業界動向
Access Accepted第738回:業界の大ベテランたちが次々にブロックチェーンゲームに参入
バブルが崩壊したと言われながらも,ブロックチェーンゲームの話題でゲーム市場は盛況だ。今回は,ウィル・ライト氏,ピーター・モリニュー氏,リチャード・ギャリオット氏,そしてグレアム・ディバイン氏ら大ベテランが関わる新作ブロックチェーンゲームを紹介してみたい。
バブルが崩壊しながらも発展するブロックチェーンゲーム
9月に開催された東京ゲームショウ2022でも,NFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン),暗号資産,そしてブロックチェーンといった言葉が会場にあふれていた。これらがどのようにゲームに関わってくるか,まだわからない部分も多いが,ゲーム業界にも少しずつ影響を与えていることを感じ取った来場者も少なくないだろう。
そんな雰囲気が醸し出される一方で,投資者向け情報サイトInvestment Monitorは,8月19日付けの記事「The NFT market has collapsed (but that may not be a bad thing)」(関連リンク)において,2022年2月から下降し始めていたNFT市場は,6月をもって何と全体で88%も価値が下落し,バブルが崩壊したと報じている。この状況は暗号資産の市場においても同様であり,その代表格であるビットコインやイーサリアムの市場価値は2021年11月に記録した最高値と比較して,現在では75%ほど下落している状況だ。
新技術が登場すると投資が過熱し,バブル化することは過去にもあった。2000年代初頭に崩壊したインターネットバブルでは,IT関連のベンチャー企業が数多く設立されたが,バブルの崩壊によって倒産し,GoogleやAmazonといった一部のベンチャー企業のみが生き残っている。
NFTもそうしたサイクルの中にあると言えるかもしれない。破裂したNFTバブルにおいて,現在も孤軍奮闘しているのはゲーム関連事業であり,その未来を信じる関係者は多い。
暗号資産とNFTの違いは「代替性があるかどうか」だ。暗号資産はFT(Fungible Token/代替性トークン)であり,例えば10枚の1ドル札は,1枚の10ドル札と同じ価値があるので交換(代替)できるように,暗号資産もそのときの相場に応じた金銭と交換できる。そのため,代替できるトークンというわけだ。一方のNFTはそれぞれのトークンは異なるものとして設定されており,同じトークンは存在しない。
そして,暗号資産およびNFTのベースとなっているのがブロックチェーンという分散型ネットワークだ。NFTは,ブロックチェーン技術――多くのNFTは,イーサリアムのブロックチェーンを用いている――を用いて,デジタルデータにそれぞれ異なるトークンを紐付ける。言わば,デジタルデータにトークンという鑑定書を付けるようなものだ。鑑定書が付くことで,デジタルデータはある意味,固有のものとなるので,その点を利用して,デジタルデータに特別な価値,たとえば希少性を与えることも可能となるわけだ。
当連載「第702回:Steamでは販売禁止に。ブロックチェーンゲームの現状」(関連記事)において,世界最大のオンライン配信サービス「Steam」からブロックチェーンゲームが排除されたことを紹介したし,例えばGSC Gaming Worldのサバイバルアクション続編「S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chernobyl」でも,ファンの猛烈な反対を受けてNFTの利用計画を白紙撤回した状況をニュース記事にしたこともある。現時点でこれらの技術に対するゲーマーからの評価は,それほど芳しくない。
それでも,例えばEpic Gamesストアでは,同サービスにおける初めてのブロックチェーンゲームとなる「Blankos Block Party」というMythical Gamesのパーティゲームのサービスが9月28日から始まっているし,東京ゲームショウ2022でもYGG JapanとMARBLEXがSNKの対戦格闘ゲームをライセンスしたブロックチェーンゲーム「THE KING OF FIGHTERS ARENA」が公開されるなど,注目すべき動きもある。
さらに,欧米では気になる動きも出始めている。ゲーム業界の大ベテランたちが,ブロックチェーンゲームに活路を見出そうとしているのだ。彼らは1970年代から80年代にかけて,「パソコン」という新しいテクノロジーを自分のクリエイティビティの源泉として奮闘した先駆者たちであり,そんな彼らが新しいゲーム市場の未来像としてブロックチェーンに照準を合わせているのは興味深いところかも知れない。以下に,そんな彼らのプロジェクトを紹介しておこう。
ウィル・ライト氏の「VOXverse」
「SimCity」の生みの親として知られるウィル・ライト(Will Wright)氏が,同じくクラシックゲームの名作「Where in the World is Carmen Sandiego?」の開発者であるローレン・エリオット(Lauren Elliott)氏とともに新たに起業したGallium Studiosが,Gala Gamesと提携して開発を進めているのがメタバース「VOXverse」だ。首都“ボクセロポリス”を中心とした,ボクセルベースのキュービックな世界の中で,例えば塩を生産するなら海のバイオームに,スパイスなら砂漠のバイオームに,といった形でプレイヤーがさまざまな地域を冒険して生産活動に従事したり,気に入った地域を開拓したりするのを楽しむことができる。広大な世界の3分の2の土地は,プレイヤーが購入することができる。
