レビュー
G7後継のワイヤレス&ワイヤード両対応モデル,その完成度はいかに?
Wireless Gaming Mouse G700
(Logicool Wireless Mouse G700)
ただ,そんなG-Seriesの歴史にあって,ワイヤレスのゲーマー向けマウスであるG7 Laser Cordless Mouse(以下,G7)の後継機だけは,まったく音沙汰がなかった。軽量のバッテリーパック2個を入れ替えながら利用できるというユニークな製品で,一部に熱狂的なファンを抱えていたのだが,「バッテリーの分,ワイヤードタイプより重い」「バッテリーはいつか必ず切れる」「データ転送周りに不安が残る」などなど,極限まで操作性を追求するハードコアなゲーマーにとってはワイヤレスであるメリットよりもデメリットのほうがはるかに大きく,結果としてG7の販売終了後,“7系列”は長らく死に番になっていたのである。
デザイナーなどに向けた高機能マウスとして売りたいという,純然たるマーケティング上の都合による製品名変更と思われるが,“中身”は紛れもなくG-Series。4Gamerとしては,G-Seriesの最新モデルとして,G700をチェックしてみたいと思う。
“ゲーマー向けワイヤレス”といえば,Microsoftの「SideWinder X8 Mouse」やRazer USAの「Razer Mamba」がすぐに思い当たるが,この市場を切り開いたLogitechが放つ5年振りの新作を,我々はどう受け入れるべきだろうか。
形状と持ちやすさは総じて○
13ボタンも感触はよいが,とっさの使い分けは難しい
右サイドの奥側(=メインボタン側)は,本体底面から膨らみ部分の高さが十分あるため,薬指と小指を縦に並べて握るような場合にも指が収まりやすい。手前側(=「Logicool」ロゴ側)は外側へ膨らみ,小指や薬指の根元あたりでフィット感が強くなっている。
左サイドでスカートを生んでいる大きなカーブも,握ったとき親指の関節が自然に曲がり,指先がうまい具合に貼り付くような窪みを生んでおり,力を込めやすい。全体的にフィット感,そして持ちやすさのレベルは高い印象だ。
本体右サイドは小指や薬指をフィットさせやすいデザインになっている。大きなねじれが気になったが,G500よりもむしろ洗練されている | |
左サイドの奥には,親指の先がぶつかる“山”がある。適切な持ち方をすればフィット感に貢献し,マウスを奥方向へ操作しやすいが,「かぶせ持ち」で極端に深く握るような場合は,親指がこの山を飛び越えるような感じになる |
ただ,「つかみ持ち」(Claw grip)で本体手前の傾斜に手を押しつけるような持ち方はしづらいので,この点は押さえておく必要がある。
さて,ここまでに掲載してきた写真でも気づいたと思うが,G700は,全部で13個ものボタンを搭載するという,多機能を志向したG-Seriesのなかでも群を抜いてボタン数の多いマウスになっている。多ボタンのゲーマー向けマウスというと,本体左サイドに10キーボタンを搭載し,全17ボタン仕様を実現した「Razer Naga」が思い出されるが,そういった“変化球”なしに13ボタンを実装してきたインパクトは小さくない。
これらボタンの操作感だが,端的にまとめると,いくつか不満は残るものの,おおむね満足度は高い。メインボタンのクリック感は従来のG-Series製品同様に軽すぎず重すぎずで,マイクロスイッチのカチカチした心地よい感触がある。本体シェルと一体型ながら,[G11]ボタンの真横付近を押しても押すのが苦ではない程度の軽さなのは好印象だ。
溝の入ったラバーを金属で挟むようなホイールを採用するため,指をホイールに載せたままチルトを入れようとすると,入力はできるものの指が金属部で滑ってしまうため,チルト状態を維持しづらいというのは,G500と共通している。
G500の左サイド3ボタンも押し上げるように入力することはできたが,あくまでも基本は押し込みだった。その点では,ずいぶんと大胆な変更だと思う。
左メインボタンの外側に位置する[G8]〜[G10]の3連ボタンは,マウスの持ち方次第で押しやすさに違いは生じる,傾斜のあるスカルプ構造を採用していることもあって,他社製品を含む,過去に存在した同種のボタンと比べて押しやすさがずいぶんと改善されている。もっとも,押そうとすると一般的なマウスにはなかった指の動きが要求されるので,瞬間的な判断が必要な操作に割り当て,思い通り使えるようになるためには,やはり時間が必要だ。
