業界動向
Access Accepted第727回:SGF 2022ポストモーテム 〜 来年からは”初夏のゲームイベント“の激戦がさらに過熱?
今年も,6月上旬にひしめく「ゲーム新発表」の時期が過ぎたが,年末から登場する数々の作品を,今さらながら各イベントのアーカイブ映像や特集記事でチェックしているゲーマーも少なくはないだろう。この2年ほどの間にデジタルイベントが主流になったことで,どこかお祭り感に欠けた雰囲気だけは残念だが,来年の今頃は再び以前のような現地開催の興奮が味わえそうだ。
デジタルイベントに感じる祭りとしての催しの限界
今年多くの注目を集めたゲームは,カプコンの「ストリートファイター6」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4)や「バイオハザード RE:4」(PC / PS5 / Xbox Series X),KRAFTONとStriking Distance Studiosによるホラーアクション「THE CALLISTO PROTOCOL」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One),シングルキャンペーンのゲームプレイが初公開されたActivisionの「Call of Duty: Modern Warfare 2」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One),さらにはコーエーテクモゲームスの新作アクション「WO LONG FALLEN DYNASTY」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One)やBethesda Softworksの新作シューティング「Starfield」(PC / Xbox Series X)などだろうか。
また,それらよりも小粒にはなるが,Focus Entertainmentの「Aliens: Dark Descent」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One),Microidsによる30年ぶりの続編「Flashback 2」(PC / PS5 / Xbox Series X / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch),そして11 bit Studiosの「The Alters」やBloober Teamの「Layers of Fears」(PC / PS5 / Xbox Series X)などのヨーロッパの中堅どころによる,良質な作品群も目立っていた。
インディシーンにおいてもToge Productionsの「コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ」,Hyper Gamesの「スナフキン:ムーミン谷のメロディ」,そしてThunderful Publishingの「Planet of Lana」やSkybound Gamesの「WrestleQuest」,Devolver Digitalの「Terra Nil」など,気になる作品は少なくない。
新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の影響が大きかったこの2年の間に,リモートワーク化や開発の延期,Activision BlizzardやUbisoft Entertainmentなどで社会問題として顕在化したハラスメント体質や職場環境の改善の時期を越えて少しずつ落ち着きを取り戻してきているという印象だ。
さらに,ほぼ同時進行でハードウェア業界を苦しめていた半導体不足についても,(少なくとも)ゲーム分野においては先が見えてきたのか,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は今年年末にかけて,PlayStation 5を増産していく予定にシフトしたことをGamesIndustry.biz(関連リンク)が伝えている。
今年はE3(Electronic Entertainment Expo)が中止になったこともあり,このシーズンのゲームの発表の形がどのような方向に変化していくのか,ゲームジャーナリストとして筆者は大いに注目していたが,E3というイベントが求心力を落とし始めてからここ数年のうちに,さらに分散化が進んでしまった。
しかし,発表の場が分散した結果,多くのファンがSGF 2022のラインアップそのものを地味に感じていたというのは,例えば海外ブログメディアのCBR.com(関連リンク)なども伝えるところ。ストリーミング放送では,「zzzzzz」(ぐーぐーと寝ている様子)や「Pass!」(はい次!)などのコメントが次々と連打されて不快なほどだったが,時間を合わせて視聴していたゲーマーたちの,発表作品に対する失望感を表すものと見ることもできるだろう。分散化により,語弊のある言い方で申し訳ないが「1つのイベントでファンの大半が注目しているのは1作2作で程度で,その発表が始まるまでは自分の興味と関係のない無駄な時間」であり,みんなで楽しむ空間での派手なお祭り騒ぎと,そこから感じられる興奮が薄らいでしまっているのである。
ゲーム業界が望むのはやはり現地開催型イベント?
E3という,全ての情報を束ねるだけの強力な現地開催型イベントがあった頃には,まずストリーミング放送されたプレスカンファレンスでの発表を速報し,後日開催されるメインイベントで各パブリッシャを取材することで,ジャーナリスト達はゲーマーの代行者としてデモを試遊して雑感を書いたり,開発者へのインタビューにより作品を深堀りしたりすることができた。
今年も,事前に国内でメディアを招待して試遊やインタビューを行った「ストリートファイター6」のような例はあったが,発信された情報に画像や公式サイトへのリンクを貼り付けるだけの記事しか作れないなら,どんな大作や注目作であってもほぼ全てのメディアの記事は代わり映えしないものになっていく。もし,今後の「初夏の発表会」が完全デジタル化していくのであれば,せめてそれぞれのメーカーが,イベントの後でゲームをじっくり紹介するような,San Diego Comic-Conにおける映画やドラマ出演者たちの座談会に似たポストイベントを開催してほしいところである。
実は,今年のSGF 2022においては,その後日のアメリカ時間6月10日から11日にかけて,「Summer Game Fest: Play Days」と称した現地開催型イベントが,カリフォルニア州ロサンゼルスで開催され,筆者も参加している。カプコンの「ストリートファイター6」やスクウェア・エニックスの「OUTRIDERS WORLDSLAYER」のような大型タイトルの展示もあったが,MicrosoftはID@Xboxの注目タイトルである「Cuphead: The Delicious Last Course」や「Escape Academy」などを持ち込み,ゲームイベントの「Day of the Devs」(関連記事)で発表されたタイトルを主軸にした,インディーゲームに特化したようなイベントになっており,本誌では11記事を掲載している。
そもそもSGFを始めたジェフ・キーリー(Geoff Keighley)氏は,「変化する時代に合わせるため」という理由からE3と袂を分かち,COVID-19の外出規制と相まってデジタル化が推進された。
デジタル化を推進していたSGFがリアルイベントを開催するというのは,どことなく腑に落ちない気分になるが,ゆったりとしたブースでゲームを紹介してくれた開発者たちも,そして参加した筆者らゲームジャーナリストも,顔と顔を突き合わせてゲームを紹介したりプレイしたりすることに,ポストコロナの安堵感のようなものを感じていたのは間違いない。久々に会う人との話も弾む,なんとなく同窓会のような気分でもあった。
しかも,キーリー氏は今後もPlay Daysを続けていく予定であるばかりか,さらに大型化していくつもりでいるらしい。今回の会場はE3が行われるロサンゼルス・コンベンションセンターから数ブロック離れた,200人ほどを収容できる少し大きめなレストランといった雰囲気のイベントスペースだったが,今後はより大きな規模になっていくのであろうか。
なお,E3を主催するESA (Entertainment Software Association)のプレジデントであるスタン・ピエール・ルイ(Stan Pierre-Louis)氏は,「2023年度から現地開催でのE3を復興させることをワシントンポスト誌(関連リンク)とのインタビューで語っている。まだ具体的な日付などは発表されていないが,すでにロサンゼルス・コンベンションセンターは常にイベントが開催されているような状況であり,そう簡単にイベント開催時期を変更できるようなものではない。つまり,来年はほぼ同じ時期に同じような場所で,E3とSummer Game Fest: Play Daysという2つの現地開催型イベントが開催され,客の取り合いとなることになり兼ねないわけだ。
複数タイトルの発表を控えるパブリッシャとしては,双方のイベントに華を持たせつつ,新作ラインナップの露出を増やすために,発表の場を異なるイベントに振り分けるようなことになるかも知れず,取材を行うジャーナリストにとってはかなりカオスな状況になることも予想される。そんな1年後を想像して戦々恐々としつつも,どこか楽しみなワクワク感を感じているのも,学生の時から四半世紀を超えてゲームイベントの取材を続ける,筆者の“イベント担当ジャーナリスト”としての性(さが)なのかもしれない。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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