レビュー
ペルチェ素子は果たしてどこまで有効か
MA-7131DX
» 外気温を下回るレベルにまでCPUを冷却可能なペルチェ素子。それを搭載するCPUクーラーが登場した。その触れ込みどおりであれば,ハイエンドのゲーム用PCを冷却する切り札として使えそうだが,その実態は? 冷却デバイスには一家言持つJo_Kubota氏が,実力に迫る。
今回は,販売代理店のユーエーシーから製品を借用できたので,そのテスト結果をまとめてみたいと思う。
空冷よりも高い冷却性能を実現するペルチェ素子
……そもそもペルチェ素子とは?
さて,ペルチェ素子と聞いても,4Gamer読者には「?」という人が多いと思われる。ペルチェ素子はどちらかというとPC自作系のキーワードなので,ゲーマー的には知らなくても全然問題ないが,せっかくの機会なので,簡単にまとめておこう。
このペルチェ素子をモジュール形式にしたものを「TEC」(Thermo Electric Cooler,サーモエレクトリッククーラー)とも呼ぶが,一般的にペルチェ素子とTECは同義語だ。どちらの名称で呼んでも間違いではない。
では,ペルチェ素子をCPUクーラーに利用するとどういうメリットがあるかだが,これはズバリ,空冷では実現しえない温度までCPUの温度を下げられることだ。
空冷,つまりファンとヒートシンクによる冷却では,どんなに効率を上げても外気温(=室温)以下にはできないが,ペルチェ素子を使えば,吸熱側を外気温以下どころか,0℃以下にすら設定できる。
今回取り上げるMA-7131DXも,もちろんペルチェ素子の弱点は抱えている。しかし同製品の場合は,搭載するペルチェ素子コントローラが,温度センサーで温度を逐一チェックしながらペルチェ素子への供給電圧を制御することで,結露を防ぎ,ムダな発熱を抑えている。ひたすら過度な冷却を行うのではなく,現実的な範囲で熱量をコントロールしているというわけだ。
ヒートパイプはペルチェの吸熱側と発熱側にそれぞれ取り付けられ,1個の大きなものに見える,カバーに覆われた放熱フィン部分も,よく見ると2ピース構成という,凝った構造だ。CPUの熱を最初にヒートパイプ&フィンである程度放熱し,残りをペルチェ素子で吸熱するので,(一般の大型CPUクーラー程度にまで)本体を小型化できたのだと思われる。
ハイエンドとミドルハイクラス
二つのCPUで冷却能力を検証
また,MA-7131DXの用途を踏まえて,今回はTDP 130WのハイエンドCPU「Core 2 Extreme QX6850/3GHz」(以下,C2E QX6850)と,TDP 65Wのミドルハイクラスモデル「Core 2 Duo E6700/2.66GHz」(以下,C2D E6700)を用意し,省電力機能は無効にしている。このほかテスト環境は表2のとおりで,Cooler Master製のATXケース「Centurion 5」を,基本的に標準状態のまま用いている。つまり,回転数1800rpmの80mm角吸気用,同1200rpm/120mmの排気ファンが取り付けられた状態だ。ただし,側面のパッシブダクトが付いたままだと,MA-7131FXおよびSI-128SEが干渉してしまうため,両製品をテストするときは側板からパッシブダクトを取り外している。
VRDヒートシンクの丸で囲んだ部分に温度センサーを貼り付けた |
天板部はこんな感じで温度センサーを貼り付けている |
スコアは,最も温度の高いCPUコアのものを採用することにし,「CoreTemp 0.95 beta」で計測。そのほかVRDヒートシンク,およびケース内部の中央天板近くに取り付けた温度センサーの温度も取得する。そのため,CPU温度は整数,ケース内温度は小数点以下1桁と,スコアは若干異なるので,あらかじめお断りしておきたい。計測時の室温は25.5〜26.0℃だ。
CPUによって得意不得意がはっきり分かれる
低発熱のCPUと組み合わせるなら効果的
まずはC2E X6850と組み合わせたときの結果から見ていこう。
グラフ1はCPU温度だが,MA-7131DXのスコアはSI-128SEに大きく引き離され,かなりリテールクーラーに近い温度になってしまっている。とくに,3DMark06 CPU実行時や午後べんち実行時にはSI-128SEから20℃近い差が開いてしまっており,まるで勝負になっていない。
続いてグラフ2はVRDヒートシンク温度だが,MA-7131DXの場合,計測ポイントとなるVRDヒートシンクにCPUクーラーの風がほとんど当たらない。ある意味予想どおりの“頭一つ飛び出し”になったといえよう。
