インタビュー
凝縮されたリアルがここにある――スーパーなプロデューサーが語る「スーパーストリートファイターIV」の原点とは。カプコン小野P,スーパーハイテンションインタビュー
格闘ゲームシーンの変遷と,「ストリートファイター」に求められるもの
4Gamer:
ではもう少し大きなくくりで,小野さんから見た現在の格闘ゲームシーンについてお聞きしていきたいと思います。まずGDCなどの講演で,また今回のお話の中でも,小野さんがよく使っておられる言葉に,「ストIIらしさ」「原点回帰」というものがありますよね。「ストIV」ではその「ストII」らしさを求めた,と。このあたりをもう少しかみ砕いてご説明いただきたいのですが。
原点回帰の本当の意味は何かというと,それは「競う楽しさ」なんです。もうこれだけです。勉強であれ運動であれ,人間誰しも「あいつには負けたくない」って気持ちを味わったことがあると思います。テストの点で俺86点,あいつは84点,まぁ同レベルだなって言いつつも,心の中では2点勝ったっていう,この優越感。それを上手にツールとして落とし込めたのが,初代の「ストII」だと思うんです。
4Gamer:
対戦ツールとして,ということですね。
小野氏:
もちろん,さっきもお話した,ブランカに対してザンギエフはどうすればいいんだ,とか,そういう苦手な事ってリアルの世界にも絶対あるじゃないですか。苦手な科目もあれば,苦手な相手もいる。それがあの8人のキャラクターの中に,ぎゅっと詰め込まれている。競い合える何かが現れた時に,まずぐっと耐える。その何かを研究した上で,競いあって勝つってことが,僕はストIIらしさ,人間誰しもが持っているプリミティブな面白さだと考えています。
4Gamer:
それはストリートファイターに限らず,格闘ゲームや対戦ゲーム全般にも言えるお話ですね。そうか,その格闘ゲームというジャンルを作りあげたストIIであるがこそ。「ストIIらしさ」とは「対戦ゲーム」そのものの面白さを指していると。
小野氏:
そうです,そこがキーワードです。みんなが忘れかけていた,競い合うというゲームの原点を,巧くゲームに落とし込んだのが「ストII」だと。あれはやっぱり一つのエポックだと思うんです。今出てる「モンスターハンター」シリーズにしても,やっぱり装備品とか,ほかのプレイヤーに負けたくないから集めるわけですよね。そんな人間らしい競争心を一番表現できてるのが格闘ゲームなんじゃないかな。
4Gamer:
よく分かります。しかし格闘ゲームは一時期大ブームになりましたが,その後一度は収束しましたよね。今また「ストIV」を始めとして,少し盛り上がりつつあるわけですが,どうでしょう,小野さんから見て,当時と今で何か違いはありますか?
実際にプレイしている人については,昔となんら変わらないですけど,その周りにある環境は少し違う気がしますね。努力・根性・修行っていうような,積み重ねの文化は無くなったのかな,というのが感覚的にあります。
4Gamer:
と言うと?
小野氏:
自分達で考えて,戦術を練って研究する。そんな積み重ねを面倒と感じてしまうとか。あるいはそんな沢山のボタンは押せないとか,諦めちゃう。本来であれば,僕らの作るストリートファイターっていうチェス盤は,そんな実態に合わせて上手に変えていかないといけないんですが。
4Gamer:
ハードルを下げるということですか。
小野氏:
本来その意味で作ったのが「IV」なんですよ。便宜上「ストII」の最新作って言い方をしているんですが,実は「ストII」よりも入りやすくしよう,というのがこのタイトルの使命だと考えていたんです。
4Gamer:
嗜好が変わってしまったとすると,それは何故だとお考えですか? 昔からプレイし続けている人達が変わってないとすれば,ゲーマーの人口が広がったたために,割合として減った,とか?
