インタビュー
「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀×マフィア梶田×BRZRK対談――大ボリュームのインタビューから吉宗氏の人物象を掘り下げた前編をお届けしよう
萎む出版業界からプレイステーションという新たな波へ
BRZRK:
ようやくゲーム業界の話にたどり着きました! でも,家庭用ゲーム機なんですね。
吉宗氏:
はい。もともとファミコンやPCエンジンで遊べる,みんなでワイワイやれるゲームが好きでしたし。初代「ファミスタ」なんか,仲間内でセ・パ1チームずつ持って,年間でそれぞれ130試合をこなしてリーグ優勝を決めて,最後に日本シリーズをやったりして(笑)。ゲームは普通に遊んでいましたから。
マフィア梶田:
ゲームには慣れ親しんでいて,プレイステーションが爆発的なビジネスになると踏んだと。
吉宗氏:
当時の若い子はみんなそうでしたが,ゲームには可能性を感じていましたね。遊んでいて,こんなに楽しいものがあるんだなって。僕は秋葉原の近くに住んでいながら,若いころはパソコンに興味を一切持てませんでした。だからPCゲームに触れてこなかったこともあって,ゲームの原体験はゲーセンとファミコンなんですよ。「ドラクエ」で初めてRPGをやって感激して,I・II・IIIとすべてつながった時の衝撃とか感動はいまだに忘れられません。とくに「ドラクエIII」は感動しすぎて泣くこともできないほど衝撃を受ました。「えっ!? こうつながるんだ!!」って。
BRZRK:
確かにドラクエの時系列のつなげ方には衝撃を受けました。
吉宗氏:
ひよこの刷り込みじゃないけど,RPGは「ドラクエ」が初体験かつ,衝撃的だったので,自分的にはあれを超えるタイトルが今のところないんですよ。梶田さんとBRZRKさんなら分かると思いますが,3部構成で,2周目でやっと第1部の真の意味が分かる感動って,「マブラヴ」そのものですよね。「エクストラ編」「UNLIMITED編」「オルタネイティヴ編」を一通りプレイしてからエクストラをやると,王道てんこ盛りのお約束シチュエーシションのすべてに,オルタとの因果があることが分かる。あの構造こそドラクエの感動の再現なんです。
BRZRK:
そう言われると,「マブラヴ」の物語の構造がすごく納得できます!
吉宗氏:
しかも「ドラクエ」は父と子の話が底辺にあるのがツボです。僕の実家は伝統芸能の家元だったんです。長唄と三味線の……分かりやすく言うと,歌舞伎のバックで流れる歌と音楽みたいなやつです。祖父が初代で僕は3代目。中学までやっていましたが嫌々でしたので,跡は継がなかった。2代目の父が亡くなったのが高2の時で,一番反発していた時期です。でも年齢を重ねるたびに跡を継げばよかったとか,父ともっと話しておけばよかったとか,後悔するようになって。まあそういう過去の反動なんでしょうね。何か物を作って発信したりする欲求があるのは。シリーズの起点となる「ドラクエIII」は,その意味でドストライク過ぎてヤバいんですよ。
マフィア梶田:
「ドラクエIII」は,亡き父親の意志を継ぐ話ですし。それが吉宗さんの物作りの原点に?
原点というか,僕は最初,絵から入っていますね。小学生の頃は漫画家になろうと思って,本を読んで勉強したり,原稿を描いていました。
マフィア梶田:
へえ,そんな時期もあったんですか。
吉宗氏:
完成原稿はほとんどないですが,ネームとコンテはたくさん切ったんです。それがあったから今,物語やキャラクターが作れるんだと思います。
BRZRK:
「マブラヴ」にたどり着くまでの経験が,全部ちゃんと活きているんですね。
吉宗氏:
いろいろ寄り道して来ましたけど,振り返ってみると結局1つも無駄になってませんね。
マフィア梶田:
話は若干戻りますけど,吉宗さんが出版の次に嗅ぎつけたバブルがコンシューマゲーム業界だったじゃないですか。結局,そちらには行かれたんですか?
