レビュー
169ドルで市場投入される“GTX 660の弟分”は買いなのか
GeForce GTX 650 Ti BOOST
(GeForce GTX 650 Ti BOOSTリファレンスカード)
その製品名から想像がつくとおり,既存の「GeForce GTX 650 Ti」(以下,GTX 650 Ti)へ,負荷状況に応じた自動クロックアップ機能「GPU Boost」を追加したという位置づけの製品だ。
搭載カードの実勢価格が1万円台前半から購入できるGTX 650 Tiと,2万円台前半からとなる「GeForce GTX 660」(※価格はいずれも2013年3月26日現在)。その間に割って入ることになるGTX 650 Tiだが,そこに居場所はあるのだろうか。NVIDIAのリファレンスカードを用いたテストから明らかにしてみたい。
「HD 7850キラー」と位置づけられるGTX 650 Ti BOOST
GPU Boost以上に足回りの強化がポイント
なら,本当に「GTX 650 TiのGPU Boost対応版に過ぎない」のかというと,これがそうでもなかったりする。
つまり,GTX 650 Ti BOOSTというGPUは「GTX 650 TiのGPU Boost対応版」というよりむしろ,「GTX 660からStreaming Multiprocessor eXtreme(SMX)にして1基,CUDA Core数にして192基分を削ったもの」という理解のほうがより正しいわけだ。あるNVIDIAの関係者は「GTX 650 Ti BOOSTはGTX 660のブラザーだ」という表現をしていたが,確かにGTX 660の弟分と見るのが適切かもしれない。
表1は,そんなGTX 650 Ti BOOSTのスペックを,GTX 660とGTX 650 Ti,そして価格帯的に競合となり得る「Radeon HD 7850」(以下,HD 7850)および「Radeon HD 7790」(以下,HD 7790)と比較したものだが,GTX 650 Ti BOOSTとGTX 660の類似性に注目してほしい。
もっともNVIDIAは,北米市場における搭載グラフィックスカードの想定売価が,グラフィックスメモリ2GB版で169ドル,1GB版で149ドルになるという見込みも示していた。グラフィックスメモリ1GB版の想定売価はHD 7790のそれとほぼ同じなので,HD 7790も十分に意識しての市場投入ではあるのだろう。
基板から大きくはみ出たクーラーを搭載
GPU Boostでは最大1084MHzへの到達を確認
GTX 650 Tiのリファレンスカードだとカード長は同143.5mmなので,10cm弱も長くなってしまっているが,これはGPUクーラーがカード後方へ大きくせり出しているためである。「GeForce GTX 670」のリファレンスクーラーと同形状だが,ともあれ,基板自体の長さは同175mmとコンパクトなので,カードメーカー各社から,小型サイズの製品が登場する可能性はあるだろう。
なお,従来のGeForce GTX 650シリーズがSLI非対応だったのに対し,SLIブリッジコネクタが用意されて2-way SLIに対応したのも,GTX 650 Ti BOOSTにおいては大きな特徴ということになる。
カバーを外したついでにGPU用のヒートシンクも外してみると,電源周りは4+1フェーズ構成であることを確認できる。GTX 650 Tiのリファレンスカードだと2+1フェーズ構成だったので,電源周りはかなり強化されている印象だ。
なお,前段でグラフィックスメモリ容量は2GBか1GBだと紹介したが,リファレンスカードはSamsung Electronics製のGDDR5「K4G20325FD-FC03」(2Gbit,6Gbps品)をカードの両面に4枚ずつ搭載することで容量2GBを実現していた。
電源部は見る限り4+1フェーズ構成 |
メモリチップは計8枚で容量2GBとなる |
オーバークロック時にキモとなるPower Targetの上限は110%だったが,これがPCI Expressスロットと6ピンの補助電源コネクタ2基とで供給可能な電力容量(75W+75W)の上限だとすれば,100%は136Wということになる。
上位&下位モデルに加えてHD 7850やHD 7790とも比較
テストに用いたドライバは314.21
では,テスト環境の構築に話を移そう。今回,利用したテスト環境は表2のとおりで,比較対象となるGPUは,表1でその名を挙げたものとなる。
このうち,GTX 650 Ti搭載カードとして用意したPalit Microsystems製「NE5X65T01301-1071F」と,HD 7790搭載カードとして用意したSapphire Technology製「SAPPHIRE HD7790 1G GDDR5 PCI-E DL-DVI-I+DL-DVI-D/HDMI/DP DUAL-X OC VERSION」は,いずれもメーカーレベルで動作クロックが引き上げられたクロックアップ品だ。そのため,前者はPrecision Xから,後者はドライバソフトウェアである「Catalyst Control Center」から,それぞれリファレンス相当にまでクロックを引き下げた状態でテストを行うことにした。
3月18日の記事でお伝えしているとおり,NVIDIAが一般に公開している314.21ドライバは公式β版だが,この314.21β版ドライバは当然のことながらGTX 650 Ti BOOSTをサポートしていない。一方,GeForce Driverは,バージョン番号が同じであれば,アプリケーションに向けた最適化やバグフィックスの内容は同じとされているので,つまりレビュワー向けのGeForce 314.21 Driverというのは,「314.21βドライバをGTX 650 Ti BOOSTへ対応させたもの」ということになるわけだ。
