インタビュー
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」「ガチトラ! 〜暴れん坊教師 in High School〜」(&「喧嘩番長」)で,“学園モノはスパイク!”の時代に。その仕掛け人に,ネタバレから今後の展開まで根掘り葉掘り聞いた
「ダンガンロンパ」は映像ありきで生まれた作品
大山のぶ代さんのアイデアで「処刑」が「おしおき」に
DD:
せっかくなのでダンガンロンパについても聞かせてください。
あれを遊んだとき,まずビジュアルに衝撃を受けました。もの凄くアニメっぽいわけでもなく,かといってリアルでもない,独特なものになっていると感じたんです。
ダンガンロンパでは新しい映像表現をしてみようということで,最初に桑田君の処刑ムービーをうちのスタッフが作ったんです。実際に製品化されたものよりもグロいんですが,その映像のインパクトが凄かったんですね。
そこから膨らませていって,ああいうビジュアルになりました。まず,3Dで空間を作り,そこに2Dのキャラクターを立たせ,その中をカメラをぐりぐり動かしながら進んでいくような。
DD:
つまり,映像表現ありきで生まれたものなんですね。
寺澤氏:
もちろん事前に企画書はあったんですが,企画書だけ見ると,ミステリーというかホラーというか,比較的オーソドックスなアドベンチャーゲームだったんです。その上で,映像的に面白いことができないかと企画者達が考えて作ったのが,最初の映像だったんですね。
ただ,グロすぎたもんだから,他部署からは,こんな虐待ゲームは倫理的に出していいものじゃないという具合に,凄く抵抗されたんです。とはいえ,新しい映像という部分に関しては,反対していた人達も皆気に入ってくれていましたから,これを何とか企画として立ち上げようということで,本格的に動き出しました。
DD:
見せ方という切り口から入っていって生まれた映像表現を,埋もれさせる手はないと。
寺澤氏:
ええ。あの映像がなければ,たぶん形にならなかった企画です。映像でプレイヤーに新しいインパクトを与えられるだろうというのが,最初の種でした。
DD:
では当然,声優陣も決まっていなかったわけですよね。
寺澤氏:
もちろんです。大山のぶ代さんを起用することになるなんて,その当時は想像すらしていなかったと思いますよ。
DD:
そこからモノクマ役として,大山さんを起用したのはなぜですか?
寺澤氏:
実は確たる理由はとくにないんです。各キャラクターが出揃ってから,どんな声優さんにお願いしようかというミーティングをしたんですが……正直,うちのスタッフは声優方面に疎いんで,なかなか決まらないんですよ。
DD:
どんな人が今,人気と実力を兼ね備えているかというような情報が全然ないところから始まったと。
ええ(笑)。それで最初の候補一覧を出したのが,うちのプログラマの奥さんだったんです。その方は声優方面に造詣が深くて,「このキャラはこの人」みたいな感じで理由も含めてアイデアを出してくれました。ただ,その段階でモノクマ役として挙がっていたのは,石田 彰さんだったんですよ。石田さんがこれまでに演じてきた役を見ると,さすがに僕らでも「ああ,あの声の!」と納得はしたんですが,モノクマに関してはもうちょっとインパクトがあったほうがいいだろうと。
でも,じゃあ誰だったらいいのかとなったときに,大山さんの声だったら面白いんじゃないか? という案が出たんです。ただ,誰も本当に演じてもらえるとは思ってませんでしたし,どちらかというと冗談みたいな感じでした。
DD:
形になったもので遊んでも,冗談みたいに思えますもんね(笑)。
寺澤氏:
ただまあ,断られるかもしれないけど,オファーしてみようということになったんです。そうしたら,とりあえず話だけでも聞きたいと言っていただけたので,先にシナリオをお渡しして,「このセリフの意図は?」とか「このセリフはあまり良くない」みたいなやりとりを経て,正式に決まりました。
ちょうど,大山さんが5年ほどお仕事を休まれていて,少しずつ活動を始めたタイミングだったのもあり,お互いのタイミングがぴったり合ったみたいですね。
DD:
大山さんと話をされて変更したセリフはありますか?
