レビュー
低価格デュアルコアCPUの横並び比較から,新製品の立ち位置を探る
Phenom II X2 550 Black Edition/3.1GHz
Athlon II X2 250/3GHz
» 初のL3キャッシュ搭載モデルと,Phenom II世代のAthlon。2種類の新型デュアルコアCPUを宮崎真一氏が評価する。1万円弱〜1万円強という,激戦区の低価格デュアルコアCPU市場へ切り込んできた両製品は,ゲーム用途を考えたとき,どのように位置づけられるべきCPUだろうか。従来製品やライバル,上位モデルと比較した結果をお届けしたい。
日本時間2009年6月2日10:01,COMPUTEX TAIPEI 2009の開幕とほぼ合わせる格好で,AMDはデスクトップPC向けCPU,下記の4製品を発表した。
- Phenom II X2 550 Black Edition/3.1GHz(以下,X2 550)
- Athlon II X2 250/3GHz(以下,X2 250)
- Phenom II X4 905e/2.5GHz
- Phenom II X3 705e/2.5GHz
本稿ではこのうち,低価格なデュアルコアCPUであるX2 550とX2 250を取り上げたい。クアッドコアの必要性が必ずしもあるわけではない現在のゲーム用途において,1万円前後で購入できるこれらデュアルコアCPUは,どう位置づけられるべきなのか。AMDの日本法人である日本AMDから入手した製品サンプルを使って,検証していくことにしよう。
なお,低消費電力版クアッドコアCPUのレビューは,別途お伝えする予定だ。
初のPhenom II X2&Athlon II X2となる両製品
違いはキャッシュ周りとメモリサポート
2製品は共通して939ピンのAM3パッケージを採用する |
日本AMDから提供された,X2 250のダイ写真。2億3400万トランジスタが,117.5平方ミリのダイに収まっている。同7億5800万,258平方mmのPhenom IIと比べると,トランジスタ数は約30%,ダイサイズは約46%で,かなり小さい |
ここで一つ確認しておきたいのは,「Phenom II X2」「Athlon II X2」という製品が,どちらも初登場になるということだ。Phenomブランドを立ち上げてからAMDはこれまで,トリプルコア以上のデスクトップPC向けCPUを「Phenom」「Phenom X4/X3」「Phenom II X4/X3」,同デュアルコアを「Athlon X2」と呼んできたのだが,このルールは2製品の登場で完全に崩れた格好である。
スペックを見比べる限り,L3キャッシュの有無で,「Phenom II」と「Athlon II」を呼び分けることになったのだろう。
ちなみに,「Athlon X2 7850 Black Edition/2.8GHz」(以下,X2 7850)が第1世代Phenom(=Agena)の4コア中,2コアを無効にしたものだったが,X2 550のダイサイズはX4 955と同じ7億5800万と発表されているので,今回も,Phenom II X4(=Deneb)の4コア中,2コアが無効になっているモデルのようだ。一方,X2 250は,新規開発のデュアルコアCPUで,こちらのトランジスタ数は2億3400万とアナウンスされている。
このほか,AM3パッケージということで,デュアルチャネルDDR3/DDR2メモリコントローラを搭載する点は共通だが,サポートするメモリのスペックが異なっている点は要注意だろう。
ところでAMDは,X2 550をCore 2 Duo E7000番台,X2 250をPentium Dual-Core E6000番台の対抗とそれぞれ位置づけている。AMDから全世界のレビュワーに渡った資料によると,対抗製品と比べて,安価でありながら,性能では上回るとのことだ。
OC検証ではともに空冷3.8GHz動作を確認
目を見張るX2 250の耐性
キャッシュ周りの仕様が異なる2種類のデュアルコアCPU。倍率ロックフリーかどうかという違いもあるため,オーバークロック耐性がどう違っているのかは気になるところだろう。今回は,後述するテスト環境で,Cooler Master製のCPUクーラー,「V8」を用いた,空冷でのオーバークロックを試すことにしている。
今回は,4Gamerのベンチマークレギュレーション7.0で採用するタイトルの「標準設定」テストがすべて問題なく完走し,かつ,CPUとメモリへのストレスツールである「Prime95」を3時間連続実行し,その間,エラーが出て停止しないという条件を満たした場合に,「安定動作」と判断することにし,X2 550は動作倍率,X2 250はベースクロックをそれぞれ上げながら限界を探っていった。もちろんCPUコア電圧も適宜,手動で引き上げつつ,である。
ちなみにこの3.8GHzというクロックは,以前,「Phenom II X4 940 Black Edition/3.0GHz」(以下,X4 940)のオーバークロックテストを実施したときと同じ値だ。X2 550は,Phenom II X4からコアを二つ減らしたものだろうと先ほど述べたが,CPUパッケージが変わっても,CPUリビジョンはX4 940と同じC3のままなので,オーバークロック耐性も同じような傾向を示しているのではないかと思われる。
