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ARM,最大8コアの第2世代「Mali-T600」GPU IPを発表。新世代テクスチャ圧縮技術「ASTC」に対応
2011年11月6日の記事などでお伝えしているとおり,Mali-T600シリーズは,ARMのGPUアーキテクチャ「Midgard」(ミッドガルド)に基づくGPU IPコアで,統合型シェーダコアを最大8基搭載するのが特徴だ。DirectX 11やOpenCL 1.1,RenderScriptといった最新世代のAPIに対応する点や,各シェーダコアが64bit浮動小数点演算をサポートする点は第1世代と変わらない。
タブレットデバイス向けIPコアだと,1シェーダコアあたりの演算パイプライン(≒ALU)数がスマートフォン&スマートテレビ向けIPコアの2倍となっている点も同じである。
では何が違うのか。まず挙げられるのが,同一のシリコン世代で比較したとき,第1世代比で性能が50%引き上げられたとされる点だ。「基本仕様が変わらないのにどうやって?」と思うかもしれないが,レジスタ転送レベル(Register Transfer Level,RTL)の最適化と,動作クロックの引き上げによると,ARMは説明している。
また,第2世代Mali-T600シリーズにおける重要な革新ということになりそうなのが,新しいテクスチャ圧縮技術「ASTC」(Adaptive Scalable Texture Compression)のサポートだ。これはARMが開発し,(米国時間8月6日発表の)「OpenGL 4.3」や「OpenGL ES 3.0」での採用が発表されたもので,ロイヤリティフリーなのが大きな特徴である。
DirectX環境におけるS3 Graphicsの「S3TC」(=DXTC)のような,テクスチャ圧縮技術の標準が存在しなかったOpenGL&OpenGL ES環境では,これまで,「テクスチャ処理の最適化」が重要な課題であり,互換性をとるうえでの問題だった。それを解決するかもしれない技術がKhronos Groupに採用され,さっそく対応GPU IPコアが発表されたというのは大きい。
注意が必要なのは,今回はあくまでもGPU IPコアが発表されただけに過ぎないということだ。現時点では第1世代のMali-T600シリーズを採用した製品も登場していない状況なので,実際に第2世代Mali-T600シリーズを採用したSoCが完成し,それがスマートフォンやタブレットに搭載されるまでには,最短でも2年近くはかかるものと思われる。
ただ,第2世代Mali-T600シリーズを搭載した最終製品が市場を賑わすころには,モバイルデバイスのゲームグラフィックスがさらに品質を向上させている可能性があるわけで,その意味では期待大といえるだろう。そう遠くない将来を楽しみに待ちたい。
Mali-T624製品情報ページ(英語)
Mali-T628製品情報ページ(英語)
Mali-T678製品情報ページ(英語)
#### 以下,リリースより ####
ARM、第2世代のMali-T600グラフィックス・プロセッサを発表し、タブレット、スマートフォン、スマート・テレビのユーザ・エクスペリエンスの向上を促進
新たな技術によりGPU処理およびグラフィックス処理におけるARMのリーダーシップが拡大
英ARM社(本社:英国ケンブリッジ、日本法人:横浜市港北区、以下ARM)は、第2世代のARM Mali-T600シリーズのグラフィックス・プロセシング・ユニット(GPU)を発表しました。これにより、タブレット、スマートフォンおよびスマート・テレビに関するユーザ・エクスペリエンスが大幅に改善されることになります。各製品では、性能が50%向上※しており、ARMオリジナルのテクスチャ圧縮技術、Adaptive Scalable Texture Compression(ASTC)が初めて搭載されています。ASTCによって、GPUの性能が大幅に最適化され、機器のバッテリ寿命が延びることにより、常時オン、常時接続の体験が可能になります。この技術は、オープン標準に重点を置く重要な業界コンソーシアム、クロノス(Khronos)グループによって採用されています。
