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ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
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印刷2007/10/22 18:47

レビュー

ペルチェ素子は果たしてどこまで有効か

MA-7131DX

Text by Jo_Kubota

»  外気温を下回るレベルにまでCPUを冷却可能なペルチェ素子。それを搭載するCPUクーラーが登場した。その触れ込みどおりであれば,ハイエンドのゲーム用PCを冷却する切り札として使えそうだが,その実態は? 冷却デバイスには一家言持つJo_Kubota氏が,実力に迫る。


MA-7131DX
メーカー:MACS Technology
問い合わせ先:ユーエーシー(販売代理店)
実勢価格:1万3000円前後(2007年10月22日現在)
画像集#001のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 2007年夏の登場が噂されながらも延期が重なり,先頃ようやく販売の始まった,ペルチェ素子搭載のCPUクーラー「MA-7131DX」。ペルチェ素子搭載クーラーで実績のあるMACS Technologyの新作は,果たしてハイエンドCPUを搭載したゲーム用PCの冷却アイテムとして,どれだけのものを持っているのだろうか。
 今回は,販売代理店のユーエーシーから製品を借用できたので,そのテスト結果をまとめてみたいと思う。


空冷よりも高い冷却性能を実現するペルチェ素子

……そもそもペルチェ素子とは?


 さて,ペルチェ素子と聞いても,4Gamer読者には「?」という人が多いと思われる。ペルチェ素子はどちらかというとPC自作系のキーワードなので,ゲーマー的には知らなくても全然問題ないが,せっかくの機会なので,簡単にまとめておこう。

本体サイズは95(W)×40(D)×160(H)mmで“大型製品にしては小さめ”。ただし,高さがあるので,横幅の狭いスリムなPCケースでは側面パネルと干渉する恐れもある。ファンは90mm/2000rpm(回転数は固定)が付属。写真でファンが用意されているのとは反対側に90mm角のファンを追加で取り付けることも可能だ
画像集#002のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
画像集#003のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 ペルチェ素子(Peltier device,ペルティエともいう)は,「2種類の異なる金属を接合して接合部に電流を流すと,片方の金属が発熱,もう片方が吸熱し,熱移動が起こる」現象,「ペルチェ効果」を利用したものだ。モーターなどの可動部が不必要,かつ小型化も可能ということで,小型冷蔵庫や,あるいは吸熱することで結露を意図的に生み出して除湿するカメラレンズ保管ケースなどによく利用されている。
 このペルチェ素子をモジュール形式にしたものを「TEC」(Thermo Electric Cooler,サーモエレクトリッククーラー)とも呼ぶが,一般的にペルチェ素子とTECは同義語だ。どちらの名称で呼んでも間違いではない。

 では,ペルチェ素子をCPUクーラーに利用するとどういうメリットがあるかだが,これはズバリ,空冷では実現しえない温度までCPUの温度を下げられることだ。
 空冷,つまりファンとヒートシンクによる冷却では,どんなに効率を上げても外気温(=室温)以下にはできないが,ペルチェ素子を使えば,吸熱側を外気温以下どころか,0℃以下にすら設定できる。

CPUクーラーに取り付けられたペルチェ素子は,50cm長の専用ケーブルでコントローラと接続。ファンのパルス出力コネクタも付属する
画像集#006のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 それなら,みんなペルチェを使えばいいのにと思うかもしれない。だが,ペルチェには二つの大きな弱点がある。一つは,吸熱側がマイナス温度に突入したり外気温より低くなったりすると,結露が発生して電子部品を電気的にショートさせてしまうこと。もう一つは,ペルチェ素子の発熱側が放出する熱が膨大で,処理が大変になることである。

 今回取り上げるMA-7131DXも,もちろんペルチェ素子の弱点は抱えている。しかし同製品の場合は,搭載するペルチェ素子コントローラが,温度センサーで温度を逐一チェックしながらペルチェ素子への供給電圧を制御することで,結露を防ぎ,ムダな発熱を抑えている。ひたすら過度な冷却を行うのではなく,現実的な範囲で熱量をコントロールしているというわけだ。

付属品一覧。左の5インチベイ用ボックスがペルチェ素子コントローラだ。フェイスは銀/黒の2色が付属する。対応CPUソケットはSocketT(=LGA775版Intel CPU),Socket AM2/939で,マザーボードの背面に固定するバックプレートを使い分けて固定する仕様
画像集#005のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

本体を下から見ると,放熱フィン部は二つなのが分かる
画像集#004のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 ペルチェ素子は金属のパネルに挟み込まれて装着されており,言われなければ気づかないだろう。
 ヒートパイプはペルチェの吸熱側と発熱側にそれぞれ取り付けられ,1個の大きなものに見える,カバーに覆われた放熱フィン部分も,よく見ると2ピース構成という,凝った構造だ。CPUの熱を最初にヒートパイプ&フィンである程度放熱し,残りをペルチェ素子で吸熱するので,(一般の大型CPUクーラー程度にまで)本体を小型化できたのだと思われる。


