レビュー
ZOWIEのIE3.0クローン「EC」,第3世代モデルは何が変わったのか
ZOWIE EC1 eVo CL,EC2 eVo CL
ZOWIE GEARの立ち上がった当時,大規模なゲーム大会における主力ジャンルはFPSで,とくに「Counter-Strike 1.6」が花型競技だった。そこでZOWIE GEARは,同タイトルの元プロゲーマーであり,引退後もコミュニティに大きな影響力を誇っていたEmil“HeatoN”Christensen氏(以下,HeaToN)およびAbdisamad“SpawN”Mohamed氏を,製品開発のパートナーとして迎え入れ,プロゲーマーをターゲットにする製品の開発を開始した……という話は,どこかで聞いたことがあるという読者も少なくないだろう。
そして,ZOWIE GEARの第1弾マウスとして2010年に発売となったのが,HeatoNの本名からその名が付けられた「EC1」「EC2」だ。俗にいう,往年の名機「IntelliMouse Explorer 3.0」(以下,IE 3.0)クローンながら,サイズ違いで2モデルを用意してきた――EC2のほうがEC1より小さい――のがトピックだった。
製品開発パートナーが途中で変わったことにもなるが,果たしてそれによって何が変わり,何は変わらなかったのか。前振りが長くなったが,今回はその点を明らかにしてみたい。
未公開部分が多く,公称スペックでの比較は難しいが
実機レベルでの違いは多くない
というわけで,さっそくだがそのスペックを公開情報で比較してみよう。下の表1はEC1 eVo CLとEC1 eVo,表2はEC2 eVo CLとEC2 eVo CLのスペックをまとめたものだ。サイズと重量は実測値で,それ以外はZOWIE GEAR公式のものを用いている。
EC1 eVo CL | EC1 eVo | |
---|---|---|
ボタン数 | 6(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,サイドボタン×2,DPI切り替え) | 6(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,サイドボタン×2,DPI切り替え) |
トラッキング速度 | 未公開 | 60IPS |
最大加速度 | 未公開 | 20G |
DPI | 450/1150/2300DPI | 450/1150/2300DPI |
フレームレート | 未公開 | 6400fps |
画像処理能力 | 未公開 | 未公開 |
レポートレート | 125/500/1000Hz | 125/500/1000Hz |
リフトオフディスタンス | 1.5〜1.8mm | 1.5mm |
実測サイズ | 70(W)×128(D)×43(H)mm | 70(W)×128(D)×43(H)mm |
実測重量 | ケーブル込み138.5g,ケーブルを重量計からどかした参考値101〜103g | ケーブル込み139.5g,ケーブルを重量計からどかした参考値97.5〜98.5g |
EC2 eVo CL | EC2 eVo | |
---|---|---|
ボタン数 | 6(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,サイドボタン×2,DPI切り替え) | 6(左右メイン,センタークリック機能付きスクロールホイール,サイドボタン×2,DPI切り替え) |
トラッキング速度 | 未公開 | 60IPS |
最大加速度 | 未公開 | 20G |
DPI | 450/1150/2300DPI | 450/1150/2300DPI |
フレームレート | 未公開 | 6400fps |
画像処理能力 | 未公開 | 未公開 |
レポートレート | 125/500/1000Hz | 125/500/1000Hz |
リフトオフディスタンス | 1.5〜1.8mm | 1.5mm |
実測サイズ | 67(W)×122(D)×42(H)mm | 67(W)×122(D)×42(H)mm |
実測重量 | ケーブル込み133.5g,ケーブルを重量計からどかした参考値92.5〜94.0g | ケーブル込み135.5g,ケーブルを重量計からどかした参考値94.0〜95.5g |
そんななかで気になるのは,実測重量に微妙な違いがあることだが,これは,EC eVo CLにおける細かな変更によるものだろう。今回,製品設計の都合上,分解してケーブルを取り外した状態の重量は計測できていないため,参考重量の大小にあまり意味はない。そのため,ケーブル込みの重量で比較してほしいと思うが,EC eVoでは全面ラバーコートだったのが,EC eVo CLでは黒い上面カバー部のみがそうなっているとか,底面のセンサー部でEC eVoではレンズユニットがほとんど剥き出しのような格好だったのに対し,EC eVo CLでは遮蔽板のような板が追加されたといった違いが生じているので,これが数g程度の違いを生んだ可能性が高い。