吉宗氏:
あの頃の出版業界は本当にもうイケイケでやばかった。バイトの年収が,今のサラリーマン平均年収を軽く超えていますから。電車がなくなる夜の原稿取りとか,バイトがタク伝(タクシーチケットで,現金の代わりに支払いができるチケット)を使いまくるんですよ?(笑)
BRZRK:
マジで羨ましい話ですね,それ。経験したことないですよ(笑)。
吉宗氏:
今の感覚じゃおかしいでしょ? でも,それが当たり前な時代だったんですよ。でも,そこの看板漫画雑誌の売上が頭打ちになってきたり,広告収入が減り始めたりで,これはヤバイなと感じ始めたころ,プレステの「リッジレーサー」のデモを見て,じゃあ次はゲーム業界だ,と。
マフィア梶田:
ほうほう。
吉宗氏:
それでまずゲーム会社の初任給を調べて,出版社収入の3分の1で生活できるよういろいろ身辺整理をしたんです。車を売ったり,ローンを貯金で埋めたりしてたら当時の彼女が「なに結婚資金を切り崩してんだ」って激怒して別れたり。結婚資金なんて一度も言ってないのに(笑)。
BRZRK:
いやあ,でも相手からすると有名大企業を棄てて,なんでゲーム会社に?ってのはあったでしょうねぇ……。
吉宗氏:
でしょうね(笑)。で,そこから1年かけて,オタクへのリハビリを始めました。「電撃コミックガオ!」など当時の「今風」の雑誌とかを買いまくって,絵や漫画,小説,企画書を描き溜めて,就職作品をそろえました。スクウェア(現スクウェア・エニックス)さんやタムソフトさん,姫屋さんなど,求人雑誌見て手当たり次第応募しましたね。
マフィア梶田:
グラフィッカーとしてですか?
吉宗氏:
はい。小説や企画書も準備しましたが,そっちは素人レベルです。でも絵は昔から描いたので,グラフィッカーとしてアピールしつつ,文章や企画書もやれますという,こざかしいアピール策です(笑)。実際,マブラヴのメカや戦術機は,ほとんど僕がデザインしたものですし,ほかにもキャラのベースデザインもやっています。それに,「オルタ」に登場するオッサンの絵はだいたい僕がやっています。
BRZRK:
え,佐渡ヶ島ハイヴ攻略戦で出てくる渋い艦長とかですか?
吉宗氏:
ウォーケンから門兵,MPなんかも。メインキャラを担当したBouさんは完璧でしたが,サブキャラ担当の社内絵描きがオッサンは不得意だったので仕方なく担当しています。可愛い女の子ばっかり描いてる人って,オッサンがオカマっぽくなる傾向が出る場合がありますから。
マフィア梶田:
最初からプロデュース業で入ろうとしたわけではなくて,絵からなんですね。それに,プレステでコンシューマ業界のバブルを嗅ぎ取ったのに,エロゲー業界も視野に入れていたのは驚きました。
吉宗氏:
フロム・エーに掲載されていたので。
BRZRK:
求人情報誌のフロム・エーですか?
吉宗氏:
はい。普通にゲーム業界の求人がたくさん掲載されていましたから。
マフィア梶田:
はぁぁぁ。
吉宗氏:
あのね,(スマホを持ち上げながら)当時はこんなSFガジェットないですから。バイトはすべて求人雑誌で見つけるのが普通だったんですよ(笑)。
マフィア梶田:
SFガジェット(笑)。
吉宗氏:
いやいやいや! スマホはマジSFですよ? 未来でしょ,これは。ニアドラえもんですよ,すでに(笑)。
BRZRK:
そう言えば,昔はフロム・エーとFrom A to Z ってありましたね。
吉宗氏:
「カーカキンキンカーキンキン」つって火星人が……。
BRZRK:
「バイト探しは週2回」でしたよね。
吉宗氏:
知ってるねぇー!(笑)
マフィア梶田:
まったくもって俺が通ってこなかった道ですねぇ……。
BRZRK:
マジで? そのギャップがショックなんだけど!
吉宗氏:
だからさー,梶田さんおかしいんだよ。見た目僕より年上っぽいのに(笑)。
マフィア梶田:
そもそもバイト情報誌を読んだことがないですし。
BRZRK:
じゃあ,いまでこそSNSがあるけど,昔は文通相手を探すためだけの本が売られていたのは知ってる?