「VOXverse」の特徴的な部分が,プレイヤーキャラクターとなるNFT“VOX”を使って他のプレイヤーやキャラクターとインタラクトすることで得る“評判”システムで,Liked(好まれる),Trusted(信用される),Feared(恐れられる),Famous(有名)という4つのパラメータが変化していくというものだ。例えばプレイヤーが入手したキャラクターがゾンビなら,Feared値が,ヒーラーであればTrustedがデフォルトでは高くなっているが,ゾンビが踊りをマスターするとLiked値が上がるので,デフォルトのゾンビとは異なる存在に変わっていく。そうしてキャラクターに個性を付けることで,そこにレアリティが生まれるのだという。
なお,Gallium Studiosは,同じくブロックチェーン技術を使った「Proxi」という作品も出がけており,こちらは脳トレパズルが主体の,「VOXverse」とは異なるジャンルのゲームになるとのことだ。
「VOXverse」公式サイト
ピーター・モリニュー氏の「LEGACY」
「ポピュラス」や「ダンジョン・キーパー」,「ブラック&ホワイト」など“ゴッドゲーム”を切り開いてきたピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏の新作「LEGACY」の存在が初めて世に出たのは2019年2月のことだった(関連記事)。その後Gala Gamesとのパブリッシング提携によってブロックチェーン化し,2021年度末から“土地販売”も行われており,ロンドン近辺を模した広大なマップが公開された。
「LEGACY」は,ジャンルで言えばビジネスシミュレーションだ。プレイヤーは,ロンドン地域の端っこで,スタートアップとして小さな工房をはじめ,自分で生産した作物や鉱物を,関連ビジネスを手掛けるほかのプレイヤーと交換して収入を得ては新しいツールやビジネス,何千もあるパーツ作りに投資し,やがては新しい大きな土地を購入して工場を拡大する。そして,より精工な機械などを商品とするようになり,やがてはさまざまな分野に手をかける巨大企業に成長させていくというわけだ。自分の村や町そのものもマネージメントしなければならず,普通のシミュレーションゲームとしても楽しめそうだが,プレイヤーが作り出したものが品評会で評価されれば,その価値は高まっていくという。
「LEGACY」公式サイト
リチャード・ギャリオット氏の「Iron and Magic」
「Ultima」シリーズおよび「Ultima Online」で,RPGジャンルの新時代を切り開いてきたリチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏の動向については,2022年4月のニュース記事でも紹介したとおり。これ以上の情報はまだほとんど公開されていないが,DeMetaというブロックチェーンゲームのメーカーとの協業によって開発中の新作は,コードネームが「Iron and Magic」となったことが最近になって発表されている。
DeMetaが展開するメタバース「DeVerse」の中核を成すと思われる「Iron and Magic」は,既報どおりであれば「Ultima」風ファンタジーRPGになるとともに,購入した土地に設置したショップに,冒険で得たレアアイテムや自分で作り出したアイテムなどを並べ,他のプレイヤーに販売できる。それだけではなく,宿屋や酒場などのエンターテイメント施設を運営して参加費を徴収したり,ダンジョンそのものをデザインして運営することも可能なようだ。
「Iron and Magic」公式サイト
グレアム・ディヴァイン氏の「Metropolis Origins」
1980年代にゲーム開発をはじめ,Trilobyte時代には「7th Guest」や「11th Hour」といった,実写映像をふんだんに利用した今で言うインタラクティブ・ムービー風のパズルゲームで一世を風靡したグレアム・ディヴァイン(Graeme Devine)氏。その後はid Softwareで「Quake III Arena」のデザイナーとして活躍したほか,これまでもMicrosoft Game StudiosやApple,Magic Leapなど業界の最先端を渡り歩いてきた彼が,「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー」で知られるコミックアーティストのアンディ・ランニング(Andy Lanning)氏と組んで開発中なのが,NFTプラットフォームAtomic Hub(関連リンク)と提携したブラウザーベースのデジタルカードゲーム「Metropolis Origins」だ。
「Metropolis Origins」は,ディヴァイン氏が10代の頃に作ったゲーム作品の世界観を利用したサイバーパンク系のストーリーを持ち,プレイヤーは250種類のカードの中から35枚を選んでデッキを作り,他のプレイヤーと対戦していく。毎ターン“データ”と呼ばれるリソースが1ずつ増加していき,後半になるほど強力なカードを行使できるようになる。ルール的にはオーソドックスなカードゲームだ。2021年11月に,全カードを50ドルで販売するFounder's Packが発売されているが,現在もまだテストフェーズにあるとのことだ。
「Metropolis Origins」公式サイト
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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