インタビュー
ALIENWAREの担当者に聞く,新世代「17」「15」ノートPCのポイント。いかにして薄型化し,いかにして使い勝手を改善したのか
なお,本稿では「インタビュー中,氏がそう話していた」という理由から,製品名の「ALIENWARE」を省略し,ノートPCは「17」「15」といった数字で記載する。また,GPU名の「GeForce」も省略しているので,その点はご了承を。
新しいブランドロゴを採用した意図
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
最近のALIENWAREにとって大きな動きといえば,新しいブランドロゴの採用があると思います。その設定意図や,込めたメッセージについて,まず聞かせてください。
私達は,自分達を表現するためのロゴやフォントといったデザインのすべてをひっくるめて「ヴィジュアルアイデンティティ」(Visual Identity)と呼んでいますが,長いこと,私達のヴィジュアルアイデンティティは「画面が暗いところに,コントラストで白を絡める」というものでした。ですが,ご存じのとおり,今になってみると,そうしたデザインが巷に溢れています。
4Gamer:
「ゲーマー向けブランドすなわち背景が黒」というのは,確かにありますよね。
ええ。なので,「これだけ溢れるようになったなら,自分達がそろそろ変えるべきタイミングなのではないか」と。
最初にALIENWAREを始めたときは,皆が白い背景を使っていたから「俺達は違う色,黒でいくんだ」と黒にしたのですけれども,皆が“追いついてきた”ので,業界をリードする立場として(白背景に)変えていこうというのが趣旨です。
4Gamer:
色だけではなく,エイリアンのロゴマークも,少し変わりましたよね?
Joe Olmsted氏:
実は,ALIENWAREのオリジナルロゴを考えたのは(Dellが買収する前の旧Alienware Computer)創業者なんですよ。
4Gamer:
え,そうなんですか?
20年も前に,グラフィックスデザイナーでもない人間が考えたロゴを,ずっと使ってきたわけです(笑)。
なので,ハタチになったこのタイミングで,もう少しプロフェッショナルにデザインを考えていこうということで,弄っています。目が少し釣り上がって,より悪魔チックになっていますね。
E3 2016で発表になった新製品の広報画像だと,インクが跳ねたような「黒い何か」がPCの周囲にあったりしますが,アレも新しいヴィジュアルアイデンティティに基づくものということでしょうか。
Joe Olmsted氏:
そうですね。現実世界はものすごく「固く」て,モノはきちんと収まっている感じがありますが,それに対して動きのあるもの,もっと流れのあるものとして,(ALIENWAREのPCを)表現しようとした結果です。
VR(Virtual Reality,仮想現実)で,私達の普段の生活は大きく変わっていくはずですが,その変化を予感させるようなものを(製品イメージに)追加したかったんですね。
4Gamer:
なるほど,あれは変化,モーフィングのイメージだったんですね。
さて,いまVRの話が出ましたが,日本ではまだ正式発表されていない新世代13も含め,E3 2016で発表となった製品はすべてVR Readyという理解でいいでしょうか。
Joe Olmsted氏:
そのとおりです。
4Gamer:
13の実機は見たことがないので分かりませんが,国内販売が始まっている15と17における「VR向けデザイン」はどういったものになるでしょうか。デスクトップ機だと,ケーブルを取り回すための機構があったりしましたが。
Joe Olmsted氏:
一言でまとめるなら性能ですね。ただ,取り回しという観点でお話すると,HDMIポートをUSBポートのすぐ横に置いたので,VRヘッドマウントディスプレイ用のケーブルを難しく取り回さなくてよいというのもあると思います。
4Gamer:
性能と使い勝手の両方で最適化しているということですね。
薄さと冷却機構,サウンド,キーボードの秘密
ここからは,新しい17と15の製品設計について聞かせてください。
筐体設計が一新された17と15で最も目を引くのは,背面の出っ張りというか,少し前に出たヒンジというか,あの部分です。もちろん冷却面での理由なのでしょうが,あのデザインを採用した技術的な背景を聞かせてください。
Joe Olmsted氏:
NVIDIAとは緊密にやり取りをしていますが,3年前の時点で,彼らが(ノートPC向けGTX 10シリーズで)180Wの(TDP=Thermal Design Power,熱設計消費電力に達する)GPUを用意することは分かっていました。
なので,そのタイミングで私達は,TDP 180WのGPUを載せるにあたって,できるだけ薄い筐体にすべく冷却モジュールを開発することに決めたんですね。
4Gamer:
180W TDPのGPUと,4コアで最大45W TDPのCPU,その両方をきちんと冷却できるモジュールを,3年前の時点で開発し始めたと。
はい。そして,「180W+45Wを冷却できるモジュール」ありきで,筐体デザイナーは設計を始めたわけです。
エンドユーザーの皆さんは,筐体がただ薄ければいいかというとそんなことはなく,性能を十全に発揮できて,なおかつ薄いものを求めています。結果として今回は,GTX 1080に対応する17で,筐体の厚みは30mmを割ることができました。
他社製品でGTX 1080に対応する製品だと,筐体の厚みは50mm程度になるものが多いと思いますよ。
4Gamer:
ということは,この出っ張りは,薄い筐体を実現しつつ,放熱フィンの大きさを稼ごうとした結果ということでしょうか。
Joe Olmsted氏:
そのとおりです。冷却機構が,この出っ張りの分だけあるわけですね。ヒートパイプが4本,筐体の左右端から端まで通じていて,GPUとCPUが,筐体奥側にある2基のファンをシェアしているという状態です。
興味深いのは,筐体の奥方向へフィンが延びている一方で,筐体底面のほか,側面にも空気孔があることです。これは何のために用意しているのでしょうか。吸気能力向上ですか?
