インタビュー
チップチューンの祭典「BLIP FESTIVAL」がついに日本国内で開催! チップチューンユニットYMCKと,ゲームミュージック界の重鎮田中宏和氏に話をうかがってきた
「BLIP FESTIVAL」は,ニューヨークのチップチューンレーベル8bit peopleおよびニューヨークの非営利芸術機関The TANKが主催する,世界最大のチップチューンフェス。2006年の12月にスタートした同イベントは,以降ニューヨークで開催(※昨年はヨーロッパで開催)されてきたもので,今回のBLIP FESTIVAL TOKYOはアジアで初の開催となる。
ちなみにチップチューンとは,主に8bitマシン(PCやファミコン,ゲームボーイなど)に搭載された音源(もしくはそれをエミュレートした音源)で演奏される,懐かしくも新しい音楽のこと。日本国内では,それほど知られているジャンルではないが,アメリカやヨーロッパではすでに,チップチューンに特化したフェスがいくつも行われ,音楽シーンで注目を集めている。
「BLIP FESTIVAL TOKYO」オフィシャルサイト
今回は,「BLIP FESTIVAL TOKYO」に先駆け,出演アーティストの中から,チップチューンユニットYMCKのメンバーと,数々のゲームミュージックを手がけてきたHIP TANAKA.EXこと田中宏和氏に,合同インタビューをする機会を得た。「BLIP FESTIVAL TOKYO」にかける意気込みや,チップチューンに対する想いなどが聞けたので,チップチューンファンだけでなく,ゲームファンもぜひチェックしてほしい。
YMCK Yokemuraさん(以下,Yokemuraさん):
スウェーデンやアメリカのチップチューンアーティストに,日本で会えるというのが嬉しいですね。
YMCK Midoriさん(以下,Midoriさん):
YMCKは4年前に,ニューヨークのBLIPに出たんです。それまで,チップチューンをやっている人はまだ少ないだろうなと思ってたんですけど,実際に現地へ行ってみて,チップチューンアーティストが大勢いたことにビックリしました。
そういう活況がずっと続けばいいなって思っていたら,実際に続いていて,しかもBLIPが日本でも開催されることになって,本当に嬉しく思っています。このイベントが,チップチューンをまだ知らない日本の人に向けて,いい影響を与えるんじゃないかなと期待しています。
YMCK Nakamuraさん(以下,Nakamuraさん):
心底嬉しいですね。僕は出演する側なんで,本当は考えなくちゃいけないこともいっぱいあるんですけど,とにかく楽しもうと思います。そうすればお客さんも楽しんでくれるんじゃないかなと,そういうスタンスで望んでいきたいと思います。
僕はこのイベントは初めてなので,あまりよく分からないんですけど,以前チップチューンの,とあるコンピレーションアルバムを聴いて,「あっ,こういう人達がいてんねんな」って思って,すごく興味を持ったんです。それはずっと前から思ってたので,今回実際に出演できることがとても嬉しいです。
――YMCKは4年ぶりに,ニューヨークから東京へ場を移して「BLIP FESTIVAL」に出演するわけですが,その間,国内におけるチップチューンの状況もいろいろと変わってきたと思います。それについてはどう思われますか?