コントローラは基本的に自動運転で,ターゲット温度の変更などは行えない。二つのボタンはバックライト色と摂氏(℃)/華氏(F)の表示変更用
画像集#007のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載 画像集#008のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

コントローラ背面にはCPUクーラーとの接続コネクタと電源入力コネクタがある。また放熱用のスリットも見える。コントローラの内部は至ってシンプルで,MA-7131DXの電圧コントロールは5/50/100%の3段階
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(1)適切なバックプレートを取り付け,(2)グリスを塗った本体を載せ,(3)付属の手回しネジで固定するだけで装着できる。マザーボード背面にヒートシンクやコンデンサ,レギュレータがあったりすると取り付けられないので要注意
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ハイエンドとミドルハイクラス

二つのCPUで冷却能力を検証


今回は秋葉原のPCパーツショップ,高速電脳の協力でSI-128SEとRDL1225S(17SP)を入手した
画像集#019のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 MA-7131DXの実力に迫っていこう。まず,比較対象としてはIntelの製品ボックスに付属するリテールクーラーと,2007秋の時点で人気を集める空冷クーラーの一つである,Thermalright製の「SI-128SE」を用意した。MA-7131DXとSI-128SEの違いは表1に示したとおりだが,SI-128SEは標準でファンが用意されないため,別途XINRUILIAN製の120mm角ファン「RDL1225S(17SP)」(回転数1700rpm)を取り付けた。

画像集#021のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 また,MA-7131DXの用途を踏まえて,今回はTDP 130WのハイエンドCPU「Core 2 Extreme QX6850/3GHz」(以下,C2E QX6850)と,TDP 65Wのミドルハイクラスモデル「Core 2 Duo E6700/2.66GHz」(以下,C2D E6700)を用意し,省電力機能は無効にしている。このほかテスト環境は表2のとおりで,Cooler Master製のATXケース「Centurion 5」を,基本的に標準状態のまま用いている。つまり,回転数1800rpmの80mm角吸気用,同1200rpm/120mmの排気ファンが取り付けられた状態だ。ただし,側面のパッシブダクトが付いたままだと,MA-7131FXおよびSI-128SEが干渉してしまうため,両製品をテストするときは側板からパッシブダクトを取り外している。

画像集#022のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

画像集#017のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
VRDヒートシンクの丸で囲んだ部分に温度センサーを貼り付けた
画像集#018のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
天板部はこんな感じで温度センサーを貼り付けている
 計測に当たっては,Windows XPが起動してから30分放置した直後を「アイドル時」,「3DMark06 1.1.0」(以下3DMark06)のCPU Testのみを5回連続実行して,最もCPU温度の高いタイミングを「3DMark06実行時」とする。また,3DMark06の終了後10分間放置し,その後MP3エンコードソフトをベースとするCPUベンチマーク「午後べんち」の「耐久ベンチ10分間」を実行し,やはり最もCPU温度の高い状態を「午後べんち実行時」とした。

 スコアは,最も温度の高いCPUコアのものを採用することにし,「CoreTemp 0.95 beta」で計測。そのほかVRDヒートシンク,およびケース内部の中央天板近くに取り付けた温度センサーの温度も取得する。そのため,CPU温度は整数,ケース内温度は小数点以下1桁と,スコアは若干異なるので,あらかじめお断りしておきたい。計測時の室温は25.5〜26.0℃だ。


左はMA-7131DX,右はSI-128SEをケースに組み込んだ状態だ
画像集#014のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載 画像集#015のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載


CPUによって得意不得意がはっきり分かれる

低発熱のCPUと組み合わせるなら効果的


 まずはC2E X6850と組み合わせたときの結果から見ていこう。
 グラフ1はCPU温度だが,MA-7131DXのスコアはSI-128SEに大きく引き離され,かなりリテールクーラーに近い温度になってしまっている。とくに,3DMark06 CPU実行時や午後べんち実行時にはSI-128SEから20℃近い差が開いてしまっており,まるで勝負になっていない。

画像集#023のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 続いてグラフ2はVRDヒートシンク温度だが,MA-7131DXの場合,計測ポイントとなるVRDヒートシンクにCPUクーラーの風がほとんど当たらない。ある意味予想どおりの“頭一つ飛び出し”になったといえよう。

画像集#024のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 ケース内温度をまとめたのがグラフ3だ。ここではケース内の空気がどれだけ撹拌されているかを見ている。ここでもMA-7131DXはやや高い温度を示したが,これは試用した3製品中でMA-7131DXが搭載するファンの風量が最も少ないためと思われる。

画像集#025のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 続いては,C2D E6700と組み合わせたときの結果だ(グラフ4)。
 やはりCPU温度から見ていくが,グラフ1とは様相が異なり,アイドル状態でSI-128SEよりも5℃低く,高負荷時にもリテールクーラーよりも10℃近く低いスコアを出している。SI-128SEとほぼ同性能といえるだろう。

