インタビュー
いい仲間が集まれば,いいゲームが作れると信じている――新たに始動したゲームデベロッパ,ブラウニーズの亀岡慎一氏に,その信念や今後の展望を聞いた
ゲームを仕事にするのが後ろめたい
亀岡氏:
話がそれますけど,僕は,ゲーム制作を仕事にしてきて,“いいこと”をしている感じがしないんですよね。なんか“後ろめたい”というか,そういう気持ちをずっと持ち続けているんです。もっと遡れば,専門学校を出てから漫画家になったときもそうでしたけど。
4Gamer:
後ろめたい,ですか。
そもそも,僕はもともと漫画ばかり描いて育ってきた人間なんですが,学校でも家庭でも,漫画を描いていて褒められたことがなくて(笑)。
4Gamer:
いつまでも遊んでないで勉強しなさい! みたいな(笑)。
亀岡氏:
そうそう(苦笑)。大人になってからも,その延長で仕事をしてきたものですから,どこか後ろめたさがあるんですよ。だから,たまに夜中に道路工事をしている人達を見ると,無性に申し訳ない気分になったりして……。
4Gamer:
エンターテイメントに携わる仕事の宿命というか,これって誰かの役に立てているのかな?みたいな感覚ですよね。
亀岡氏:
そうなんですよ。ですから,そうした後ろめたさを少しでも払拭できるような「良いゲーム」を作りたい,とずっと考えていているんですけど,なかなかね。
4Gamer:
そういえば以前,桝田省治(※)さんに「プレイヤーさんから,ゲームにハマって学校を休んじゃいました! みたいな手紙が来ると,凄く凹むんだ」といったお話を聞いたことがあったんですが,それに近いお話でしょうか。
※桝田省治(ますだしょうじ):ゲームデザイナー,小説家。代表作は「リンダキューブ」「ネクストキング 恋の千年王国」「俺の屍を越えてゆけ」など
亀岡氏:
ああ……近いかも。
4Gamer:
桝田さんは「自分の作ったゲームにハマってくれるのはとても嬉しいんだけど,だからといって,それで駄目になってほしいわけじゃない。だから,自分が作るゲームではちゃんと“止め時”を仕様に盛り込むんだ」という趣旨のことをおっしゃっていて。僕は,それがとても印象的だったんですよね。
亀岡氏:
なんていうんでしょうね。ゲーム制作って,やっぱり,いろいろな制約のなかで行われるんですよ。ハードウェアの制約だったり,ビジネス的な制約だったり,あるいは偉い人からこうしろって言われることが制約になったり。そうしたなかで,自分的には「こうした方がいいな」と思ったことがあっても,それを実現できなかったなって気持ちがある。本来はこうあるべきなのに,それを追求できなかったって。僕には,そういう意味での後ろめたさもあるんですよね。
4Gamer:
でも,亀岡さんやブラウニー・ブラウンが手がけてきたゲームって,とてもポジティブというか,「マジカルバケーション」にしろ「MOTHER3」にしろ,遊んだ人が「楽しかった!」って思える作品だと思うんですよね。そんな亀岡さんが「後ろめたい」とおっしゃるのは,とても不思議というか……。
亀岡氏:
その意味でいうと,ゲームボーイアドバンス版「マジカルバケーション」は,比較的後ろめたさがない作品だったかもしれません。というか,僕のゲーム制作経験のなかで,あれが唯一,「本当に好きに作らせてもらった作品」なんですよね。たぶん,会社を設立して最初のプロジェクトだったので,親会社(任天堂)の方もあまり口を出さず,様子を見ていたんだと思いますが(笑)。
4Gamer:
「マジカルバケーション」って,プレイヤーさんからの評価がとても高い作品ですよね。
亀岡氏:
ええ。あれはとても不思議な作品なんですよ。発売されたのはもう10年以上も昔だし,それほど売れたというわけでもなかったんですが,未だにプレイヤーさんが「あのゲームは面白かったね」って言ってくれるんですね。TwitterとかBlogでも,プレイヤーさんが熱く語ってくれたりして。それは凄く嬉しいことですよね。
4Gamer:
「マジカルバケーション」で検索すると,定期的に作品についての発言が見つかりますし,きっと「語りたくなるゲーム」なんでしょうね。
亀岡氏:
ああいうのを見ていると,「ああ,このゲームを作ってよかったな」って思えるんです。だから「マジカルバケーション」のようなゲームをもう一度作りたいというのが,今後の目標の一つなんですよ。
4Gamer:
なるほど。
亀岡氏:
ただ,開発を終えた当時は,「マジカルバケーション」がそれほど売れなかったこともあって,必ずしもプロジェクトとしての評価が高かったわけではありませんでした。だから僕らも,その後に「どういうものを作ったらいいのか」って迷走した時期があって。
4Gamer:
作品の評価と売り上げが必ずしも一致しないのは,いつの時代でも難しい問題ですよね……。
亀岡氏:
そうですねぇ。まぁいろいろと悩む時期が長かったんですが,ちょうどそんな頃に「MOTHER3」の開発の話を頂いたんです。
4Gamer:
「MOTHER3」の開発ってどういう感じだったんですか?
