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印刷2019/01/28 12:00

業界動向

Access Accepted第601回:欧米最大のパブリッシャActivision Blizzard,最近の気になる動き

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 Blizzard Entertainmentを20年以上にわたって率いてきた,設立者の1人にしてCEOであるマイク・モーハイム氏が昨年,退任した。2019年に入っても,Bungieが提携解消を発表するなど,最近,明るいニュースが聞こえてこないのが,「欧米ゲーム市場最大のパブリッシャ」であるActivision Blizzardだ。果たして同社に何が起きているのだろうか? 最近のニュースを追ってみよう。


天下のActivision Blizzardに対して集団訴訟?


 取材の移動時間にスマホでニュースを見ていたら,「Activision Blizzardの株主で50万ドル以上の損失を出した人はご連絡ください」という広告が目に飛び込んできた。
 訴訟大国のアメリカでは,依頼人を待つだけではなく,自ら事案を探す「アンビュランスチェイサー」と呼ばれる弁護士がいる。交通事故の現場から走り去る救急車(アンビュランス)を追いかけ,病院に運ばれてきた人に「(相手を)訴えませんか?」と尋ねる,そんなイメージだ。
 言うまでもなく蔑称なのだが,そんな弁護士の数も少なくはなく,医薬品やオモチャなどの被害者を募る新聞やテレビの広告をしょっちゅう目にする。いつもは見ても気にも留めないのだが,今回の相手は天下のActivision Blizzard。筆者としても,最近の動向が気になっていた会社だったのだ。

欧米ゲーム業界最大のパブリッシャとして知られるActivision Blizzardだが,最近は明るいニュースが少ない。経営難というほどではないものの,2019年は大きな正念場を迎えそうだ
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 現在の欧米ゲーム業界は,株価という面から見ると非常に厳しい状況にある。2018年の夏頃に,「評価が高すぎる」と言われたいわゆるGAFA(Google,Apple,Facebook,Amazon)を中心としたIT産業の株価が下がり始め,これに歩調を合わせるように,ゲームメーカーの株価も下降の一途をたどっているのだ。ピーク時に比べて30〜50%ほど株価が下落したメーカーも多い。
 Activision Blizzardの場合は「コール オブ デューティ ブラックオプス 4」がリリースされる直前に過去最高の1株83.18ドルを記録したものの,現在は45%ほど下げている。
 こうした株価の話題は別にしても,最近のActivision Blizzardには,なにか以前のような勢いに欠けているような雰囲気が強い。

 Activision Blizzardは,説明すると長くなる会社だ。2017年12月11日に掲載した本連載の第558回「欧米ゲーム業界の10年間を,1つのメーカーを軸に振り返る」あたりを参照してもらえると,あらましが分かると思うが,2008年1月,Vivendiと袂を分けたActivisionと,Blizzard Entertainmentが合併してActivision Blizzardという持ち株会社が誕生したのである。
 そのため,ビジネス関連の動向を語るときにはActivision Blizzardの名前が使われ,「コール オブ デューティ」シリーズのパブリッシャといった意味ではActivisionのみが,また「オーバーウォッチ」「ハースストーン」などの話ではBlizzard Entertainmentのみが,という感じで使い分けられることが多い。

 1990年からActivisionを率いてきたボビー・コティック(Bobby Kotick)氏がActivision BlizzardのCEOとなり,同社の下にActivisionとBlizzard Entertainment,モバイルゲームを担当するKing.com,映像制作を行うActivision Blizzard Studios,さらにeスポーツ運営のMLGが並ぶという構造だ。Activisionは傘下に,Infinity Ward,Treyarch,Sledgehammer Studios,Raven Softwareなど,日本でもよく知られたデベロッパを抱えてもいる。

 合併前のActivisionは,「Guitar Hero」「Tony Hawk‘s Pro Skater」といったヒット作の続編を次々に送り出してしては,すぐにシリーズを疲弊させてしまうような会社だったが,最近のActivisionはタイトル数を減らし,「コール オブ デューティ」シリーズのような大ヒット作品を毎年送り出すメーカーに成長した,というのが多くのゲーマーの持つ印象だろう。一方のBlizzard Entertainmentは時間をかけてゲームを丹念に作る会社で,2004年に「World of Warcraft」をリリースして,次の作品である「StarCraft II: Wings of Liberty」を発売したのは6年後の2010年だった。


揺れ動くActivisionとBlizzard Entertainment


 欧米ゲーム業界では絶対的な存在であるActivision Blizzardなのだが,どういうわけか最近は良くない話ばかりが聞こえてくる。
 2018年の11月には,Blizzard Entertainmentのイベント「BlizzCon 2018」で「Diablo」シリーズの最新作となる「ディアブロ イモータル」を発表したが,それがPCゲームではなくスマホアプリだったことに失望したファンの批判を集めてしまった(関連記事)……という出来事は,読者の記憶にも新しいだろう。

