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[GDC 2013]「MYSTは自分達のために作った」。開発者が語る「MYST」制作の舞台裏がGDCのレクチャーに登場
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印刷2013/03/28 19:12

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[GDC 2013]「MYSTは自分達のために作った」。開発者が語る「MYST」制作の舞台裏がGDCのレクチャーに登場

画像集#001のサムネイル/[GDC 2013]「MYSTは自分達のために作った」。開発者が語る「MYST」制作の舞台裏がGDCのレクチャーに登場
 「MYST」はアメリカで1993年,Macintosh向けに発売されたアドベンチャーゲームだ。1990年代のベストセラータイトルの一つであり,MYSTをやるためにCD-ROMドライブを購入した人が多数にのぼるとも言われている。その後,PCを初めとする多数の機種に移植され,日本でも「ミスト」というタイトルで発売されているので,プレイした経験のある人も少なくないはずだ。

 サンフランシスコで開催中のGame Developers Conference 2013で,そんなMYSTを振り返るレクチャー「Classic Game Postmortem: Myst(クラシックゲーム回顧録:ミスト)」が行われた。スピーカーはMYSTのデベロッパであるCyan World(旧:Cyan Production)を創設したMiller兄弟の弟,Robyn Miller氏だ。

Robyn Miller氏
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 もともとのアイデアは兄のRand Miller氏が,初代Macintoshが発売された1984年からしばらくたって,「インタラクティブなストーリーブックを作りたい」という話をRobyn氏に電話してきたことに始まるという。当時,Robyn氏はワシントン州に,Rand氏はテキサスで暮らしていたが,Rand氏がワシントン州に来る形で1987年,Cyanが創設された。

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 同社から最初にリリースされたのは,1988年の「The Manhole」で,これは1987年にAppleが公開したオーサリングツール「Hypercard」を使って作られていた。プレイヤーがマンホールのフタを開けると別の世界が広がっており,マンホールを通じてさまざまな場所を訪れるという,MYSTの萌芽となる作品だ。The Manholeが予想外に売れたあと,Cyanは数本の作品を制作したが,「Spelunx and the Caves of Mr. Seudo」を1991年にリリースしたあと,新作タイトルとなるMYSTの制作を開始する。

The Manholeのアイデアと,ゲーム画面
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 基本のアイデアは,「ポイント&クリックの一人称視点のゲーム」「プレイヤーはゲームの主人公」そして,「あちこちを探検する」というもの。そのアイデアをまず,これまでパブリッシングを担当してくれていたActivisionに持ち込んだところ,「子供向けに作るように」と言われて,がっくり落ち込んだとRobyn氏は言う。
 当時としては珍しいことかもしれないが,彼らは自分達の新作をゲーム経験のない大人でも楽しめる作品にしようと考えていた。道徳や倫理観に基づく選択を,どこにでもいる普通の人である主人公に求めることで,プレイヤーの感情に訴えるようなゲームを目指していたのである。
 そんなときに,手をさしのべてくれたのが日本のSUNSOFT(サン電子)だった。SUNSOFTのおかげで開発の目処が立ったのは1991年で,Robyn氏の記憶によると,George H. W. Bush(ジョージ・H・W・ブッシュ)第41代大統領の時代であり,携帯電話はおろか,インターネットも身近にはなかった頃だった。

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最初の企画書
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開発の基本要素

 もう一度,アイデアを整理した彼らは,「ノンリニアな物語」「普通の主人公」「進歩的なグラフィックス」「わざとらしくないパズル」「道徳的/倫理的な選択」に加え,「ミステリー」という6つの要素をゲームの基礎に据えることにした。出てくるものを次々に撃つだけのゲームが多い時代に,これらは非常に個性的なコンセプトといえるだろう。
 アイデアソースとしてRobyn氏は,兄のRand氏がプレイしていた「Dungeons&Dragons」や,Robyn氏が遊んでいたテキストベースのRPG「Zork II」,さらには数々の古典ファンタジーや,「スター・ウォーズ」の神話的な雰囲気などを挙げた。「あちこちから,盗みまくりですね」とRobyn氏は過去を振り返った。

