連載
「キネマ51」:第43回上映作品は「劇場版マジンガーZ/INFINITY」
グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が支配人を務める架空の映画館,「キネマ51」。この劇場では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
1年9か月の空白を破ってついに復活した第43回の上映作品は,あの永井 豪原作・ロボットアニメの原点が蘇った「劇場版マジンガーZ/INFINITY」。
「劇場版マジンガーZ/INFINITY」公式サイト
須田:
キネマ51,1年9か月ぶりですね! 僕の仕事が忙しいのと関根部長が忙しいのと……とにかく忙しくて!
大坪:
ということで部長代理見習いの大坪が参りました!
須田:
大坪さん,なかなか忙しい映画館ですがよろしくお願いします!
大坪:
さて,休館中も映画は観ていらっしゃったんですか?
須田:
観てますよ! でもまだ「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」は観れていなくて。
今年(収録は2017年)は「ブレードランナー2049」とか「トレインスポッティング2」とか,名作の続編みたいなのが多かったですよね。ちょっと前は若い人に見てもらうための「リブート」映画とかもやっていたけど,最近のは前作を見てないと分かんない。
大坪:
つまりお金を落とすのが,その辺をリアルタイムで見てきた世代である,我々おじさん達だけってことなんでしょうか。
須田:
そんな気もしますよね。あとTVドラマ「ツイン・ピークス The Return」も,シーズン1・2に加えて劇場版まで見ていないと何も分からないバリバリの続編。もう若い人達に観てもらおうというのを一斉に「やめようぜ!」ってブッたぎったみたいな。そういう世界的な機運を感じますね。
大坪:
過去作もNETFLIXとかでサクッと見れる時代っていうのも大きいかもしれません。
須田:
映画好きの小僧が大きくなって起業家になって大成功して,ビッグマネーが溢れているなかで好きな作品に投資しているのかもしれないですね。リンチファンが今回のドラマ版に出資したという経緯もあるみたいですし。
大坪:
さて,そんなこんなで復活一発目はリブート的なやつなんですけども。
昭和と平成のロボットアニメの邂逅
ということで連載再開一発目は「劇場版マジンガーZ/INFINITY」です!
Dr.ヘルから地球を守って10年,研究者となった兜 甲児の前に超巨大遺跡・インフィニティが現れ,時を同じくしてDr.ヘル達も復活を遂げ……というお話です。
須田:
マジンガーっていろいろあるじゃないですか。「マジンサーガ」とかもあるし,今川マジンガー(「真マジンガー 衝撃! Z編」)もある。どこからの続編なのか……永井 豪作品ってそれが分からないんですよね。
とりあえず今回は最初のアニメのキャラクター,Dr.ヘルとかあしゅら男爵とかを分かっていれば楽しめるって感じですね。
大坪:
支配人は最初のアニメ(1972〜1974)は観てました?
須田:
リアルタイムで観てましたね。僕らの世代は「東映まんがまつり」で映画「マジンガーZ対グレートマジンガー」「マジンガーZ対デビルマン」「マジンガーZ対ゲッターロボ」とかの夢の対決を見てましたからね。「対」って言いながら実際は戦わないんですけど(笑)。あ,マジンガ−Zとグレートマジンガーはちょっと戦ったけど,それも操られたとかで。
大坪:
すごいマッチメイクですよね。同じ作者だからだとはいえ,今だとそんな絡ませ方する作品なんてない。
須田:
ホントですよ! その辺の直撃世代なので,“映画で見るマジンガーZ”って特別なんです。なので今回も楽しみにしてたんですけど,劇場アニメとしてのド王道を貫いてて面白かったですね! 東映アニメのど真ん中で。今回は“家族”の話じゃないですか。
大坪:
キーワードはそこですよね。
須田:
兜 甲児ってすごくアニメキャラらしい“少年”じゃないですか。それが後半にかけてアニメキャラの象徴の兜 甲児から,人間・兜甲児としての自我を持つ瞬間がある。あそこがグッと来ますよね。あの辺の成長で感じ取れる部分が,他人事じゃないというか。
大坪:
兜 甲児と弓さやかって,本作では立場としては研究者に光子力研究所所長と成長してるんですけど,まだどこか少年・少女のにおいがあるじゃないですか。それに対してグレートマジンガーの剣 鉄也と炎ジュンのカップルの大人っぽさったら!