ケース内温度をまとめたのがグラフ3だ。ここではケース内の空気がどれだけ撹拌されているかを見ている。ここでもMA-7131DXはやや高い温度を示したが,これは試用した3製品中でMA-7131DXが搭載するファンの風量が最も少ないためと思われる。
続いては,C2D E6700と組み合わせたときの結果だ(グラフ4)。
やはりCPU温度から見ていくが,グラフ1とは様相が異なり,アイドル状態でSI-128SEよりも5℃低く,高負荷時にもリテールクーラーよりも10℃近く低いスコアを出している。SI-128SEとほぼ同性能といえるだろう。
VRDヒートシンク温度は,C2E QX6850のテスト時よりも差が顕著となった(グラフ5)。これは,CPUの消費電力が下がるとVRDの発熱が下がるためだ。クーラーからのエアフローがVRDヒートシンクに当たるSI-128SEやリテールクーラーでは,当然のことながら,温度をさらに下げられるというわけである。
グラフ6は,グラフ3とほぼ同じ傾向を示している。CPUの発熱量が減った分だけケース内温度は全体的に下がっているものの,MA-7131DXのスコアがやや高くなっている点に変化はない。
MA-7131DXの限界点
グラフ1とグラフ4の結果が大きく違うことを不思議に思う読者もいると思うが,実はこれは,テストする前からある程度予想されていた結果だ。なぜ予想できたのかというと,ペルチェ素子に秘密がある。
またペルチェ素子そのもののパワーも,TDP 130Wクラスに対応するには非力だろう。せめて80〜90W級の大きなペルチェ素子を持ち込まないと劇的に冷やすのは難しい。もっとも,今度はそれに対応するだけの巨大な冷却機構が必要になるのだが。
逆に,C2D E6700の場合を考えてみると,TDP 65W+50Wで110W。スコアを見る限り,MA-7131DXのヒートシンクでも十分排熱できる熱量といえそうだ。TDP 65WクラスのCPUであれば,ペルチェ素子を生かした最大限の冷却能力を発揮し,空冷のCPUクーラーよりも“冷やせる”というわけである。さらにTDPの低いCPUや,省電力機能が有効になったとき,過剰冷却になって結露が発生してしまうことのないようコントローラが制御している点は,MA-7131DXのメリットといえるだろう。
消費電力は予想どおりかなり高い
公称スペック以上は覚悟すべき
最後に消費電力をそれぞれ見てみたい。
まずグラフ7のC2E QX6850だが,アイドル状態ですでに対SI-128SEで約80W高い。高負荷時にはさらに広がり,3DMark06実行時に86W,午後ベンチ実行時に95Wもの差がついている。先ほど,MA-7131DXの消費電力は50Wという公称スペックをお伝えしたが,ペルチェ素子の消費電力が公称値よりも高いか,コントローラの効率が悪い/精度が低い可能性を指摘できそうだ。いずれにせよ,“130W+80W”なのだから,グラフ1のスコアは納得である。
なお,高負荷時にリテールクーラーがSI-128SEよりも消費電力が高いのは,ファンが常時最高回転で回っているためだ。こうして並べてみると,リテールクーラーの消費電力が意外に高いことが分かる。
C2D E6700での消費電力も,かなり差が開いている(グラフ8)。SI-128SEと比べて,アイドル時に65W,3DMark06実行時に69W,午後べんち実行時に70Wだ。アイドル時の消費電力で見ると,“MA-7131DX+C2D E6700=C2E QX6850”となり,地球環境にはあまり優しくない。
価格を考えると微妙
後継製品でのさらなる改良に期待
「なら,TDP 65WのCPUに最適か?」と問われると,今度は消費電力が大きく足を引っ張るため,正直微妙だ。アイドル状態でSI-128SEを下回る点はさすがペルチェ素子と褒めたいところだが,高負荷になると差がなくなってしまうからである。
メリットは,TDP 65W以下のCPUであれば確実な効果が見込めることと,SI-128SEなどの,冷却性能を重視した他社製のクーラーと比べて小型のため取り付けが容易で,さらにマザーボードもあまり選ばないこと。ただ残念ながら,この程度のメリットでは,1万3000円前後という実勢価格を納得させるのは少々厳しいと思われる。
かなりアグレッシブで意欲的な製品だけに,今後さらなる改良を加えたモデルの登場を期待したい。
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