インタビュー
鋼屋ジン氏の作家性……いや“オタク性”にも迫った「ギルティクラウン ロストクリスマス」のインタビューを掲載
走るゾンビと人生最高のゲーム
4Gamer:
そういえば最近,鋼屋さんのTwitterでゾンビに関するツイートが多いように感じるのですが(笑)。
鋼屋氏:
「ゾンビサバイバル」ですね。ゾンビ好きなんですよ。これも直接の影響は東出祐一郎からだと思います。あいつゾンビキチなんで(笑)。
4Gamer:
やはりゾンビといえば映画ですよね。
鋼屋氏:
映画ですね。普通にジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」とか好きですけど……数年前に東出にススメられて「ブレインデッド」を観たんですが,あれは傑作でした。
4Gamer:
全面的に同意です(笑)。
鋼屋氏:
何がムカつくって,あれだけ酷いスプラッタコメディなのにシナリオがしっかりしてることです(笑)。
一同:(笑)
鋼屋氏:
もう完璧な脚本で,必ず10分ごとに何かあるので観ていて飽きないんですよ。
4Gamer:
あんなイカれた映画を作った人が後に「ロード・オブ・ザ・リング」を監督するんだから……。
鋼屋氏:
信じられないですよね(笑)。でも,あの作品以降,スプラッターというジャンルが終わったような印象があります。下火になっていた中での,最後の爆弾だったのかもしれませんが……。
4Gamer:
ゾンビ映画って異常に数が多いだけあって,どのタイトルが好きか聞くだけで,不思議とその人の個性や作家性みたいなものが見えてきたりするんですよね。
鋼屋氏:
そうですね……。1番はやはり「ブレイン・デッド」です(笑)。あとは賛否が分かれますが,リメイク版の「ドーン・オブ・ザ・デッド」は良かった。何が良いかというと,ロメロゾンビとの対比がハッキリしているんですよ。ゾンビがただ“走る”だけで,状況はかなり変わるんだと。ロメロゾンビは最後,「結局は人間が一番怖いよね」っていう終わり方じゃないですか。
4Gamer:
ロメロゾンビは社会風刺が大きなテーマでもありますね。
鋼屋氏:
でもリメイク版「ドーン・オブ・ザ・デッド」は最初の方だけ人間同士の小競り合いがあるものの,次第に「争ってる場合じゃねぇ!」という流れになる。そこからはロメロゾンビに対するアンチテーゼとして作られているという意図がハッキリと見えてきます。
4Gamer:
いやあ,走るゾンビの恐ろしさたるや……。初めて見たときは衝撃的でした。
鋼屋氏:
「これは……ヤバイな」と思いましたね(笑)。ロメロゾンビはノロいので,広い場所にいたほうが周囲を確認できて安全なんです。ですが,走るゾンビだと広い場所が危ないんですよ。というか,そもそもリメイク版「ドーン・オブ・ザ・デッド」のゾンビは野外が全部危ない(笑)。
4Gamer:
ゾンビ映画好きにはロメロ原理主義者みたいな強固なポリシーを持っている人もいるのですが,鋼屋さんは走るゾンビを受け入れられるタイプの人なんですね。
鋼屋氏:
はい。ゲームの「Left 4 Dead」も走るゾンビですが,あれも面白かったですよ。まあ,ひとりでやっててもあまり盛り上がれませんが,みんなでやっていると最高に面白い(笑)。
4Gamer:
あれは,キャラクターが映画の登場人物という設定なんですよね。クリアしたらスタッフロールに死者の名前が流れたりして。
鋼屋氏:
そうそう,アレは本当に最高です。ローディング画面が映画のポスターになっていたり,かなり手が込んでました。最終ステージではゾンビが無限に襲ってくるなか,時間いっぱいまで立て篭もらなければいけないんですが,そこで聞こえてくるタンクの声(笑)。
4Gamer:
まさに絶望ですよね……。ゲームの話に戻ったところで教えてほしいのですが,ほかにプライベートではどんなゲームにハマりました?
鋼屋氏:
「Fallout 3」です! 好きなゲームはたくさんありますが,まず挙げろと言われればこれです。
4Gamer:
これまた味付け濃厚なタイトルですね(笑)。
鋼屋氏:
発売当初はPS3,Xbox 360といった新ハードは持っておらず,周りの連中が先に始めてまして。彼らから話を聞いて,「絶対にやってみたい!」と思ったんです。
4Gamer:
どういった部分に惹かれたのですか?
