されるということは,「くじを行った結果として,高額の収入が得られる可能性がある」とされます。
したがって,RMT(リアルマネートレード)やYahoo!オークションでデジタルデータ自体が出品されること自体,すでにアウトと言えます。仮にゲーム開発業者やプラットフォーム業者が買い上げるものでなかったとしても,賭博とみなされる可能性があるわけです。
・賭博法で摘発を考えているの?
はっきりいって,賭博法違反での摘発は重大事案です。罰金とかは50万円以下で,彼らの収益からするとゴミみたいな金額なのですが,賭博法は社会的法益に対する罪であり,いわゆる反社会的勢力に類する事案に相当されてしまうため,認定方法を間違えると,上場廃止だの営業停止だのとすんごいことになり,当社比で堀江貴文300人分ぐらいの重量になってしまいます。
したがって,本来であれば,公正取引委員会がガチャの確率を明示するように勧告を出すこと(ビックリマンシールのパターン)や,消費者庁が景品表示法違反で行政指導する(非常にマイルド)といった方法が考えられたのですが,どっちのお役所も何かピクリとも反応がなかったため,警察が動き始めちゃった,と言われています。
また,ガチャの確率を当たり目や客の動きを見ながら変動させる行為は,出玉の操作そのものであり,しかも「ソーシャルゲームの成功法は,KPIツールを見て客に合わせてイベントや仕様(レアカードなど貴重なカードが出る確率)を変えます」などと堂々とテレビで喋っていたため,特定方面で大騒ぎになったという背景があります。それはパチンコホールがやったら即営業停止になる手法なんだよ。これは摘発すべし,と温度が上がってしまうのも,まぁやむ無しといったところでしょうか。
現状では,風営法でどうにかしようと思案中……といったところのようですが,ゲームセンターのメダルゲームと同じような対応と思って差し支えないかもしれません。コインは貸与であり,毎回ゲーセンのカウンターで預けた分を引き出したり余ったら預けたりしますし,ゲーセンの営業時間は制限され,出玉は管理されていますよね。まぁ,ああいう感じです。はい。
※編注:なお,上記に関するより突っ込んだ記事(曰く,4Gamerでは掲載しにくいような)は,山本氏が今後始めるという有料メールマガジン「人間迷路」で執筆される予定とのこと。
http://magazine.livedoor.com/magazine/50
http://yakan-hiko.com/kirik.html
ソーシャル「規制」論の本丸と,謎の「摘発」
業界における規制のあり方と,公平性に関しては,いろいろな議論があるところですが,少なくともいま行われている業界団体による自主規制や相互監視の仕組みでは,とうてい悪質な業者の逸脱を抑えられません。ですので,そろそろ問題を整理して適切な法制を考えよう,という時期にきたように思えます。
もちろん,RMT業者にまつわるさまざまな問題や,パチンコ・パチスロと見紛うほどの三店方式のような換金方法の確立は,まあ正直,とっとと規制しとけと思うところですが,こういった問題へ改めて向き合うことは,オンラインゲーム業界がかねてから取り組んできた「RMT業者の一掃」という命題の難しさを,改めて感じることになると思います。
最近,グリーも根本的な問題の所在にようやく気づいて,RMT業者関連の対策を打ち出しました。これら一連の対策の結果,業界全体の健全化に向けて一歩一歩,歩み始めたように思えます。
そのうえで,「規制」とはどういうものであるべきかという議論は,考え方や立場によってさまざまです。そもそも論で言うならば,風俗営業法の歩みと同じように,パチンコ・パチスロのような私家賭博に関する規制や,ゲームセンター,雀荘といった,国民の嗜好に関わる産業については,国民が無闇にはまりすぎないように,過度な享楽の提供を制限するための線引きが行われ続けてきました。
ソーシャルゲームやオンラインゲームの世界も,未成年者の利用時間の制限や,使用できる金額といったところに対して適切な規制が加わることは,社会に対する便益であると言えます。
ゲームにハマって身を持ち崩す連中など放置しておけば良かろう,という議論も一方であるわけですけれども(これが,結構根深いのでありますよ),ゲームにはまりすぎて会社を辞めた人や,学業が疎かになって学校を留年・中退に追い込まれるというのは,一人の業界人,あるいはゲーマーとして見ても,やっぱりどうかと思われるわけです。
分別のつく大人であれば自己責任とも言えますが,子供たちの場合,物事の道理が分からないままにゲームの世界から帰ってこられず引き籠もりに――となれば,その責任を誰が負うのかという話になってしまいます。あるいは,子供がお年玉や月額のお小遣いで消費可能な一般的なレベル以上での消費(例えば月2万円以上など)は,いくら保護者の容認があったとしても,社会通念上望ましいのか考えるべきだと言えます。儲かるからユーザー同士の競争や射幸心を煽ってきて急成長したけれども,ケータイで手軽に大金を突っ込める仕組みを放置していいのか,という議論ですね。
ゲームが,その人の人生,そして社会の中でどういう役割を担うべきなのか。突き詰めて考えれば,きっとそういう話になるのだと思います。