吉宗氏:
BRZRKさん,その歳でなんでそんなこと知ってんの(笑)。ていうかそこに食いつく(笑)?
マフィア梶田:
手に取ったことすらないですよ(笑)。
BRZRK:
「じゃマール」って雑誌があって,どんな人が応募しているのか見るのがすごく好きで買ってた時期があるんですよ。
吉宗氏:
うわ,BRZRKさん暗っ!(笑)
マフィア梶田:
俺,物心付いたときからパソコンで通信してましたし。
吉宗氏:
ですよね。まあ僕らの時代は求人誌がすべてでしたから(笑)。当時は「プレステで一儲けするぞ!」っていう会社が,人材補強でかなり募集を出していた時期でした。
マフィア梶田:
なるほど。それで,どこかの会社に引っかかったと。
吉宗氏:
PANDORA BOXさんに拾っていただきました。「ラストハルマゲドン」や「BURAI」で有名な業界の風雲児,飯島健男さん(参考記事)の会社です。グラフィッカーでしたが,中途採用なので試用期間3か月はアルバイト扱いでした。まあ,フロム・エーですから矛盾はないです(笑)。
BRZRK:
河内家菊水丸さんの歌ですもんね。
吉宗氏:
ホントよく知ってるなあ……(笑)。で,そこで出会ったのが,ここ(アージュのブランド運営会社ACID)の創業メンバーなんです。
マフィア梶田:
PANDORA BOXから,メンバーができあがっていたんですね。メンバーはどんな方々ですか?
吉宗氏:
今はもう独立していますが,「化石の歌」や「螺旋回廊」など,数多くの原画を担当した南風麗魔は,一次面接で周囲の反対を押し切って僕を通してくれた恩人です。「藤丸地獄変」チームでキャラデザインをやっていましたが,バイトのくせにあれこれ面倒くさい僕の言動にあきれたのか,後に「吉田さんを面接で通したこと,すごく後悔している」と言っていました(笑)。
「君が望む永遠」で原画とキャラクターデザインを担当したバカ王子ペルシャは大阪芸大の新卒で,信じられないと思いますが3Dグラフィッカーでした。今は寡黙で温厚な上司として社内で慕われている彼ですが,当時は氷のように冷酷でかなりとんがっていて(笑)。不条理系の笑いツボという部分でウマが合うので,よくつるんでメシに行ったり,サバゲをやったりしていましたね。
同じく、「君のぞ」を始め,数多くのシナリオとスクリプト演出を担当している鬼畜人タムーはサウンド班にいました。物腰は柔らかいのに意志や主張ははっきりしていて,社内企画コンペではかなり説得力のある文章を書いたり,プレゼンもうまかったので一目置いていて。僕らが独立して1年後に声をかけて合流してもらいました。
プログラマーのスピンドリルは,マブラヴでも使っている弊社独自の総合演出システム「AGES」をゼロから組み上げた天才です。トライエースの五反田義治さんの弟なんですけど,彼は当時,高校を卒業したてだったんですよ。
マフィア梶田:
え?
BRZRK:
えええ?
マフィア梶田:
それはもう唾を付けていたということですか?
吉宗氏:
いや,そのときは島向こう(別部署の意)からいつも「DB!DB!」(データベースの略称)って声だけ聞こえていて,「なんだよDBって」とゲラゲラ笑ってました。話したこともないのにDBってアダ名で。まさか,そいつと一緒に会社をやるとは思いませんでした(笑)。
マフィア梶田:
人の縁って,本当にどうなるか分からないものですよねぇ。PANDORA BOXに入って何年目くらいで独立したんですか?