続いてX2 250だが,こちらはベースクロック254MHzの15倍,3.8GHz(※正確には3810MHz)が上限となった。こちらは,ベースクロック267MHzの4GHzではOSが起動せず,同260MHz,3.9GHzでは,Prime95の実行時にシステムが落ちてしまった。
結果として,X2 250のオーバークロックテスト結果は,期せずしてX2 550と同じクロックに落ち着いたわけだが,ここで注目したいのは,動作電圧である。というのも,今回使用したMSI製の「AMD 790GX」マザーボード,「DKA790GX Platinum」は,X2 250のCPUコア電圧を1.325Vより高く設定できなかったためだ。テストに用いたBIOSのバージョンは,「Phenom II X4 955 Black Eiditon/3.2GHz」(以下,X4 955)に対応させた1.4β4で,これでもX2 250は正常に認識されるのだが……。
いずれにせよ,今回の結果は,CPUに掛かる電圧を1.455Vに高めてテストを行ったものである(※DKA790GX Platinumには,コア電圧を設定する「CPU VDD Voltage」と,CPU内部にあるコア以外の電圧を設定すると思われる「CPU Voltage」が用意されているが,X2 250では,前者を1.325Vまでしか上げられなかったので,後者を1.455Vに高めている)。コア電圧を高められれば,さらに高いクロックで動作したことは想像に難くないため,DKA790GX PlatinumのBIOSアップデートに期待したいところだ。
※注意
CPUのオーバークロック動作は,CPUやマザーボードメーカーの保証外となる行為です。最悪の場合,CPUやメモリモジュール,マザーボードなど構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer 編集部も一切の責任を負いません。
比較対象にはX2 7850 BEやX2 6000などを用意
E7500/E7400/E6300との比較も実施
また,秋葉原のPC&PCパーツショップであるパソコンショップ アークの協力で,X2 550&X2 250の対抗製品とされる「Core 2 Duo E7500/2.93GHz」(以下,E7500)と「Pentium Dual-Core E6300/2.8GHz」(以下,E6300)も用意できた。E7500は,動作倍率を下げることで「Core 2 Duo E7400/2.80GHz」(以下,E7400)相当のCPUとしても用いる。
テスト方法はベンチマークレギュレーション7.0準拠だが,GPUへの負荷が高く,CPUの性能差が表れづらい「高負荷設定」は省略し,アンチエイリアシングやテクスチャフィルタリングを適用しない標準設定のスコアのみを採用する。
なお,以下,X2 550とX2 250のオーバークロック動作時は,順に「X2 550@3.8GHz」「X2 250@3.8GHz」と表記するので,この点もあらかじめお断りしておきたい。
X2 550はE7500相当のパフォーマンスを発揮
一方のX2 250はE6300相当か
さて,まずは「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果から。グラフ1で,総合スコアである「3DMark Score」を見てみると,X2 550はE7500を,X2 250はE6300をそれぞれ上回っている。とくに,X2 250がX2 6400+やX2 7850を上回るスコアを示している点は注目に値しよう。
オーバークロックの効果は顕著だが,X2 550@3.8GHzでもX4 955に届いていない現実もある。マルチスレッドに最適化されたアプリケーションにおいて,2コアか4コアかという“コアの壁”は小さくない印象だ。
3DMark06のデフォルト設定である1280×1024ドット,標準設定におけるCPUスコア「CPU Score」をまとめたのがグラフ2だと,X2 550とE7500の関係が逆転するが,全体的な傾向自体は総合スコアとあまり変わらない。
グラフ3はFPS,「Crysis Warhead」のDirectX 9モードにおけるテスト結果となる。
このテストは,標準設定でもグラフィックス描画負荷が非常に高いため,CPUの性能差はスコアに反映され難いのだが,それでも,「Phenom II」は伊達ではないということか,X2 550が持つ,X2 7850やX2 6400+に対する優位性は割とはっきりしている。X2 550@3.8GHztとX2 250@3.8GHzが,X4 955と変わらないスコアを示している点も興味深い。
同時に,Crysis Warheadは,高速なキャッシュメモリが効くタイトルということもあり,大容量のL2キャッシュを内蔵するIntel製CPUのスコアが高め。X2 550は,定格動作だと,E6300の後塵を拝してしまう。
続いてもFPSから,「Left 4 Dead」の結果をまとめたものがグラフ4となる。
全体的な傾向は3DMark06と似た印象で,X2 550はE7500,X2 250はE6300をそれぞれ上回るスコアを示す。X2 550は,同じ動作クロックのX2 6000より,解像度を問わず50%も高いスコアを叩き出すなど,全体的にキャッシュが効いている気配だ。
オーバークロックの効果も,3DMark06とよく似ている。
