2007年11月15日2:01PM,AMDは新しいGPU製品シリーズ
「ATI Radeon HD 3800」を発表した。同製品は開発コードネーム
「RV670」として知られてきた製品で,同「R600」こと
「ATI Radeon HD 2900 XT」をベースに,製造プロセスを80nmから55nmへと微細化し,PCI Express 2.0への対応を果たし,さらに世界で初めてDirectX 10.1に対応したGPUとなる。パフォーマンス検証は
レビュー記事に任せ,本稿では,ATI Radeon HD 3800の特徴をまとめてみたい。
新しい命名ルールを採用した“HD 3800”系列
55nmプロセスの採用で動作クロックが大きく向上
今回リリースされたのは
「ATI Radeon HD 3870」と
「ATI Radeon HD 3850」の2モデル。「あれ,『XT』とか『Pro』とかは?」と思った人もいるだろうが,AMDは本シリーズから,新しい命名ルールを適用している。
リファレンスカードのイメージ。左がATI Radeon HD 3870,右がATI Radeon HD 3850のもの
|
|
AMDは,ATIブランドのグラフィックス製品にも,CPUのネーミングルールに準じた新型番を採用。世代とファミリー名,ファミリー内のパフォーマンス差が分かりやすい4桁型番となった
|
ポイントは,「CPUのモデルナンバーと同等のものが適用されている」点で,4桁の型番のうち上一桁がアーキテクチャの世代,二桁めがファミリー(※同一アーキテクチャにおけるハイエンド/ミドルレンジ/ローエンドといった市場セグメントに応じたモデル分け),そして下二桁でファミリーにおけるハイエンド〜ローエンドの違いを示すようになっている。旧ATI Technologies時代から用いられてきた「XT」やら「Pro」やらといった英字は基本的に使われなくなり,
製品の世代や上下関係は,数字の大きさで簡単に理解できるようになる。
なおAMDによれば,「70はXT,50はProに相当する」とのことで,今後XTXやLEなどに相当するような数字が出てくるものと思われる。
ATI Radeon HD 3800シリーズのブロックダイヤグラム。メモリインタフェースが256bit幅に変更されてはいるものの,アーキテクチャ的にはATI Radeon HD 2900 XTから変わりない
|
さて,ATI Radeon HD 3800シリーズは,ベースとなったATI Radeon HD 2900 XTと同じく,320基のStream Processor(ストリームプロセッサ)を搭載し,16基のテクスチャユニットと,同じく16基のレンダーバックエンドを搭載する。すなわち,基本的なアーキテクチャに変更はない。
では,ゲームパフォーマンスを左右するスペック的には何が異なるのかというと,ATI Radeon HD 3800シリーズの2モデルでは,メモリインターフェースが512bit(リングバスの採用で上り下りとも512bit幅の1Gbit幅相当を実現)から256bit(同512bit幅相当)へと簡略化されたのが,最大の違いだ。
ATI Radeon HD 3870 GPUパッケージ
|
これは,プロセス技術が65nmを飛び越えて55nmへと2世代分進化したところで,半導体そのものの面積を示すダイサイズが408平方mmから192平方mmへと,半分以下に小型化したことが影響している。チップサイズ(=パッケージサイズ)も小さくなって,512bitリングバスメモリインタフェースを実装するだけの出力ピンを確保できなかったというわけだ。
ちなみにATI Radeon HD 3800シリーズでは,ATI Radeon HD 2900 XTが搭載せず,ATI Radeon HD 2600/2400シリーズで初採用となった高解像度ビデオ再生機能の「UVD」(Universal Video Decoder)が追加されている。そういった“足し引き”もあって,トランジスタ数はATI Radeon HD 2900 XTの7億から6億6600万へと,若干ながら減っている。
トランジスタ数はATI Radeon HD 2900XTの7億から6億6600万に減り,ダイサイズは55nmプロセスの採用で半分以下となった。これにより省電力化と高クロック化を両立したATI Radeon HD 3870は同HD 2900 XTと同等のパフォーマンスを実現したという
|
ATI Radeon HD 3800シリーズでは,プロセスルールの微細化に伴って大幅に消費電力を引き下げられつつ,動作クロックを大幅に引き上げられているのも特徴だ。事実上ATI Radeon HD 2900 XTを置き換える存在となる,上位モデルのATI Radeon HD 3870では,実際にATI Radeon HD 2900 XTを上回るコアクロックを実現しているほか,GDDR4 SDRAMメモリチップの採用により,メモリクロックの大幅な高速化も図られており,メモリインタフェース変更の影響をカバーしている。
実際,ATI Radeon HD 3870と同2900 XTを比較してみると,コア/メモリクロックは前者が775MHz/2.25GHz相当,後者が740MHz/1.65GHz相当。演算性能(※積和算)比較だと,497GFLOPS対475GFLOPSで,ATI Radeon HD 3870における性能向上が見て取れる。このあたりは,旧ATI Technologiesの命名ルール――「RV系列はベースとなるR系列の下位モデル」――を記憶している人ほど,違和感をおぼえるところかもしれない。
