連載
夏といえば海! 「放課後ライトノベル」第4回は,『あそびにいくヨ!14 かみさまそこにおらりましか?』で猫耳美少女宇宙人と沖縄にいくヨ!
女の子との突然の出会い。それをきっかけに,平凡だった主人公の日常は,冒険と興奮に満ちたものへと変わっていく。
ライトノベルでたびたび見かけるシチュエーションだ。
ポイントはやってくる女の子の属性で,しばしば世界の運命を背負っていたり,強大な敵と戦っていたりする。最近ではなんと,某神話の「這いよる混沌」が美少女型宇宙人の姿でやってくる,なんてものまで登場している。
上記の作品(仮に『ニ○ル子さん』としておく)を見たときにはそりゃぶったまげたものだが,ぶっ飛び具合ではニ○ル子さんにさかのぼること5年半前からシリーズがスタートした「ある作品」も負けてはいない。なにせ猫耳美少女型宇宙人だ。いわば「美少女型宇宙人とのファーストコンタクトもの」としての大先輩。この作品がなければ,ニ○ル子さんも存在しなかったのである! すみません,今,適当なこと言いました……。
とまあ冗談もこのくらいにしておいて,今回の「放課後ライトノベル」で紹介するのはその「ある作品」,現在アニメが絶賛放映中の『あそびにいくヨ!』シリーズ最新巻,『あそびにいくヨ!14 かみさまそこにおらりましか?』だ。
『あそびにいくヨ!14 かみさまそこにおらりましか?』 著者:神野オキナ イラストレーター:放電映像 出版社/レーベル:メディアファクトリー/MF文庫J 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8401-3429-3 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●猫耳+美少女+宇宙人=∞!
突然だがあなたは猫耳が好きだろうか。
一般人に尋ねればかわいそうな人を見る目で見られかねないこの質問だが,この連載を読んでいる人なら,きっと抵抗なく「うん,まあ好き」などと答えてくれるのではないだろうか。そしてそういう人なら,恐らくは美少女も好きなはずだ。
さらに宇宙。先日,小惑星探査機「はやぶさ」の帰還に世界中(!)が沸き返ったように,宇宙という言葉には,我々の心を熱くさせる何かがある。いつかきっと,自分たちの知らない惑星からやってきた宇宙人と出会う日が訪れるなんてことを,だれもが一度は夢想したことがあるに違いない。
猫耳,美少女,宇宙人。それらすべてを合わせた,夢と希望とロマンの詰め合わせのような存在が,『あそびにいくヨ!』のヒロイン・エリスの属する種族・キャーティアなのである。
生物としてどん詰まりまで進化し,刺激を求めて地球まで「あそびにきた」彼女たちは,地球上のあらゆる物事に興味津々。科学技術的には地球が足元にも及ばないほどのはるか高みにいるというのに,些細なことでいちいち感動する姿は,まるで好奇心旺盛な猫そのもの。何ともほほえましい。
ほほえましいといえば,彼女たちのよき相棒たるアシストロイドたちも忘れてはいけない。アシストロイドとは,ひと言で言えばキャーティアたちをサポートするロボットなのだが,外見はデフォルメしたキャーティアだったり,プラカード(しかも誤字多し)でコミュニケーションをとったり,仕草が妙に人間くさかったりと,単なるサポートロボットには留まらないマスコット的魅力を放っている。その魅力は文章だけでも十分伝わってくるのだが,ビジュアルが加わるとかわいさは一気に2倍,3倍に。ぜひ本文イラストやアニメで堪能してほしい。
そんなキャーティアとアシストロイドたちが縦横無尽に活躍する様は,きっと大きなお友達だけでなく子供や女性ファンの心をもつかむに違いない。余談だが,筆者はシリーズ開始当初からアシストロイドの立体化を切望しており,今回,アニメ化を期にそれがついに実現しそうなことに密かに小躍りしているのはここだけの話である。
