レビュー
Fermi世代初のG92後継は,1万円台の市場に嵐を呼ぶか
GeForce GTS 450
(MSI N450GTS Cyclone 1G OC/D5)
HD 5750を搭載し,グラフィックスメモリを1GB搭載したグラフィックスカードの実勢価格は1万3000〜1万7000円程度(※2010年9月13日現在)。11か月遅れで登場した対抗場は,HD 5750が幅をきかせるこの価格帯に嵐を呼ぶ存在となり得ているのか。今回は,気になるスペックを明らかにしつつ,その実力に迫ってみたい。
GTS 450(GF106)=GF104÷2
ただしメモリ周りは128bitに制限
Fermiアーキテクチャの歴史を簡単に振り返っておくと,まず「GeForce GTX 480」など,「GF100」コアを採用するGPUの場合,シェーダプロセッサ「CUDA Core」は32基がひとかたまりとなり,4基のテクスチャユニットや1基のジオメトリエンジン「PolyMorph Engine」などと組み合わさって1基の「Streaming Multi-Processor」(以下,SM)を構築していた(関連記事)。それに対してGF104コアの場合,SMあたりのCUDA Core数が48基,テクスチャユニットが8基となり,DirectX 10世代までのゲームタイトルで重要になるテクスチャ性能のテコ入れが図られている点が大きな特徴として挙げられるが,GF106は,そんなGF104をベースとしている,というわけである。
下に示したのはGF106のブロックダイアグラムだが,ご覧のとおり,48 CUDA Coreが,8基のテクスチャユニットやPolyMorph EngineらとひとかたまりになってSMを構築しているのが分かる。
Fermiアーキテクチャでは,複数のSMが集まって「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)を構成し,ROPパーティションやL2キャッシュなどとはGPC単位で接続されるのだが,GF106は4SM仕様のGPCを1基のみ搭載する仕様だ。つまり,搭載するCUDA Core数は192基(48×4),テクスチャユニット数は32基(8×4)ということになる。
ただし,注意点もある。
ここまで筆者がGTS 450とGF106をわざわざ書き分けていたことでうすうす感づいている読者も多いと思うが,GTS 450はフルスペックGF106とイコールではない。SM周りに削られた部分はないのだが,ROPパーティションと64bitメモリコントローラはそれぞれ1基ずつ削減され,フルスペックの24ROP(3 ROPパーティション)+192bitメモリインタフェースではなく,16ROP(2 ROPパーティション)+128bitメモリインタフェース仕様となっているのだ。
メモリ周りに制限を加えた理由について,NVIDIAは「価格とパフォーマンスのバランスを考えた結果」と説明している。つまり,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)や歩留まりといった技術的な制約によるものではなく,純然たるマーケティング上の理由によるものなのである。表1はGTS 450と従来製品や競合製品のスペックをまとめたものだが,グラフィックスメモリ768MB版GTX 460(以下,GTX 460)比で6割前後のスペックに抑えることで,HD 5750と戦えるようにした,といったところだろう。
GTX 460とカード長は変わらず
空きパターンはフルスペック版の登場を示唆?
さて,今回4Gamerでは,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから,搭載製品「N450GTS Cyclone 1G OC/D5」(以下,N450GTS Cyclone)の貸し出しを受けることができた。
搭載するメモリチップはSamsung Electronics製のGDDR5「K4G10325FE-HC05」(0.5ns品)で,GTX 460のリファレンスカードと同じ。ただし,GTX 460カードだと,メモリチップはカード上でGPUと同じ側に8枚もしくは6枚搭載されるのに対し,GTS 450では,カードの表と裏両方に空きパターンが2つずつ用意され,最大で12枚搭載できるようになっている点が大きく異なる。
N450GTS Cyclone(左)と,リファレンスデザインを採用したMSI製のGTX 460 768MBカード「N460GTX Cyclone 768D5/OC」(右)。似ているが異なるカードデザインだ | |
カードの両面に,1Gbit品のGDDR5メモリチップを搭載する |
これはおそらく,GF106のフルスペック版となる192bitメモリインタフェースに対応するためだろう。「460」という型番は埋まっているので,“GeForce GTS 455”とか,そんな型番で出てくるのか,あるいはGTX 460と同じく,同じ型番で性能の異なる2製品が投入されるのかは分からないが,GF106のフルスペック版が登場する可能性は,この空きパターンからも想像できる。
AMDが「ATI Radeon HD 5700」シリーズの後継製品を,そう遠くない将来に投入するという噂も聞こえてきているだけに,「それを待って,“後出しじゃんけんの法則”で勝てるスペックに設定し,投入してくるのでは」などという穿った見方もできるが,ともあれ,このあたりの動向には注意を払っておくべきだろう。