亀岡氏:
実を言うと,最初に「MOTHER3」の開発のお話をいただいたときは,僕は「MOTHERって,あの一風変わったRPG?」くらいのイメージしかなかったんですよ。スタッフのみんなは凄く喜んでいたんだけど,僕自身は「ええっ,あのゲームを僕らが作るの?」って感覚で(笑)。
4Gamer:
それは意外なエピソードですね。
亀岡氏:
だけど,いざ開発がスタートしてみると,シナリオが個人的にかなりツボで……。デバッグ中にぼろぼろ泣きながら作業をしていたのを覚えていますね(笑)。当時はいろいろ大変でしたけど,あれはあれで,とても良い経験をさせてもらったなって思っています。
いい仲間を集めれば,いいゲームを作れる
4Gamer:
うーん,お話を聞けば聞くほど,ブラニーズや亀岡さんがこれからどんなゲームを作るのか,とても気になります。
亀岡氏:
どうなるんでしょうねぇ(笑)。
4Gamer:
ちなみに亀岡さんは,経営者としてのご自身の立場はどうお考えなんですか?
亀岡氏:
ブラウニー・ブラウンを立ち上げたときは,経営なんてやったこともないし,やるつもりもなかったんですが,実際にやってみたら意外と楽しかったんですね。最初は予算について考えたこともなかったし,見積書の作り方も分からないような状態でしたが,いろいろ勉強する中で,マネジメントも営業も楽しくできるようになりました。
開発においても,当初は「一介のグラフィッカーの立場で」という意識だったのが,ディレクターをやるようになって,いろんなことに口を出すようになったら,やっぱり面白かった。クリエイターとしての自信もつきましたし,やってよかったと思っています。だからこそ,若い人には「もっといろいろやってみれば!」って言うんですけど。
4Gamer:
でも,チームでの創作活動って大変じゃないですか?
亀岡氏:
僕は,元々漫画を描いてこともあって,本来は,1人で全部やりたいんです。100%自分のもの,俺が作ったんだっていうものをやりたいって気持ちが常にあるんですよ。だけど一方で,ゲーム制作を通じて「団体で作る楽しさ」も味わっていて,その魅力も感じているんですね。団体は団体で,他の誰かの能力を引き出したり,組み合わさるみたいな面白さがありますからね。
4Gamer:
亀岡さんのお話を聞いていると,「ゲーム制作はツライながらも楽しい」って感覚が伝わってきます。
楽しいですよ! あとブラウニーズでは,いろんな部分をもっと若い人達に任せていきたいとも考えています。ブラウニーズには,僕と一緒に古くからゲームを作ってるような連中がたくさんいるのですが,そうしたオッサン連中は一歩後ろにさがって(笑)。若者を後ろからサポートしていくような感じでやりたいですね。
4Gamer:
現在,何か具体的に動いているプロジェクトはあるんですか?
亀岡氏:
詳しいことはまだ言えませんが,コンシューマゲームで1タイトル,受託開発の話を進めている段階です。その開発をやりながら,次の話を決めようかなと考えていて。どんなゲームを作ろうか,どこと組ませて頂こうかと悩んでいるところなんですが,ある意味,今が一番楽しい段階かもしれません(笑)。
4Gamer:
企業としての当面の目標とかはあるんですか?
亀岡氏:
まずは余裕を持って,好きなことをやれるようになりたいですね。もちろん好きなことをやるために,こうして会社を作ったわけですが,そのためにやらなきゃいけないことがありますから。具体的な目標としては,まずは自社ブランドでスマートフォン向けのゲームをきちんとリリースできるようになりたい。そして,何かしら「後に残るようなもの」を作りたいですね。
4Gamer:
後年に語り継がれるようなゲームを,という感じでしょうか。
亀岡氏:
まぁでも,実際の開発中には,そんなこと(後に残るかどうか)は考えていられないんですけどね!
