連載
あの人気ゲームや有名サイトが実名で登場! 「放課後ライトノベル」第46回は『僕と彼女のゲーム戦争』で目指せ一流ゲーマー
幼いころ,筆者の家にはテレビゲーム機がなかったので,友人の家でファミコンをプレイするのは短くも実に幸福なひとときだった。その際によくやっていたゲームが「ロックマン3」。ただでさえ難しいのに自宅でプレイできないとあってなかなか上達しなかったが,まだ純粋だった宇佐見少年はそれでも夢中になってプレイしたものだ。読者の中にも,2コンを使った大ジャンプ技や無敵技を懐かしく思う人は多いのではなかろうか。
時は流れ,いまや当時ほど純粋ではなくなってしまった筆者だが,遅ればせながらつい先日,10年以上の空白を経て発売された元祖ロックマンシリーズの新作「ロックマン9 野望の復活!!」「ロックマン10 宇宙からの脅威!!」をプレイしてみた。グラフィックスはファミコンテイスト,スライディングや溜め撃ちもないというレトロ具合に最初は敬遠していたのだが,いざプレイしてみるとその変わらぬ楽しさに,まるで童心にかえったように夢中になってしまった。
グラフィックスが美麗なゲームが当たり前になった今日だが,その美麗さは面白いゲームの必須条件ではない。たとえグラフィックスがレトロでも,アイデア次第で,そしてなによりプレイする我々の心持ち次第で,ゲームはいつだって面白いものになりうるのだ。……と,ここまで書いたところで担当編集氏に見せたら「で,オチは?」という返事が返ってきた。ちょっと待って! 今考えてるから! 自分だってやればできる子なんですよ!
というわけで今回の「放課後ライトノベル」は,テレビゲームの根源的な楽しさを改めて感じさせてくれる『僕と彼女のゲーム戦争』をご紹介。作中に実在のゲームが(伏字とかではなく)登場する本作,ゲーム好き,とくにそれらのゲームが好きな読者なら楽しめること間違いなしだ。……って,あれ? やっぱりオチてない?
『僕と彼女のゲーム戦争』 著者:師走トオル イラストレーター:八宝備仁 出版社/レーベル:アスキー・メディアワークス/電撃文庫 価格:662円(税込) ISBN:978-4-04-870554-7 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●元女子高でゲーム三昧! ……のはずが?
岸嶺健吾(きしみねけんご)は読書好きの高校生。その書痴ぶりは半端ではなく,2年で図書室のめぼしい本はあらかた読み尽くしてしまうほど。当然クラスでも浮いているが,本人はそれもまあ仕方ないかと割り切っている。良くも悪くもマイペースな健吾だが,3年生への進学間際,その身に「元女子校への転校」という思いもよらぬ申し出が舞い込んでくる。
転入先の伊豆野宮学園はお嬢様学校として有名だった私立高校で,男子を受け入れ始めた今でもその数は女子に比べて圧倒的に少ない。女子に囲まれた生活の中で,草食系だった健吾は覚醒,ハーレム王としての道を歩み始める――とかいうことは全然なく,転校しても相変わらずの読書三昧。周りが女の子だらけでも微塵も動じないなんて,健吾……恐ろしい子……!(白目)
だが,物理教師の瀬名明雄(せなあきお)から,彼が顧問を務める現代遊戯部に勧誘されたことで,健吾の学校生活にもついに転機が訪れる。現代遊戯部――その活動内容をひと言で述べるなら「ゲームで遊ぶこと」。高校の部活でそれはいいのか? と突っ込みたくなるところだが,作中世界ではとある文化振興政策によってゲーム業界が活性化,今では「ジャパン・ゲーム・バトル・チャンピオンシップ」(JGBC)なる大会が毎週のように開催される一大産業になっているのだ。ゆえに一見するとゲームで遊ぶだけの現代遊戯部も立派な部活として認められているという寸法。おお,なんと素晴らしき世界!
もっとも現代遊戯部の部員は現在,部長にして生徒会長の天道(てんどう)しのぶただ一人で,このままでは廃部は必至。救世主として白羽の矢が立てられたのが健吾だったわけだが,実はその健吾,子供のころからのゲーム嫌い。どうなる現代遊戯部!?