 その話題が落ち着きつつあった12月の初め,今度は「Heroes of the Storm」の開発規模を縮小し,eスポーツイベントを中止するという発表が行われた。発売からそれなりの時間が経過した作品は,やがて終わっていくものだが,「Heroes of the Storm」の場合,わずか1か月前のBlizzCon 2018で開発者が来年の抱負を語っていたのだ。
 プロゲーマー達にとっても突然の話だったようで,「2018年と同じくらいの優勝賞金を予定しているので,頑張ってほしいと言われたのに」などと落胆,憤慨するコメントがSNSにアップされている。

2018年10月に第一線を退いたマイク・モーハイム氏と,新たなCEOのJ・アラッド・ブラック
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 Blizzard EntertainmentにActivision Blizzardが強く干渉しているという疑念も,欧米ゲーマーの間では根強い。きっかけは,2018年10月にCEOのマイク・モーハイム(Mike Morhaime)氏がその任を解かれたことだ。理由は明らかではないが,Blizzard Entertainmentの創立者の1人であり,20年以上にわたって同社を率いてきたモーハイム氏は,熱烈なファンにとっては神のような存在だ。それだけに,ファンに与えた衝撃は大きかった。
 さらに,同年12月の末には,Activision Blizzardの財務を任されていたCFOのスペンサー・ニューマン(Spenser Neumann)氏が退社した。それを知らせるプレスリリースには,「ニューマン氏の退社は,パブリッシャの財務報告や開示管理,およびその手続きには影響を与えません」という一文が添えられていた。

 ニューマン氏は退社の2日後にNetflixに入社したことが明らかになったが,ニューマン氏のような立場の社員が在職中に別の仕事先を探す行為は,たいていの場合,契約で禁止されている。ニューマン氏の求職活動を知ったActivision Blizzardが,契約違反を理由に解任に踏み切ったのではないかとする観測もある。
 もちろん,株価が下降しているときにCFOがいなくなるわけで,その影響を案じるのは当然であろう。しかし,経営陣の流出はその後も続き,ニューマン氏が退社した3日後には,同じくCFOだったアムリタ・アフジャ(Amrita Ahuja)氏が退社して,IT企業のSquareに移っている。

 これに対してActivision Blizzardは,過去2年間,COOとして会社運営を担当してきたデニス・ダーキン(Dennis Durkin)氏をBlizzard EntertainmentのCFOに据えた。ダーキン氏は,2017年までBlizzard EntertainmentのコンシューマプロダクトグループのCFOを務めた経験を持つ人物だ。
 また,2018年3月にエリック・ハーシュバーグ(Eric Hirshberg)氏が去って以来,空席になっていたActivision(Activision Blizzardではない,念のため)のCEOに,過去8年間にわたって「コール オブ デューティ」シリーズのゼネラルマネージャーを担当してきたロブ・コスティッチ(Rob Kostich)氏を着任させ,さらにモバイル部門であるKing.comの新CEOとして,ハマム・サクニーニ(Humam Sakhnini)氏を充てた。
 このようなトップの刷新を行ったActivision Blizzardだったが,新体制発表の翌日,デベロッパのBungieがActivisionとの提携解消および「Destiny 2」の自主運営を発表したのだ(関連記事)。

欧米ゲーム業界最大手だが,毎年リリースされるタイトルは少ないActivision Blizzard。タイトル数を絞るのは,大手パブリッシャに共通した最近の傾向だが,新たなIPとして期待されたBungieの「Destiny」シリーズも,同社から離れてしまった
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 パブリッシャの傘下にあるデベロッパが独立するのは,欧米ゲーム業界ではめったに起きないことだ。Bungieは2010年にMicrosoftからの独立に成功した例外的なメーカーで,その際にはかなりの金額が動いたとも言われている。ActivisionとBungieとの提携関係は,お互いに独立を保ったもので,「傘下を抜けた」というほどではないのだが,Activision Blizzardは提携解消について現在も沈黙を続けており,やはり同社にとって望ましいことではなかったように感じられる。

 Activision Blizzardの第4四半期および年間の業績報告は,通常は2月上旬に行われるため,同社の財務状況や今後の指針などについては今のところ分からない。冒頭に記した集団訴訟の件だが,調べてみると複数の法律事務所が動き出しているようで,こちらも現段階では情報待ちだ。

 Activision Blizzardの2019年のラインナップを見ると,「Call of Duty」シリーズ最新作が例年どおりに登場し,過去の例に従えば,2019年はInfinity Wardが制作を担当する番になるはずだ。さらに上記の「ディアブロ イモータル」,そしてフロム・ソフトウェアの「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」がファンの大きな注目を集めている。各タイトルがヒットを飛ばして,この空気を払拭できるのか,2019年はActivision Blizzardにとって勝負の年となりそうだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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