連載
奥谷海人のAccess Accepted / 第199回:不正コピーとの戦い
「SPORE」のヒットとともに,話題になった「SecuROM」。これは不正コピーをプロテクトする製品の一つなのだが,アメリカでは消費者の権利を侵害していると主張する人が多い。今回はSecuROMに代表されるコピープロテクト製品に目を向けて,そこから欧米のゲーム業界を見てみたい。
DRM論争を加速させた「SecuROM」と「SPORE」
「SecuROM」とは,Sony DADCが開発したWindows向けのコピープロテクト製品である。複製や違法な解析を防ぐ目的で作られ,似たようなものとしてMacrovisionの「SafeDisc」やProtection Technologiesの「StarForce」などがある。こういった製品は,DRM(デジタル・ライト・マネージメント)ツールと総称されることが多い。
「Mass Effect」や「SPORE」に搭載されたことで知名度が上がったSecuROMだが,2K Gamesの「Grand Theft Auto IV」やBethesda Softworksの「Fallout 3」などにも採用されている。売り上げに大きく影響する,発売直後の不正コピー対策に有効と言う声もある一方,消費者の権利を侵害するという,否定的な意見も見られる
欧米では,DRMツールが相当な数のゲームに採用されており,古くは「Diablo 2」(2000年)や「Unreal Tournament 2003」(2002年)などに使われて話題になったことがある。もっとも,DRMはPCの動作を遅くすることがあるため,ゲーマーの間では煙たがられることが多い。また,新しいゲームをインストールしたときに,有無をいわさず一緒にインストールされてしまうため,「不正コピーする気がない人も犯罪者扱いしている」という批判も良く耳にする。
そんなDRM論争の渦中にあるのが,Electronic Artsである。同社は,2000年にリリースした「The Sims 2」とそのシリーズで,長らくSefeDiscを利用していたが,2007年6月に発売したスピンアウト作品「The Sims Pet Stories」で,新たにSecuROMを採用。その後Electronic Arts製品のほとんどに,SecuROMが使われることになった。同社が2008年5月に発売したPC版「Mass Effect」は,SecuROMの機能を最大限に利用したものとなっており,発表当初は10日ごとにオンラインレジストレーションをやり直す必要があったが発売直前にその制約は解除され,結局5回までは自由にインストールできるようになった。
SecuROMはWindows XPやVistaの中核部分にコードを書き込み,一度インストールすると,完全に削除するのは不可能だと言われている。しかも勝手にインストールされることから,フロリダ州では団体訴訟にまで発展した。また,9月に発売された「SPORE」も,メリーランド州で同じような訴訟が起こされているだけでなく,SecuROM搭載を批判したユーザーレビューがAmazon.comなどに大量に寄せられている。
誰のために存在しているかが見えなくなったDRM
SecuROMが嫌いな人,気にしない人など,いろいろといるだろうが,筆者は好意的だ。職業がゲームライターなだけに,ゲームのインストールやアンインストールを行う回数は多いはずだが,SecuROMが原因で発生すると言われている問題などには遭遇したことがない。また,これで不正コピー対策になり,ゲームを作る人達の利益が守られるのであれば,それは喜ばしいことではないだろうか……。
と思いきや,SecuROMは必ずしも不正コピーの氾濫抑止に効果を発揮していない可能性もあるようだ。というのも,SPOREが正式に北米で発売される2日前には,SecuROM機能のない製品版が違法ダウンロードサイトにアップされており,しかも,一週間のうちに50万回以上ダウンロードされたらしい。これは,2007年に同じような被害にあった「Crysis」の“6週間で45万件”を遥かにしのぐ数字だ。SPOREに関しては,現在までに170万件も違法にダウンロードされたと試算している人もいる。そればかりか,違法ダウンロードサイトのフォーラムには,「金持ち企業に変なソフト(SecuROMのこと)をインストールされるくらいなら,違法ダウンロードの道を選ぶぜ!」というような書き込みもあった(さすがにどうかと思うが)。
SPOREは,ウィル・ライト氏渾身の一作。同社の発表では9月中,つまり発売1か月で300万本のセールスを記録したが,違法ダウンロードの被害もかなり受けたようだ。おまけにその対策として採用したSecuROMの評判が悪く,ゲーム以外の部分で反感を買った
「SecuROMなど必要ない」とするDRM反対派のゲーム関係者も少なくない。2008年12月の初め,「Half-Life 2」や「Left 4 Dead」で知られるValveのディレクター,Gabe Newell(ゲイブ・ニューウェル)氏は,「DRMに関して,その戦略の多くは馬鹿馬鹿しいとしか言いようがない。我々はゲームの価値を高めることに注力すべきで,(一定期間経つと遊べなくなってしまうかもしれないという不信を抱かせることで)ゲームの価値を下げるべきではありません」と,プレイヤーからの質問に答える形で述べている。
また,この発言がインターネットに公開されると,MicrosoftのGames for Windowsコミュニティマネージャー,Ryan Miller(ライアン・ミラー)氏も「問題は,どんな形式のDRMを採用するかということではなく,その心理的な受け止められかたでしょう。現在の方式では,すべてのプレイヤーが疑われている形になっています。ですが,実際に違法なことをしている人達がダメージを受けていないため,一般の消費者が損をしているように感じてしまっています。こういうことが,消費者の心理にネガティブな雰囲気を作り出しているのでしょう」と自身のブログに記した。
SPOREは,SecuROMを採用しながらも不正コピーの蔓延をほとんど防げなかった。さらに一般プレイヤーから多くの苦情が寄せられ,コピー対策としてはいいところがなかったといえる。また,これを裏づけるように,認証を取り消すツールがリリースされた(関連記事)。この騒動は,ほかのパブリッシャにとっても学ぶことが多かったはずだ。
SPOREは,今後Valveの「Steam」で配信される可能性が高いといわれており,Steamで提供されているゲームが不正コピーされる確率は,一般的なパッケージソフトと比較すると格段に低い。不正コピーへの対策を考えると,デジタル配信がさらに増えていくのかもしれない。
|
- この記事のURL:
キーワード