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平成のカルト格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」のコミック第1巻が本日発売。漫画作者であり,元ADKスタッフの横尾公敏氏インタビューをお届け
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印刷2019/08/05 10:00

インタビュー

平成のカルト格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」のコミック第1巻が本日発売。漫画作者であり,元ADKスタッフの横尾公敏氏インタビューをお届け

 「ストリートファイターII」のメガヒットを皮切りに,数多くの格闘ゲームが世に送り出された1990年代。その中でも,際立った個性を放つキャラクターや特異な世界観で多くのファンを獲得したのが「ワールドヒーローズ」だ。その“ワーヒー”が2018年に漫画として復活し,現在も月刊ヒーローズで好評連載中だ。そして本日(2019年8月5日),そのコミックス第1巻が発売となる。

 今回4Gamerは,コミックスの発売に合わせ,このコミック版「ワールドヒーローズ」の漫画作者にして,ゲームの制作にもコアスタッフとして携わっていたという,元ADKの横尾公敏氏にインタビューを行った。シリーズ誕生から25年を経て,現在に復活した“ワーヒー”がどのように生み出されたのか。コミカライズの経緯やADK時代の思い出話を語ってもらった。

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月刊ヒーローズ内「ワールドヒーローズ」連載ページ

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若手のアイデア,才能で飛躍していった「ワールドヒーローズ」


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。横尾さんは「ワールドヒーローズ」の元開発者でもあるとか。今は漫画家として,かつてのご自身の仕事に向き合われているわけですが,まずは原作の制作元,ADK時代のお話からお聞かせいただければと思います。

漫画家の横尾公敏氏。元ADKの開発スタッフで「ワールドヒーローズ」では,企画,グラフィックス,デザインを担当したという
画像集 No.001のサムネイル画像 / 平成のカルト格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」のコミック第1巻が本日発売。漫画作者であり,元ADKスタッフの横尾公敏氏インタビューをお届け
横尾公敏氏(以下,横尾氏):
 こちらこそ,よろしくお願いします。まず自分が入社した当時,1991年前後はまだADKという社名ではなく,アルファ電子と名乗っていた時代でした。ADKに社名を変えるのは初代「ワールドヒーローズ」がヒットしたあと,会社が大きくなり,近くに大きなビルを借りてからだったんです。
 
4Gamer:
 会社的にも,「ワールドヒーローズ」のヒットはそれだけ大きかったのですね。

横尾氏:
 大きかったですね。「ストリートファイターII」が出て,格闘ゲームが一番盛り上がっていた時期に,うまく波に乗れたんだと思います。ただ,うちのタイトルは当時のゲームセンターのコア層だった中高生やそれより上の世代より,むしろ小学生をターゲットと考えていました。

4Gamer:
 あの頃は,MVS筐体がスーパーやおもちゃ屋の軒先にありましたね。

横尾氏:
 ええ。後期の作である「JET」「パーフェクト」はまた違うのですが,初期はMVSのロケーションを考えて,子供にウケるゲームを作ろうという意識が強かったように思います。だから子供の好みを知るために,社内にはコロコロを初めとした子供向けの雑誌がよく置いてありました。

4Gamer:
 ああ,そうだったんですね。

横尾氏:
 さらに言えば,MVS筐体は海外での稼働も多かったことから,そちらも意識して分かりやすいキャラクターや作風を求められた,というのもありました。そんなわけで,「ワールドヒーローズ」シリーズは,同時期の格闘ゲームより漫画的な見た目のキャラクターが多かったわけです。

4Gamer:
 月刊ヒーローズのWebサイトでは,本編1話のほかにも開発秘話を描いたオマケ漫画が読めますが,その中で横尾さんは初代「ワールドヒーローズ」の企画,グラフィックス,デザインを担当されたとありました。入社1年目でそんな大役を任されていたんですか?