吉宗氏:
3年から,3年半くらいですかね。PANDORAさんで最後に関わったのが「蒼天の白き神の座 GREAT PEAK」というヒマラヤ登山を真面目にシミュレートしたゲームでした。創業メンバーは全員参加していました。彼らが類い希なすごいクリエーターなんだってことはその修羅場的な製作過程で完全に理解していましたね。ただ,その頃コンシューマ業界はプレステ1の末期で,すでにバブルははじけ気味。10万本で大ヒットとかいう時代で,ソニーさんでも昔のような尖った企画が通らなくなっていたんです。体力ゲージのほかに,大脳ダメージのゲージがあって,攻撃を受けすぎるとキャラがパンチドランカーになる格ゲー企画とか,「マブラヴ」の設定の元になったSFパワードスーツもの企画とかがあったんですが……まあ,そういう時代じゃなくても通らないですよね(笑)。
マフィア梶田:
格ゲーのキャラがパンチドランカー(笑)。
吉宗氏:
自分のやりたいことをやるなら,他人様のお金をあてにするのは無理ですし,そろそろ次のバブルを探すかということで,退職の準備がてら,創業メンバーにいろいろ相談を重ねました。
そのうち「せっかくこんな連中が揃ってるんだから,つぶしが利くうちに創業しない?」という流れになって。退職後はコンシューマ業界の方々からいろいろありがたいお誘いをいただきましたが,スピンドリルが理路整然と唱えた「我々の勝算におけるエロゲー業界の優位性」に感銘を受けて,エロゲーに軸足を定めました。
マフィア梶田:
結局、ゲーム業界は離れなかったんですね。
いやあ,最初は次のバブルを求めてプロバイダ業界に再就職する気満々で,創業なんて1ミリも考えていませんでした。けれど,いろいろやってみて,やっぱりオタク系創作が好きなんだと自覚したことが大きいでしょうね。条件的にはCARNELIANの参加や,表現の自由度や総合的に関われることが大きかったと思います。
マフィア梶田:
総合的にとはどういうことでしょうか。
吉宗氏:
エロゲーの場合,コンシューマ作品の制作と違い,シナリオやグラフィックスデザイン,音声収録や音作りといった現場制作だけでなく,広報や営業,販促,ショップアウトなど創作物のすべてに関わることで,創作物のすべてに責任が負えるんです。ある意味,原作漫画家やシンガー・ソングライターと同じです。
それって僕ら世代のオタクにとっての魅力なんですよ。僕ら世代の若い頃って,自分発信の「ガンダム」みたいなアニメを作りたいって願望をみんなどこかで抱いてたんです。でも現実にはほとんど叶いません。
でも,エロゲーならできる。一時の日活ロマンポルノと同じで,エロが入っていれば好きなことができる若手監督の登竜門的な位置づけです。しかも毎週見続けてもらって円盤を買ってもらわなきゃいけないアニメと違い,エロゲーはラストまでをパッケージしたスタンドアローンの状態でお客さんに渡せる。この差はでかいですよ。「マブラヴ」と「オルタ」って,ライトノベルだと40冊以上のテキスト量がありますし。
BRZRK:
限界はあるでしょうけど,時間の尺も長さも気にせず,1本に詰め込んで届けられるのは強みですね。
吉宗氏:
創作物を作り手だけで完結させて世に送り出せるというのは,すごく魅力的でしたね。当時,僕はエロゲーをまったくやっていなかったので,最初は全然ピンと来なかったんですけど(笑)。
マフィア梶田:
周りの人から教えてもらったんですか?