Mali Midgardアーキテクチャに基づいたMali-T600シリーズの第2世代は、Mali-T624、Mali-T628およびMali-T678という3つのGPUで構成されています。各製品は、さまざまな最終機器に最適な性能とエネルギー効率を提供するように調整されています。Mali-T624とMali-T628は、市場をリードするグラフィックスおよびGPU処理をスマートフォンやスマート・テレビに提供します。一方Mali-T678は、急速に成長しているタブレット市場の需要に対応するよう最適化されています。
ARMは、CPUの分野におけるARMのリーダーシップとARM Cortexプロセッサを統合し、Mali GPUアーキテクチャに適用することにより、GPU処理機能への投資を継続しています。GPU処理では、CPU間のタスクのバランス調整を制御しやすくなっているため、最も効率のよいアーキテクチャで適切なタスクを実行できるようになります。これによって、演算を多用する現行および新しい以下のような処理のエネルギー効率が改善されます。
- コンピュテーショナル・フォトグラフィー:デジタル写真撮影の強化または
拡充の計算方法
- 複数視点ビュー:さまざまな位置からの複数のビューを保持する機能
- モバイル機器上でのリアルタイムの写真編集:スマートフォンやタブレットなどで、指先のタッチにより写真を編集する機能
また、GPU処理により、量産市場のモバイル機器でのユース・ケースの範囲が拡大し、写真編集や映像安定化のような機能をより幅広いコンシューマ製品で利用できるようになります。
ARMのメディア処理部門担当ジェネラル・マネージャであるPete Huttonは、次のように述べています。「スマートフォン、タブレット、スマート・テレビでは、デジタルの世界や個人的コンテンツにシームレスにアクセスできる、より高い水準のビジュアル・コンピューティングが期待されています。GPU処理により、使用できるバッテリ寿命の範囲内でモバイル機器が実行できる機能の幅が広がるため、期待される内容を実現することができます。ARMは今後も、市場をリードするCPUとGPU技術を統合して、高性能と高いエネルギー効率の両方を推進することにより、システム全体の最適化に重点を置いていきます。」
富士通セミコンダクター株式会社、開発本部 副本部長である内藤貢氏は、次のように述べています。「ARM社の今回新しく発表されたMali-T600シリーズは、グラフィクスの性能向上のみならず、GPUコンピューティングの将来の戦略に欠かせないものです。富士通セミコンダクターは、ARMと包括契約を結んでおり、製品ロードマップを共有し、最新のARMテクノロジーを使用したプラットフォームSoCをお客様に迅速に提供しています。今回の新しいMali-T600シリーズを、当社のSoC開発プラットフォームに加えると共に、GPUコンピューティングを実現するためにキーとなるIPとして、当社製品への採用を検討しています。」
MediaTek社の副社長であるAndrew Chang氏は次のように述べています。「個人的な情報やコンテンツにアクセスする接続機器を通じて、同じような性能を求める消費者が増えています。スマートフォン、タブレット、スマート・テレビなどの各種機器を通じ、このようなユーザ機能の改善が求められています。MediaTekは、ARMと協力を密にし、これらの需要に応える高性能でエネルギー効率に優れたソリューションを確実に提供していきます。第2世代のARM Mali-T600 GPUにより当社は、グラフィックスやGPU処理における技術的リーダーシップを通じ、これらの市場に対応することができるでしょう。」
Nufront社のマーケティング担当副社長であるRock Yang氏は次のように述べています。「スマート接続機器における革新は、コンピューティング分野だけでなく、スマートフォンやタブレットのメーカが自社製品の差別化を目指すグラフィックスの分野においても実施されています。これは、NufrontのようなSOCベンダーの最新の革新的技術に依存しています。Nufrontは、モバイル・コンピューティングおよび通信SoC設計に重点を置き、ARMの先進技術を活用しています。第2世代のMali-T600 GPUに搭載されているAdaptive Scalable Texture Compressionのような先進技術を利用することで、当社は市場の需要に対応し、機器メーカに大きなメリットを提供することができます。」