画像集#026のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 VRDヒートシンク温度は,C2E QX6850のテスト時よりも差が顕著となった(グラフ5)。これは,CPUの消費電力が下がるとVRDの発熱が下がるためだ。クーラーからのエアフローがVRDヒートシンクに当たるSI-128SEやリテールクーラーでは,当然のことながら,温度をさらに下げられるというわけである。

画像集#027のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 グラフ6は,グラフ3とほぼ同じ傾向を示している。CPUの発熱量が減った分だけケース内温度は全体的に下がっているものの,MA-7131DXのスコアがやや高くなっている点に変化はない。

画像集#028のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載


MA-7131DXの限界点


 グラフ1グラフ4の結果が大きく違うことを不思議に思う読者もいると思うが,実はこれは,テストする前からある程度予想されていた結果だ。なぜ予想できたのかというと,ペルチェ素子に秘密がある。

テスト用システム。テスト時は側板を閉じている
画像集#031のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 公開されているMA-7131DXの消費電力は50W。ペルチェ素子で吸熱した分はヒートシンクで排熱しなければならないのだが,そこにはペルチェ素子の消費電力も加算される。つまり,TDP 130WのCPUを冷却しようとすると,単純計算で“TDP 180W”相当の熱に対応できるだけの冷却機構が必要になるが,序盤で説明したように,MA-7131DXのヒートシンクはそこまで大きなものではない。さらにいえば,ファンもいわゆる静音タイプで,C2E QX6850を前にすると「排熱が追いつかない」状態となってしまう。

 またペルチェ素子そのもののパワーも,TDP 130Wクラスに対応するには非力だろう。せめて80〜90W級の大きなペルチェ素子を持ち込まないと劇的に冷やすのは難しい。もっとも,今度はそれに対応するだけの巨大な冷却機構が必要になるのだが。

 逆に,C2D E6700の場合を考えてみると,TDP 65W+50Wで110W。スコアを見る限り,MA-7131DXのヒートシンクでも十分排熱できる熱量といえそうだ。TDP 65WクラスのCPUであれば,ペルチェ素子を生かした最大限の冷却能力を発揮し,空冷のCPUクーラーよりも“冷やせる”というわけである。さらにTDPの低いCPUや,省電力機能が有効になったとき,過剰冷却になって結露が発生してしまうことのないようコントローラが制御している点は,MA-7131DXのメリットといえるだろう。


消費電力は予想どおりかなり高い

公称スペック以上は覚悟すべき


 最後に消費電力をそれぞれ見てみたい。
 まずグラフ7のC2E QX6850だが,アイドル状態ですでに対SI-128SEで約80W高い。高負荷時にはさらに広がり,3DMark06実行時に86W,午後ベンチ実行時に95Wもの差がついている。先ほど,MA-7131DXの消費電力は50Wという公称スペックをお伝えしたが,ペルチェ素子の消費電力が公称値よりも高いか,コントローラの効率が悪い/精度が低い可能性を指摘できそうだ。いずれにせよ,“130W+80W”なのだから,グラフ1のスコアは納得である。
 なお,高負荷時にリテールクーラーがSI-128SEよりも消費電力が高いのは,ファンが常時最高回転で回っているためだ。こうして並べてみると,リテールクーラーの消費電力が意外に高いことが分かる。

画像集#029のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載

 C2D E6700での消費電力も,かなり差が開いている(グラフ8)。SI-128SEと比べて,アイドル時に65W,3DMark06実行時に69W,午後べんち実行時に70Wだ。アイドル時の消費電力で見ると,“MA-7131DX+C2D E6700=C2E QX6850”となり,地球環境にはあまり優しくない。

画像集#030のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載


価格を考えると微妙

後継製品でのさらなる改良に期待


製品ボックス。ユーエーシーによると,2007年11月の第3次出荷で最後になるという
画像集#016のサムネイル/ペルチェ素子搭載CPUクーラー「MA-7131DX」のレビューを掲載
 まず述べておきたいのは,MA-7131DXをTDP 65Wを超えるCPUでは使わないほうがいいということだ。TDP 89WクラスのAthlon 64 X2などで試していないから,“限界点”については断じないが,筆者としては,65Wより高いTDPのCPUと組み合わせるなら,SI-128SEなど,ほかのCPUクーラーを勧めたい。

 「なら,TDP 65WのCPUに最適か?」と問われると,今度は消費電力が大きく足を引っ張るため,正直微妙だ。アイドル状態でSI-128SEを下回る点はさすがペルチェ素子と褒めたいところだが,高負荷になると差がなくなってしまうからである。
 メリットは,TDP 65W以下のCPUであれば確実な効果が見込めることと,SI-128SEなどの,冷却性能を重視した他社製のクーラーと比べて小型のため取り付けが容易で,さらにマザーボードもあまり選ばないこと。ただ残念ながら,この程度のメリットでは,1万3000円前後という実勢価格を納得させるのは少々厳しいと思われる。

 かなりアグレッシブで意欲的な製品だけに,今後さらなる改良を加えたモデルの登場を期待したい。
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