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Auzentech,日本市場参入 DTS/Dolby Digitalリアルタイムエンコード対応サウンドカードを5月に発売へ
……と言われたところで,会社名も製品名も初耳という人は多いだろう。Auzentechは,韓国HiTeC DIGITAL AUDIOが2006年1月から改称したもの。そして,X-PlosionとX-Mystiqueは,いずれも2chステレオや5.1chサラウンドなどのサウンドをデジタルデータにエンコードし,デジタル信号として出力できるようになっているのが最大の特徴だ。
X-Plosionは「DTS Connect」と「Dolby Digital Live」の認証を取得済み(X-Mystiqueは後者の認証のみ)。DTSやDolby Digitalのデコードに対応したAVアンプやデジタル入力対応のサラウンドスピーカーシステム(以下AVアンプ)へ入力することで,AVアンプ側のDTS/Dolby対応デコーダを利用可能となっている。
Creative TechnologyのSound Blasterシリーズだと,サウンドのマルチチャネル出力には基本的にアナログ端子を利用するほかない。この点,X-PlosionやX-Mystiqueを利用すると,デジタルケーブル1本でAVアンプへ出力できるから,マルチチャネル環境における配線がスマートになる。また,デジタル信号を実際のサラウンドサウンドへデコードする処理はAVアンプ側の能力に左右されるため,AVアンプ側の性能によっては,DTS(Digital Theater Systems)/Dolby(Dolby Laboratories)の認定水準を満たした,しっかりとしたサラウンドサウンドを味わえる,というわけである。
今回はAuzentech(正確には米Auzentech Inc.)の社長であるStephane Bae(ステファン・バエ)社長に話を聞くことができた。そこで,カードの特徴など気になる点について,以下のとおりインタビュー形式でお届けしたい。
■「EAXに未来はない。DTS ConnectとDolby Digital Liveが
次世代のPC用マルチチャネル技術」
初めまして。さっそくなのですが,まず御社について簡単に説明いただけますか?
Stephane Bae氏:
もともとはHiTeC DIGITAL AUDIOという会社でしたが,2006年1月に,企画開発のみを行う韓国Auzentech Co.Ltdと,全世界の販売,マーケティング活動を行う米Auzentech Inc.の2社体制になりました。私はAuzentech Inc.の人間で,ワールドワイドの販売戦略を担当しています。
4Gamer:
Auzentech製品の特徴が,DTS ConnectやDolby Digital Liveのロゴを取得し,デジタル信号へのエンコードが可能である点にあるのは明らかですが,このメリットを教えてください。
Stephane Bae氏:
AVアンプは現在,全世界で非常に普及しています。そして,これらAVアンプが提供する,DTSやDolby準拠の3Dサウンドは,音の立体感や音質で,明らかにEAXより上です。そしてX-PlosionやX-MystiqueはAVアンプを利用してサラウンドサウンドを表現できる。これは,非常に大きなメリットです。
4Gamer:
PCのゲーム用サラウンドサウンドの世界では,結果としてCreative Technologyの一人勝ちという状況が生まれていますが,そのメリットでこの状況は変えられると思いますか?
Stephane Bae氏:
EAXやEAX ADVANCED HDが,将来も主流であり続けることはないと考えています。ゲーマーの方にとってEAXは身近でも,一般の方にとってはそうではない。DTSやDolbyのほうがはるかに知名度があります。
そしてなにより,EAXよりも,DTSやDolbyのサウンドのほうが定位感(≒音の立体感)に優れています。一段上のPCサウンド体験ができるというわけですね。
4Gamer:
Creative TechnologyがEAX ADVANCED HDで,それこそDolby Digital Live準拠でデジタルエンコードを採用してくるような可能性についてはどう考えていますか?
Stephane Bae氏:
彼らはアナログに注力し,予算も割いていますから,その可能性は低い。だからこそ,私達にチャンスがあると考えています。
4Gamer:
その「チャンス」を生むDTSやDolby準拠のリアルタイムエンコードについてですが,どのように実現しているのでしょう?