人差し指と中指だけで操作する場合でも,押し分け自体は不可能ではない。もっともこの場合は,人差し指の左半分で3連ボタン,右半分で左メインボタンを押し,中指の左半分でスクロールホイール,右半分で右メインボタンを押すといった,だいぶ左寄りの持ち方になってしまう。
ちなみに,13ボタンにはマクロを含めた機能の割り当てが可能で,そのうち最大5プロファイルはマウス本体側のフラッシュメモリに登録し,手動,もしくは実行ファイルをトリガーとした自動切り替えが可能というのは,従来のG-Series上位モデルと同様。機能の割り当てにはおなじみの専用ユーティリティ「SetPoint」の最新版となるバージョン6.15(6.15.6)を用いるが,ウインドウがムダに大きいことを除けば使い勝手は良好なので,迷うことはまずないはずだ。ただし,ドライバCD-ROMは付属せず,ロジクールのサポートページから入手する必要があるので,この点はご注意を。
ケーブルの抜き差しで無線有線切り替え可能
バッテリーは単三形エネループ
G700のワイヤード/ワイヤレス動作はワイヤードモード&充電用ケーブルの抜き差しがトリガーとなっており,本ケーブルを使ってPCと接続したときは自動的にレシーバーユニットの通信が終了してワイヤードモードで動作し,同時に充電が行われる。
専用ケーブルは,マウス最奥部まで差し込むとかちっと固定されるタイプ。ただ,接続インタフェースはMicroUSB タイプBなので,「充電しながら激しい動きをしているとき,抜けるかもしれない」というのを覚悟すれば,別のケーブルを利用することもできる。
SetPointに用意された休止状態設定。プロファイルごとに3つのモードから1つを選んで設定できる |
本体底面の中央付近にあるのがスライド式の電源ON/OFFスイッチ。ワイヤードモードで動作させる場合もスイッチはONになっている必要がある |
その点G700はどうかというと,(おそらく最終製品では日本語でモード名が記載されると思われるが,今回試した英語版SetPointだと)3種類の休止状態設定「Max Gaming」「Normal Gaming」「Power Saver」からプロファイルごとに1つ選べるようになっている。
反応速度を最重要視する場合はMax Gamingを選ぶよう推奨されているのだが,ここで注意したいのは,本モードがいわゆるAlways-Onモードではないということ。実際にゲームをプレイし続ける限り,休止状態に入ったりはしなかったが,定義上はあくまでも「休止状態に移行するまでの時間が長くなり,休止状態からの復帰時間が短くなるだけ」(原文:the mouse stays awake longer and wakes up faster)なので,この点は注意したい。
なお,標準で付属する充電池は,三洋電機の「エネループ」だ。
動作モードが3種類用意されているためか,「何時間,何日,何週間」といったバッテリー駆動時間の目安は公開されていないのだが,満充電からMax Gamingモードに設定して数時間にわたってゲームをプレイし続け,そのまま一晩放置してから確認してもバッテリーは十分残っていたので,気がついたときに専用ケーブルを差して充電といった感じで十分対応できるだろう。もちろん,手元にエネループがあるならそれと交換してしまってもいい。
センサー性能は高く,ワイヤレスでも「使える」
問題は一にも二にも重すぎる本体重量
G700の重量はケーブルを外した状態で実測約151g。バッテリーを内蔵するワイヤレスマウスが重いのは当たり前といえばそれまでなのだが,レビュー時に“超重量”とまで評したSideWinder X8 Mouseよりさらに10g程度重いという事実は,長時間使い続けたときの疲労感に直結してくる。一般的なPCユースならまだしも,素早く動く敵に対してマウスで狙いを付けようと力を入れていると,重量がもたらす負の影響はかなり早い段階で出てくる印象である。
なお,これは左右メインボタンに人差し指と中指を置く一般的なスタイルでの話。中指でスクロールホイール,薬指で右メインボタンを操作し,親指と小指で両サイドを挟む,いわゆる3本指スタイルだとさらにつらい。
トラッキング速度165IPS,最大加速度30G,イメージ処理能力12MPixels/sと,スペックからは,G500や「G9x Laser Mouse」と同じレーザーセンサーを搭載すると見られるG70だが,実際の追従性もこれらマウスの水準をクリアしているのか。表1に示したテスト環境を用い,その下にまとめたとおりの方法で,挙動をチェックすることにした。
●G700の設定
- 接続:ワイヤレス(※一部ワイヤード)