Rockchip社の最高マーケティング責任者であるChen Feng氏は次のように述べています。「スマートフォン、タブレット、スマート・テレビおよびその他のスマート接続機器に対する性能やバッテリ寿命の要件は、単一のエネルギー効率に優れたアーキテクチャが適しているものではありますが、さらに望ましいのは、これらの市場に対処するGPUバリアントです。当社は、ARMとの関係の拡充を歓迎しており、ARMの第2世代のMali-T600 GPUの製品範囲によって可能となる先進のRockchipソリューションを期待しています。」
サムスン電子社デバイス・ソリューション部門のシステムLSIマーケティング・チーム担当副社長であるTaehoon Kim氏は次のように語っています。「新しいスマートフォン、タブレット、スマート・テレビを購入する消費者のほとんどが、先進のビジュアル・コンピューティングの体験を期待しています。したがって、当社がARMなどのパートナーと協力し、先進のグラフィックスやGPU処理をはじめとする分野での技術的リーダーシップを達成することが重要となります。次世代のARM Mali-T600シリーズGPUは重要な発表であり、Samsung Exynosプロセッサが消費者の需要に応えるのに役立つものであると思われます。」
※第2世代のMali-T600シリーズGPUでは、第1世代のMali-T600製品と比較して(業界標準のベンチマークに基づく)、同じシリコン・プロセスで50%の性能向上を実現しています。これは、グラフィック処理がより効率よく実行されるように、レジスタ転送レベル(RTL)の最適化とマイクロアーキテクチャの改良による周波数の向上の組み合わせによって促進されます。新製品の各設計により、対処する性能のポイントが異なります。
ARM Mali-T624/Mali-T628
Mali-T624 GPUでは、コアを1から4まで拡張することができます。一方Mali-T628では、1から8までのコアの拡張が可能です。これにより、グラフィックスおよびGPU処理性能は最大でMali-T624の2倍となり、スマートフォンやスマート・テレビのグラフィックスの可能性が拡大されます。これら製品は、スマートフォンやスマート・テレビの3Dグラフィックス、ビジュアル・コンピューティングおよびリアルタイム写真編集といった先進のコンシューマ・アプリケーション用の画期的なグラフィックス表示を提供します。
ARM Mali-T678
ARM Mali-T678 GPUは、Mali-T600シリーズの製品で利用できる最高のGPU処理性能を提供し、ALUサポートの強化により、Mali-T624 GPUと比較して4倍の性能強化を実現しています。この製品には、活発なタブレット市場に対応するための幅広い性能ポイントが搭載されています。Mali-T678は、コンピュテーショナル・フォトグラフィー、複数視点ビューおよび拡張現実など、エネルギー効率に優れたハイエンドのビジュアル・コンピューティング・アプリケーションを提供します。
ASTCとは?
ASTCは、非常に幅広いピクセル形式とビット・レートに対応しており、現在使用されている他のほとんどの形式と比べて大幅な性能向上を実現しています。
これにより設計者は、アプリケーションを通じてテクスチャ圧縮を利用し、それぞれのユース・ケースに対して最適な形式とビット・レートを選べるようになります。高い効率性を誇るこのテクスチャ圧縮標準により、すでに市場をリードしているMali GPUのメモリ帯域幅とメモリ・フットプリントがさらに縮小し、モバイル機器のバッテリ寿命が延長されます。
すべての製品が、OpenGL ES 1.1、OpenGL ES 2.0、OpenGL ES 3.0、DirectX 11 FL 9_3、DirectX 11、OpenCL 1.1 Full ProfileおよびGoogle RenderScriptコンピュートといったAPIに対応するよう設計されています。
第2世代のMali-T600シリーズの詳細は、以下のURLをクリックしてください。
http://www.arm.com/ja/products/multimedia
/mali-graphics-hardware/index.php
- 関連タイトル:
Mali,Immortalis
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