Stephane Bae氏:
X-Plosionは「CMI8770」,X-Mystiqueは「CMI8768+」という,台湾C-Media Electronics(以下C-Media)製サウンドチップを搭載しており,これらを利用して行っています。両者の違いはDTS Connectの対応だけですね。
4Gamer:
例えば,ここに5.1chのゲーム用サラウンドサウンドデータと,2chの音楽データがあったとしますよね。それぞれ,どのようにエンコードされるのでしょう?
Stephane Bae氏:
順番にお話しすると,DirectSoundやDirectSound 3D,EAXといったゲーム用のサウンドAPI(Application Program Interface)を利用している場合は,5.1chのデジタル信号へアップミックスされますね。それをAVアンプへ向けて送出するようになっています。
次に音楽などの“それ以外”のデータですが,こちらは2chの信号へとエンコードされます。いずれの場合も,DTS ConnectやDolby Digital Liveの要求仕様を満たしたエンコード技術を利用しているので,どういった形でデコードされるかは,AVアンプ側のスペックや仕様次第,ということになります。
4Gamer:
ゲーム用のAPIとしては,EAX 2.0までの対応ですよね?
Stephane Bae氏:
そうなります。仕様が公開されていないEAX ADVANCED HD 3.0以降はサポート外です。
4Gamer:
とくにゲームにおいて,サラウンドサウンドのリアルタイムエンコードというのは,負荷がかなり高い処理だと思います。一方で,CMI8770やCMI8768+のチップサイズからして,それをハードウェアで100%まかなえるとは到底思えません。これは,ゲームにおいてデメリットになりませんか?
Stephane Bae氏:
C-Media製チップのパフォーマンスは非常に高いです。また,ご指摘の点について否定はしませんが,現在,C-Mediaと協力して,ゲーム時のCPU負荷についてはドライバレベルの改善作業を行っています。
なるほど。そのときはぜひ検証させてください。
さて,国内ではX-PlosionとX-Mystiqueがこれから出るタイミングなので,今聞くべきではないのかもしれませんが,C-Mediaは2005年にCMI8770/8768+の上位製品として,7.1chのリアルタイムエンコードに対応した「Oxygen HD CMI8788」というサウンドチップを発表しています。これを利用する製品の予定はありますか?
Stephane Bae氏:
まだ詳しくは話せませんが,あるかないかといえばあります。楽しみにしていてください。
■3Dゲームでどこまで利用できるかは未知数だが
面白い存在なのは確か
以上,デジタル信号へのエンコードを中心に話題を進めてきたが,X-PlosionやX-Mystiqueは,製品名に7.1という文字があるとおり,アナログ7.1chサラウンド出力をサポートする。また,アナログ入出力時の音質を左右する,「オペアンプ」(OPAMP)と呼ばれるカード上の部材を変更できるようになっているなど,興味深い仕様になっている点も目を引く(厳しいことをいうと,CMI8770/8768+はD/Aコンバータ内蔵なので,アナログ出力品質に過度の期待はできないが)。
あとは,繰り返しになるが,やはりリアルタイムエンコードのCPU負荷ということになる。筆者が以前試した限り,同じクラスのC-Media製サウンドチップを搭載した,とあるサウンドカードのCPU負荷は,どうひいき目に見ても「Sound Blaster X-Fi」や「Sound Blaster Audigy 2 ZS」と互角に戦えるレベルではなかったが,果たしてAuzentech製品はどうだろうか。
もっとも,サウンドカード側のCPU負荷の低さがそれほど要求されないゲームをプレイするなら話は別。「AVアンプを所持していれば」という条件はつくが,わざわざPC用のサラウンドスピーカー用意せずとも,ゲームのサウンドを気軽にサラウンド化できるメリットが享受できそうだ。
ちなみに海外では,X-Plosionが139ドル,X-Mystiqueが99ドルという価格が付けられている。国内のごく一部で流通していた並行輸入版はかなり高い価格になっていたと記憶しているが,正規版なら海外と同じくらいで落ち着くはず。いまあるゲームのサウンドをサラウンド出力してみたい,と思ったなら,Bae氏の口ぶりからすると登場が近そうな上位モデルともども,チェックしておいたほうがいいかもしれない。(佐々山薫郁)
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