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  • 発売日:2005/04/01
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印刷2007/12/19 11:58

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第26回:キャラクターは物語のビークルではない 第26回:「ベルガリアード物語」

 

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『予言の守護者―ベルガリアード物語(1)』
著者:デイヴィッド・エディングス
訳者:宇佐川晶子
版元:早川書房
発行:2005年2月
価格:861円(税込)
ISBN:978-4150203806

 

 ファンタジー小説にはさまざまな分類方法がある。例えばよく知られているのは「ハイ・ファンタジー」(完全な異世界)と「ロー・ファンタジー」(現実世界にファンタジー要素を持ち込んだもの)の二分法だが,これとは別に,作劇手法の違いによる分類も存在する。
 連載第15回で取り上げた「コナン」シリーズのように,ある英雄の活躍を描く「ヒロイック・ファンタジー」と対比されるのが,異世界を舞台に,そこで起こった歴史的な事象を綴る叙事詩的な「エピック・ファンタジー」である。
 エピック・ファンタジーの代表であり,ジャンルを確立した存在といえるのが,かの「指輪物語」だ。物語の軸となる状況に登場人物達がどのように関わるかを,一貫した世界観の中でリアリティを持たせつつ描き出すのが,このジャンルのポイントである。世界を構成する枠として「善」(光,秩序)と「悪」(闇,混沌)の対決構図が多く見られるのも,副次的な特徴といえるだろう。

 翻ってゲームの世界を見てみると,実はエピック・ファンタジー的な構造を持つ作品も意外に多い。「世界を脅かす魔王が現れ,それを倒すために主人公を含む一行が行動を開始する」といったストーリーラインは,エピックでもヒロイックでも使われるものだ。超人的な英雄たる主人公に着目するか,事態全体の推移に関心を置くかこそが,両者の違いである。オンラインRPGが,個々のプレイヤーに唯一無二の英雄たることを(ゲームシステム上)パラレルに求めるのか,状況への一参加者たることを求めるのかは,作品の考え方によって異なる。

 前置きが長くなってしまったが,今回紹介する「ベルガリアード物語」は,エピック・ファンタジーを代表する作品の一つであると同時に,いわば入門用として非常に適した作品である。エピック・ファンタジーの重要な要素である壮大な世界観とその描写,そしてそこで繰り広げられる物語の完成度が,まずもって非常に高い。それに加えて,登場人物が実に魅力的に描かれている。
 「ベルガリアード物語」全編の骨子は比較的シンプルだ。原初の神を父とする7人の兄弟神が,さまざまな種族を創成したというのが基本的な世界観となる。そしてあるとき,神々のなかで最も美しく傲慢な神トラクは兄神に敵対し,兄神の作った魔力のある「珠」を奪ってしまう。
 世界は混乱に陥り,またトラク自身も「珠」の力で傷ついたため,結局「珠」は戻り,以来長兄アルダー神の弟子たる魔術師と,ほかの神の民達の王族によって守られるようになった。だがこの「珠」が,今度はトラクの弟子である魔術師によって奪われてしまう。「珠」を奪還するため,主人公をはじめとする仲間達が旅に出るというのが話の始まりである。
 物語全体としては「珠を取り戻すための旅」と「取り戻した珠を使って邪神と対決するための旅」という2部構成。双方の神の遺した「予言」を現実のものとすべく,互いの弟子が活動するという“代理戦争”が特徴でもある。背景描写との関係で,キャラクターが神々の指す将棋のコマのようにも感じられるが,そこも作者の意図のうちだろう。

 先ほども述べたとおり,大きな話の流れの中でさまざまな役割を果たすキャラクターが,「ベルガリアード物語」の大きな魅力である。キャラクターの基本造型は割り振られる役に規定されているものの,非常に生き生きと描かれている。
 ヒロインともいうべきセ・ネドラの描写は「わがままなお姫様」の典型でありながらも,その中で主人公ガリオンに惹かれていくところの描写には,とくに着目したい。これは元祖(かどうか知らないが)「ツンデレ」といっても過言ではないだろう。
 事実,2005年に新装版の発行が始まると,20年以上前(「ベルガリアード物語」の刊行は1982年から)からこのようなキャラクター造型(ツンデレ)があったということが,ライトノベル読者層に大きな話題を呼んだのである。
 全5巻,続編の「マロリオン物語」を含めると全10巻という長丁場を,ダレることなく一気に読み進めるための材料として,生き生きとしたキャラクター描写が一役買っていることに間違いはない。

 エピック・ファンタジーの本流でありながら,キャラクターノベル的な描写を盛り込んだこの作品は,ファンタジー小説の傑作として,いまでも版を重ねている。因果関係は逆になるが,ファンタジー設定になじんだコンピュータRPGのプレイヤーであれば,必ずや興味を惹かれることと思う。

 

まあ,言葉作った者勝ちみたいなところも

いまや広めた者勝ちかもしれませんよ?

 

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■■田村真治(ライター)■■
SFやファンタジー小説の古典に,ことのほか詳しいPCゲームライター。テーブルトークRPGやカードゲームのプレイ歴をふんだんに持ち,キャラクターゲームに関する造詣も深いため,コンピュータゲーム各ジャンルの源流や基礎を考察する引き出しを豊富に持つ。ああ,武道にも詳しいと聞きましたので,そのへんもぜひ。
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