小野氏:
いや人口というより,こういうハードコアなゲームを集中して遊ぼうという感覚ではなくなったんじゃないかな。やっぱりゲームが面白い面白くないって,やり込んで初めて分かるものじゃないですか。昔のプレイヤーの人達って,やり込み始めたら,こう結構ギューっと集中してやってましたよね。
4Gamer:
うーん,確かにゲーム一本あたりにかける時間は減ったような気もします。
小野氏:
で,スーパーファミコン版のストIIがあれだけ売れたときも,大学生とかサラリーマンがみんな夜に集まって,かならずお酒のつまみみたいに「ストII」があった。それがだんだん,今はイージーに,パッと楽しめるものが求められている気がします。それゆえに,この手のジャンルを極めるっていう風潮が無くなってきたのかもしれません。
4Gamer:
面白さを理解するまでに,時間がかかるというのはありますね。最初は絶対ボコボコに負けちゃいますから。
そんな状況を変えようと思ったら,もう一人ずつ横に教えて,繋がっていくしかない。だからこのストリートファイターっていうチェス盤自体を,そこに寄せていくような作りに,僕等の方からアプローチしていかなければならないんじゃないかと。それが今の市場だと思ってます。
4Gamer:
ちなみに海外の場合はどうなんでしょうか。
小野氏:
今の日本の,例えばアーケード版であるとか,無印のコンシューマ版を買ってくれるまで格闘ゲームに残っていた,だいたい20万人ぐらいの人達が,海外の場合だと,もっと多く残っていたという感じです。
4Gamer:
ということは,やっぱり昔からプレイし続けている人達なんですね。
小野氏:
新しく入って来る人も,もちろんいるんですが。やっぱり結局上まで登って来る人達は,もう「スパIIX」とか「ストIII」とかから変わらないプレイヤー達ですね。EVO※とかを見ていても,あぁ久しぶりだねって感じのメンバーで。
4Gamer:
日本より多いというのは,やはり元となる市場のパイが広いから?
小野氏:
そう。パイが広いから,その分残ってくれた。そこで僕らが次にしなければならないのは,今このR35,R40世代の息子さん娘さんに,それをどうすれば継承してもらえるのかということです。
4Gamer:
次の世代のプレイヤーにどう繋げていくかという。
小野氏:
そう。じゃあその子供達の世代が,修行してくれるのかっていったら,もうそういう時代ではないわけで。だからあくまでライトな形で,対戦ツールというものを触ってもらえるように,土台作りをしないといけない。それが僕らの次のステップかな。
4Gamer:
その一つが,例えば今回の「リプレイチャンネル」でしょうか。
小野氏:
そうですね。あれも研究用として使うだけでなく,ただの娯楽として見てもらえばいい。それに対戦するにしても,もっといいやり方があるはずです。あの★マーク※でハンディキャップをつけるとかじゃない,もっとエポックメイキングな「何か」が。もし次回を作れるチャンスがあるなら,その辺も模索していきたいと思ってます。
4Gamer:
それが今回の「スパIV」で,まだやり残したことですか?
小野氏:
「スパIV」の「ストIIらしさ」って意味では,僕はまだもう一歩,進むことで開ける道があると思うんです。無印「ストIV」が初級編だとすれば,今回は入門編です。次が実践編ぐらいで,そこでやっとピラミッドに最初の一段目に登らせてあげられる。そこまでは,もうちょっとやりたいですね。
実践編とはどういう形になるんでしょうか。さらに上となると,例えばアーケード版がそれにあたるとか。
小野氏:
そうですね。だからアーケード版の前に,入門編でデビューしてみましょうよ,と。アーケード待ち受けを使って対戦すれば,対戦って別に怖くないでしょ。アーケードだって一緒だよ,全然怖くないですよ,と。
4Gamer:
あぁ,なるほど。
小野氏:
何かもう一歩,次の扉を開く所までは,やってあげたい。それはゲームソフトだけで完結するものだけでなく,リアルでのイベントであるとか,トーナメントモードを配信したときにやろうかな,と思っているオンラインのイベントかもしれない。やり残したというか,これからやっていきたい事ですね。
4Gamer:
エポックメイキングとは,そういうものも含むわけですね。つまり,対戦に至る仕組みというか。
小野氏:
もっと将来は,今の文化にあわせた人達にも,対戦ツールに触るっていう楽しさを知ってほしいと思います。そのための「何か」,ですね。まだこのシリーズに携わっていられる間は。またこれが売れなくなってやめまーすってなったら,多分「V」でるのは15年後とかになっちゃうので。そうはならないようにね。
まだ発売前の状態でお聞きするのもなんですが,「スパIV」の次のタイトルが,もしあるとしたらどうでしょう?
小野氏:
なるべく5〜6年ぐらいで出したいと思いますけど。でもあえて挙げるとしたら「ヴァンパイア」※かな。
4Gamer:
ああ! それはときめきますね!