大きいところでは「処刑」ですね。最初のシナリオにはこの言葉がバンバン入っていたんですけど,結局その言葉の代わりに「おしおき」を使うことになったんです。処刑だと直接的すぎるので,もっとマイルドにしたほうがいいんじゃないの? ということでした。
もちろん,大山さんだけの意見ではなくて,さまざまな方にヒアリングをしていく中でも,処刑という言葉はネガティブな印象が強すぎるという声が多かったのも理由です。なにせ企画段階では,「処刑学園」というタイトルでしたし。
DD:
「処刑」じゃなくて「おしおき」という言葉を選んだことで,モノクマの不気味なキャラクターも確立されましたよね。
寺澤氏:
そうなんですよね。直接的なひどいことを言うよりも,少し柔らかくしたほうが,怖くなるんですよ。
そういった雰囲気を持つモノクマのキャラクター性は,やはり大山さんによるところが大きかったですね。
プレイヤーの予想を裏切り続ける展開を狙い
プロモーションにも仕掛けが
発売前のプロモーションや,ゲームの序盤でヒロイン然としていた舞園さんが,いきなり死んでしまうのにも驚かされました。
寺澤氏:
そこの悲しみは完全に狙っていた部分です。プロモーションでも体験版でも,完全にヒロイン扱いをしていましたからね。だから楽しみにしてくださっていた皆さんは,遊び始めた途端に「なんてことをしてくれたんだ」とか「俺の嫁をよくも!」とか,そういう反応をいただきました。
DD:
序盤でまず,大きな絶望を植え付けるという意味で,非常に効果的な展開だと思いました。
寺澤氏:
でも,小高がこの案を持ってきたときには,僕もさすがに本当にそれでいいのか!? って悩みましたよ。
DD:
悩んだ結果,この展開を良しとしたのは,なぜですか?
寺澤氏:
小高の熱い気持ちです。彼としては,これをやることでプレイヤーを最初に裏切りたいと考えていたんですよ。確かにプレイヤーを良い意味で裏切りたいと考えていましたので,そこまで言うのであれば……と。
そこからは思い切って,プロモーションでもとにかくヒロイン扱いして展開したんです。そうすることで,遊んだときにプレイヤーが感じる驚きは大きくなりますから。
DD:
そしてまさに狙いどおりの反応があったわけですね。
確かにあそこで舞園さんが殺されてしまうからこそ,次に誰が狙われるのか予想できなくなって,疑心暗鬼に陥ります。
寺澤氏:
最初に予想できないことが起きると,それ以降も「こうなるだろうと思うんだけど,違うかな?」みたいな気持ちが続くものなんですよね。たとえ予想どおりに進んでも,またどこかで予想が外れるんじゃないかという怖さが出てきますし。
その上で,各章ごとにどんでん返しを用意して,予想を裏切り続けていくというのは,小高がこだわっていた部分です。
ほかのキャラクターでいうと,物語が進むにつれて,霧切さんがどんどん可愛く思えるようになりました。
寺澤氏:
ダブルヒロインというような打ち出し方をしつつ,ある意味,真のヒロインは霧切さんですからね(笑)。それも狙いどおりです。
DD:
さくらちゃんもけっこうなヒロインじゃないですか?
寺澤氏:
ああ,そうですね(笑)。さくらちゃんにもの凄い人気が出たのには,こちらも驚かされました。
実はさくらちゃんって,途中でデザインが大きく変わったんですよ。というのもほかのゲームにかなり似たキャラクターがいたんです。セーラー服でマッチョという。そのことに途中で気付いて,急きょデザインを差し替えて,今のさくらちゃんになりました。結果論ですが,今のさくらちゃんにしたからこそ,人気も出たんだろうと思います。
DD:
ちなみに,さくらちゃんの名字が大神なのは,ガチトラの大神組とは関係ないんですか?
寺澤氏:
残念ながらまったく関係ないですね。
DD:
じゃあ,単純にオーガってことですね。
ははは,そうです!