吉宗氏:
「人類の基礎教養『To Heart』ッ! マルチッ!」って。スピンドリルが(笑)。
マフィア梶田:
(笑)。でもスピンドリルさんって,天才なんですよね。
吉宗氏:
そりゃもう(笑)。高校生のときにあの「AGES」の基本設計をしているぐらいですから。
マフィア梶田:
本当にスゲェなあ……。
吉宗氏:
GREATPEAKを作ったときも,ゲーム内にWindows(のようなGUI)を再現して,SCEさんから「訴えられるからこの機能を外してくれ」って。それくらい天才(笑)。
マフィア梶田:
映画に出てくるスーパーナードみたいだな……。
吉宗氏:
IT業界の大物の方々に「AGES」を見ていただいた際,「この人はなんで日本にいるの? シリコンバレーにいるべきだ」と言われることが多かったです。
BRZRK:
もうなんか,スゲェとしか言えないっす。
マフィア梶田:
そうして,話はついにエロゲー業界に。
吉宗氏:
創業当初は固定費を抑えるため,茨城県の磯原という街に引っ込んで,集団生活をしながら作っていました。でも,半年経った頃から原因不明の細かい仲違いが積み重なってきて,精神的な限界が近いなと感じました。ありがたいことに,独立前からSCEの偉い人からお話をいただいていたので,ここが潮時と中野富士見町に引っ越して,中野坂上の開発室に通って「マジカルダイスキッズ」,オフィスで自社の「化石の歌」と「君がいた季節」,OEMの「螺旋回廊」と「D 〜その景色の向こう側〜」も進めるという,二足のわらじ状態を続けました。
マフィア梶田:
それ,もう修羅場ですよね。
吉宗氏:
本当にトラブル続きで,いま思い出しても良くやれたなーって思えるほどの修羅場のコンボでしたね(笑)。「君がいた季節」は,メインシナリオライターが,講師をしていた専門学校の生徒に書かせたものを納品して逃げるし。
マフィア梶田:
うへぇ。
吉宗氏:
「化石の歌」もひどかった。名も実績もあるエロゲーシナリオライターにお願いしていたので安心していたら,納品後の検品で話がつながってないことが判明して。それに気が付いたのが12月16日。で,マスターアップが1月8日(笑)。
BRZRK:
え,1か月切ってますよね。
吉宗氏:
社内会議で対策を検討して,「よし,シナリオは全リテ(リテイク)ね!」と。鬼畜人タムーと僕,外注ライターさんにもお手伝いいただいて,全部書き直しました(笑)。
マフィア梶田:
ええ,その短期間でですか?
吉宗氏:
物理的に未完成なうえ,内容も面白くなかったので。そんなものを出すわけにはいかないじゃないですか。エロゲーに参入するとき「(クオリティレベルなど)コンシューマ根性は一切棄てろ」と言っていたスピンドリルまで賛成してました(笑)。たぶんねぇ,いま思うとここからもうアージュの採算度外視体質が始まったんですよ。クオリティの自己基準を絶対に捨てられないという病(笑)。
マフィア梶田:
ファーーーーーッ!
吉宗氏:
結局,12日か14日くらいまで延びましたけど,何とかマスターアップしました。物理的にそれ以上は延ばせなかったんです。その時期は2週間おきにマスターアップしなくちゃいけない鬼スケジュールだったので(笑)。
BRZRK:
は?
吉宗氏:
「化石の歌」「君がいた季節」「マジカルダイスキッズ」「螺旋回廊」「D 〜その景色の向こう側〜」が。
BRZRK:
コンシューマも含めた5本が,2週間おきにマスターですか?
吉宗氏:
ええ,その中で「化石の歌」のシナリオ全リテイクです。
マフィア梶田:
何をどうすれば乗り越えられるのか,全然分からないんですが!
吉宗氏:
僕もね,よく覚えていないんですよ。とにかく1日1時間しか寝ない日が1か月以上続いて,服が触れても皮膚が痒くなる謎の症状が慢性化していました。創業メンバーは僕より若いとはいえ,やっぱり相当ヤバかったと思います。
マフィア梶田:
いやいや,酷い状態じゃないですかそれ。
吉宗氏:
そういう修羅場ですから内部でもいろいろ起こるんです。年末の陣中見舞いとして,南風麗魔のお母様がおせち料理をいっぱい送ってくれたんですよ。中でもヒラメとタイの昆布締めがほんとうまそうで。「年が明けたら皆で分けて食べようね」と冷蔵庫に入れておいたんです。で,徹夜してて気づいたら新年になっていたので,皆で意気揚々と冷蔵庫を開けたらタイの昆布締めだけがキレイに無くなってて。
マフィア梶田:
おっと?