ただ,体感できるようなものではないだろう。少なくとも筆者には,EC eVoと変わらない重さだと感じられた。
形状,そしてサイズが従来製品と変わらないので,金型は同じと断言していいだろう。コーティングの変更で,本体側面の白い部分は光沢のないプラスチック的な肌触りになっており,側面もラバーコートされ,すべすべしていたEC eVoと比べると,EC eVo CLは指が軽く貼り付くような感覚で,持ちやすさは若干向上しているように思える。ただ,ここは好みの問題という気もするので,「Coollerが貼り付く感じを好んでいるからこうなった」ということなのかもしれない。
なぜ8つもノッチを増やしたのか。QUAKE LIVEでCoollerが使っているconfigファイルを調べてみたところ,スクロールホイールには下記の2つが割り当てられていた。
- bind mwheeldown "say ^0gl master ^7*^4*^1*"
- bind mwheelup "+button2"
上段はメッセージバインドで,下段は任意のタイミングで使えるアイテムの利用ということらしい(※QUAKEのコンペティションルールだと,このアイテムは用意されないので,なぜこれがバインドされているのかは分からない)。
正直,これだけではノッチが増えた理由を断じることはできないが,「ノッチ数が多いほど,configで指定した動作の発動するタイミングが早くなるから」か,「感覚的になんとなく」が本当の理由なのではないかと筆者は考えている。
「謎のセンサー」が分からないから分解!
内部を見る限り,基本的には従来製品と変わらずか
スペックだけだとセンサーの詳細が分からない。なら,実際に中を確認してしまえばいいじゃないかということで,今回は従来製品となるEC1 eVoおよびEC2 eVoともども分解してみることにした。
※注意
マウスの分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は筆者が入手した個体についてのものであり,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
下に示したのは底面部のネジを外してカバー部を開けたところだ。本体のカラーリングが異なるためにけっこう違って見えるが,冷静に配線や基板を見ると,EC1 eVo CLとEC1 eVo,EC2 eVo CLとEC2 eVoは非常によく似ている。
そして気になる光学センサーだが,いずれも「A3090」という刻印があるので,PixArt Imaging(旧Avago Technologies)の「ADNS-3090」採用で間違いない。つまり,前段の表1〜2で「未公開」となっていたところは,EC1 eVoおよびEC2 eVoと同じスペックということだ。
ボタンはいずれもHUANO製で,左右メインボタン用はZOWIE GEARロゴ入りのカスタムモデルというのも従来製品から変わらず。一方,スクロールホイールは,溝の数が同じながら,EC eVo CLシリーズで歯車のノッチが増えているのを確認できよう。
というわけで,EC eVo CLとEC eVoでは,ほとんど何も変わっていない。変わっているのは本体底面の遮蔽板のみと述べてもいいくらいだ。もちろん,ファームウェアレベルでCoollerの意向に沿うアップデートが入っている可能性はあるのだが,ハードウェア的にはマイナーチェンジレベルといったところである。
センサー周りの挙動は従来製品と変わらず
EC1とEC2の違いは予想以上に持ちやすさを左右する
センサーが変わらない以上,センサー周りの使い勝手は変わらないと推測されるが,念のため,複数のマウスパッドにおける相性テストも行っておきたい。検証にあたってのテスト環境とテスト時のマウス設定は以下のとおりだ。ZOWIE GEARは,マウスなどの設定ソフトウェア的なものを用意していないので,下に示したものが,テストにあたって設定した内容のすべてである。
●テスト環境
- CPU:Core-i7 4770(定格クロック3.4GHz,最大クロック3.9GHz,4C8T,共有L3キャッシュ容量8MB)
- マザーボード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GA-Z87X-UD4H(Intel Z87 Express)
※マウスはI/Oインタフェース部のUSBポートと直結 - メインメモリ:PC3-12800 DDR3 SDRAM 8GB×2
- グラフィックスカード:GIGA-BYTE TECHNOLOGY GV-760OC-2GD(GeForce GTX 760,グラフィックスメモリ容量2GB)