1600×1200ピクセル以上の高解像度やアンチエイリアシング環境下では,PCI Express 2.0でシステムメモリへのアクセスが高速化され,性能向上があるとしたスライド
|
また,コアクロックの高速化は,高解像度時における3Dゲームパフォーマンスを引き上げるのにも役立っている。ATI Radeon HD 2900 XTでは,コアクロックの低さが高解像度でパフォーマンスが伸びない大きな要因となっていたが,ATI Radeon HD 3870では,コアクロックの高速化とPCI Express 2.0への対応によって,弱点だった高解像度環境で,大幅なパフォーマンスアップを果たしているとAMDは主張する。
AMDによる,ATI Radeon HD 3800シリーズのベンチマーク結果。ATI Radeon HD 3870はGeForce 8800 GTSやATI Radeon HD 2900XTよりもおおむね高いパフォーマンスを示すほか,ATI Radeon HD 3850はGeForce 8600 GTやATI Radeon HD 2600 XTを圧倒するとのこと
|
|
このほか主なスペックは
表にまとめたので,ぜひ参考にしてほしい。
※1 公開されているのはテクスチャフィルタリングレートの値(bilinear filtered texels per clock)であるため,それを参考までに示した
※2 実際の仕様はカードによって異なる
|
世界初のDirectX 10.1対応GPU
DirectX 10.1でもたらされるものとは
DirectX 10.1の強化ポイント。Shader Modelは4.1となり,アンチエイリアシングやHDRライティングの表現力が向上する。また,より複雑な3D表現を実現できるよう,キューブマップの配列構造や,マルチレンダリングターゲットごとに独自のブレンドを施すことが可能になる
|
純然たるアーキテクチャ面以外における最大の特徴は,Windows VistaのService Pack 1で正式にサポートされるDirectX 10.1に対応することだ。
わずか0.1のアップデートではあるものの,DirectX 10.1ではプログラミング性が向上するほか,FP32フィルタリングやINT16ブレンディングのサポートによるHDR(High-Dynamic Range)ライティング表現が向上する。また,四つのサブピクセルそれぞれの色やライティングデータを残したままアンチエイリアシング処理を行う4xマルチサンプルアンチエイリアシングのサポートが必須となるため,結果としてアンチエイリアシング機能も強化される。
AMDは,ATI Radeon HD 3800シリーズのリリースに合わせて,DirectX 10.1のライティング機能を活用した「PingPong」というデモを公開した。簡単なゲームとなっているこのデモは,複数の光源が混ざり合う室内で数千のボールを発射し,その動きを物理演算処理しつつ,自然な光の反射と影を表現するというものだ。
PingPongデモ
|
DirectX 10.1では,キューブマップ(=6面体構造のテクスチャ)の配列構造そのものをテクスチャマップに格納し,繰り返し利用することで,GPUの負荷を軽減。さらに,16から32に増やされた頂点シェーダ入出力と,DirectX 10で最大8に拡張されたピクセルシェーダの出力バッファのそれぞれに,個別のブレンディングを施せるようになることで,より複雑な3D表現を高速に処理できるようになるが,PingPongはそのデモも兼ねている。
また,同デモではDirectX 10.1の4xマルチサンプルアンチエイリアシングも実装され,複雑な光の反射やソフトシャドウのディテールを失うことなく,ジャギーの少ないボール表現を可能にするなど,DirectX 10.1の強化ポイントがうまくまとめられている。
ボールの動きは物理演算で処理され,複雑な光の反射やソフトシャドウも再現される。なお,中央の線を挟んで右側は,DirectX 10.1の機能(Global Illumination)をオフにした従来GPUでの表現例 |
四つあるサブピクセルの色やライティング情報も保持できる4xマルチサンプリングアンチエイリアシング(Multi-Sampling Anti-Aliasing)をサポートし,滑らかな球体表現と自然な光や影の表現を両立する |
言うまでもなく,DirectX 10.1対応ゲームが登場するのは,Windows Vista Service Pack 1のリリース後であり,現時点ではピンとこない人のほうが多いだろう。とはいえ,PingPongのデモからは,マイナーチェンジながら,GPUの表現力がさらに強化される,DirectX 10.1の可能性を感じ取れるのも確かである。
いよいよデスクトップGPUに実装された
省電力機能「ATI PowerPlay」
ATI PowerPlay機能をサポートすることで,一般的なデスクトップ利用環境では,消費電力を3分の1以下に低減。カードの静音化にも寄与する
|
先ほど示した表にもあるとおり,ATI Radeon HD 3800シリーズは,55nmプロセスの採用により,従来のATI Radeon HD 2900XTと比べて約半分の消費電力を実現しているが,同シリーズではさらに