Yokemuraさん:
まず日本のファンの人達が,アメリカやスウェーデンのチップチューンのライブを見てどう思うかなと,その反応が楽しみです。
日本ではクールにライブする人が多いんですけど,あっちのアーティストはかなり熱いので,それを見て日本のチップチューンファンがどういう反応するのか見てみたいですね。
Midoriさん:
チップチューンって機材も特別なものだし,一般的に難しい音楽って思われがちだと思うんです。でも私の個人的な意見としては,そんなことはどうでもよくて,普通に音楽として楽しんでほしいという思いが強いんですね。
実際ライブが始まったら,チップチューンであることを忘れるくらい,純粋に“音楽”を楽しんでいる人がいっぱいいます。ですので,そういうことにとらわれないで,気軽に来てほしいと思います。
Yokemuraさん:
日本の人は,どういう機材を使っているのか気になっちゃう人が多いみたいで,結果的にクールな感じのイベントになることが多いんですよ。でも今回「BLIP FESTIVAL TOKYO」が行われることによって,海外のアーティストを見た日本人がカルチャーショックを受けるんじゃないかと。そういう楽しみ方もできると思います。
Nakamuraさん:
ニコニコ動画などを通して,チップチューンが身近になったという気がしますね。実際に見てみると,ちょっと「ぴこっ」ってなっただけで,「あっ,これチップだ」ってコメントしてあったりとかするので,熱心なチップファンの方は「ちっ,にわかが!」とか思っちゃうかもしれませんが(笑),そういわずに,一見さんを暖かく迎えてほしいですね。
YMCKもこの4年間でライブのやり方が変わってきていて,ロックやダンスフロアを意識した要素を入れるようになってきたんです。そんな,ライブ感を増した今のYMCKと,欧米勢との対決が楽しみです(笑)。
――対決しちゃうんですね(笑)。
Yokemuraさん:
いい意味で化学反応が起こればいいなと(笑)。
Midoriさん:
実は,前はライブでMCもなかったんですよ。だけど最近はベラベラ喋るようにしているし,雰囲気によっては私達のほうから,お客さんに歩み寄ることもします。
――YMCKさんのパフォーマンスが変わったことによって,お客さんの反応に変化はありましたか?
Midoriさん:
変わったと思います。お客さんの反応を見ると「前よりも楽しそうだな」って感じますしね。
Yokemuraさん:
前はゆっくり鑑賞してもらっているという感じが強くて,僕らもそれを望んでいたんですよ。でも最近は,僕ら的にも踊れる感じのほうがいいなっていう考えにシフトしてきています。
Midoriさん:
対バンがロックな感じだと,YMCKでもギターを持ってきたりしますよ(笑)。お客さんの層やイベントのコンセプトに合わせて変化させる傾向が強くなってきたと思います。
田中氏:
緊張してます(笑)。今までは,チップチューンではゲーム関係の音楽しか作ったことがなかったんですけど,ここ数年で,普通の音楽をチップチューンで作る機会が多くなり,まあ,挑戦とは言いませんが,チップで音楽を作るっていうことに対して,色々思う部分はありますね。
もう一つは,大きな音を出すのが楽しいというのがあります。ゲームボーイもファミコンも,大きな音を出すと本当に面白いんだよね。それはあらためて思いました。なのでクラブのイベントで大きなスピーカーでガーンと音を出すと,「これはたまらんものがあるな」って思いますよ。
――皆さんにとって,チップチューンの魅力とは?
Yokemuraさん:
どこをって言われると難しいんですけど,強いていうなら,波形自体はトゲトゲしてる割に,いざ曲として組んでみると柔らかい感じだったりするところですね。あと,3和音しかないのに分厚い感じになるところも好きです。
Nakamuraさん:
数種類の音しかないのに,意外とどんなジャンルの音にも対応できる柔軟なところですかね。あと,ファミコンやゲームボーイに限って言えば,たった3和音や4和音っていう限られたエリアの中で作るマゾっけですね。それが楽しいと思います。
田中氏:
3和音でチープだから,逆に“人”が出てくるよね。それが一番の魅力かな。やっぱりチップチューンを聴くと,みんな個性的なんですよ。
Yokemuraさん:
音色そのものが,想像力を限定しないんですよね。たとえばバイオリンっていう具体的な音色が出ると,どうしてもバイオリン風の奏法にしなきゃいけないじゃないですか。でもチップチューンにはそれがない。そこがいいですよね。
Midoriさん:
昔のゲームでも,ドットで作られたお姫様ってすごく魅力的に見えたじゃないですか。それはプレイヤーそれぞれが,そのお姫様をいろんな風にイメージできたからだと思うんです。チップチューンも同じで,これってフルートで作られた旋律なんじゃないかとか,いろんなこと想像できるから,それも魅力だなって思います。
――では最後に,「BLIP FESTIVAL TOKYO」に向けての意気込みをお願いします。
Midoriさん:
このイベントは見逃したらいけないと思います。歴史の目撃者になってください!
Yokemuraさん:
とにかく盛り上げたいですね。
Nakamuraさん:
僕自身楽しみます。
田中氏:
まあ,やってみようと思います(笑)。
「BLIP FESTIVAL TOKYO」オフィシャルサイト
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