業界動向
Access Accepted第594回:eスポーツにおけるVRゲームの将来性
今や映画や音楽をしのぐ規模に成長した北米ゲーム産業だが,その中でも急激な成長を続けているのがeスポーツだ。最近は,テレビや新聞などの一般メディアにも取り上げられるようになり,新たにVRデバイスを使った「VR eスポーツ」の姿も見え始めた。まだ産声をあげたばかりのジャンルだが,将来はどのような姿になるのだろうか。「VR eスポーツ」イベントの模様を交えて,考えてみたい。
産声をあげた新ジャンル「VR eスポーツ」
アメリカのリサーチ会社Newzoo USAの最新レポートによれば,全世界でのeスポーツの市場規模は今年,前年比38.2%の伸びを示し,9億600万ドル(約1030億円)に達するようだ。今後もさらなる成長が見込まれており,2021年には14億ドル(約1650億円)に膨れあがると予想されている。世界中では約16億人,つまり,約5人に1人がeスポーツについてなんらかの認識を持つという。
2018年を振り返っても,その存在感の高さは明らかだ。1月に開催された「2018 Overwatch League Grand Final」 では1万1000人分の観戦チケットが完売し,「第18回アジア競技大会」では「クラッシュ・ロワイヤル」や「ハースストーン」「ウイニングイレブン 2018」など6つのタイトルが,正式採用に向けた公開競技としてプレイされた。
プレイヤーの寄付金で優勝賞金が賄われる「Dota 2」のイベント「The International 2018」では,その金額が史上最高となる2500万ドル(約29億円)を突破し,1か月以上にわたって実施されてきた「2018 League of Legends World Championship」の配信では,オープニングセレモニーだけでTwitchの視聴者が9000万人を超えたという。
この2作品に,発売からすでに6年を超える現在も高い人気を誇る「Counter-Strike: Global Offensive」を加えた,Twitchの対戦中継の総視聴時間は,のべ2億時間を超えるという。
最近では,「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」や「Fortnite」といったタイトルも,人気のeスポーツとして定着しつつある。
ビデオゲームの大会競技は,1980年にAtariが主催し,約1万人が集まった「National Space Invaders Championship」にまで遡ることができるようだが,やがてPCやインターネットの進歩によって,対戦ゲームはアーケードと別の方向へ発展していく。
現在のeスポーツの萌芽と考えられるのは,オンライン対戦をメインとした「Quake」や「Warcraft II: Tides of Darkness」が登場した1996年前後だろう。1996年には「Quake」ファンが自分のPCを持ち寄ってオンライン対戦を楽しむ,BYOC(Bring Your Own Computer)形式のイベント「QuakeCon」(*)が開催されたほか,翌1997年にはプロリーグのCyberathlete Professional LeagueやProfessional Gamers Leagueが相次いで発足している。
(*)1999年以降はid Softwareが,2009年以降はZeniMax Mediaが主催している
さて,上記のように活況を呈するeスポーツだが,ここに来て,また新たな動きが感じられる。
9月26〜27日,Facebookが恒例の「Oculus Connect 5」を開催したが,それと併催する形で,「VR League Season 2」というイベントが行われていた。「Oculus Connect 5」は,1000人ほどの関係者を対象としたカンファレンスがメインで盛況だったが,同時に行われていた「VR League Season 2」を訪れる人は100人にも満たないようだった。会場には大きなクッションが用意されていたので,多くの人がセッションやデモの合間の休憩のために座っているという雰囲気で,筆者もそのようにしてトーナメントを見ていたのだが,やがて,このVRデバイスを使ったeスポーツ――ここでは便宜的に「VR eスポーツ」としておく――に大きな魅力を感じるようになった。
観客との相性がいいVR eスポーツ
