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Access Accepted第725回:Electronic Artsが自社の買収/合併を積極的に持ち掛け? その背景にあるもの
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印刷2022/05/30 13:00

業界動向

Access Accepted第725回:Electronic Artsが自社の買収/合併を積極的に持ち掛け? その背景にあるもの

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 昨今,ゲーム企業の買収劇が相次いでいるが,ここにきてElectronic ArtsのM&Aに関する話題が世間をにぎわせている。しかも,Electronic Arts側が乗り気で幾つかの企業に買収もしくは合併を持ち掛けているという。Activision Blizzardと肩を並べるほどのメジャーパブリッシャを果たして傘下に収めるような企業はあるのか? そしてElectronic Arts側のモチベーションは何なのだろうか? 今回は,このあたりを探ってみよう。


業界再編が進行する中,ついにElectronic Artsまで?


 ここのところ,ゲーム業界に大規模な再編の波がきているというのは,当連載に目を通していただいている読者の皆さんならご存じのことだろう。2022年に入って間もない時期に,Take-Two Interactive Softwareが,ソーシャルゲーム大手のZyngaを127億ドルで買収したかと思ったら(関連記事),その数日後には「第712回:メタバースを機軸に,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意を考える」関連記事)で紹介したように,MicrosoftとActivision Blizzardが約687億ドルという巨額買収で合意したことが明らかにされ,業界の枠を超えて話題になった。Microsoftは,2020年末にもBethesda Softworksを75億ドルで買収していた。

 さらに,2022年1月31日には,ソニー・インタラクティブエンタテインメントがBungieを36億ドルで買収。「第713回:ライブゲームを機軸に,SIEによるBungieの買収を考える」関連記事)でもお伝えしたように,2週連続で買収関連の話題を取り上げることにもなった。
 こうした動きは大なり小なり続き,2月に入るとフランスのNaconがドイツのDaedalic Entertainmentを,さらに5月2日にはスクウェア・エニックスから3億ドルで株式譲渡される形で,Gearbox SoftwareやDeep Silver,Coffee Stain Studiosなどを傘下に抱えるEmbracer Groupが,「トゥームレイダー」や「デウスエクス」などで知られるCrystal Dynamics,Eidos Montreal,Square Enix Montrealのオフィスと部分的資産を買い入れている。

 そんな矢先,今度は「Electronic Artsが買収/合併されるかも」という,これまたビッグなニュースが飛び込んできた。カリフォルニア州レッドウッドシティを拠点に1982年からゲーム開発及び販売を手掛け,ハードウェアプラットフォームを持たないパブリッシャとしては,中国のTencent,NetEase,Activision Blizzardに続く第4位の資産価値を誇る。現在大人気の「Apex Legends」はもちろん,「バトルフィールド」「FIFA」「スターウォーズ」シリーズなど,知名度の高いゲーム資産を多く抱える。

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Electronic ArtsのCEO,アンドリュー・ウィルソン氏
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 この一報を報じたのは,“ブログニュース”と形容しても差し支えないような,AD広告さえない独立系メディアの「PUCK」関連リンク)だ。同誌はアメリカ最大手のテレコム企業コムキャストの会長であるブライアン・ロバーツ(Brian Roberts)氏に,今後のメディアの在り方を問うインタビューを行っており,その中でロバーツ氏がElectronic Artsを買収もしくは合併(M&A)する形で取り込む計画を,Electronic ArtsのCEOであるアンドリュー・ウィルソン(Andrew Wilson)氏に持ち掛けた,と明かされている。
 MicrosoftによるActivision Blizzardの買収合意発表後,数週間にわたって協議が続けられていたとのことで,結局は値段や新体制の計画について折り合いがつかず,破断になったとのこと。もし計画が合意されていた場合は,ロバーツ一族が資産の大部分を保有し,傘下のNBCユニバーサルのCEOであるジェフ・シェル(Jeff Shell)氏がゲーム部門を監督する新しい役職を担いつつも,ウィルソン氏が引き続きElectronic Artsをリードするというものであったらしい。


Electronic ArtsのM&A候補は?


 興味深いのは,上記のPUCKの記事には,ウィルソン氏はその後もウォルト・ディズニー・カンパニー(以下,Disney),Apple,そしてAmazonなどへも話を持ち掛け,買収ではなく合併の方向での合意を模索していると記述されていることだ。Disneyに関する情報はかなり具体的で,傘下にある大手ネットワークABCのスポーツ部門にあたるESPNを切り離し,Electronic Arts (EA Sports)と連動させることで,相乗効果をもたらすという狙いについても書かれている。
 Disneyは,2016年にDisney Interactive Studiosを閉鎖するまで,30年以上にわたってゲームやインタラクティブメディアを自前で開発していたし,傘下のLucasArts EntertainmentとElectronic Artsは「スターウォーズ」でのつながりもある。2018年にESPN部門のCEOが突然の辞任をした際には,Electronic Artsからウィルソン氏を招へいするという計画もあったほどだ。