●実録!? ゲーム嫌いの少年がゲーム好きになるまで
ゲーム嫌いとはいっても,その理由は「読書ができないから」という消極的なもの。いわば「やらず嫌い」なのだ。そこでしのぶと瀬名は,まずはその楽しさを知ってもらおうと,健吾にゲームをプレイさせることにする。このときの健吾の反応が実に新鮮だ。
なにが新鮮って,PlayStation 3のコントローラに触れて「ボタンが10個もある!」と驚くところから始まるのだ。ゲームを題材にしたライトノベルは本作が初めてではないが,まずコントローラを握るところから始まる作品はそうそうないだろう。作品全体に言えることだが,この「ゲームをプレイすること」に関する丁寧な描写が本作の魅力の一つなのだ。
そしていざプレイを開始してからの健吾は,まさに初めてゲームに触れた子供そのもの。コントローラを操作し,キャラクターが動いたというただそれだけで感動する。画面上のキャラクターの動作一つ一つに驚き,時に悲鳴を上げさえする。そうして,ゲームオーバーになったら本気で悔しがる……。そんなことを繰り返しながら,健吾は次第に嫌っていたはずのゲームの世界に魅せられていく。
描かれている出来事と言えば「一人のゲーム嫌いの少年が,ゲームの楽しさに目覚める」という,ただそれだけ。そこにドラマを見出し,一つの作品に仕立て上げるというのは,まさに作者のゲーム愛のなせる業だ。素朴にゲームを楽しむ健吾の姿は,我々に「ゲームの楽しさとは何か」を改めて教えてくれる。
そんな健吾を導く,しのぶと瀬名のやり方がまた秀逸。健吾がよりゲームの世界に入りやすくなるように,あえて詳しく説明しなかったり,逆に本来ゲームにない設定を作ったりする。後者は要するに嘘をついているわけなのだが,それで実際健吾がゲームにのめりこんでいるわけだから見事に図に当たっているというほかない。このあたり,ゲーム嫌いの人にゲームをプレイさせるまでのチュートリアルとしても使えるかもしれない。
●誰もが知ってるあのゲームから,誰もが知ってるあのサイトまで!
文化振興政策,JGBCといった架空の設定もある本作だが,一方でこの上なくリアルな要素も存在する。それが前フリでも書いたように,実在のゲームが実名で登場するという点。
第1巻で登場するのは,その名を知らないゲーマーはいないであろう「スペランカー」,世界的に有名なアクションアドベンチャーの第2作「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」,そしてサードパーソン・シューティングゲームの名作「Gears of War」の3作品。数こそ多くはないものの,各作品の中身にしっかり踏み込んで書かれているため,ファンならニヤリとできること請け合い。個人的には,昨今ではもっぱらネタ扱いされている「スペランカー」に対する見方が変わっただけでも十分な収穫だった。次巻以降,どんなゲームが登場するのか今から楽しみだ。
ちなみに実名で登場するのはゲームのタイトルだけではない! ゲームに関連するサイト名なども実名で登場するのだ! その一例として,瀬名のとあるセリフを引用してみよう! すでにこの本を持っている人は本文の251ページに急げ!
「一理あるな! まずはサイトから入って、そこから興味を持てば雑誌の方も買ってみればいい。そうだ、どうせゲームサイトを見るなら『4Gamer』も外すべきではないな! あそこの情報量は半端ではない、今の君になら役立つだろう!」(※強調部分は筆者による)
というわけで,瀬名も太鼓判を押す日本最大級の総合ゲーム情報サイト「4Gamer.net」(こっちが正式名称)と,そのサイト内で絶賛連載中の「放課後ライトノベル」を,今後ともどうぞよろしくお願いします! しのぶには「(初心者には)情報が多すぎるサイト」で「見に行っても混乱するだけだと思う」とか言われてるけど!
■ゲーム好きなら見逃せない,ゲームを題材にしたライトノベル
『僕と彼女のゲーム戦争』以外にも,ゲームを題材にしたライトノベルは意外と多い。中でもよく見かけるのがオンラインゲームもので,元はWeb小説として大人気を博していたものを書籍化した,川原礫の『ソードアート・オンライン』(電撃文庫)はその代表格。プレイヤーがゲームの世界に閉じ込められ,ログアウトしようとしたり,ゲーム内で死亡したりするとリアルの肉体も命を落とす……という設定はある種異世界ファンタジーものに近いが,体力バーやステータスウインドウの表現など,ゲームであることを意識させる描写は濃い。
『ソードアート・オンライン 1』(著者:川原礫,イラスト:abec/電撃文庫)
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ハヤカワ文庫JAの『スラムオンライン』(著:桜坂洋)も『ソードアート・オンライン』と同じオンラインゲームものだが,こちらはリアルとバーチャルの対立というところにより比重が置かれている。同じオンラインでもこちらは格闘ゲームということもあり,対戦格闘ゲームがブームのころにゲームセンターに通いつめていた人ならより楽しめるはずだ。
本コーナーの第21回でも紹介した『僕は友達が少ない』は,「ゲームがテーマ」というわけではないものの,作中にゲームが登場することが非常に多い。ヒロインの一人がギャルゲー好きだったり,みんなでモンハンっぽいゲームをやる場面があったり,最新6巻の番外編では登場人物たちがゲームのアフレコをやることになったり。もしかすると「みんなでわいわいゲームをやってる感」が一番よく出ているのは,この『はがない』かもしれない。
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