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グラフィックスの最先端「SIGGRAPH Asia 2009」開幕,開発者が語る日本のゲーム開発の課題とは
12月17日に行われた日本のゲーム開発系のセッションを中心にイベントの模様を紹介してみたい。イベントは,展示会とアートシアター,フィルムシアター,講演といった構成で行われていたのだが,まずは,展示会の部分で目についたものをいくつか拾ってみたい。
PowerVRのタイルアーキテクチャは,消費電力が低く,少ないリソースで高性能が発揮できる方式として知られていたのだが,それも第5世代に進化しており,プログラマブルシェーダなどにも対応している。ちなみに,Dreamcastに搭載されていたのは第2世代だ。最近では,IPコアとして各種デバイスに組み込まれており,DOCOMO系の携帯電話のほとんどで採用されているほか,mWあたりの性能が高いので携帯電話を中心に広く採用されている。
PC用デバイスとしては,すでに忘れられて久しいのだが,会場にはノートPCの展示もあった。確かに最近では,IntelのAtom用チップセット(Atom Zシリーズ用)にもグラフィックス用コアとしてIPが採用されている。話を聞いてみると,Intel製のドライバではコアの性能がまったく発揮できていないという。ドライバ関係の最適化で「数十倍は速くなる」とのこと。
ZシリーズのAtom PCでは,動画を再生するとWindowsごと落ちるといったこともあったようだが,実際にはPowerVRコアの中にはビデオ用のデコーダハードウェアが入っていてH.264などを10ストリームくらい同時に再生できるようにはなっているらしい。
なお,第5世代製品のハイエンドは,並列化の方向でパフォーマンスを上げているという。元々,領域を分割してのレンダリングを繰り返すという,非常に並列化に適したアーキテクチャなので,タイルで画素数分が埋まるだけ並列化すれば最強ではないのかというのは昔からいわれていたことなのだが,それに近い方向性にはなってきたわけだ。現在は16GPUをまとめた製品が出荷されているが,これで現状のPC用デバイス並の性能が発揮できているという。
ニューサイトのPrint-Your3Dは,普通のカラープリンタで16視野角のデータ画像を印刷し,レンチキュラーレンズ式のフォトフレームに入れることで,手軽かつ低価格に立体を楽しめるようにするというもの。光学上,かなり精密な仕掛けであり,レンチキュラーのカマボコ状凸凹と写真のデータをうまく一致させる必要があるわけだが,実際に合わせてみて調整すればなんとかなるものらしい。実に素晴らしいと思う(個人的に)。ニューサイトでは,1万円台で立体カメラもセットにした商品を企画中とのこと。現状では価格,発売日などは未定で,ゲームになんの関係もないのだが楽しみな商品である(個人的に)。
映し出される模様も,さまざまなカラーリングであったり,デバイスの側面に背景が添えられて,走っている場面であったり,その映り込みが車体に反映されていたりと非常にリアル。クレイモデルに触れると,一部透明化したりといったギミックも用意されていた。
映像はクルマの形状ごとに精密に事前計算しておき,クレイモデルを台に乗せる位置も精密に微調整が必要というものの,実現される効果は非常にリアル。ゲームに応用できるかというと微妙なのだが,面白い試みだ。
まず,コーエーテクモホールディングス代表取締役社長/CESA副会長,技術委員会委員長の松原健二氏が冒頭の挨拶に立ち,日本のゲーム開発現場の問題点を挙げた。曰く,以前は日本のゲームは日本の市場を見て作られていたが,変革の時期にきているとのこと。
現在では欧米と日本のゲーム市場は7:1の比となっており,Xbox 360+PlayStation 3という高性能機市場については,9:1と,世界市場の中心が欧米に移っていること,そして昨年の売上ランキングを例に,日米ではゲームの嗜好がまったく異なることなどを挙げた。日本市場だけを見てゲームを作る時代ではなくなってきているのだ。日本用に作って,ローカライズしていたのでは,海外産のタイトルに太刀打ちができない。
そういった問題点を挙げつつ,CESAでの開発支援などの取り組みを紹介していた。
続いて,各社の開発者が実際の開発現場での取り組みを語っていった。強引にまとめると,制限のあるハードでどのように表現するかや,最近の映像表現についてや,とくにリアル方向でない映像表現についての話題が多かったように思われる。海外でフォトリアルが好まれるとしても,日本の開発者は,新しい技術をフォトリアル方向ではなくて,ゲーム性などに向けたがる傾向が強いとの意見もあり,また非リアル系のアーティスティックな表現もハードウェアの進化によって可能になってきたので,そちらの追求も広がってくるだろうとする声もあった。
まず時代を代表するゲーム機を挙げ,ファミコン時代の「高価な玩具」からPlayStation時代の「家電化」を経て,PlayStation 2が出てくるとゲーム開発でもソフトウェア工学が意識されはじめ,PlayStation 3世代ではコンピュータサイエンスが要求されるようになってきていると語る。
今後のゲームに求められるものとしては,Believability(もっともらしさ),Productivity(生産性),Scalability(柔軟性/拡張性)の3種類を挙げる。「最近のゲームはリアルすぎる」という声には,「なんの冗談だろう」と首を傾げる。いつか見た感動といったものを表現するにはまだまだ力不足で,映画や音楽と比べても改善の余地があるという。そういった「もっともらしさ」についての研究は現在進行中で,現時点では具体例は挙げられないものの,近いうちに発表できるかもとのことなので,ちょっと期待しておきたい。
最後の柔軟性については,メニーコア時代になって要求されるものも変わってきており,フォルトトレラントな技術やデータの並列化ではなくタスクの並列化への研究が必要としている。これについては,すでにHPECなどでCell Broadband EngineでのSolverを扱った論文が発表されているという。なんでも,処理中にコアが1個死んだときにどうやって破綻なく処理を進めるかという技術らしい。
最後に,ゲーム開発はまだフロンティアであること,開発者にとっても,研究者にとっても,プレイヤーにとっても可能性が広がっていると語った。いろいろな才能を集めてコラボレートする場としてSIGGRAPHにも期待しているようだ。
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