4Gamer:
その意味で言うと,例えば,今大ヒットしているソーシャルゲームが,10年後に「ポケットモンスター」や「ドラゴンクエスト」のように語られているのだろうか,という部分はとても興味深いんですよね。
亀岡氏:
そこはホント,どうなんでしょうねぇ。
4Gamer:
例えば,昔のゲームにしたって,必ずしも「良いイメージ」だけではなかったはずですし,それと同じように,今のソーシャルゲームも10年後にちゃんと語られるんだろうかと。
亀岡氏:
ただ,いろいろな方のお話を聞く限り,今のソーシャルゲームって,お子さんが遊ぶというよりは,大人の方がメインの市場のようですから,またちょっと特殊な市場なのかなって気はするんですけどね。
4Gamer:
確かに。
亀岡氏:
まぁでも,今のソーシャルゲームは感動体験として語られるというよりは,「いくらお金を使ったか」みたいな形で語られちゃいそうですよね。
4Gamer:
「何であんなものに!」と後悔するようなものであれば,やっぱり長くは続かないと思うんですけど。ただ語弊はあるかもしれませんが,遊んでいる側もどっかで後ろめたさみたいなものを感じないと,面白くなかったりしませんか(苦笑)。
亀岡氏:
ああ,それはよく分かります!(笑)
4Gamer:
例えば映画にしたって,「世の中は希望に満ちあふれていて,みんなが頑張れば幸せになれる!」……みたいなメッセージ以外何もないようなものはかえって心に残らないじゃないですか。そうじゃなくて,やっぱりどこか淫靡なものだったり,見ちゃいけないようなものが表現されていたほうが,面白いって思ったり,心に残ったりするのが人間なわけで……。
亀岡氏:
そうですよね。長年,僕が感じている後ろめたさも,似たような考えから生まれているのかもしれない。
4Gamer:
でも,それをひっくるめて「ああ,よかったな」って思える部分が,娯楽としての価値なのかなとは思うんですよね。
亀岡氏:
本当にね。僕も,そんな風に言ってもらえる作品を作っていきたいんですよね。お金だけじゃなくて,貴重な時間を割いて遊んでいただくわけですから,それに応えるような内容にしたいっていつも思うんです。しかし,自分自身が本当に自信をもてる作品を作れたら,この後ろめたさは消えるのかなっていうのは疑問なんだけど(苦笑)。
4Gamer:
何を持って「自信」とするのかも難しいですよね。単純に大ヒットすれば後ろめたさがなくなるのかと言えば……。
むしろ,余計後ろめたい気持ちになりそうな気もする! いや,宮本さん(※)とかは本当にどう考えていらっしゃるんだろうなぁ(笑)。
※宮本茂(みやもとしげる):ご存じ,マリオシリーズの産みの親の世界的なゲームデザイナー
4Gamer:
最後に改めてお聞きしたいんですけど,亀岡さん,ひいてはブラウニーズって,今後どういった方向を目指していくんですか?
亀岡氏:
え〜と,それはもしかして,人生的な意味で,ですか?
4Gamer:
そうですね。人生的な意味でお願いします!
亀岡氏:
うーん,難しいな(笑)。
こんな事を言うと,きっと「甘っちょろい」って言われると思うんですけど,僕は,「いい仲間を集めれば,いいゲームを作れる」と信じています。だから本当に気の合う,いい連中とゲームを作っていきたいんですよね。もちろん,人柄だけではなく,技術的な水準や目的意識が同じという部分も含めて,いい仲間を見つけて,ときには喧嘩もしながらゲームを作っていきたい。
4Gamer:
その「いい仲間」というのは,どういった部分で共感する人達なんでしょう。
亀岡氏:
まずは,“作りたいモノ”があるかどうかですよね。昔からそうした面はありましたけど,今のゲーム業界は,どんどん作りたいゲームが作れない傾向が強まっていると思います。そうした状況のなかにあっても,何か新しいモノを作りたいって思う人達です。
残念ながら,今は大手のゲームメーカーであっても,新しいことに手を出すより,ナンバリングタイトルやリメイクに力を入れている状況です。だけど,やっぱりゲーム業界を引っ張っていくのはオリジナルのタイトルだと思うし,オリジナルを作ってこそのゲーム業界だと思うんです。だから,そこは意識してやっていきたいですよね。
4Gamer:
分かりました。今後の亀岡さんとブラウニーズの活躍に期待しています。本日はありがとうございました。
亀岡氏:
こちらこそ,ありがとうございました。しかし,支離滅裂な雑談ばかりだったような……。こんなお話でよかったのかな(笑)。
近年,ゲームを取り巻く環境が劇的に変化していくなかで,あえて任天堂の枠組みから離れ,独立する道を選んだ亀岡氏。ベテランのゲーム開発者である亀岡氏が,昨今の風潮や時代の流れをどう感じているのか。今回のインタビューでは,そんな部分を聞ければと考えていたのだが,話を聞いていて印象的だったのは,やはり「ゲーム制作が後ろめたい」というくだりだろうか。
勉強や仕事が忙しいとき,ゲームを遊んでいて「こんなことしてていいのかな」「時間がもったいない」と思ったことのあるプレイヤーは少なくないと思う。これは,ゲームはあくまで余暇に楽しむものでしかなく,決して“生産的な行動”ではない点に起因するわけだが,当の作り手側がそこをどう考えるのかというのは,ゲームに限らずエンターテイメント全般の持つ「命題」の一つであろう。
もちろん,エンターテイメントや“楽しみ”というものが,人生や社会にとって不必要かと言われれば,それは違うはずだ。しかし一方で,その“楽しさ”を追求するあまり,本来の意味を見失っている例も少なくないのではないか。亀岡氏の話を聞いて,そんなことを考えされた次第であった。
ゲームを作るのは“よいこと”なのか。
これは,とてもいまさらだし,青臭い疑問かもしれない。しかし,長年ゲームを作ってきたベテランでありながら,なおそうした疑問を抱いている亀岡氏だからこそ,氏の作るゲームには独特の雰囲気があるのかもしれない。亀岡氏,および氏の率いるブラウニーズの今後に注目したい。
ブラウニーズ公式サイト
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マジカルバケーション 5つの星がならぶとき
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