昔からEA Sports系タイトルとはコラボしていた印象のESPNも,コムキャストを母体とするABCの傘下だ
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 Electronic ArtsのM&A相手としては,AppleやAmazonの可能性だって十分にあるだろう。Appleは,ファーストパーティによるゲーム開発にあまり乗り気ではないように思えるが,近々正式発表されると思われるAR/VRヘッドセットを普及させるためには,ゲームアプリ開発にも相応の投資をしなければならないはずで,多くのIPを持つパブリッシャをまるごと抱えてしまうという選択は検討の余地がある。
 Amazonの場合は,MMORPG「New World」を自社開発するなどしているものの,その結果自体が“Amazonでさえ成功するのは難しいゲーム業界”という印象をさらに強めることになっており,経営的に独立したパブリッシャ/デベロッパを主力にしていくという方向に転換してもおかしくはない。
 GAMA(GAFA)の中で一番可能性のありそうなのが,Activision Blizzardもまず話を持ち掛けたというMeta(旧Facebook)であり,可能性の低いのがStadia部門をリストラしたばかりのGoogleといったところだろうか。

※米国の主要IT企業であるGoogle,Amazon,Meta,Appleの頭文字をとった総称。FacebookがMetaへと社名変更したので,GAMAと記述する

今年の秋口にリリースされるであろう「FIFA 23」を最後に国際サッカー連盟(仏:Federation Internationale de Football Association/FIFA)との提携が解消され,人気サッカーシムの名称は「EA SPORTS FC」というタイトルに変わることがアナウンスされている(関連記事
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 Activision Blizzardの現CEOであるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏は,海外メディアでMicrosoftとの協議を進める前に,Electronic Artsと話しを進めていたことを明かしている。それが実現していれば驚くような企業になっていたはずだが,それができない理由も多い。上記の記事のニュアンスからもわかるように,Electronic Artsが求めているのは現体制の維持を含めたM&Aであるからだ。

 オーストラリア出身のウィルソン氏がElectronic Artsに入社したのは,まだ26歳だった2000年のことで,幹部に昇格する上でEA Sports部門や自社プラットフォーム「Origin」などでの功績が認められ,2013年に38歳という若さでCEOとなった。
 もっとも,「FIFA」シリーズや「STAR WARS バトルフロント II」などで同社が進めてきた,マイクロトランザクションやルートボックス問題で責任を問われるべきというゲーマーの声はよく聞くところであろう。買収されるにせよ合併になるにせよ,そのウィルソン体制のままで投資家や株主,そしてゲーマーたちが納得するかどうかは疑問である。


もはや普通のゲーム会社では生き残れない?


 Electronic ArtsのM&Aの話は一メディアが取り上げただけで,事実かどうかはまだわからない状況だ。もしM&Aの話が事実であるのなら,現在急速に進みつつあるゲーム業界の変革が理由のひとつであることは疑いようもないだろう。そのことは,「第712回:メタバースを機軸に,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意を考える」関連記事)でも詳しく解説しているが,現在のゲーム市場はメタバースやクラウド,もしくはブロックチェーンやWeb3といった革新的なテクノロジーを将来的なバックボーンとして据えようとしており,もはや大ヒットIPの年次リリースだけでは,例え世界的に名の知れたパブリッシャであっても,ちょっとやそっとの技術投資では生き残れないという,先行きの不安が見え隠れする。

すでにシーズン13に突入し,安定した長寿ライブゲームになっている「Apex Legends」だが,今後は“バトルフィールド・ユニバース”など,他の人気IPにもテコ入れされることが示唆されている
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 ここ数年は2017年に買収したRespawn Entertainmentの「Apex Legends」で面目を保っているとはいえ,「バトルフィールド 2042」のローンチ失敗やFIFAとの決別により,Electronic Artsにも大きな変化がみられる。
 「バトルフィールド」シリーズの生みの親として20年近くにわたって同社傘下のトップデベロッパに君臨してきたEA DICEは再編され,今ではRespawn Entertainmentに組み込まれる形になっている(関連記事)。
 一時は数々のアクションRPGを世に送り出したBioWareも足踏み状態でなかなかヒット作を出せてはおらず,EA Maxisも現状はライブゲームの運営チームに過ぎない。すでに「ニード・フォー・スピード」というレースゲームシリーズがあるにも関わらず,「F1」「Dirt」「Project CARS」などで知られるCodemastersを,2021年12月に12億ドルで買収するという決断を行ったのも(関連記事),どこか奇妙でレースジャンルにおける新たなライバルの出現を恐れたパニックバイとも受け取れる。

 人気シリーズの維持や新しいIPの創出もなかなかうまくいっていない状況なのだから,Electronic Artsはメタバースのような革新的テクノロジーに十分な投資ができていないのも仕方がない。その意味でも,Activision BlizzardとElectronic Artという,普通のゲーム企業の合併は成立するはずもなかったわけだ。現時点で,Electronic Artsがどれだけ真剣にM&A相手を模索しているのかは不明であるものの,その企業規模からしても交渉相手の数は限られているのは間違いないだろう。果たして,そんなビッグニュースが,近い将来我々の元に飛び込んでくることになるのだろうか?

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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