FPSの最後は,「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果である(グラフ5)。
ここでもX2 550とX2 250のスコアは良好で,1024×768ドットに限れば,X2 250がE7500を上回るスコアを出している。コア当たり1MBのL2キャッシュは有効に働いているといったところか。
一方,十分に描画負荷が低いタイトルということもあり,オーバークロックの効果はほとんどない。
RPG,「ラスト レムナント」の結果をまとめたのがグラフ6で,本タイトルでは,Intel製CPUの強さが目立つ。X2 550でやっとE6300相当。3.8GHzにオーバークロックして,ようやくGPUボトルネックでスコアが“丸まる”レベルに到達するといった具合である。
これまでとは打って変わったスコアとなるのが,RTS「Company of Heroes」で,グラフ7から読み通れるのは,メモリコントローラを内蔵するAMD製CPUが有利であること,AMD製CPU間ではL3キャッシュの有無がスコアを大きく左右すること,クアッドコアCPUのメリットはほとんど,もしくはまったくないこと。X2 550はE7500に安定して大きな差を付けており,AMDのCPUアーキテクチャが理想的な形でスコアに反映された結果と述べることができそうだ。
最後はレースタイトル,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)だが,グラフ8を見るに,X2 550やX2 250のスコアは,3DMark06と同じ傾向を示している。
消費電力に明暗。X2 550はあまり下がらずも
X2 250は高負荷時が低く,魅力的に
アイドル時については,CPUの省電力機能「Cool’n’Quiet」(CnQ)および「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(EIST)有効時と無効時のそれぞれでスコアを取得することにし,その結果をまとめたのがグラフ9だ。
アイドル時に消費電力機能を無効化すると多少バラつく印象だが,有効化すると,ほぼすべて100W前後で揃った。対して高負荷時は,AMD製CPU内で比較したとき,X2 250の低さが顕著である。E7500と比べるとまだ高いものの,L3キャッシュを省略したことで,ずいぶんと低消費電力になった。
対して,クアッドコアCPUから2コアを無効化しているに過ぎないX2 550は,X2 7850と似たようなスコアになってしまった。消費電力という観点では,同じデュアルコアCPUでも,X2 250ほうにスマートさを感じる。
3.8GHzへオーバークロックするとさすがに消費電力は上がるが,それでもX4 955やX2 6400+よりはかなり低く,この点は注目しておきたいポイントといえるだろう。
なお,動作倍率を手動で変更したCPUでは,省電力機能を有効化できないため,X2 955@3.8GHzとE7400は,省電力機能有効時のスコアがはN/Aとなっている。
念のため,CPU温度もチェックしておきたい。
グラフ10に示したのは,グラフ9の各時点におけるCPU温度を,CPU内のDTS(Digital Thermal Sensor)からCPU温度を取得できるソフトウェア,「Core Temp」(Version 0.99.5 Beta)で計測したスコアだ。システムは,室温21℃の環境で,PCケースに組み込んでいないバラック状態にある。
ただし,KumaやWindsor,BrisbaneといったCPUコアではDTS値をCPU温度に補正する方法が異なり,室温以下のスコアが示されるなど,正常な値を求められない。そのため,X2 7850 BEとX2 6400+,X2 6000については,CPUクーラー研究室製の温度測定ツール「ぷりぷりてんぷ」から補正した数値をスコアとして採用し,“生データ”は別途表3に示した。
また,装着したCPUクーラーは,X2 550@3.8GHzとX2 250@3.8GHzが前述のV8。残るCPUは,AMD製品がX2 6000の製品ボックスに付属のもの,Intel製品がE6300の製品ボックスに付属するものをそれぞれ用いている。
というわけで,横並びの比較にはまったく適さないことをお断りしてからスコアを見てみると,X2 550とX2 250の高負荷時におけるCPU温度は40℃台。リテールボックス付属のクーラーで十分に低い温度を実現できており,冷却にあまり気を配る必要はなさそうである。
コストパフォーマンスは確かに高い
ゲームではL3キャッシュがとくに有用
競合と比べて消費電力が高いというデメリットは解決していないが,X2 550は,E7500と同等以上のベンチマークスコアを示す場面が多く,ことゲームにおいて,6MBのL3キャッシュは,大きな強みになっている。それでいて,価格はE7400を多少下回る程度が想定されているというのは魅力的である。
X2 250も,ほどよく消費電力が抑えられつつ,パフォーマンスはE6300と同等レベル。L2キャッシュを1コア当たり1MB持つという,かつてのAthlon 64 X2を彷彿とさせるデザインは,やはりバランスがいい。
依然として,クアッドコアCPUがゲームにおける絶対的なアドバンテージを発揮できていない状況にあって,両製品の高いコストパフォーマンスは注目に値する。ローエンドからミドルクラスのゲーム用PCを自作したいと考えている人達の間で,かなりの人気を集めそうだ。