小野氏:
実のところ「ヴァンパイア」は,僕はずっと昔からやりたいと言ってたんです。今の技術を使って,あの表現をやったらどうなるだろうか,と。ストリートファイターシリーズって,じっくり読み合うタイプの格闘ゲームの原点ですよね。で,「ヴァンパイア」は,どちらかというと入力の正確さを競っていくタイプ,後のアークシステムワークスさんのタイトルなんかの基点になってる作品だと思うんです。
4Gamer:
チェーンコンボ※とかですね。
小野氏:
ああいうタイプが好きな層ってのは,やっぱりいるので。そこに対するアプローチとして,その原点を問い直す,もう一度作りたいという気持ちがあります。気持ちはあるんですけど,これは僕が思っているだけでして。今のところそんな気配はまったくないです(笑)
4Gamer:
なんか興奮してきました(笑)。でも残念ながら,今回はお時間のようです。最後に4Gamer読者に向けて,メッセージをお願いします。
まずはアーケードのプレイヤーも含め,前作をここまでプレイしてくれた方々に,心から感謝したい気持ちです。今回の全国大会も,全国各地の有志の皆さんの協力があってこそ,実現できました。こんなアットホームなコミュニティが出来たのも,「可能な限りプレイヤーさんの視点から」というコンセプトを貫いてきたおかげかな,と思っています。
今回の「スパIV」についても,お寄せいただいた要望の最大公約数をなるべく取り入れ,使いやすい対戦環境を実現しています。とくに今回のネットワークモードは,買ってもらったディスクが,「スパIV」というギルドの会員証みたいなものになっています。ぜひPlayStation 3やXbox 360に入れっぱなしにしていただいて,「スパIV」コミュニティを作りあげてください。
前作をお買い上げいただいた方も,ぜひ5000円札一枚で「スーパー」にバージョンアップしていただいて,新しい扉を開いてみてください。そうすれば,僕等もまた次の扉へ向けて走り出せますので(笑)。皆さんのご参加をお待ちしております。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
いかがだっただろうか。時間的な制約から,終盤が少し駆け足になってしまったのが悔やまれるが,それでも氏の考えの一端は感じ取れたのではないかと思う。格闘ゲームの面白さを多くの人に思い出してほしいと語り,次の世代への継承が課題だという小野氏。機会があれば,次はその辺りをもう少し広げ,お話をうかがってみたいと思った次第である。
また最後には,次回作へのヒント(?)も飛び出し,格闘ゲームファンにとっては夢の広がるインタビューとなったのもうれしい誤算だった。まだ構想レベルとのことだが,格闘ゲームというジャンルの火を消したくないという氏の言葉を信じつつ,とりあえずは,来週から始まるめくるめく「スパIV」ライフを堪能してほしい。なにせ,この1本をやり込んでいる間に,1年なんてあっという間に過ぎてしまうハズなのだ。きっとその頃には,次のタイトルの輪郭くらいは見えてくるに違いない。
――2010年3月31日収録
用語集
- オリコン
オリジナルコンボ。「ストZEROシリーズ」に登場したゲームシステム。発動することで,一定時間連続技がとても繋がりやすくなる効果がある。
- ウルコン
ウルトラコンボ。「ストIVシリーズ」における超必殺技の一つ。
- 当て身
敵の攻撃を受け止め,自動的に反撃するタイプの必殺技。「ストIV」では,剛拳の「金剛身」などがこれに当たる。ジュリの「化殺視」の場合は,反撃ではなく有利な状態で敵の背後などに移動するもので,当て身技の中でも特殊な部類。
- 伊予選手
2009年1月に開催された第一回「ストリートファイターIV 全国大会」優勝者。使用キャラクターはダルシム。
- ダイアグラム
キャラクターの組み合わせによる強弱関係を示す表のこと。転じてプレイヤーの攻略が進んだ後の,最終的なゲームバランスを指す。
- ブロッキング
「ストIIIシリーズ」特有のガードシステム。敵の攻撃を受け止めて,有利な状況を作り出す。ただし相手の攻撃に合わせてキーを入力しなければならないため,難度が高い。そのコンセプトは一部は「ストIV」のセービングアタックに引き継がれている。
- セービング
敵の攻撃を受け止め,反撃できる「ストIV」特有のゲームシステム。当て身技の一種だが,発生からヒット後まで,どのタイミングでもキャンセルできることと,必殺技ゲージを消費することで,必殺技をキャンセルして発動できるのが大きな特徴。これを利用したいコンボのことを,セービングキャンセルコンボという。
