インタビュー
システムの追加/拡張だけでなく“新たな遊び”をもたらす。「信長の野望・天道」のプロデューサーに「パワーアップキット」のアレコレを聞いた
「AIエディタ」の機能により,プレイヤー自身がルールを作り出す“本来のゲーム”に
実際に,AIエディタではどの程度まで編集できますか?
北見氏:
これは一番苦労したところで,本当に何度もリテイクをかけました。やればやるほど深く編集できるようになって,ここまで行くともうプレイヤーの方には手が付けられないだろうという部分まで掘っていけるんですよね。
そこで,逆にそうならないよう意識して開発を進めました。
4Gamer:
具体的には,どんな感じなのでしょう?
北見氏:
エディットする部分は,大きく「内政」「外交」「人事」「軍事」の4つに分けられています。
例えば内政の「技術」の概念でいえば,どの技術を優先して覚えていくかを設定できますし,施設を建てる方針なら兵糧と金のどちらを優先するか,それともデフォルトのAIで行くかを選択できます。
また外交の方針では,通常の設定に加えて,積極的と消極的,そして一切外交を行わないというように,大名のイメージに合わせた設定ができるといった具合です。
このほか,人事なら,官位と褒賞を優先的に与える武将や,あるいは登用の条件が大雑把なのか,細かいところまで見るのかといったところを設定でき,軍事では,攻略の順番の指定や,隣接する敵国が少なくなるよう攻略していくなどの方針を設定できます。また,兵力を多く蓄えておくか,防衛時に兵力を増やすか減らすかといったことの指定も可能です。
4Gamer:
なるほど。ある程度絞り込んでいるといっても,結構いろいろ設定できるんですね。
北見氏:
軍事では,さらに出陣する部隊ごとの設定もできます。通常ですと,最初に決めた目標に到達する前に近づいてきた敵がいる場合,そちらを優先的に攻撃するのですが,それをせずに目標だけに専念させるとか。これによって早めに動く,早めに撤退させるといったことも可能になります。
4Gamer:
それだけ設定できるとなると,ユーザーインタフェースの設計も大変じゃないですか?
北見氏:
ええ,まだまだ調整を重ねることになりそうです。AIエディタ全般に関していえば,最初は「何マスまで近づいたら迎撃」「城には何人残す」のように,プレイヤーの方が具体的な数字を指定できるようにとも考えたのですが,そこまでやると逆に使いにくいですよね。
4Gamer:
細かくいじれるからこそ楽しいという人もいるでしょうが,決して多くはないでしょうね。
北見氏:
ええ。細か過ぎることにウンザリして放り出されてしまうよりは……と考えた結果が,現状の形式です。心情としては,武田家を思うままにいじったら,上杉家もいじりたくなりますよね。そのときに,また全部設定するというのは大変です。
また,内部的に特殊な処理が入るので,ゲームのテンポも遅くなってしまいます。そういったチューニングも悩ましいところです。
4Gamer:
エディットすると言っても,拘ると一つ一つ時間がかかりそうですし,全部やっていたら,いつゲームを始められるんだろうというような状態になりそうです。ちなみに,AIエディタを企画した発端は,やはりプレイヤーからの要望なんでしょうか?