- ストレージ:SSD(CFD販売「CSSD-S6T128NHG5Q」,Serial ATA 6Gbps,容量128GB)
- サウンド:オンボード
- OS:64bit版Windows7 Ultimate+SP1
●テスト時のマウス設定
- ファームウェアバージョン:未公開
- ドライババージョン:6.1.7600.16385(※MicrosoftのUSBドライバ)
- DPI設定:450/1150/2300DPI(※主に1150DPIを利用)
- レポートレート設定:125/500/1000Hz(主にデフォルトの1000Hzを利用)
- Windows側マウス設定「ポインターの速度」:左右中央
- Windows側マウス設定「ポインターの精度の高める」:無効
- ARTISAN 隼XSOFT(布系)
- ARTISAN 疾風SOFT(布系)
- ARTISAN 飛燕MID(布系)
- Logicool G440(プラスチック系)
- Logicool G240(布系)
- Razer Destructor 2(プラスチック系)
- Razer Goliathus Control Edition(布系)
- Razer Goliathus Speed Edition(布系)
- Razer Manticor(金属系)
- Razer Sphex(プラスチック系)
- SteelSeries 9HD(プラスチック系)
- SteelSeries QcK(布系)
- ZOWIE G-TF Speed Version(布系)
- ZOWIE Swift(プラスチック系)
なお,EC1 eVo CLとEC2 eVo CLとで,センサーに起因する操作感の違いは当然ながらなし。マウスパッドとの個別相性について述べるなら,Razer Destructor 2とSteelSeries 9HDではやや滑り過ぎるきらいがあるのと,ZOWIE G-TF Speed Versionではマウスを大きく振ったときにわずかながらネガティブアクセル感があたが,気になったのはそれくらいだ。全体的にはクセのない操作性と評していいだろう。
直線補正は,Windows標準の「ペイント」を使って,実際に線を引いて確認してみた。ここでは従来製品ともどもテストしてみたのだが,下に結果を示したとおり,とくにこれといった違いは感じられない。補正は,筆者の体感的には「ない」と言えるレベルで,あったとしても極めてわずかだと思われる。
最後に,握った感覚についても写真とキャプションで述べておこう。今回も,「かぶせ持ち」「つまみ持ち」と「つかみ持ち」,そして筆者独自の持ち方だと信じて疑わない「BRZRK持ち」で検証してみたので,以下,参考にしてほしい。
なお,EC1 eVo CLとEX2 eVo CLでは,握ってしまうと写真レベルでは違いが分からなくなることから,ここではEC1 eVo CLを代表して掲載し,テキストでEC2 eVo CLの話もカバーすることにしたので,この点はご了承を。
以上,EC1 eVo CLとEC2 eVo CLのどちらが合うかは,一にも二にも手の大きさ次第という結果になった。個人的にはEC1 eVo CLのかぶせ持ちがベストで,指にほとんど負担をかけることなく自然に持てたが,手の小さい人だと,まったく違った印象になるのではなかろうか。ZOWIE GEARは,だからこそ微妙にサイズの異なるマウスを用意しているわけで,ここは店頭で手に取るなどして,「自分にはどちらが合うのか」をじっくり吟味してほしいところである。
Coollerバージョンはほとんどカラバリ!?
これといった進化は感じられない
とはいえ,EC eVoシリーズ自体,IE3.0クローンとしての完成度は高く,かつ,手の大きさや握り方に合わせてサイズを選べるという希有な特徴もあるので,“カラバリモデルに毛の生えた程度”だったとしても,それはEC1 eVo CLとEC2 eVo CLの価値を下げるものではない。すでにEC1 eVoやEC2 eVoを使っていて,とくに困ったこともないなら,わざわざ買い換える必要はないが,使い勝手のいい右手用マウスを探しているなら,試す価値があると筆者は思う。
これといった機能もないマウスに7700〜8600円程度(※2014年5月22日現在)のコストを投じられるかというと,その金額を払える人はそう多くないかもしれないが。
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ZOWIE GEARのEC eVo CLシリーズ製品情報ページ
- 関連タイトル:
ZOWIE(旧称:ZOWIE GEAR)
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