- フレーム
ゲーム内の時間を表す最小単位。「ストIV」の場合,1フレーム=1/60秒。
- スーパーアーツ
「ストリートファイターIIIシリーズ」に登場する超必殺技のこと。スーパーアーツは各キャラに3種類づつ用意されており,その中から一つを選択する形式だった。
- キャンセル
ヒットした攻撃の戻りモーションを必殺技などで省略し,攻撃を連続ヒットさせる格闘ゲームの基本テクニック。元々は必殺技を出しやすくするためのシステムが,連続技に利用されたといわれている。
- 溜め
コマンドの完成に,レバーを一定時間決まった方向に入力し続ける必要がある必殺技を溜め技,また溜め技を持っているキャラクターを溜めキャラという。「スパIV」では,ガイルやバルログなどが該当。ここでは,その「溜め」に必要な時間の長さを指している。
- 3on3
3人1組のチームで争われる団体戦。先日(4月4日)の「ストIV」の全国大会は,この形式のトーナメントで行われた。
- 簡易コマンド
の昇龍拳コマンドなどが,でも出せるといった「IV」特有のゲーム仕様。意図しない技が暴発する原因となったり,また上級者同士の場合でも,読み合いを拒否した行動が取れる(頭上を跳び越されても,相手の方向に向かって昇龍拳が出せる)などの理由で,賛否両論がある。
- 当て投げ
小パンチや小キックなどの小技をガードさせて,防御姿勢を取った相手に投げを狙う戦術のこと。しゃがみガードを崩す手段として優秀。ただ簡単なわりに回避が難しく,あまり良く思わないプレイヤーも居る。
- 中段技
立ちガードは可能だが,しゃがみガードはできない地上打撃技。「ストIV」ではケンの「紫電かかと落とし」などがこれに当たる。
- 投げ抜け
相手と同じタイミングで投げ技のコマンドを入力することで,投げを回避できるという防御システム。「ストII」時代には無かったが,現在は名称こそ違えど,ほぼ全ての格闘ゲームに搭載されている。
- トライアルモード
「ストIV」及び「スパIV」に搭載されているゲームモードの一つ。キャラクターごとに用意された連続技を順番にこなしていく事で,そのキャラクターの基本コンボを習得できる。
- キャラ対策
相手キャラクターの技や戦術を理解し,それに対応した戦術を練ること。相手キャラクターごとに別の対策を考える必要がある。キャラクターではなく,プレイヤーの操作の癖に対応する戦術の場合は「人読み」と呼ばれる。
- チャンピオンシップモード
「ストIV」に搭載されていたネットワークモードの一つ。連勝に重きが置かれたシステムで,擬似的なトーナメント戦が楽しめる。ランクマッチのバトルポイント(BP)とは別に,チャンピオンシップポイント(CP)というポイントを競う。
- Games for Windows
マイクロソフトが提唱するゲームブランド,およびその基盤システム。ここでは,Xbox 360やPCゲームで使用されるアカウントサービス「Xbox Live」と,そのクロスプラットフォーム対戦システムを指している。
- EVO
格闘ゲームイベント「EVOLUTION」。アメリカで定期的に開催されている大会で,長い歴史を持つ。→公式サイト
- ★マーク
対戦時に体力や攻撃力にハンディキャップをつける設定のこと。★マークの数が多いほど,ハンデも大きくなる。
- ヴァンパイア
1994年7月に第一作が発売された,対戦格闘ゲームシリーズ。基本的に人間の格闘家が主人公のストリートファイターシリーズとは異なり,吸血鬼やゾンビ,狼男などのモンスターを操作して戦う。モンスターならではの派手な演出や,チェーンコンボやガードキャンセルといった斬新なシステムが特徴。
- チェーンコンボ
小P→中P→大Pの様に,特定の順番でタイミング良くボタンを押していくことで,連続技が作れるというゲームシステム。その概念はターゲットコンボという形で,「スパIV」の一部のキャラクターにも受け継がれている。
- 関連タイトル:
スーパーストリートファイターIV
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(C) CAPCOM U.S.A., INC.2010 ALL RIGHTS RESERVED.
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