●萌えだけじゃない! ちゃんとやります外交も
さて,はるばる地球へとやってきたエリスたちキャーティアは,最初に接触した沖縄の高校生・嘉和騎央(かかずきお)の家を拠点に地球人たちとの友好をはかろうとするのだが,いまだに国同士で争っている地球人たちのこと,そう簡単には話は進まない。さまざまな組織同士の思惑が複雑に絡み合った結果,交流は非常にゆっくりと進んでいくことになる。その意外なリアルさはファーストコンタクトものの面目躍如といったところ。
また,期せずして地球とキャーティアとの板挟みとなってしまった騎央の成長ぶりにも注目。もともとどちらかというと大人しいタイプの少年だった騎央が,多くの経験や失敗を通して,立派に地球とキャーティアとのつなぎ役を務め上げるようになる過程は,シリーズの大きな見どころの一つだ。
シリアスなシーンもないではないが,根がほんわかしているキャーティアの性格によるものか,緊迫したシーンでもどこか安心して読めるのが特徴。敵対する組織の中にも「ファーストコンタクトの相手が猫耳宇宙人だなんて認めない!」という秘密結社や,猫耳と猫尻尾を崇める教団があったりと,基本的には奇妙な種族間交流をのんびりまったり眺めることができるシリーズなのだ。
●いよいよクライマックスか!? 急転直下の最新巻
そんなふうに徐々に縮まってきた2種族間の関係に,最新14巻では大きな転機が訪れる。なんとカトリックの中心人物であるところのローマ法王が,キャーティアとの会談を申し入れてきたのだ。かつてない大物相手に,さまざまな経験を積んできた騎央たちがどう対応するのか,その成果に要注目。
またこの巻では,前巻までクローズアップされていた双葉(ふたば)アオイに代わり,騎央の幼なじみ・金武城真奈美(きんじょうまなみ)にスポットが当てられる。それまで騎央の頼れる友人として彼をサポートしてきた真奈美だが,彼の成長ぶりを目の当たりにしたとき,胸の内にある感情が浮かび上がってくる。その感情の正体が自分でも分からないまま,真奈美は騎央たちから距離を置こうとするが……。
それまでエリスとアオイによって繰り広げられてきた騎央をめぐる恋愛模様に,ついに真奈美も参戦か? 14巻は,種族間交流とはまた別の意味でもシリーズのターニングポイントとなりそうだ。
おぼろげにクライマックスの気配も漂いつつある『あそびにいくヨ!』の世界。この機会にあなたも一度,遊びに行ってみてはいかが?
■ばっちり分かる,神野オキナ作品
『あそびにいくヨ!』の著者・神野オキナは1970年生まれ。1999年,『かがみのうた』で第1回エンターブレインえんため大賞・小説部門佳作を受賞,同年『闇色の戦天使』(ファミ通文庫)でデビュー。『南国戦隊シュレイオー』(ソノラマ文庫),『シックス・ボルト』(電撃文庫),『ぷりんせす・そーど』(GA文庫),『うらにわのかみさま』(HJ文庫)など,多数のレーベルにわたって作品を発表し続けている。
『疾走(はし)れ、撃て!』(著者:神野オキナ,イラスト:refeia/MF文庫J)
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作品にはミリタリー色の強い,ハードな作風のものが多い。『あそびにいくヨ!』ではそうした要素は控えめだが,それでも特殊部隊や銃器の描写などにこだわりが見られる。また『あそびにいくヨ!』と同じMF文庫Jで展開している『疾走れ、撃て!』は,徴兵制のある日本で,軍隊生活を送る少年少女たちの姿を描くという,著者元来のテイストがより表に出た作品となっている。ちなみに神野作品では,ある作品のキャラクターが別作品にスターシステム的に登場することがしばしばあり,そうした遊びを見つけるのもファンの楽しみの一つといえる。
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