横尾氏:
 そうなりますね。だから今回のコミカライズにはすごく因縁めいたものを感じているんです。その分思い入れが深いタイトルでもあったので,ネーム作りや作画はとても楽しくやらせてもらってます。開発秘話でも描きましたが,企画というのは新人研修で自分の提出した案が,のちに採用されて「ワールドヒーローズ」の原型になったからで,ディレクションは別の人間が担当しています。

4Gamer:
 最初の案では,4人プレイのベルトスクロールアクションだったとか。

横尾氏:
 MVSの新型筐体の企画だったので。NEOGEOでも4人プレイができる筐体を作ろうという話があって,社内で作られた試作筐体で動かすために作ったのが「ワールドヒーローズ」……の原形だったんです。そのバージョンもある程度遊べるところまで作ったんですが,結局4人用筐体は普及の観点からボツになり,「ワールドヒーローズ」は格闘ゲームに生まれ変わることになります。

「ワールドヒーローズ パーフェクト」より
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4Gamer:
 「ストリートファイターII」が1991年初頭で,「ワールドヒーローズ」は翌1992年夏の稼働でした。このブームに乗るしかない,という感じだったのでしょうか。

横尾氏:
 当時のゲームセンターの状況を考えれば,ベルトスクロールよりは格闘ゲームということになると思います。それでも,最初は4人対戦用と2人対戦用を同時に作ってたんですよ。凶悪なことに(笑)。

4Gamer:
 4人対戦ができたんですか?

横尾氏:
 はい。画面に奥行きがあって,4人で対戦できました。でも,当たりまえですが2人用のCPUのアルゴリズムを4人用に持っていくことはできませんし,その逆もしかりです。プレイヤーを無視して,CPU同士で殴り合いを始めたりして,うまくいきませんでした。その頃はちょうど対面配置の対戦台が普及し始めた時期でもあり,結局2人用の対戦格闘にフォーカスすることになったんだと思います。

4Gamer:
 対戦台が増え始めたのが,「ストリートファイターII」の稼働後しばらく経った1991年の夏頃と聞きますし,時期的にも一致していますね。

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[2018/02/03 00:00]

横尾氏:
 ちょうどいいタイミングで方向性が定まったのは助かりました。両方作るとなっていたら,もっと大変だったはずなので(笑)。

4Gamer:
 初代「ワールドヒーローズ」といえば,ステージにトラップが出現するデスマッチモードや,負けると髪を刈られる演出なんかが印象的でしたが,これも横尾さんの発案ですか?

横尾氏:
 いえ,そういったものはほぼディレクターの発案だったと思います。企画を考えることに長けた方で,変わってましたけどすごい才能を持った人でした。「ワールドヒーローズ」シリーズが持つカラーは,彼の個性が色濃く出ていると思いますね。

4Gamer:
 尖った部分は,概ねその方の影響ということですか。

横尾氏:
 実在の英雄や,あるいはどこか(ほかの漫画など)で見たようなキャラクターを連れてくるというのもディレクターの発案でした。小学生に遊んでもらうなら,まったくのオリジナルよりも何か引っかかりがあるキャラクターのほうがいいだろうと。デザインやグラフィックスを作るにあたっても,「フザけたものをまじめに,ダサいものを妥協なく」って,僕もよく言われました。

4Gamer:
 横尾さんご自身は,キャラクターデザインやグラフィックスを主に担当されたんですね。

横尾氏:
 そうなります。最初に企画が通ったあと,プロデューサーに「横尾はデザインやキャラクターを固めろ」と言われたのを覚えています。ただ,濃いキャラクターは自分の案がすぐ通ったのですが,ハンゾウやジャンヌみたいな正統派が難しくて。結局ハンゾウはグラフィックスチーフにお願いすることになりました。

4Gamer:
 そうなんですか?

横尾氏:
 ストレートにカッコ良かったり,可愛いかったりが求められたので,自分の出番ではありませんでしたね(笑)。ジャンヌも自分がデザインしたものは,もっと中世の鎧をガッチリ着込んでいる感じで,「ゲーム内で動かせるデザインじゃないよ」って言われてしまったぐらいです。ディレクターが絵も描ける人だったので,最終的にはこちらもお任せになってしまいました。

ジャンヌ(初代「ワールドヒーローズ」より)
画像集 No.016のサムネイル画像 / 平成のカルト格闘ゲーム「ワールドヒーローズ」のコミック第1巻が本日発売。漫画作者であり,元ADKスタッフの横尾公敏氏インタビューをお届け