吉宗氏:
ただでさえ気が立っているもんだからガチギレしながら「タイだけ喰ったの誰だぁぁぁ!」って怒鳴ったら,スピンドリルがしれっと「んっ,僕が食べましたっ」って。で,「お前さぁ,なんでタイだけ喰ってんだよ!?」って聞いたら「タイのほうが美味しいからです。ヒョイパクッ,ヒョイパクッ」と。あんときはマジで消そうかと思いましたわ(笑)。
マフィア梶田:
スピンドリルさん……お,面白れぇ(笑)。
吉宗氏:
「おまえは皆で分けようとかそういう気持ちは無いのか!?」って聞いたら,「ん〜〜。ありません」って,きっぱり。
マフィア梶田:
超天才じゃないですか(笑)。
吉宗氏:
まあ超天才なので仕方ないです(笑)。その反動もあって「化石の歌」のマスター上がった時,モチベーション上げるために松阪牛をひとりあたり500グラム買ってきてステーキにして喰ったんです。一口めで全員「――んまああぃぃ!!!!!」と大感動。で,2口めを食べたらみんなの動きが止まって「気持ち悪い……」って蒼ざめて。全員徹夜続きで胃がやられてて,もう脂がダメ(笑)。松阪牛はすべてサイコロに切ってスープにして,脂を出しきってて食べました。
BRZRK:
もったいねぇ! てか,松阪牛の意味ねェ!(笑)
マフィア梶田:
どんな開発残酷物語っすか……。
吉宗氏:
そこまでして拘って作ったものが,どれも1万そこそこ(の販売本数)だったので愕然としましたね。その中で一番話題になったのがWillさんから発売した「螺旋回廊」でした。このデータはのちの方針に大きく影響ましたね。
「螺旋回廊」はいわゆる陵辱系抜きゲーなんですが、ウチが作るなら「パソコン点けたら5分で……」的な業界セオリーはやめようと。萌えゲーがごとく,きっちりキャラに萌えさせてから,そいつがとんでもない目にあうのを見ていることしかできない,ネトリ系の新境地を作ってやろうと。だからゲーム内にインターネットのブラウザを作って,その中の裏サイトにヒロイン達の映像が次々にアップされていくという構造にしたんです。
マフィア梶田:
話題になったんですか?
吉宗氏:
おかげさまでかなり。当時はインターネットが一般に認知されて爆破的に広がった時期で,企画の発案はバカ王子なんです。彼が某巨大掲示板のエロ板などを見て「なんで知らない人達と,こんなマニアックで濃厚なエロ話ができるのか分からない。すごく気持ち悪い」と言ったのが始まりです。
このころは新しいメディアであるインターネットでも,裏サイトや殺人ビデオなどの都市伝説が生まれつつある時期でした。そのニュアンスを対比させる意味で、スクエアという山小屋の都市伝説(※)をアレンジしたローシュタインの回廊というオリジナル都市伝説を主人公の背景に混ぜ込み,インターネットの都市伝説的な怖さを強調させました。
※雪山で5人パーティのうちひとりが死亡し,吹雪の中たどり着いた明かりのない山小屋で,寝ないようにするため,部屋の角に生存者の4人が移動し,一人ずつ壁に沿って移動して,行き当たった角で肩を叩かれた人が次の角まで移動する。これを繰り返したおかげで生存者は眠らずに無事下山するが,後に人数的には不可能だということに気付き恐怖するといった内容。
マフィア梶田:
アージュの名前が広まるきっかけになったのが「螺旋回廊」だったんですか?
吉宗氏:
「螺旋回廊」で確かにファンは増えましたね。抜きゲーかと思ったらきちんとストーリーとキャラ立てがあって,というギャップに驚いたという感想が多かったです。「君が望む永遠」や「マブラヴ」など,僕らが作るものは基本的に同じで,既定路線のアンチをその既定路線をきっちり踏まえてやる,というものです。テーマ的には「プレイヤーの心をスプーンでえぐることで,印象を残そう」という(笑)。
BRZRK:
尖ってないものを無理矢理差し込んで,ざくっとえぐる……。
マフィア梶田:
その手法が話題になっているのを見て,イケると踏んだわけですよね?