ちょっと余談ですが,ダンガンロンパとガチトラは同時期に開発を進めていたんですね。ガチトラには,モノクマの着ぐるみが登場するんですが,実はあの3Dモデルってダンガンロンパでモノクマの3Dモデルを作るよりも前に出来上がったものなんです。
これは僕が両方のプロデュースをやっていたので,最初からやりたかったことなんですよ(笑)。
DD:
それで何らかの事情でダンガンロンパが世に出ないことになっていたら,えらいことになってましたね(笑)。
キャラクターに関していうと,どれもいい具合にキャラ立ちしていますよね。不要なキャラがいないというか。
寺澤氏:
苗木君,舞園さん,霧切さんは,何となくメインっぽく。ほかはみんな並列という考えで打ち出しています。15人しか出て来ないゲームなので,そこで扱いに差があると謎の答えに直結しちゃうんですよね。軽い扱いだから,すぐフェードアウトするんだろうみたいな予断を排したくて。モノクマは別格ですけど。
DD:
モノクマは,次第に欲しくすらなりますもんね。
寺澤氏:
最初の頃は憎たらしいんですけど,だんだん可愛く思えてきちゃうんですよ。
「アドベンチャーゲームじゃない」と言い張るべく
主観視点の移動や学級裁判のシステムをアクションにした
ダンガンロンパでは,移動が主観視点になっています。そもそもアドベンチャーゲームに移動はいらないんじゃないか? という声もあると思うんですが,あえてこれを採用した理由を教えてください。
寺澤氏:
そういう声はとても多いですね。
実を言うとダンガンロンパって,最初は海外市場も意識していた作品なんです。そのときに,いわゆる日本的なアドベンチャーゲームの移動システムは通用しないだろうということで,こういう形にしました。海外云々は途中から関係なくなっちゃったんですけど,これも作ってみると映像的に面白いものになったので,このままでいこうと。
DD:
確かにあの移動システムが,映像的な個性に繋がっていますよね。
寺澤氏:
3Dの空間に2Dのペラッとしたキャラが立っているというのは,手抜きと思われちゃうんじゃないかという不安もあったんですけど,けっこう苦心して作り上げたものなので,個性ととらえていただけると嬉しいです。
DD:
映像的な個性というだけでなく,あの主観視点があるからこそ,主人公と自分を重ね合わせやすいという効果もあったのかなと思います。
それも狙っていたところではありますが,もう一つ大きい理由があるんですよ。
僕らは,ダンガンロンパについて「アドベンチャーゲームじゃない」という言い方をしてきました。というのも今の時代,アドベンチャーゲームって市場が比較的小さな規模で固定されているので,会社として挑戦しにくいジャンルなんです。それもあって,アドベンチャーゲームではなく,アクションゲームなんだと言い張るための手法の一つとして,主観視点での移動を取り入れたという(笑)。
DD:
アクションゲームという体裁を整えるためのものであると。
では,ゲーム内の学級裁判がさまざまな種類の……言ってみればミニゲームになっているのも,そういうことですか?
寺澤氏:
そうですね。そこは完全にそれです。
アクションゲームと言い張るために,アクション系のミニゲームをとにかく搭載していこうと。だから学級裁判に関しては,いろいろなシステムを考えては捨て,考えては捨てを繰り返して作っていきました。
DD:
ボツになったアイデアには,どんなものがあったんですか?
寺澤氏:
3Dで描いたチューブの中を飛んでいって,途中で二択の問題が出て,その選択で分岐していくようなレースゲームっぽいものだったり,横スクロールのアクションだったり。あとはアクションとはちょっと違うんですが,手前に自分が,奥に相手がいて,HPとMPがあって,RPGっぽく戦うものなんかもありました。
その中からアクション性という部分を重視しつつ,表現したいことをイメージして,そこから遠くないものを選んでいったんです。
実際に採用されたものでいうと,「マシンガントークバトル」が異質ですよね。あれだけ音ゲーで。これは何が決め手だったんでしょう?