兜 甲児(CV:森久保祥太郎) |
弓さやか(CV:茅野愛衣) |
剣 鉄也(CV:関 俊彦) |
炎ジュン(CV:小清水亜美) |
須田:
あの2人は大人ですよね! ジュンなんかいきなり妊娠してますから(笑)。しかもあんな濃い顔のふたりが昭和の長屋みたいな家に住んでいたのがおかしかったですよね。ぜったい住むならタワーマンションでしょ!
大坪:
あの2人がオトナすぎるんですけど,兜 甲児の成長が描かれていますよね。そんなマジンガーZやグレートマジンガーを代表する面々に加えて,オリジナルキャラのリサが登場します。
巨大遺跡「インフィニティ」の鍵であるアンドロイド。正直,見た瞬間「綾波だ!」と思っちゃったんですけど(笑)。
須田:
髪の毛とかねえ。でもそれも“あえて”なんじゃないですか? ロボットものの原点であるマジンガーZと,綾波レイという平成を代表するロボットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のヒロイン。昭和と平成のロボットアニメの邂逅,みたいなものが感じ取れましたね。
大坪:
なるほど! そう考えるとこの物語のラストはいっそう感動的ですね。
勧善懲悪もメカも現代風にアップデート
大坪:
世界観にすごく現代っぽい要素が多かったですよね。光子力で豊かになった世界なんだけど,光子力研究所の周りに「光子力反対」のスローガン掲げてる人もいたりして。
須田:
そういう政治的な背景とか細かい描写もあって,監督さんも気を配っている。東映の職業監督の人は腕があるなあと思いましたね。それでDr.ヘルが「人間の弱点は多様性だ」って意外なところをついてくるじゃないですか。
大坪:
今回のDr.ヘル,面白かったですね。人類に対する提案とか「え,悪がそれ言っちゃうの?」みたいな感じで。
須田:
マジンガーZってもともと,勧善懲悪の代表みたいなもんじゃないですか。その悪の存在意義みたいなものを考えていくと,途中で世界征服って「本当に考えてんのか?」「それって面倒くさいだけじゃないのか?」とか思うところが出てきて,今作ではそういう過去のお互いの役割に対する疑問を投げかけている。
過去の物語にあった,この人達が戦う強引な理由を解消したうえで,当時とは違う理屈で戦い始める。そこが今の時代の作品だなって思いますね。
大坪:
頭でっかちにならない程度に理詰めな部分も楽しめましたね。
須田:
かと思えばボスボロットとか機械獣とか,全然現実的じゃないロボットが大暴れするんですよね(笑)。ボスボロットの活躍は絶対あるだろうなと思ってたら,しっかりあって。嬉しいんですよ。「なんだこの予定調和!」って(笑)。古めかしい笑いでいいんですよ。
大坪:
主人公のマジンガーZとかディティールとかリアル系に寄せてるのに,機械獣はバリバリの原色で,そもそもロボットだか怪獣だかわからないデザイン。
須田:
あの原色を使った毒々しさと,普通の頭じゃ出てこないデザイン,すごいですよね! その中でもガラダK7とかダブラスM2とか「スパロボ」の敵キャラで出てきているおかげで,ヤラれキャラではあるけどメジャー級の扱いでしたね,ほかの機械獣よりも。
大坪:
ロボットバトルものとしてはいかがでした?