鋼屋氏:
最初の町が不発弾を信奉の対象にしていて,通貨が「コーラのキャップ」だと(笑)。もうそれを聞いただけで虜になってしまいました。
4Gamer:
かなり特殊なところで釣り上げられましたね(笑)。
鋼屋氏:
とんでもないセンスだと思いました。そして,やってみたらやはり最高のゲームだった。
4Gamer:
ポスト・アポカリプス的な世界観に目がないとか……?
鋼屋氏:
惹かれますね! 最高ですよ。もともと好きなジャンルではあったのですが,「Fallout 3」でさらに好きになれました。「人生で最高のゲーム」の1本に挙げられます。
4Gamer:
「Fallout 3」に関する話だけでもインタビュー1本いけそうですね(笑)。そのほかには,どんな作品があるでしょうか。
鋼屋氏:
面白かったのは「バットマン アーカム・アサイラム」ですね。あれはバットマンごっこができる最高のゲームでした。ひたすらジョーカーに絡まれ続ける,バットマンの感じていたであろうイヤな気分が実感できます(笑)。
それと,シナリオでやられたのは「バイオショック」です。中盤の真相が明かされるポイントで,ゲームという趣向を完全に逆手に取ったシナリオになっているんですよ。あれはゲームの脚本としては完璧でした。
バットマン アーカム・アサイラム(PC / PS3 / Xbox 360) (C)2009 Eidos Interactive Ltd. Developed by Rocksteady Studios Ltd. Published by Eidos Interactive Ltd. Rocksteady and the Rocksteady logo are trademarks of Rocksteady Studios Ltd. Eidos and the Eidos logo are trademarks of Eidos Interactive Ltd. All other trademarks and copyrights are the property of their respective owners. BATMAN and all characters, their distinctive likenesses, and related elements are trademarks of DC Comics(C)2009. All Rights Reserved (C)Warner Bros. Entertainment Inc. |
バイオショック(PC / PS3 / Xbox 360) (C) 2002-2007 Take-Two Interactive Software and its subsidiaries. Developed by 2K Boston and 2K Australia. BioShock, 2K Games, 2K Boston, 2K Australia, the 2K logo, the 2K Boston logo, 2K Australia logo, and Take-Two Interactive Software are all trademarks and/or registered trademarks of Take-Two Interactive Software, Inc. in the USA and/or foreign countries. The ratings icon is a trademark of the Entertainment Software Association. All other marks and trademarks are the property of their respective owners. All rights reserved. NVIDIA, the NVIDIA logo, and The Way It’s Meant To Be Played are trademarks and/or registered trademarks of NVIDIA Corporation. All rights reserved. Unreal(R) is a registered trademark of Epic Games, Inc. Unreal(R) Engine, Copyright 1998-2007, Epic Games, Inc. All rights reserved. Havok.com(TM) Middle-ware Physics System (C)1999-2007 Telekinesys Research, Ltd. All rights reserved. See www.havok.com for more details. Uses Bink Video. Copyright (C)1997-2006 by RAD Game Tools, Inc. All ri hts reserved. |
4Gamer:
「バイオショック」で衝撃を受けたというクリエイターは,非常に多いですよね。
鋼屋氏:
序盤にちょっとだけ不自然な部分があって,でも「ゲームだから」とスルーしていたらちゃんと意味があった。それがあとから分かるという仕組みが見事でした。
4Gamer:
それにしても,見事なくらいにすべて洋ゲーですね(笑)。
鋼屋氏:
あれ,ほんとだ(笑)。国産なら「ペルソナ3」と「ペルソナ4」が好きですよ! 「3」は非常にスケールのでっかい話で,ラストのシーンを演出するためだけにすべてが作られているという趣向がカッコイイ。ですが,「4」もまた良いんですよ。「青春やってるな!」という雰囲気で,あれは言ってみれば「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部みたいなものですよね。空気感が素晴らしい!
4Gamer:
何となく言わんとすることは分かります(笑)。
鋼屋氏:
ああ,そういえばゾンビの話で「デッドライジング」を挙げるの忘れてました(笑)。
4Gamer:
やはりゾンビ好きとしてはハズせないですか?