Joe Olmsted氏:
机上へ置いたとき,ゴムの足で浮いた分の隙間から空気を筐体へ取り込まなければならないわけですが,CPUについて言えば,それだけでは不十分なので,側面からも給気できるようにしました。
ただ,GPUの場合はそれ以上に放熱のほうが重要です。ですのでGPU側のスリットは排熱用に設計しています。
なるほど,側面は片方が吸気,片方が排気。それは面白いですね。
さて,そういった冷却系の刷新もあって,実際,17と15は本当に薄くなったと感じられるのですが,ただ「前世代と比べてどれだけ薄くなったか」をスペック値で比較すると,少しずつ違います。この違いは何がもたらしたものなのでしょうか。
Joe Olmsted氏:
その答えは簡単で,(GTX 1080をサポートしない)15のほうは,対応するTDPが100Wのまま変わっていないんですね。しかし17は(前世代の)100Wから180Wに変わりました。なので,15と同じようには薄くできなかったと,そういうことです。
4Gamer:
それは分かりやすい。
パーセンテージだけ見ると13の薄型化率も15に迫っていますが,こちらはどういう理由によるものですか。
Joe Olmsted氏:
13は28mmから22mmにまで薄くなりますが,これは新しい筐体デザインの高効率がゆえということになります。
さて,その13ですが,発売が遅れています。何か開発上,製造上の問題があるのでしょうか。
Joe Olmsted氏:
いえ,そういうことではありません。まだ開発チームの側で少し作業することがあって,そのため,少し遅れているというだけです。もう少ししたら出しますよ(※編注:11月上旬には北米市場で発売となった)。
4Gamer:
ディスプレイパネルの統一性,というところで何か動きはあったでしょうか。私達が確認している限り,ALIENWAREのノートPCは「これがALIENWAREの色だ」といったところにはあまり頓着していないようなのですが。
Joe Olmsted氏:
パネルは調達メーカーが異なるうえに,たとえば17と15では(Adobe RGB比)70%のフルHDパネルと,同じく70%のG-SYNCパネル,そして100%の4Kパネルと,(BTOの)選択肢があります。さらに13は有機ELもありますからね。
4Gamer:
機能や性能,選択肢の数を重視しているため,機種ごとの違いが出るのはやむを得ないといったところでしょうか。
いえ,その表現は正しくないですね。
私達のパネルは,「Zero Bright Dot」(ゼロブライトドット,輝点なし)のプレミアム仕様になっていますし,アンチグレア(非光沢)でも統一しています。「よりよい性能のパネルを進んで採用している」わけです。
4Gamer:
どこに重きを置いているか,ということですね。
「絵」に続いては「音」ですが,新世代モデルでは音質がよくなったとのことです。具体的に何がよくなったのか,聞かせてください。
Joe Olmsted氏:
ハードウェア面では,ハーモニックディストーション(harmonic distortion,倍音の歪み)を改善すべく,スピーカーのトランスデューサー(transducer,エネルギー変換器)数を倍にしました。
一方のソフトウェアでは2つあります。1つは,15と17それぞれでスピーカーのサイズも配置も異なるので,それに合わせたチューニングを行っているということです。もう1つは,サウンドマッパーを搭載したことです。
4Gamer:
サウンドマッパー? 3D音場に音を定位させているということですか?
Joe Olmsted氏:
ええ。サウンドマッパーの採用により,音が漫然と聞こえてくるのではなく,どこから弾が飛んでくるのかが,リアリティを伴って聞こえるようになります。
4Gamer:
つまり,新しく音場定位の技術を採用したということですね。
そうですね。「Nahimic」のサウンドマッピング技術を新たに採用しています。私達のエンジニアにしっかりと仕事をしてもらって,独自のハードウェアとサウンドマッピング技術により,ALIENWAREならではの音を作っています。
4Gamer:
ALIENWAREノートPCの音というと,前世代までの17は,サブウーファから重低域以外の音が鳴ってしまい,いきおい,ステレオ定位がおかしくなるという問題を抱えていました。この部分に手は入っているのでしょうか。
Joe Olmsted氏:
前の世代のサブウーファも単体としては素晴らしいものなのですが,ご指摘の問題は確かにありました。その点,新しい17では,その問題を解決するための特別な技術をCODEC側に入れてもらっています。なのでそこは改善してしますよ。
それは素晴らしいですね。
キーボードはいかがでしょう。Nキーロールオーバー対応であるというのは,もうそれだけで大いに歓迎すべきポイントですが,競合と比べると,実装がずいぶんと遅くなったイメージがあります。
Joe Olmsted氏:
そこは開発スケジュールが違っていただけでしょう。私達としては,NVIDIAの開発スケジュールに合わせて,最上位GPUを搭載したかったというのがあります。そのうえで新しいキーボードを採用したら,このタイミングになったということです。
4Gamer:
ニュースリリースには「steel-reinforced full-sized TactX keyboard」(鋼により補強を用いたフルサイズのTactXキーボード)という表現もありますよね?