寺澤氏:
マシンガントークバトルは最後に出来たんですが,これを音ゲーにしてくれというのは,僕が菅原(ゲームシステムプランニング)にお願いしました。マシンガントークバトルという設定で,いろいろなシステムを考えたんですが,どれもシューティングゲームになってしまうんです。「ノンストップ議論」も「閃きアナグラム」もシューティングなので,とにかく違うアクションシステムにしたかったんですよ。
でも「『アドベンチャーゲームに音ゲーなんていらない!』ってプレイヤーから言われる!」と,菅原は言ってました。僕自身もそうだろうとは思っていましたが,言い合いの雰囲気は出たんじゃないかなと思っています。結局,音ゲーでもないんですけどね。そして実際にプレイヤーさんからは「いらない!」という感想が多く寄せられましたけど(笑)。
DD:
多分マシンガントークバトルって,もっと難しくしようと思えばいくらでもできたシステムだと思うんですよ。それでもあえて簡単にして,爽快感を得られるようにしたんじゃないかと感じました。
基本的に学級裁判のシステムって,アクション的な部分とは違うところで,難しいものと簡単なものに差があるように思うんですね。例えばノンストップ議論では,どこにどれをぶつければいいのかで悩まされたりしましたし。そうやって意図的に緩急を付けたんだと思うんですが,そのバランスを組み立てる上で,重視したポイントがあれば教えてください。
ノンストップ議論では,どの発言にどの言弾をぶつけるかという部分で,謎解きとしての難度が必要です。逆にマシンガントークバトルは,まったく考えないでいいアクションです。閃きアナグラムはその中間ぐらいですね。それぞれクリアするうえで必要なスキルを違うものにしようというのは意識していました。
DD:
いわば,脳の違う部位を使わせようと。
寺澤氏:
ええ。どれもゲーマーにしてみれば無茶な難しさではないと思うんですが,それでも得意不得意はありますよね。だからこそ,いろいろなバリエーションを用意することで,「これは簡単だったけど,あっちが難しかった」みたいな感じ方も,プレイヤーごとに異なっていくだろうと狙っていたんです。
そういうこともあって,アクションゲームにするからには,アクションの難度を選べるようにしよう。アクションの難度を選べるようにするならば,推理の難度も選べるようにしようと考えました。この辺のバランスは,ほとんど菅原がコントロールしてくれたんですが,調整時間が短かかったので最後の最後までいじってましたね。完成後にも,もっとああしたかった、こうしたかったと言い続けています(笑)。
DD:
アクションゲームとして遊びたい人,推理ゲームとして遊びたい人の両方に配慮したわけですね。
寺澤氏:
ええ。アクションゲームを遊びたい人にとって,難解な謎はむしろ邪魔ですし,その逆もあると思いますから。どっちつかずになってしまう可能性を考えると怖い部分ではあったんですけど,どちらが好きな人にも遊んでもらいたいという思いがあったんです。
DD:
結果として,ダンガンロンパのプレイヤーは,アクションゲーム好きとアドベンチャーゲーム好きのどちらが多かったんですか?
アドベンチャーゲームが好きな方のほうが多いですね。でも,今までテキストアドベンチャーゲームや推理ゲームで遊んだことのない人も,けっこう遊んでくれたようで,「アドベンチャーゲームって面白いんだね」という感想もいただいています。そういうプレイヤーが集まってくれたのは,凄く良かったと思ってるんです。
現在の市場を見ると,若いPSPユーザーさん達が,アドベンチャーというジャンルにあまり接していない,興味が無いのかな……とは感じていたので,違う視点から興味を持ってもらえれば,という思いがありましたから。
DD:
つまりダンガンロンパでは,アドベンチャーゲーム好きの層を広げるのではなく,別の層からプレイヤーを引っ張ってこようという試みをしていたんですね。
寺澤氏:
広げるのは至難の業ですから,別の層の方に注目してもらえないことにはビジネスにはなりにくいんですよね。だからこそ,アドベンチャーゲームという括りからはみ出したものを目指したんです。
出来上がったものは紛れもなくアドベンチャーゲームなんですが,なるべくそこを見えないように,感じさせないように……という部分を,かなり考えながらやってみました。だからこそ,「新しい」と評価していただけたんじゃないかと思っています。
DD:
それ故に,実際に遊んでみるまでどういうゲームなのか,よく分からない作品でもありますよね。
寺澤氏:
そうですね。映像を見せないと絶対に分かってもらえないというのは最初から感じていました。雑誌に情報を出しても,まったく反応がなかったですから。
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ガチトラ! 〜暴れん坊教師 in High School〜
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ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生
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