吉宗氏:
創業時に「3年で成功しなければ廃業しよう」と決めていたんです。で,その時期から作り始める新作が3年目に市場に出る。なので,そこからは僕のやり方でやらせてもらえないかと相談しました。それまではCARNELIANやスピンドリルなど,エロゲーに精通しているメンバーの意見を重視しながら,その時々で自分達なりに納得のいくものを作ってきました。ですがそれで1万そこそこ。
でも,同じやり方で作った「螺旋回廊」は売れた。やはり良いものを作れば売れるのではなく,良いものをどう売るかが大事なんだという広告代理店当時に教わったことと同じなんだと気づきました。エロゲーの経験がないことで,「これは特別なものにちがいない」という勝手な決めつけをして,思考停止していたんだとはっきり自覚したわけです。
BRZRK:
なるほど。ここでかつての経験が活きた,と。
吉宗氏:
Leafさんや,のちのKeyさんを始め,アリスさん,姫家さんといった列強が上位を占有しているエロゲー業界で,後発の僕らがどう戦って生き残るかを考えました。そういう時は歴史を紐解くとヒントがある。列強が決めたルールで負けているわけですから,ルールを守りながらそれをアレンジした違う土俵で戦っていくしかない。正に日本の近代史です(笑)。
BRZRK:
なるほど。吉宗さんっぽい(笑)。
吉宗氏:
なので,既存タイトルを包括するファンディスク「アージュマニアックス 〜伊隅四姉妹最期の日〜」をリリースして,ユーザーさんの反応データを実測することにしました。
マフィア梶田:
ほうほう。
自社タイトル以外に他社も含め,原画家の違うキャラが大量に登場するアホみたいなソフトなんです。とにかく内容が悪ふざけのみ。自分達の常識を覆す意味で,テーマは超常現象にしたんです。例えばギャラリーモードでCGを見てみると,その場にいなかったキャラの顔が映っていたり,同梱の主題歌CDに女性のうめき声を入れてみたりとか(笑)。
販促でも「5大超常現象を探せ!」というプレゼントキャンペーンもやりましたし,シナリオでも他社作品を容赦なくいじり倒しました。もともと声がない他社のキャラに音声を付けたり,真面目な内容をパロったり。そして最後には,感動を台無しにする超展開でロボが出てきて,ゴッドマーズの合体シーンまんまのスキップができない演出を延々見せるなどしました。
BRZRK:
あはは,滅茶苦茶じゃないですか(笑)。
吉宗氏:
エロゲーの既存ユーザーが先入観と違うものを見せられたときに,どこまでなら怒って,どこまでなら怒らないというラインを探るためのロケテストですから,極端にやらなきゃ意味がないんですよ。もともとパロディが多いファンディスクならシャレで済みますが,内心ドキドキでした(笑)。
BRZRK:
あ,合体シーンは「マブラヴ オルタネイティヴ」の“あ号戦”の最後の演出で活きているんですね?
吉宗氏:
そうです。「君が望む永遠」や「マブラヴ」での演出はすべて,そこで集めたデータを活かされています。
マフィア梶田:
あー,なるほど。
吉宗氏:
売り方でも当時エロゲー業界の他社さんがまったくやっていなかったことをやりました。
各雑誌にキャラごとのショートエピソードを連載したり,公式サイトにショートストーリーを掲載し続けたり,発売前のコミケで同人誌判型の冊子を無料配布して行列にコミットしてもらうとか,それを主題歌担当のメインヒロイン声優にコスプレでやってもらうとか,ブースでライヴやっちゃうとか。大規模体験版を作って,阿漕な引きにするとか(笑)。
BRZRK:
あー……君望のアレですね。
マフィア梶田:
やっぱり,これも広告時代の経験が活きたということですか。
吉宗氏:
はい。僕のオリジナルはひとつもありません。他業界では当たり前にやっていることを持って来ただけです。
マフィア梶田:
初めてその広告手法を取り入れた作品というのは?
吉宗氏:
「君が望む永遠」ですね。このタイトルは「マブラヴ」と一対で,同じテーマをマクロとミクロの視点で描いたものです。だから世界観も学園一緒で,制服も夏服と冬服になってます。
マフィア梶田:
「君が望む永遠」の段階から「マブラヴ」の構想がすでにあったということですか。
吉宗氏:
企画は同時です。「マブラヴ」が決まるまで紆余曲折ありましたが。
BRZRK:
紆余曲折?
吉宗氏:
最初は同じ学園モノで重い「君が望む永遠」と,軽くて脳天気な「アージュ学園(仮)」のワンセットにしようかと。Keyさん寄りの作品と,Leafさん寄りの作品という感じですかね(笑)。
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- ライター:マフィア梶田
- ライター:BRZRK
- インタビュー
- カメラマン:佐々木秀二
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