「ATI PowerPlay」を搭載するのも特徴だ。
ATI PowerPlayは,ATIブランドのノートPC向けGPUでは以前から採用されていた省電力機能で,GPUの利用状況に応じて動作クロックや動作電圧を動的に制御することで省電力化を実現する機能。デスクトップPC向けGPUとして初めてATI PowerPlayを実装したATI Radeon HD 3800シリーズでは,
- Intensive Gaming:激しいゲームプレイ,の意。3Dパフォーマンスを最大限必要とするゲーム環境
- Light Gaming:あまり3Dパフォーマンスを必要としない,カジュアルゲームなど“軽めの”ゲーム環境
- General Use:一般的なデスクトップでの利用
という3モードを持ち,モードごとに動作クロックや動作電圧を切り替えることで,省電力化を図っている。ATI Radeon HD 3870の最大消費電力は105W,ATI Radeon HD 3850は同95Wだが,一般的なデスクトップでの利用を想定したモードではそれぞれ34W,26W。かなりインパクトのある低消費電力化といえそうだ。
GPUコアクロックとメモリクロックを動的にオーバークロック動作させる「ATI OverDrive」もサポート
|
その一方,ATI Radeon HD 3800シリーズでは,既存のATI Radeonファミリーと同様に,専用コントロールパネル「ATI Catalyst Control Center」から利用できるオーバークロック機能「ATI OverDrive」を引き続きサポート。ATI Radeon HD 3800シリーズのリファレンスカードでは,動作クロックにやや余裕のあるメモリチップを搭載することで,エンドユーザーによるオーバークロックで,定格よりも高い性能を引き出しやすくなっている。
グラフィックスカード3枚差し,4枚差しによるスケーリングを可能にするCrossFire Xは,2008年第1四半期のサポート開始予定
|
パフォーマンス向上に関して続けると,ATI Radeon HD 3800シリーズは,AMDが北米時間2007年7月26日に開催した投資家向け説明会「AMD Analyst Day 2007」で明らかになった,最大四つのグラフィックス機能によるCrossFire環境
「CrossFire X」もサポートする。ATI Radeon HD 3800シリーズの発表時には対応チップセットが存在しないことから想像がつくかもしれないが,マザーボードやドライバといったプラットフォーム環境整備の都合により,2008年第1四半期からのサポート開始となる予定だ。
左は,AMDによるATI Radeon HD 3870によるCorssFire Xのパフォーマンス。右は日本AMDによる国内の事前説明会で示された,「Microsoft Flight Simulator X」の8画面同時出力デモの様子。グラフィックスカード4枚差し環境では,CrossFire動作を無効化すると,8画面同時出力が可能になるとアピールされた
|
|
AMDは,2008年早々にもフラグシップモデル「ATI Radeon HD 3870 X2」を市場投入する。RV670チップ2個を1枚のカードに搭載したGPUモデルだ
|
また,ATI Radeon HD 3800シリーズの最上位モデルとしては,2008年初頭に開発コードネーム「R680」こと
「ATI Radeon HD 3870 X2」が投入される予定が明らかにされている。「4桁数字で製品の位置づけを示す」方針がいきなり頓挫しかねない「X2」だが,これはAthlon 64 X2と同じく,1枚のカードにGPUを2個実装したマルチGPUグラフィックスカード。実際にはATI Radeon HD 3870を2個搭載した,
“RV670×2”仕様となる。
想定売価は低め
低消費電力と相まって面白い存在に
ATI Radeon HD 2900 XTと同2600 XTの間を埋める存在と,AMDはATI Radeon HD 3870/3850を位置づける
|
気になる想定売価は,ATI Radeon HD 3870が219ドル,ATI Radeon HD 3850が179ドル(※いずれも消費税などは考慮されていない。なお,前者については国内発表会で,通訳が210ドルと訳していた)。価格帯的に,ATI Radeon HD 3870がGeForce 8800 GTを下回ってコストパフォーマンスで勝負し,ATI Radeon HD 3850は,(GeForce 8600に水を空けられていた)ATI Radeon HD 2600 XTと,ATI Radeon HD 3870との間を埋めるポジションとなる。
DirectX 10対応タイトルが,ようやくパラパラと揃い始めたタイミングで,DirectX 10.1対応と言われても,気が早すぎる感は否めないが,55nmプロセスとATI PowerPlayの採用で,消費電力の大幅な低減が期待できる点は,一定の評価ができるはずだ。3万円以下で購入できる(はずの)グラフィックスカードが,ATI Radeon HD 2900 XTと同等の性能を発揮できるとすれば,その点も大いに魅力だろう。現行のゲームタイトルでどれだけの性能を発揮できるかについては,別途用意してある
レビュー記事をぜひチェックしてほしい。