なお,N450GTS Cycloneは,製品ボックスでも謳われているとおり,メーカーレベルのクロックアップがなされている製品で,動作クロックはコア850MHz,シェーダ1700MHz,メモリ4GHz相当(実クロック1GHz)まで引き上げられている。
製品ボックス。「OC Edition」の表記が見える |
「GPU-Z」(Version 0.4.6)実行結果 |
レビュワー向けのRelease 260ドライバを利用し
上位&下位モデルや競合製品と比較
先ほど紹介したとおり,N450GTS Cycloneはメーカーレベルのクロックアップが施されたモデルなので,今回はMSI製のオーバークロックツール「Afterburner」(Version 2.0.0)からそれぞれ動作クロックをリファレンス相当にまで落としている。
なお,クロックアップ版GTS 450カードとしてのN450GTS Cyclone自体の製品評価は,後日あらためて行う予定だ。テストスケジュールの都合もあり,今回はあくまでも,リファレンスクロックで動作するGTS 450の“素性”をチェックするに留める。
一方,ATI Radeonのテストに用いたのは,テスト時点の公式最新版「ATI Catalyst 10.8」だ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション10.0準拠。ただし,GTS 250はDirectX 11世代のテストを行えないので,DirectX 11世代のテストではGTS 250を省略する。
また,テストするタイミングなどによってその効き具合が異なることを避けるため,「Core i7-975 Extreme Edition/3.33GHz」の自動オーバークロック機能「Intel Turbo Boost Technology」はBIOSから無効に設定したこと,一方,「Intel Hyper-Threading Technology」は有効にしたままにしていることも,あらかじめお断りしておきたい。
失ったものが大きすぎた?
HD 5750と互角の攻防を演じるGTS 450
定番の「3DMark06」(Build 1.2.0)から見ていこう。総合スコアをまとめたものがグラフ1,2となるが,GTS 450のスコアはGTX 460 768MB比で68〜77%。高い動作クロックである程度持ちこたえていると見ることも,GPCが半減した影響はかなり大きいと見ることもできる数字だ。
また,アンチエイリアシング&テクスチャフィルタリングを適用していない「標準設定」,4xアンチエイリアシング&16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」とも,HD 5750とほぼ互角で,1920×1200ドットではやや置いて行かれていることと,標準設定でGTS 250のスコアを下回っていることも押さえておきたい。
グラフ3〜7は,3DMark06のデフォルト設定となる解像度1280×1024ドットの標準設定でFeature Testを実行した結果だ。
まずはグラフ3で「Fill Rate」(フィルレート)を見ると,GTS 450のスコアは「Multi-Texturing」でGTX 460 768MB比約68%のスコアに留まり,HD 5750のスコアよりも低い値となった。
GF100でテクスチャユニット数の少なさを指摘されたNVIDIAは,GF104でSM 1基あたりのテクスチャユニット数を倍増させてきたが,そんなGF104のフルスペック版と比べてSM数そのものが半減したGF106≒GTS 450では,テクスチャユニット数が再び性能面,とくにDirectX 9世代のゲームを前にしたときの性能面でボトルネックとなる可能性を露呈している。
グラフ4,5は「Pixel Shader」(ピクセルシェーダ)と「Vertex Shader」(頂点シェーダ)のテスト結果である。
GTS 450は,ジオメトリ性能重視というFermiアーキテクチャの傾向をそのまま踏襲しているが,それにしても,テクスチャ性能でGTS 250に置いて行かれているのは気になるところだ。
Shader Model 3世代における汎用演算のポテンシャルを見る「Shader Particles」(シェーダパーティクル)と,長いシェーダプログラムを実行したときの性能を見る「Perlin Noise」(パーリンノイズ)のテスト結果も,参考までにグラフ6,7にまとめたが,後者ではHD 5770の半分にも届かないなど,なかなか壮絶な結果となった。Fermiアーキテクチャらしく,旧世代のAPIはかなり苦手のようである。
実際のゲームタイトルから,グラフ8,9は「S.T.A.L.K.E.R.: Call of Pripyat」(以下,STALKER CoP)から,「Day」シークエンスの結果をまとめたもの。NVIDIAがGTS 450のターゲット解像度とする1680×1050ドットだと,GTS 450はHD 5750に一定の差を付けているが,一方,解像度が1920×1200ドットまで上がると,HD 5750と同等レベルに落ちている。
続いて,STALKER CoPから,最も描画負荷の高い「SunShafts」シークエンスの結果をまとめたものがグラフ10,11で,ここでは高い負荷のDirectX 11アプリケーションを前にしたときに発揮されるFermiアーキテクチャのポテンシャルが発揮され,HD 5770を上回るスコアを示した。ただ,GTX 460 768MBからは30%強離されており,高い負荷のDirectX 11アプリケーションを実行するには力不足なのだが。