Zork II
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 対応機種はMacintoshを選んだが,これは当時のコンシューマゲーム機が,HDDを持たず,メモリも少なかったためだそうだ。この段階で舞台となるのは「島」と決まっており,そこからさまざまな時代に行ける――「Myst Island」を中心に,「Stoneship Age」や「Mechanical Age」といった世界が放射状に広がっている――というゲームシステムの実現には,コンシューマゲーム機ではまだ不十分だったのだ。

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ゲームの構造
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当時のコンシューマゲーム機

 という感じで全体の構造を決めたあと,開発は細部の要素へと進んだ。
 まず挙げられたのは「パズル」。世の中にはパズルが嫌いという人は少なくなく,Robyn氏もその一人だったという。そこでMYSTでは,パズルだと感じさせないパズルを目指すことになった。つまり,風車やポンプなどの身近なものを題材に,観察と常識で解けるパズルというわけで,例えば水車を回すのには水を流す必要があるが,そのためには,まず水路を開かなければならない,といった感じである。

パズルの例
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 また発売後,高く評価されたグラフィックスだが,これは経験のなかったRobyn氏がおそるおそる作ったものだという。「StrataVision 3D」というグラフィックスツールを使って制作したもので,解像度でいえば544ドット×333ドットという,現在から見れば小さなものだが,それでも当時最新のMacintosh IIを使って,レンダリングには2時間から14時間かかったとのこと。ちなみに,StrataVision 3Dは,その後「あのMYSTに使われた」ということで有名になっている。

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 主人公についてはかなり悩んだという。つまり,ゲームにはほかの登場人物がほとんど登場しないため,会話によって物語を進めるわけにはいかないし,基本要素とした道徳的/倫理的な選択も,ほかの人物から提示させるわけにはいかない。というわけで考えついたのが,本である。
 MYSTでは,プレイヤーは本を媒介として,ゲーム世界に干渉を及ぼしていく。例えば本の中に閉じこめられた2人の兄弟の要求のうち,どちらを選ぶかで,選択を迫るという具合である。
 本はまた,各時代でプレイヤーをコントロールする道具にもなり,主人公は失われたページを探してゲームを進めていくことになる。かくして,本を導入することで,ゲームの見通しが非常に良くなった。ちなみに,ゲームに登場する兄弟「Sirrus」と「Achenar」を演じているのは,Miller兄弟である。

Miller兄弟
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 このほか,当時“シングルスピード”の遅い読み込みしかできなかったCD-ROMに対応するため,データの配置を工夫したり,テストを繰り返してクリックの範囲やアイテムの隠し場所を変更したりなど,ゲーム開発につきもののさまざまな紆余曲折も経験したという。ただし,タイトルだけはあっさり決まったとのこと。アメリカでのパブリッシャに決まったBroderbundに企画書を提出するとき,Robyn氏がRand氏にタイトルを聞き「MYSTだな」「いいよ」という感じで決定したようである。当初の開発予算は26万5000ドルだったが,結局その2倍以上かかってのリリースとなった。

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 MYSTの制作に当たってRobyn氏とRand氏は,「自分達のためだけにゲームを作った」という。第1作なのだから,当然シリーズのファンはいない。これまでゲームをしなかった層を狙ってるのだから,どういうものが受けるのか分からない。セールス計画など立てようもないし,誰かが彼らの作品を「ああすればよかったのに」と批判するおそれもない。というわけで,自分達が作りたいものを作るしかなかったわけだ。「結果的にそれが成功しました」とRobyn氏は述べた。

Broderbundに提出した企画書
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 講演の前は,明らかに緊張した様子だったRobyn氏。著名なゲーム開発者に比べて知名度的にいま一つであるのは間違いないし,活動時期も古い。しかし,Robyn氏が自己紹介をし,「20年前の話をします」と述べた途端,会場は大きな拍手と歓声に包まれ,それを見たRobyn氏はすっかりリラックスし,あとは弁舌鮮やかなもの。講演を終えたときの拍手も,ひときわ大きかったことを付け加えておこう。
 2008年にはiPhoneやiPadに,2012年にはニンテンドー3DSに移植されたMYST。Robyn氏はすでに去ってはいるものの,彼らが設立したCyan Worldは現在も活動中であり,今回のPostmortemをきっかけに何かが起きる……ということがあったらいいな,と考えるのは,きっと筆者だけでないのではないだろうか。

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Game Developers Conference公式サイト(英語)

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