鋼屋氏:
自分は「バイオハザード」がダメなタイプで,その理由は単純なんです。「何で俺はゾンビから逃げながらパズルをやらなきゃいかんのだ!」という気分になっちゃうんです。そんな中,「デッドライジング」は自分に「そう! こういうのがやりたかったんだ」と気付かせてくれました。
4Gamer:
同じゾンビものでも,全然違いますよね。
鋼屋氏:
「デッドライジング」は,「ダメなゾンビ好き」がやりたいことを詰め込んだ作品で,「バイオハザード」は真面目にホラーとして作っているから趣向が違うのは当然なんですよ。実際,めちゃくちゃ怖いですし。
4Gamer:
初めて遊んだときはチビるかと思いましたね……。
鋼屋氏:
怪物がいる館の中を歩かされることが,こんなにも怖いものなのかと。初代の「バイオハザード」は怖くて怖くて,10分も続けられませんでした(笑)。手がたくさん飛び出してくる演出とか,凄まじくウザったいゾンビ犬とか。
4Gamer:
その一方で,「デッドライジング」は怖いと感じるよりも生存本能と殺戮本能むき出しで暴れるゲームですからね。
鋼屋氏:
最初の“迷惑ババァ”が愛犬を追いかけるシーンで,もう「このゲームが何をやりたいのか」分かってしまう感じが最高です(笑)。ストーリーも「結局は人間のほうが怖い」というロメロゾンビを踏襲したタイプですし,サイコパスが見事にそれっぽくて良かったです。
次回作は日本版「Fallout」……?
「デモンベイン」の新たな可能性も?
4Gamer:
「ロストクリスマス」のマスターアップ(7月3日)直後で気が早いかもしれませんが,次回作の構想などはありますか?
いろいろとあるのですが,まとまった形にしようとすると難しいですね。ただ,自分がやるかどうかは別として日本版の「Fallout」は見てみたいです。
4Gamer:
それは,「Fallout 3」をプレイした誰もが望んでいるんじゃないでしょうか。
鋼屋氏:
廃墟のラジオから聞こえてくるのが「365歩のマーチ」だったりしたら,かなり気分が落ち込むでしょう(笑)。
4Gamer:
雰囲気バッチリですね! オープンワールドは難しいと思いますが……ノベルゲームなら!
鋼屋氏:
自分の好きな世紀末要素を全部入れちゃえばいいんじゃないかな。「覚悟のススメ」とか。
4Gamer:
まさかここにきてその名前が出てくるとは……でも確かに「覚悟のススメ」とFalloutって親和性高そうですね。
鋼屋氏:
そうなんですよ。「Fallout」が楽しい要素のひとつは,覚悟ごっこができることですから。パワーアーマーを着てパンチで戦えば“覚悟完了!”ですよ(笑)。
4Gamer:
その発想はなかった(笑)。しかし,ぜひとも「Fallout」と「覚悟のススメ」をミックスしたシナリオは書いてほしいです。
あと,これは鋼屋さんにインタビューをするならば絶対に聞かなければならない部分だと思うのですが……「デモンベイン」シリーズの新作が出る可能性はあったりしますか。
鋼屋氏:
まあ,やりたいことはいくつかあります。小さい企画でもいいですし。もしかしたら,そのうちお目にかけられるかもしれません。
4Gamer:
期待しています。では最後に,4Gamer読者へのメッセージをお願いします。
鋼屋氏:
はい。「ロストクリスマス」は「ギルティクラウン」に対してどうレスポンスするかということを考えた作品です。自分なりの決着……という思いを込めて作ったので,そういった部分を感じ取れる作品になっていたら嬉しく思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
今回は「ギルティクラウン ロストクリスマス」について興味深い話が聞けただけでなく,鋼屋氏自身の作家性……いや,“オタク性”とでも言うべき部分にも深く迫ることができた。……というか,本稿の半分以上が鋼屋氏の趣味嗜好に関する質問で埋まっているあたり,ちょっとやり過ぎた感すらあるが。
「ギルティクラウン ロストクリスマス」はアドベンチャーゲームであるという性質上,あまり深くツッコミすぎると,これからプレイする読者の楽しみを奪うことになりかねない。それもあって,むしろ鋼屋氏という人物をより深く知ることができればと思ったのだが,趣味嗜好に共感し,その結果,行くところまで行ってしまったようだ。
ともあれ,今回のインタビューで知ることができた鋼屋氏の「根っこ」のようなものを念頭に置いたうえで,同作をプレイしてみてほしい。きっと“鋼屋シナリオ”に対する見方が少々変わり,あるいは理解が深まり,より作品が楽しめるはずだ。
そして個人的には,鋼屋氏のオリジナル新作や「デモンベイン」の新展開についても,今後注目していきたい。
「ギルティクラウン ロストクリスマス」公式サイト
- 関連タイトル:
ギルティクラウン ロストクリスマス
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