うーん,直接の要望としてはなかったですね。ただ,こういうゲームにはさまざまな角度からのご要望をいただきます。それを何とかしたいと思っていろいろ考えているうちに,AIエディタのアイデアが生まれました。
やはり,どんな製品を作っても,絶対に「こうしてほしい」というリクエストはいただきます。その個々のリクエストを直接的に実現していくのはあまり難しくはないんです。それよりも,集まったリクエストををどう昇華して,形にしていくのかということの方が重要で,今回はうまくいくかもしれないという感触を得ています。もちろん,このAIエディタにもさまざまなご意見をいただくことになるでしょうね。
4Gamer:
しかし,自分でいじれる部分が多いので,かなりの要望が実現できそうですよね。
北見氏:
私個人の見解からすると,AIエディタは,機能だけのものなんです。しかし,機能だけで新しい遊びを提供できています。しかも,その遊びは我々開発側が提供するものではなく,プレイヤーの方が自らの工夫で作り出すものですから,ある意味,無限に生まれるのではないかとも考えています。一人でも,みんなで持ち寄っても遊べるという面も取り入れることができました。
私としては,本来,ゲームはこうあってほしいとも思っています。昔からゲーム誌などでも,自分の中でルールを設けて楽しむ,やり込むというような企画がありますよね。今回,AIエディタの実現によって,さらに多くの方にそうした遊び方を体験していただけるのではないかと期待しています。
4Gamer:
それこそが,これまでのパワーアップキットに入っていた従来のエディタでは実現できない新しい遊び方,新要素になるというわけですね。
北見氏:
ええ。「あの武将より,この武将の方が合戦が上手い」といった設定はできても,そこから遊びに広がりを持たせることが難しかったんです。今回,自分でAIを編集できるようにしたので,さらに広がっていく可能性が生まれたと思います。
プレイヤーが新たな戦略を考え出せるよう導入した新システム「文化」
そのほかに,新しい要素はあるのでしょうか?
北見氏:
「天道」の戦略の幅を大きく広げる「文化」という概念を導入しています。パワーアップキットは,10年ほど前から,従来のゲームシステムに新しい要素を追加し,もう一度最初から広く遊べるようにしているのですが,今回の文化はこれに当たります。
4Gamer:
シミュレーションゲームで文化というと,より上位の生産ができるようになったり,パワーアップしたりというイメージがありますが。
北見氏:
ええ,これから説明するのもそのとおりで,文化を振興させて,最終的に目指すのは勢力のパワーアップです。
ただ,文化の振興のさせ方に特徴があります。
4Gamer:
どのような特徴なのか,詳しく教えてください。
北見氏:
文化には,「武家文化」「公家文化」「寺社文化」「南蛮文化」の4つを用意しています。それぞれ順に攻撃力,外交力,内政力,防御力を強化するものです。各文化はツリー上になっていて,より上位の文化を獲得するためには,文化を振興させて条件を満たす必要があります。
そして文化を振興するには,お金が必要なのですが,さらに特定の施設を規定数作らなければなりません。
4Gamer:
天道では,町並みに合わせた施設を作る形式でしたね。
北見氏:
ええ。4種類の町並みがあって,それぞれ建設できる施設が決まっています。例えば商人町には金を入手できるような施設を建てられますが,基本的にほかの町では無理です。同じように,村落は兵糧を入手できる施設が建てられます。
それに対して,今回,例えば寺社文化を強化するには寺を建てなければなりません。そして天道のシステム上,寺は村落にしか建てられません。村落に寺をたくさん建てれば,文化は振興しますが,そうすると兵糧の収入が減少します。
4Gamer:
ああ,なるほど。“あちらを立てれば,こちらが立たず”みたいな感じですね。
北見氏:
ええ。いわば兵糧を犠牲にして,寺を建て,文化を振興させるわけです。じゃあ減った収入をどこで補うかというと,商人町で金を入手する施設を増やし,兵糧を買ってくるといった策を考えなければなりません。
4Gamer:
一口に寺社文化を高めて内政力を伸ばすといっても,多角的にバランスを取らなければならないんですね。
北見氏:
そうやって,何かを犠牲にして別の何かを伸ばす,それに伴って勢力全体の戦略が変わるものを目指しました。
分かりやすいところでいえば,公家文化を伸ばして外交力を高めると,朝廷への働きかけができるようになります。例えば,「斡旋」コマンドでは,全国各地の武将を紹介してもらったり,「仲立」コマンドで朝廷を介した強引な同盟を組んだりといったことが可能になります。
したがって,自分がどういう方針をもって臨むかにより,戦略性が大きく変わります。逆にいうと,すべての文化を振興させようとすると,国力が低下して,結果として全体的に弱くなってしまいます。
八幡宮(武家文化) |
聚楽第(公家文化) |
大社(寺社文化) |
教会堂(南蛮文化) |
4Gamer:
まず,自分の方針をキッチリ決めておかないと,どうしようもなくなりそうですね。
北見氏:
そういうことです。文化の導入により,また新たな戦略を立ててゲームを楽しめるような広がりを持たせています。
4Gamer:
文化の導入で,それぞれの施設のバランスを考える必要が出てくるわけですが,これまでは例えば,この施設は重要だけれども,この施設はなくても構わないというような状況はあったんですか?