「VR League」とは,ドイツを拠点にヨーロッパや北米でも大きく展開しているeスポーツ運営会社ESL Gamingが,2017年から開催しているトーナメントだ。OculusおよびIntelと提携し,22万ドルを賞金の原資に,Ready at Dawnの「Echo Combat」,Insomniac Gamesの「The Unspoken」,そしてSurviosの「Sprint Vector」などのトーナメントをサポート,2018年にはFPSの「Onward」のトーナメントが新たに加わった。
VRデバイスを使ったトーナメントは,これまでも小規模ながら,いくつか開催されてきた。2017年4月にはテキサス州オースティンで開催されたイベント「Dreamhack Austin」で,「Velocibeasts」というゲームの試合が行われているし,「Rec Room Paintball」のゲーマーコミュニティが運営するRec Room Paintball Leagueも同じ頃に発足し,現在はシーズン3を迎えている。
Sony Interactive Entertainmentはさすがにこうした動きに敏感で,2017年9月には「Sparc」を使ったトーナメントが開催されている。VR Leagueは,こうしたイベントに比べれば規模がはるかに大きく,専用ステージを使ったライブストリーミングなど,運営体制や賞金額は最大級だ。
筆者がOculus Connect 5で観戦したのは,「Onward」と「Echo Combat」の対戦だった。1チームは5人で,2チーム10人が,それぞれ2平方mほどのスペースに立つ。会場の四隅にはケーブルやセンサーカメラ,そして選手達をライトアップするための照明器具などが取り付けられたポールが立ち,ゲーム大会としては視覚的に面白い。選手達が,ずいぶんと特別な存在に見える。
このあたり,選手のリアクションがときおり大型スクリーンで映し出されるだけのPCやコンシューマ機の実況とはかなり異なる。銃器を構える格好をしたり,フリスビーを受け取るためにジャンプしたりなど,選手の動きを見ているだけで,プレイヤーがどのような判断や行動をとっているのかが分かり,マインドとフィジカルが要求されるeスポーツにふさわしい雰囲気だ。
仮想空間で何が起きているのか観客に分かりにくい部分もあるが,それについてもVR技術が新たな方向性を見せてくれる。Oculus Connect 5では,2019年春にリリースされる予定のコードレスVRデバイス「Oculus Quest」のプロトタイプを使った「Dead&Buried Arena」のデモが行われていた。これは「アリーナスケール」が謳われる広いエリアで3人対3人の対戦を楽しむゲームだが,ここでは,周囲で見ている人がスマホなどを掲げると,ゲーム内で何が起きているのかが分かるアプリのデモが公開されていたのだ。
Oculus Connect 5の話題から離れるが,2年前,ValveがVRとeスポーツに関する興味深い試みを行った。「Dota 2」のイベント「The International 2016」のタイミングで,HTCの「Vive」を利用して試合の観戦ができる「Dota VR Hub」を実装したのだ。
これは,対戦の模様をVRデバイスで観戦できる機能で,カメラの視点や位置を自由に変更できるメイン画面と,すべてのプレイヤーの位置と勢力図が確認できるオーバーヘッド式のミニマップ,プレイヤーが利用しているキャラクターや統計などを確認できる画面が用意されており,さらに,ゲーム世界に飛び込んでプレイヤー目線でゲームを見ることも可能だ。
格闘ゲームやサッカーゲームのように,カメラがほぼ固定されているならともかく,大きなマップや3D世界で複数のプレイヤーをフォローするのは難しい。しかし,VR技術が提供するこうした観戦方法は,たとえゲームに詳しくなくとも「見ていて面白い」と思わせてくれるだろう。
VR対応のヘッドマウントディスプレイがついにリリースされ,「VR元年」とまでいわれた2016年から,まだ2年しか経過していない。どのようなゲームデザインがVR向きなのかについては,現段階でも試行錯誤が続いている状況だ。その中で,「VR eスポーツ」に挑戦しているゲーム開発者はさらにわずかに過ぎず,約20年をかけて今の段階に達したeスポーツの域に到達していないのは仕方のないことだろう。
しかし,「VR League Season 2」を観戦した筆者としては,今後,大きく発展していく分野になるのではないかという気持ちが強い。さらに言えば,欧米に比べてeスポーツジャンルでやや立ち後れた感のある日本も,「VR eスポーツ」を武器に飛躍できる可能性もあるのではないだろうか。今後の展開に注目していたい。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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