その意味でソーシャルゲームも,ゲームセンターやダイヤルQ2のように,然るべき線をどういう形かで引くことは肝要であり,警察がどうのこうの以前に,それは社会の要請であると,私は思います。
一方で,本来は別物であるはずの「規制」と「摘発」とが,セットで進んでいるかのようなお話が出ているのも確かです。行きすぎたソーシャルゲームブームの結果として,射幸心を大いに煽る制作技法を追求した結果,例えば会社全体の利益率が40%を超えるような異常な数字にまでなってしまいました。
そういう悪辣な事業を行う企業は社会悪であり,既存の法令の範囲内で摘発するべきだという議論は多々あります。しかし,過去を振り返れば,ブルセラショップの摘発でも類似の論争があったように,流行すれば需要が爆発するわけですから,関連する業者はボロ儲けなんですよね。規制されるまでおおいに儲けて,規制されたらまた別のことを考えればいい,こういう事業者は,そこらの見るからに胡散臭い事業を営む会社ならともかく,上場企業では社会的責任を果たさない存在であると,そう思われてしまうわけです。
ただ,そういう規制の枠組みを進めるにあたって,上記でも少し触れたように,圧力をかけている業界は当然あり,パチンコ・パチスロ系の業界の重鎮が,ソーシャルゲーム業界の発展に対して強い懸念を示し,問題視しているという現状があります。
確かにパチンコの客をソーシャルゲームに取られているので,警戒するのは致し方のないことではあります。しかし,それは業界の立場での見方に過ぎないのであって,社会全体で言うならば,必要な規制は考慮し実施していくことは必要としても,日本の限られた成長産業のひとつであることを考えるならば,無理な摘発を行うことは,最終的に国益を損ねる可能性を否定できない――とも思うわけであります。
現在,ソーシャルゲーム業界が問題視されている部分については,法令のどこをとっても直ちに違法とは言えないものばかりで,風営法にせよ賭博法にせよ金商法にせよ景品表示法にせよ,あるいは公正取引委員会の勧告にしても,非常に微妙なところです。せいぜい,確率をきちんと表示せず出玉(レアカードの提供割合)が可変であるという点で,是正を求められるかどうかといったレベルでしょう。
やはり,この手の新規産業の勃興が,いかに既存業界の警戒を引き起こし,政治的影響力を行使して摘発を行い,潰したいと思ったからと言って,2006年のライブドア事件同様,無理筋に事案を進めたとしても,”返り血”は浴びてしまうだろうと予想されるのです。
そして議論は引き継がれる
状況は依然として進行中です。今後,どうなるのかは私には分かりません。
ただ,ネット業界とゲーム業界のあいのこであるソーシャルゲーム業界に対して,当局は結構明確なメッセージを投げている途上にあるとも言えます。そこには,感情論的な“儲け過ぎ批判”ではなく,利益を出し株式を上場している立派な企業として,日本社会にどのようなプラスのインパクトを与える存在であるかを証明して欲しい,という意味も含まれると思います。
2ちゃんねるの強制捜査話もそうですが,ネットはネットだけで完結するものではなく,普及に伴って多くの一般国民も使うようになったからこそ,今後,一般の法制度の枠組みの中に置かれていくのは当然です。
法制度というものが,実際の社会よりもやや遅れて充実していくということを考えると,いま突きつけられているのは「規制されるべきか」ではなく,「どのような規制が望ましいか」でしょう。
このままグリーや他のソーシャルゲーム会社が然るべき消費者保護の対策を取り,射幸心を煽り多額の現金を支出させるような制作に歯止めをかけ,RMTなどといったユーザーの換金手段を封じて事実上の三店方式をなくし,未成年の略取など,犯罪に繋がる可能性のある機能を制限すれば,摘発自体は行われないのではないかと私個人は思っています。
まぁ,この原稿を書いている間にも,恐らく関係者の間での交渉や暗闘は続いているものと思いますので,事態を生暖かく見守り続けたいと考えています。
■■山本一郎■■ 言わずと知れた著名ブロガーで,その鋭い観察眼と論理的な文章力には定評がある。が,身も蓋もない業界話にはもっと定評がある。ゲーマーとしても知られており,時間が無いと言いつつも,膨大に時間を浪費するシミュレーションゲームを愛して止まない。自身でも会社を経営し,さらに他の企業の経営にも関わる山本氏。投資家であり経営者……つまり,山本氏は結構なお金持ちのハズなのだが,氏と知り合ってからというもの,彼に何かをおごってもらったことがないように思います。いつも割り勘……いや,こちらが立て替えた席もあったっけ。だけど,そんな細かいところに,なにか氏の“信念”が見えるような気がしてなりません。年下であっても,目下の相手あっても,安易にお金で上下の関係は作らない。お金に関わるさまざまな体験をしてきた氏だからこそ,人との付き合い方には,いろいろと考えるものがあるのかもしれませんね。多分だけど。――でも,一緒にゲーセン行った日の帰りのラーメンくらいはおごってくれてよかったんじゃないですか! |
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