北見氏:
あまりそういうことはなく,どの施設も必要ではありました。強いて言うなら,例えば徳川家は足軽が強いという設定です。騎馬や鉄砲はそれほどでもないですから,関連する施設は少なめでも良いという感じですね。ほかの勢力にも,それぞれ同じような傾向はあります。
今回の文化には,勢力ごとの傾向を設定していないので,プレイヤーの方の好みを反映しやすいかもしれません。最初は寺社文化でプレイしてみて,次は公家文化で朝廷の力を借りたプレイをしてみるといったことがやりやすくなっています。しかし,文化を変えると簡単にはいっても,実際には建設する施設のことから戦略を考え直さなければならないんです。
4Gamer:
相当にやり込みがいがありそうです。
北見氏:
また今回,文化を世界観のモチーフとして使ったという側面もあります。つまり戦略を変化させるためにゲーム性をどうするかを考え,当時の世界観と合致させた結果が,文化という形になったわけです。
もともと天道は,道を繋いで施設を建て,その施設をもとに町並み単位で攻略していくゲームです。今まで城と城でしか戦えなかった部分を,町並みで──すなわち国の一部を削り取るというルールに変更しました。それに伴って施設を限られた範囲に建てるという制限を設けたわけですが,今回,文化というルールを追加することで,新たな戦略性を生んでいます。
4Gamer:
お話を聞いていて,パワーアップキット全般に,ゲームがきちんと掘り下げられていて,天道が好きな人にはたまらない内容になるのではないかと感じました。
北見氏:
ええ。天道本体では,入り口をできるだけ広くしようとチュートリアルもかなり作り込みましたが,その一方で“深い”ゲームにしたいという思いもあります。AIエディタの追加と文化の導入により,そういった部分を掘り下げて,“深く楽しめる”内容にしています。
4Gamer:
分かりました。それでは最後に,天道ファンやパワーアップキットに期待する読者に向けて,メッセージをお願いします。
北見氏:
まだこれからも調整は続きますが,今回のパワーアップキットでは,新しい遊びを考え出せるものを提供しています。一度触ってみて,ご自身の遊び方を見つけ出してみてください。
4Gamer:
本日は,ありがとうございました。
今回は,パワーアップキットに関するインタビューということで,この記事に興味を持ったのは,すでに天道をプレイしている人達が多いだろう。しかし20年以上前からPCゲームを遊んできたプレイヤーであれば,天道はプレイしていなくても,北見氏の「“本来のゲーム”とは,プレイヤーが自分でルールを決めて遊ぶもの」という言葉に大きく頷けるのではないだろうか。
実際,20年以上前というと,現在のようにコンシューマ機も含めて毎月何本ものタイトルが話題となるようなことはなかったわけで,1本のタイトルを数年かけて遊び,隅から隅まで楽しみ尽くすことも少なくなかったのだ。もちろん,今でもそういった遊び方を楽しむ人はいると思うが,さすがにこれだけ多数のタイトルに囲まれると,1年以上目移りしないでいることは難しいように思われる。
そういった,かつてのしゃぶり尽くすような遊び方の行き着く先がデータ改造だったわけだが,今回のパワーアップキットは,それを遥かに上回る遊び方を提供してくれそうだ。ゲームライターという仕事柄,ゲームを始めても追われるようにエンディングを目指し(あるいはすぐに放り出し),すぐに次のタイトルに取り掛かることが少なくない筆者だが,ちょっと時間をかけて天道をやり込んでみようかと思わせられるインタビューだった。
――2010年10月12日収録
「信長の野望・天道」公式サイト
- 関連タイトル:
信長の野望・天道
- 関連タイトル:
信長の野望・天道 with パワーアップキット
- 関連タイトル:
信長の野望・天道 パワーアップキット
- この記事のURL:
キーワード
(C)TECMO KOEI GAMES CO., LTD. All rights reserved.
(C)TECMO KOEI GAMES CO., LTD. All rights reserved.
(C)TECMO KOEI GAMES CO., LTD. All rights reserved.