- ドライババージョン: 5.10.9
- SetPointバージョン: 6.16.6(5.40.39)
- トラッキング解像度:5700DPI(※一部2000DPI)
- レポートレート(≒ポーリングレート):500Hz
- SetPoint側設定「Use OS native drivers for pointer speed and acceleration」(ポインタの速度と加速にOSのドライバを使用します):オン
- SetPoint側設定「Enable angle snapping」(アングルスナップ):オフ
- SetPoint側設定「Speed」(速度):5
- SetPoint側設定「Acceleration」(加速):0
- SetPoint側設定「Power Mode」:Max Gaming
- Windows側設定「マウスのプロパティ」内「速度」スライダー:中央
- Windows側設定「ポインタの精度を高める」:オフ
●テスト方法
- ゲームを起動し,アイテムや壁の端など,目印となる点に照準を合わせる
- マウスパッドの左端にマウスを置く
- 右方向へ30cmほど,思いっきり腕を振って動かす「高速動作」,軽く一振りする感じである程度速く動かす「中速動作」,2秒程度かけてゆっくり動かす「低速動作」の3パターンでマウスを振る
- 振り切ったら,なるべくゆっくり,2.の位置に戻るようマウスを動かす
- 照準が1.の位置に戻れば正常と判断可能。一方,左にズレたらネガティブアクセル,右にズレたら加速が発生すると判定できる
今回はワイヤレス&ワイヤード両対応ということで,基本はワイヤレスでテストを行い,問題が出た場合は「ワイヤードモード+5700DPI+Sensitivity 0.15」「ワイヤードモード+2000DPI+Sensitivity 0.4」の2パターンで追試することにした。その結果をまとめたものが表2だ。
複雑に見えるテストだが,なぜこんな手順を踏んでまで表を一つにまとめたかというと,ワイヤレスモードとワイヤードモードの間に挙動の違いが見られなかったからだ。
というわけでまずはリフトオフディスタンスだが,平均して2mm程度に収まっている。また,本体奥側にセンサーが配置されていることもあり,マウスを持ち上げて動かすとき,ポインタが引きずられるようなことは生じておらず,優秀といえる。
公正を期すなら,いずれのマウスパッドでも,いわゆる「微加速」――同じ距離を高速で動かした場合と低速で動かした場合,前者のほうがポインタの移動量が若干増えるという,最近の高性能レーザーセンサー搭載マウスで散見される現象――は,G700でも見られる。とはいえ,移動量の差は,解像度1920×1080ドットの23インチワイド液晶ディスプレイで,1680×1050ドットのウインドウ表示,FOV(視野角)設定110度設定時に約20mmなので,気になるレベルではまったくない。
高速動作時に△となった「ARTISAN Kai.g2 H-M」「SteelSeries QcK mass」だと,微加速の程度は50mm程度に大きくなったが,それでも十分実用範囲内と言えるだろう。
重量には相当な覚悟が必要だが
“ゲーマー向けワイヤレス”にこだわるなら十分アリ
また,カスタマイズ可能なボタンが多く,しかもそれらが「とりあえず増やしました」というレベルを超え,十分に「使い物になる」点も評価したい。直販価格が約1万円という価格を手放しでお手頃と褒めたりはできないが,G700が実現している完成度を考えれば,十分に納得できるだろう。少なくとも,実勢価格が1万3000円台(※2010年8月23日現在)のRazer Mambaよりは安い。
また,センサー性能がLogitechの現行ワイヤードモデルと同じことも踏まえるに,“ワイヤード専用”マウスとしてG700を選ぶ理由はその形状とボタンの数という,どうしても弱いものになる。ロジクールが本製品を国内でG-Series扱いしなかったのは,ある意味で正しい決断なのかもしれない。
……と,数こそ少ないものの小さくない問題を抱えるG700なのだが,ワイヤレスマウスとしての完成度が高いのも,また確かだ。重量以外に購入を避ける理由はなく,ワイヤレスのゲーマー向けマウスにこだわってきたユーザーにとっては,2010年8月時点におけるゲーマー向けワイヤレスマウスの決定版といえる製品である。
- 関連タイトル:
Logitech G/Logicool G
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