GTX 650 Ti BOOST対応のドライバとしては,北米時間3月25日に公開された公式最新版「GeForce 314.22 Driver」もあるが,こちらを使っていないのは,単純にテストスケジュールの都合によるものである。
なお,HD 7790のテストには,AMDから配布された「12.101.2.1-130313a-154550E-ATI」,HD 7850には「Catalyst 13.3 Beta2」を用いる。HD 7850に対応した最新版ドライバは「Catalyst 13.3 Beta3」だが,Beta3ドライバの変更点はOpenGL周りの変更だけなので,本稿で用いるテストの場合,大勢に影響ないはずだ。
なお,テストにあたっては,自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果に違いが生じるのを防ぐため,「Core i7-3970X Extreme Edition/3.5GHz」の同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
ちなみにここまでのテスト条件は,HD 7790のレビュー記事とまったく同じ。そのため今回,GTX 650 TiとHD 7850,HD 7790のスコアは同記事から流用するので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
GTX 660とGTX 650 Tiの中間に収まる性能
HD 7850とはまずまずいい勝負
テスト結果の考察に入ろう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.4)から,「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアをまとめたものだ。
GTX 650 Ti BOOSTの示した値は,GTX 660の86〜87%程度,GTX 650 Tiの121〜128%程度なので,ほぼ順当に中間のところへ収まってきたと評していいだろう。
競合製品との比較では,直接のライバルとなるHD 7850に対し,Performanceプリセットで約92%,Extremeプリセットで約107%のスコアを示した。メモリインタフェースではHD 7850の256bitに対して192bitと後れを取り,メモリバス帯域幅でも若干置いて行かれているGTX 650 Ti BOOSTだけに,3DMark 11のExtremeプリセットでHD 7850より上のスコアを出している理由は,正直なところよく分からない。GTX 650 Tiでボトルネックとなっていた足回りの制限が外れたことで,素直にスコアを伸ばせるようになったのかもしれない。
続いてグラフ2は3DMark(Version 1.0.0)の結果だ。HD 7790のレビュー時に指摘したとおり,GTX 650 TiはExtremeプリセットでスコアを大きく落とすため,それ以外を見ていくが,GTX 650 Ti BOOSTは,GTX 660比で87〜88%,GTX 650 Ti比で約129%のスコアを示しており,3DMark 11と変わらない傾向を示した。
最新世代の高負荷なベンチマークテストということで,グラフィックスメモリ周りの負荷は非常に高くなっているが,実際,Extremeプリセットで,128bitメモリインタフェースのHD 7790に対して約64%という大差をつけている点も押さえておきたいところだ。現状の3DMarkはRadeonが優勢ということもあって,HD 7850にまったく歯が立たない点も指摘はしておく必要があるとも感じるが。
グラフ3,4は,描画負荷を高く設定した「Far Cry 3」でのテスト結果だ。GTX 660とGTX 650 Tiの間にGTX 650 Ti BOOSTが入るという点では3Dベンチマークソフトと変わらない結果だが,ここでは「標準設定」時に22〜23%程度となるGTX 650 Ti BOOSTとGTX 650 Tiのスコア差が,「高負荷設定」だと33〜34%程度まで開いた。GTX 650 Ti BOOSTにおける足回りの強化が如実に違いとして出た結果といえるだろう。
HD 7850との関係は3DMark 11と同じ。高負荷設定では最大で約17%のスコア差をつけている。
「Battlefield 3」(以下,BF3)のテスト結果も,Far Cry 3のそれを踏襲するものとなった。グラフ5,6を見ると,GTX 650 Ti BOOSTはGTX 660とGTX 650 Tiの中間に入り,高負荷設定でGTX 650 Tiとのスコア差を広げている。HD 7850に対しては,ほぼ互角の勝負に持ち込んだ。
古い世代のゲームエンジンを前にしたときの挙動を見るため採用している「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)の結果がグラフ7,8で,ここでもGeForce勢におけるGTX 650 Ti BOOSTの立ち位置は変わらず。シンプルにテクチャフィルタリング性能が問われることもあって,GTX 660には歯が立たず,HD 7850からも置いて行かれているが,一方でGTX 650 TiやHD 7790には格の違いを見せつけている。
グラフ9,10は,「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)のスコアをまとめたものだ。