グラフ12,13は,やはりDirectX 11アプリケーションから,「Battlefield: Bad Company 2」(以下,BFBC2)のテスト結果。STALKER CoPのDayシークエンスと同様,1680×1050ドットではHD 5750といい勝負を演じているのだが,1920×1200ドットだとメモリ周りの制約が足を引っ張っているようだ。
もっとも,「低負荷設定」の平均45.0fpsという数字はちょっと低すぎる気がしないでもないので,ドライバの最適化が進むと,もう少しスコアが改善する可能性は感じられる。
3DMark06のスコアを分析したときに述べた「旧世代のAPIに弱い傾向」が顕著に出ているのが,グラフ14,15に示した,シェーダプロセッサの性能とテクスチャユニットが効く,典型的なDirectX 9世代タイトルである「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果だ。GTS 450は競合製品に勝てないどころか,GTS 250にも11〜15%離されている。
一方,DirectX 10世代のタイトルとなる「Just Cause 2」だと,GTS 250との力関係は逆転し,最新世代の面目を保っている(グラフ16,17)。ただし,高負荷設定の1680×1050ドットを除くとHD 5750の後塵を拝し,「旧世代に弱い」傾向そのものは隠し切れていない。
同じくDirectX 10世代となる「バイオハザード5」の結果はグラフ18,19のとおり。“Call of Duty 4とJust Cause 2の中間”的なスコアに落ち着いているが,GTS 450のスコアが今ひとつ伸びきらないという点では同様だ。GeForceファミリーに最適化されている本作で,GTS 450がHD 5750に対して同等以下の数字しか出せていない点は指摘しておきたい。
3D性能検証の最後は,再びDirectX 11タイトルから,「Colin McRae: DiRT 2」(以下,DiRT 2)。スコアはグラフ20,21のとおりだが,解像度1680×1050ドットではHD 5770といい勝負で,しかし1920×1200ドットだとスコアを落とすというのはSTALKER CoPのDayやBFBC2とおおむね同じ傾向といえる。
消費電力はGTX 460 768MB比から確実に低減
GTS 250よりも低いが,しかしHD 5770よりは高め
Fermiアーキテクチャを採用するGPUとして,リファレンスデザインの要求する補助電源が初めて6ピン1系統となったGTS 450だが,消費電力は実際のところ,どの程度にまで抑えられているのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を計測し比較してみた。
テストにあたっては,OSの起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
結果はグラフ22のとおりで,アイドル時は,GTS 250が若干高い程度でほかは大差ない。アプリケーション実行時だと,GTS 450の消費電力はGTX 460 768MBから25〜43W下がっているが,一方でATI Radeon HD 5700シリーズの2製品よりは高めだ。GTS 450の公称最大消費電力は106Wで,HD 5770の同108Wと同等なのだが,実際には若干ながらGTS 450のほうが高い傾向にあることは頭に入れておきたい。
最後に,そもそも主役のGTS 450がMSIのオリジナルクーラー搭載モデルなので横並びの比較にはまったく使えないが,参考までに,3DMark06を30分間連続実行したときを「高負荷時」として,アイドル時ともどもGPU温度をチェックしてみた。
GPU-Zから取得したスコアをまとめたものがグラフ23だが,Cycloneクーラーはさすがに優秀。N450GTS Cycloneは実際のところ,今回テストしたリファレンスクロックよりも高いクロックで動作するが,リファレンスでここまで冷やし切れていれば,まったく問題ないだろう(※序盤でお断りしているとおり,N450GTS Cycloneそのものの検証結果は後日お届けする)。
DX9性能が弱点で,GTS 250からの乗り換えは「ない」
買いかどうかは店頭価格次第か
もちろん「DirectX 11世代のタイトルが動作する」というメリットはあるのだが,1万円台〜2万円台中盤の投資でDirectX 11世代のゲームをマトモにプレイしたいなら,もう少し奮発してGTX 460やHD 5770,あるいはATI Radeon HD 5800シリーズのGPUを搭載した安価なモデルを選ぶべきだ。「GTS 250など旧世代のエントリーミドル〜ミドルクラスを置き換えるDirectX 11世代のミドルクラスGPU」として手放しで歓迎できるモデルとは,残念ながらいえそうにない。
秋葉原ショップ筋の情報によると,GTS 450カードの“初値”は,1万2000〜1万6000円程度になる見込み。メーカーによって価格設定には差があるものの,スコア的に勝ったり負けたりのHD 5750とおおむね同じ価格帯ということになるため,消費電力や旧世代のゲームにおける性能を重視した場合,現状ではHD 5750のほうが魅力的ということになる。
もちろん,GTS 450については,あくまでも登場当初の価格で話をしているので,今後価格が下がっていけば,その存在意義は多少なりとも増すことになるだろう。
GTS 450の価値は,今後の店頭価格動向次第。そうまとめておきたい。
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