4Gamer:
 横尾さんは“濃い”キャラの担当だったんですね。

横尾氏:
 自分では,そのつもりはなかったんですけどね。ADKでは,めんどくさいアイデアやデザインを出したら,その人がそのままドットまで担当することになっていました。「ワールドヒーローズ2」のマッドマンが最たるもので,「全身に刺青が入ってるうえに頭にでかいものが付いていて,体が把握できない。このキャラはデザインを考えた横尾に任せよう」みたいな。そういったことが積み重なるうちに,自然に変なキャラは自分に回ってくるようになっていったという(笑)。

4Gamer:
 「ワールドヒーローズ」といえば,マッドマンですよね。ほかにはどんなキャラクターを?

横尾氏:
 入社1年目で初めて作ったのがラスプーチンでした。ほぼ独力で作ったキャラクターで,その後はマッドマン,ジャック・ザ・リッパーなんかを担当しました。「ニンジャマスターズ」ではデザイン/グラフィックスチーフとして,全体のキャラクターデザインをやりつつ,核となるキャラクターのグラフィックスも手がけました。

4Gamer:
 キャラクターのパンチやキック,必殺技なんかのアニメーションも担当されたんですか。

横尾氏:
 はい。ADKはずっとそういう体制でした。グラフィックスを担当する人がアニメーションも付けるんです。アニメーターに近い仕事で,実際グラフィックスチームにはアニメ系出身の方が多かったように思います。「ニンジャマスターズ」など後期の作品になってくると,アニメーターを別に用意することもありましたが,ADKの基本は“全部”ですね。

4Gamer:
 攻撃判定ややられ判定といった,ゲームデザイン的な部分はどうなんでしょう。

横尾氏:
 そうしたものは主にディレクターが決めていました。というか,そこまでは作業量的に無理だったと思います。とくにシリーズの後期は開発期間がどんどん短くなっていったので,だんだんと皆の仕事が専門化していく傾向にありました。初期にドラゴンのグラフィックスを担当していた人も,後期はプログラムのサポートに専念せざるを得なくなり,判定やアクションのルーチンをずっと考えていましたし。

4Gamer:
 ああ,格闘ゲームブームの頃は,すごい勢いで新作が出てましたものね。

横尾氏:
 ええ。初代「ワールドヒーローズ」の開発期間は1年ほどありましたが,「ワールドヒーローズ2JET」あたりだと半年でしたから。かなりキツかったです(苦笑)。

4Gamer:
 開発秘話として,「ワールドヒーローズ2」のシュラは,最初は女性キャラクターだったという話がありましたが,どうして男性キャラになったんですか?

横尾氏:
 女性版のシュラはグラフィックスチーフがデザインしたものなんですが,「ワールドヒーローズ2」で女性キャラを増やすことになったとき,国籍を日本にしようということになりまして。タイ出身のキャラクターだったシュラは,そのあおりを受けて男性に変更されたんですね。

4Gamer:
 その日本国籍の女性キャラクターがリョウコですよね。というか,国籍で選んでたんですね。

横尾氏:
 はい。どの国の英雄にするかはわりと初期に決まる要素で,基本的にはMVS筐体の普及率の高い国が優先されていました。

4Gamer:
 となると,タイは普及率が高かった?

横尾氏:
 ちょうど「ワールドヒーローズ2」を開発しているころは,タイにMVSがけっこう出荷されていたんです。ちなみにドラゴンは中国出身のキャラクターですが,映画の撮影で韓国を訪れていたという設定から,半ばこじつけで韓国の代表として扱われています。それによって中国枠が空いたことで,「JET」から呂布が登場することになったという。

ドラゴン(初代「ワールドヒーローズ」より)
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4Gamer:
 エリックはバイキング風の見た目ですが,彼は北欧市場向けだったんでしょうか。

横尾氏:
 エリックは北欧というより,ヨーロッパ全体を意識していたと思います。ジャンヌ以外にもう1人いたほうがいいと。ただ,MVSの普及率はあくまで優先的に考えるというだけで,すべてのキャラに当てはまるわけでもありません。おそらくマッドマンの出身地であるパプアニューギニアには,当時MVS筐体はなかったでしょうし(笑)。