あなたがお持ちのXPS 15もそうなんですが(※筆者はこのとき,私物の「XPS 15 9550」を開いてインタビューに臨んでいた),キーボード(ユニット)は,カーボン構造のトップサーフェスと接続しています。トップサーフェス自体がキーボードの構造物の一部となっているわけです。これは薄型化と,強度向上を両立させるためなのですが,キーの周囲でも強度を維持しなければならないため,結果としてキーの周りに隙間ができてしまいます。文字を打つだけだならこれでいいのですが,ゲーマーは,こういう「隙間のある」キーボードを嫌います。
4Gamer:
それ,前世代の製品でもそうだった気がするのですが。
Joe Olmsted氏:
従来は支える部分がアルミでした。それが新世代モデルでスチールに変わったわけです。
4Gamer:
ああ,そういうことでしたか。これは新世代の17と15,13で共通の仕様ということになりますか。
Joe Olmsted氏:
そうですね。ここの部分はまったく同じものです。
Tobiiの技術で17では何ができるのか。そして15のカメラでは何が可能?
Tobii Technology(以下,Tobii)製の視線追跡デバイスについても聞かせてください。
17における目玉機能になるわけですが,実際のところこれは,PCのなかでどれくらい独立しているのでしょうか。
Joe Olmsted氏:
それはつまり「処理の負荷が高いとゲームプレイに影響するのではないか」という質問だと思いますが,カメラ側のモジュールにASIC(Application Specific Integrated Circuit,特定用途向け集積回路)を積んでいまして,そちら側で処理をしますから,「カメラの挙動」がCPUに負荷をかけることはありません。
4Gamer:
「EyeChip ASIC」というASICが確かに載っていますね。これがセンサーやカメラを一元管理していると。
Joe Olmsted氏:
そういうことです。
4Gamer:
今回,Tobiiの視線追跡技術でいろいろなことができると謳っているわけですが,一番実現したかったことというのは何でしょうか。
Joe Olmsted氏:
まず押さえておいていただきたいのは,これ(=ALIENWAREのノートPC)が道具(ツール)だということです。ゲーマーにとっての道具ですから,「よい道具であること」が重要です。たとえば先ほど話題に挙がったキーボードも,ゲームの道具として最適な,ベストなものを採用したわけです。
4Gamer:
はい。
Joe Olmsted氏:
さて,たとえば「League of Legends」をフルスクリーンでプレイしているときに,チームの仲間がどこにいるかは常に目を配っていなければいけませんよね。このときTobiiの視線追跡技術であれば,実際にゲーマーがどれくらいの頻度で全体に目を配れているかが分かります。
4Gamer:
Tobiiの技術を使うことにより,とくにオンラインの対戦ゲームで,自分の視線の動き方や状況全体の把握能力を確認できる,ということでしょうか。
Joe Olmsted氏:
そのとおりです。それが一番の理由です。
あとは(対応タイトルは限られますが)FPSで走っているときに銃を構えている場合,その状態から撃とうと思ったら視線を動かして,それから撃たなければなりませんよね。それが,Tobiiであれば,ユーザーの視線を把握できるので,走っている方向とは異なる方向を見ていれば,そちらに向かって撃てるというのがすごいところです。
4Gamer:
そちらは対応タイトルの問題がクリアになれば面白いでしょうね。
一方で15はTobiiの技術には対応していません。Windows Helloには対応していますが,ある意味で中途半端な15のカメラは,何のために付いているのでしょうか。
Joe Olmsted氏:
15では,赤外線カメラとWebカメラを統合したものを採用していまして,ディミング(※ゲーマーが画面から目を離したらLEDイルミネーションの輝度を下げる機能)は利用できます。また,Tobiiのソフトウェア自体はプリインストールされているので,別途,単体版のTobii製カメラを購入していただければ,17と同じような機能を体験することは可能です。
分かりました。最後に1つだけ。LEDの紹介に「TRON Lighting」(トロン・ライティング)という文言がありますが,あれはどういう意味ですか?
Joe Olmsted氏:
TRONという映画を見たとこはありますか?
4Gamer:
ええ。
Joe Olmsted氏:
では話が早い。新しいLEDイルミネーションがTRONに似ているので,TRON Lightingと呼んでいるだけです(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。本日はありがとうございました。
デルのALIENWARE 17 R4製品情報ページ
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