Skyrimでは公式の高解像度テクスチャパックを導入することでグラフィックスメモリ負荷を高めているため,GTX 650 Tiのように,メモリインタフェースが128bitのGPUだと,とくに「Ultra設定」で苦しくなっていく。だが,192bitメモリインタフェースの採用など,足回りが強化されたGTX 650 Ti BOOSTは,高負荷設定でもそれほど劇的にはスコアを落とさない。Ultra設定の1920×1080ドット解像度で平均58.3fpsを出し,HD 7850すら上回っているのは注目に値しよう。
「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)のテスト結果がグラフ11,12となる。Civ5のテストには,3D性能だけでなくGPGPU性能も問われる「Leader Benchmark」を採用していることもあって,こちらもメモリ周りの負荷が高くなっているのだが,そうなると,製品の位置づけの割にメモリ周りのスペックが高いGTX 650 Ti BOOSTは,上位陣と比べてもまずまずのところで戦っていられる。大きくスコアを落とすGTX 650 Tiとのスコア差は31〜45%程度と歴然だ。
3D性能検証で最後となるのがグラフ13,14の「F1 2012」だ。本作で採用されているゲームエンジン「EGO ENGINE」は,Radeonへ最適化されているにもかかわらず,実際にはGeForceが優勢という傾向にあるのだが,果たしてGTX 650 Ti BOOSTはHD 7850に対して11〜22%程度も高いスコアを示した。
一方,GeForce間の比較だと,GTX 650 Ti BOOSTはGTX 660の87〜91%程度,GTX 650 Tiの114〜127%程度で,ここまでの傾向を踏襲した結果となっている。
消費電力はGTX 650 Tiからかなり増加
134WというTDPに見合ったものに
GTX 650 Ti BOOSTのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は134W。これは140WのGTX 660よりわずかに低いレベルで,GTX 650 Tiの110Wと比べると24Wも高い。そのため,GeForce GTX 650シリーズのGPUとしては消費電力の高さが懸念されるが,実際にはどれくらいなのか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力計測を行ってみよう。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定。そのうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたものがグラフ15で,アプリケーション実行時のスコアは,GTX 650 Tiから28〜58Wも増えてしまった。GTX 660と比べると1〜28W低く,またHD 7850とは同等か若干低いレベルといったところなので,GPU Boostと,高い動作クロックのグラフィックスメモリを採用することが,消費電力に与えるインパクトは相応にあるということなのだろう。
なお,アイドル時の消費電力はほぼ同じレベル。ただし,HD 7850とHD 7790は,無操作状態が長く続いたときにディスプレイ出力を無効化するよう設定しておくと,「AMD ZeroCore Power Technology」が機能し,それぞれ86Wと87Wにまで低下したので,本機能まで考慮に入れると,Radeonのほうがアイドル時の消費電力は低いということになる。
最後にグラフ16は,3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」とし,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.9)でGPU温度を取得した結果だ。テストは温度24℃の室内で,システムをPCケースに組み込まず,バラックの状態で行っている。
GPUクーラーが異なるうえ,GPU温度の取得法はGPUごと,カードごとに異なるため,横並びの評価には適していない。そのため結果はあくまで参考程度に捉えてもらいたいが,GTX 650 Ti BOOSTの温度は,アイドル時,高負荷時ともミドルクラスGPUとしてはやや高めながら,概ね問題のないレベルにまとまっていると述べていいのではなかろうか。
なお,GTX 650 Ti BOOSTリファレンスカードが搭載するGPUクーラーは,毎度毎度筆者の主観で恐縮だが,「静音とまでは言わないものの,少なくともうるさくはないレベル」だった。
「HD 7850キラー」とまでは言い切れないが
フルHDゲームプレイ用の廉価GPUとして価値はある
性能面に関しては,192bitメモリインタフェース,そして6GHz相当のメモリクロックがもたらす「高い描画条件下での(相対的な)強さ」を,テスト中に各所で感じられたことも述べておきたい。
NVIDIA Japanは,日本におけるグラフィックスメモリ2GB版GTX 650 Ti BOOST搭載カードの想定売価を1万9800円(税込)としているが,GeForceだけでなく競合のHD 7850やHD 7790も存在し,さらに,カードメーカーレベルのクロックアップモデルなども投入されるわけで,1万円台半ばくらいから2万円台前半くらいは,今後,相当にカオスな状況になりそうな気配だ。選択肢が増えるメリットと,性能の違いを把握するのが難しくなるデメリットが共存する価格帯になったとも言えるだろう。
ただ個人的には,GTX 650 Tiのレビュー時に「納得できない」としたGPU BoostやSLIにGTX 650 Ti BOOSTが対応したことを歓迎したいとも思う。その意味で本製品は,ようやっと登場した「GeForce GTX 600シリーズ,真の最廉価モデル」と言えるかもしれない。
NVIDIAのGeForce製品情報ページ
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