4Gamer:
 なかった……でしょうねえ。

横尾氏:
 マッドマンは変なキャラを作りたいというのが自分の中にあって,ディレクターに猛プッシュして枠をもらったんですよ。

4Gamer:
 なんというか,横尾さんの担当キャラはデータ的にも総じて容量を食いそうですよね。マッドマンなんてはとくに。

横尾氏:
 ROMの容量は常に取り合いでした。皆が自分の担当キャラクターを強くしたい,技を多くしたい,カッコよくしたいと考えるわけで,その全員がディレクターにおべっかを使いにいくんです(笑)。あとは先にサンプルを用意してから相談にいくことも多かったですね。「このポーズ欲しくありませんか? ほかのキャラの容量を削ってこっちに回してください!」みたいな(笑)。

4Gamer:
 それ,ケンカになりませんか(笑)。

横尾氏:
 実際,新人は先輩からどんどん容量を奪われていました。シュラの担当が当時一番の新人で,「シュラにそんな技は必要ないだろ。こっちに回せ」みたいな(笑)。

4Gamer:
 ひどい(笑)。シビアな争奪戦ですね。

横尾氏:
 まあ,あくまで裏技であって,基本的には開発がスタートした段階で,キャラクターごとに割り振られる容量は決まっていましたから。その中で,グラフィッカーが必要な動きを用意していくんです。この技とこの技は使い回しがきくから一つにして,余った容量で別の動きを作ろうとか。そういうやりくりです。

4Gamer:
 リョウコやジャンヌといった標準サイズのキャラクターより,マキシマムやエリックのようなデカキャラのほうがデータサイズが大きそうです。

横尾氏:
 ええ,だから大きいキャラは技が少ないんですよ。もちろん,最初の割り振りの段階である程度優遇されていましたが,それでもやりくりには困りました。エフェクトを派手にして違う技に見せたりとか。

4Gamer:
 お話を聞いていると,おおらかな社風だったんだろうな,というのが伝わってきますね。社風というか,時代かな?

横尾氏:
 会社のノリは学校の部活に近い感じでしたね。ディレクターは自分よりも年下でしたが,高校を卒業してすぐゲームを作りはじめ,2作目か3作目で「ワールドヒーローズ」をヒットさせたそうです。若い人がチャンスをもらえる環境だったわけで,今振り返ると変わった会社だったんだなと思いますよ。いい意味でね。

4Gamer:
 横尾さんが入社して即ラスプーチンを作ったというのも,なかなかのエピソードだと思いますよ。

横尾氏:
 そうかもしれないですね(笑)。いきなり自分のカラーがついたことで,それ以降もなにか変わった仕事が来ると,「横尾くんに任せよう」という空気になりましたから。そういう意味では,「ワールドヒーローズ」には本当に感謝しています。

4Gamer:
 ADKの作品ってやたら忍者が出てくるイメージがありますが,これも横尾さんの仕業なんですか?

横尾氏:
 いえ,忍者好きは「ワールドヒーローズ」のプロデューサーの影響ですね。プロデューサーが最初に手がけたタイトルが「ニンジャコンバット」で,これが海外で大ウケしたのがきっかけみたいです。続編の「ニンジャコマンドー」「ワールドヒーローズ」と,忍者が必ず登場するようになりました。

ハンゾウとフウマ(初代「ワールドヒーローズ」より)
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4Gamer:
 横尾さんの漫画には,忍者だったり仏像だったりと“和”を題材にしたものが多いように思うのですが,それはADK時代の影響があったりしませんか?

横尾氏:
 確実にあると思います(笑)。あの会社で嫌というほど忍者を見てきましたし,あとは格闘技もそうですね。社会人になるまで興味なかったのに,ADKに入ってからプロレス雑誌や格闘漫画を読むようになったので。最初は資料のつもりだったのに,どんどん好きになってしまいました。

4Gamer:
 ああ,やっぱり(笑)。

横尾氏:
 20代からADKに10年いましたからね。そこで叩き込まれたものはちょっと抜けないですよ。

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