須田:
正直もっとCG感があるかなと思っていたら,しっかりアニメーションしていて重厚でしたね。さすがにレベルが高いというか,ヌメヌメ動いて空中戦とか板野サーカスさながらで。あと,必殺技が惜しみなく出るのがいいですね。「ロケットパンチ!」「ブレストファイヤー!」って言えば何でも出ますからね(笑)。
大坪:
あとオリジナルロボットで「量産型マジンガー」みたいなのが出てましたね,イチナナ式。
須田:
あれも格好良かったですね! ガンダム系のデザインで。誰がデザインしたのかな……(パンフ見る)柳瀬さん(メカニックデザイン:柳瀬敬之氏)。あー,元フロム・ソフトウェアの人か! 「ガンダム00」とかもやっているんですね,00も大好きなんですよ。さすがいいデザインだな〜。
大坪:
支配人の好きな系統なんですね。
須田:
ええ。ただ今回,一つだけ残念なことがあって,僕は「グレンダイザー」が大好きなので,グレンダイザーが出てこなかったのはちょっとだけ残念だな〜って。
大坪:
扱いとしては別にされがちですよね。
須田:
なんでなんですかね?
大坪:
デューク・フリードは宇宙人だから,ここで宇宙から助けにきちゃうと話がデカくなりすぎるのかもしれません。
須田:
あと,グレンダイザーだと兜 甲児はザコキャラだったから,黒歴史なのかもしれない(笑)。でもいつか見たいんですよね,デューク・フリードが来るところ。フランスとかじゃ大人気だったんだから,世界向けコンテンツだと思うけどなあ。グレンダイザーの映画,僕が作りたいぐらいですよ!
オープンワールドで「バイオレンスジャック」を作りたい
大坪:
では最後にゲームの話をしたいんですけど,マジンガーZ自体はゲーム化されているものの,あまり印象がないというか……(1993年バンダイよりスーパーファミコン向けソフトとして発売)。永井 豪ものってスパロボシリーズのイメージがあまりにも強すぎて,これといってインパクトがある作品が浮かばないんですよね……。
デビルマンも1989年にナムコからファミコン用,2000年にバンダイからプレステ用と2回ゲーム化されているんですけど,影が薄い。
須田:
「凄ノ王」もありましたね。PCエンジンで(1989年ハドソンより発売)。あれは傑作でした! 原作が凄ノ王が発動して世界が崩壊するってところで未完で終わっているんですが,ゲームではその後の世界を作っているんですよ。
大坪:
でもこの映画を見たあとでオススメするなら……?
須田:
やっぱりスパロボになりますね。3月29日には最新作の「スーパーロボット大戦X」(PlayStation 4 / PlayStation Vita)も発売されますが,ここは発売済みの「スーパーロボット大戦V」(PlayStation 4 / PlayStation Vita)で!
大坪:
その心は?
須田:
「真マジンガー衝撃!Z編」や「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」が参戦しているんですよ。つまりマジンガーと綾波の組み合わせで,雰囲気的には劇場版マジンガーZ/INFINITYを味わえるんじゃないかなって。
大坪:
く,苦しい(笑)。
ちなみに支配人が永井 豪作品をゲーム化するなら,何を手がけてみたいですか?
須田:
うーん,一番好きなのは凄ノ王なんですけど,もう作られていますからね。そうなると「バイオレンスジャック」ですね!
グラスホッパーが開発した「LET IT DIE」って,僕の中ではバイオレンスジャックがベースなんですよ。そこからさらに原作に寄せて本気で作るなら,オープンワールドにしたいですよね,関東地獄地震の世界を。スラムキングと戦いたい!
大坪:
世界観的には日本版「Fall Out」になりそうですね。そうそう,バイオレンスジャックにもマジンガーZは出てきますよね。盲目の黒人空手家ジム・マジンガとして。
須田:
あれもすごいですよね! 巨大ロボットをどうにかして出そうという発想からして永井 豪先生はぶっ飛んでますよ!
でもゲームを作るとしたら,全部荒野だから作るのは意外と楽かもしれないです。建物もバラックみたいなアジトばっかりだから(笑)。でもバイオレンスジャックは日本版「アベンジャーズ」ですからね。作りたいなー!
「劇場版マジンガーZ/INFINITY」公式サイト
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