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トークセッション「eスポーツ プロゲーマーを目指す君に!」にプロゲーマーの先駆者,谷口純也氏(noppo)が登壇。経験を元に,プロを目指す若者へアドバイス
9回目となる今回の講演は,NVIDIAでeスポーツエバンジェリストとして活躍する谷口純也氏,司会にメディアコンテンツ研究家の黒川文雄氏を招いて,eスポーツのプロを目指すための入口がどこにあるのか,またプロになるために一体何が必要かを,eスポーツという言葉がない時代からプロゲーマーとして活躍した谷口氏が,自身の経験を元に解説した。本稿ではその模様をお届けしていく。
谷口氏について少し捕捉をしておくと,「カウンターストライク 1.6」において「noppo」という選手名で活躍し,アジアチャンピオンにも輝いた元プロゲーマーだ。高校卒業後にスウェーデンにeスポーツ留学し,その後,台湾へと渡り,大学に通いながらeスポーツの腕を磨いた。現在はNVIDIAにてeスポーツエバンジェリストとして働きつつ,「CS:GO JAPAN LEAGUE 宴」(関連記事)を主宰するなど,コミュニティの発展に尽力している。
ゲーム好きな父親の影響を受けて育った谷口氏は,当時の人気ゲームは大抵父親が購入していて,家族で対戦して楽しむ機会が多かったという。「ぷよぷよ」「大乱闘スマッシュブラザーズ」など,自分のスキルが活かせるアクションゲームが好きで,中でも最も得意だった「実況パワフルプロ野球」は,学校の友達にサクセスモードに出てくる強敵を倒すことを頼まれるほどの腕前を持っていたそうだ。
そんな谷口氏が高校受験後の15歳のときに,蒲田にあった「LEDZONE」という「カウンターストライク」のアーケード版「カウンターストライク ネオ」の専門店を訪れたそうだ。ここで「カウンターストライク」シリーズとの運命的な出会いを果たしたのだという。
当時の対戦ゲームというと主に家庭用ゲームで家に集まってプレイすることが多く,同時プレイできる人数も最大4人までというのがほとんどだった。いわゆるオフライン対戦,ローカル対戦と呼ばれるものだ。
専らそうした環境で遊んでいた谷口氏だったが,「オンラインゲーム」という対戦環境を知らなかったわけではなく,いつかその環境で対戦することを夢見ていたそうだ。そして,それが叶ったのがこのLEDZONEだったという。
ちなみに前後にブームとなっていた対戦格闘ゲームは「苦手だった」「複数ではなく,1対1の対戦なので」という2つの理由でハマることはなかったそうだ。
家で少人数で対戦するのが当たり前だった当時,LEDZONEでの多人数対戦の環境に感銘を受けた谷口氏は,ほぼ毎日,平日は放課後に,休日は開店から年齢的に入場規制がかかる夕方まで入り浸るという学生時代を過ごし,めきめきと上達したのだとか。
この上達ぶりについて黒川氏は,実際のスポーツなどと同様に年齢が若くして始めたほうが有利かと質問する。谷口氏は「それはあると思います」と返答,「若いときのほう習得が早く,集中できる時間が長い分上達はしやすいのではないか」と説明し,7歳からCSを始めたという19歳の現役プロ選手を例にあげていた。
その後,谷口氏は所属したチームとともにCSの日本一まで上り詰め,さらには世界を目指すようになった。しかし,国内でのCSの低迷,所属チームの解散などが続き,いまの状況で実現は難しいことを悟り,同じモチベーションを持った同レベルの人材が存在する世界へ行くしかないという決意を固めたという。
もちろん,自身の将来に対するの不安もあったが,それを振り払ってくれたのは,TVで見た芸術家の岡本太郎氏の「いいかい,怖かったら怖いほど,逆にそこに飛び込むんだ」という言葉だった。「本当にこの道を進んででいいのか」,と悩んでいた自分を見透かすような言葉に心を打たれ,自身を問いただして出した結論は「プロゲーマー」になること。それが世界へと飛び出すきっかけとなったのだ。
話は谷口氏がいざ海外へ渡るというとき,どのような手順を踏んだかという話題へと移る。
当時,谷口氏が計画したのは「留学」という手段だ。留学用ビザを取得し,CSの強豪がひしめくスウェーデンへと渡航することを決めた。そこから留学専門サイトでいろいろと探してみたが,いい条件が見つからず途方に暮れることになる。
方々と探し回っていた谷口氏は,ある日mixi(SNSサイト)のスウェーデンコミュニティを覗き,多くの投稿の中に一つだけあったホームステイ募集を見つける。それが運命だと感じた谷口氏はすぐにコンタクトを取り,渡航を決めた。また旅立ちの直前にはゲームコミュニティのチャットで日本に留学していたスウェーデン人に出会うという幸運もあり,現地での活動における不安も解消された。
現地では留学準備と受験のためにホームステイ先に3か月滞在。その後一度帰国してから1年間滞在するためのビザを取得し,留学を始めたわけだが,そこで大きな問題に直面する。スウェーデンは国民番号がないとアパートを借りられず,さらに学校のネット環境は劣悪,近所にネットカフェも存在しないという,オンラインゲームをプレイするには厳しい環境だった。
しかし,この問題も出会いが解決したそうだ。環境改善のため,いろいろな人に話を聞いていたのだが,その中の1人である中国人のクラスメイトが「スタークラフト」のプレイヤーで自宅に通信環境が揃っていて,谷口氏の「プロゲーマーを目指している」という目標を聞き,自分の家に通ってプレイすることを勧めてくれたのだ。
とはいえ,その解決策も決してスマートなものではなかった。そのクラスメイトの家は学校から2時間以上かかる遠方にあり,終業後に通って深夜までゲームの練習をし,明け方の暗いうちにはまた学校に行くという超過酷な生活となった。そうした生活を約1年続けた結果,その疲労はピークに達し,当時所属していたチームの解散を機に,一旦ゲームから離れてしまう。
それでもその1年で得られたものは大きかった。日本よりも圧倒的にレベルが高く,プレイ人口も多かったことで,非常に密度の濃い練習ができた。帰国後「日本最高レベルの腕前」となっていた谷口氏は,向上心のあるプレイヤーとチームを組み,自身の経験を共有し,チームは日本一の座に輝いた。その後も,台湾や韓国のプレイヤーと練習する機会も増え,2012年にはついにAsia e-Sports Cup 2012で優勝し,アジアチャンピオンとなる。
この試合で驚異の5人抜きを達成した谷口氏だが,そのときのことを「マップ全体を俯瞰するように,誰がどこで何をしているかが把握できた」と語った。
谷口氏は海外に出て技能を身につけたが,これはあくまでも個人技の範疇でしかないと語る。チーム戦がメインのタイトルでは,個人の能力よりもチームのバランスが重要で,そのバランスも同じタイプの選手を揃えるのではなく,違うタイプの選手同士が組むことで化学変化が起こり,より強いチームが生まれると述べた。
黒川氏の「チームで戦うという意識において,日本人はあまり得意としないのではないか」という問いかけに対しては,「まだ日本人は得意不得意の域には達していない」と返す。そこには日本人の「指揮に対して忠実に行動する」という性格が関係していて,とくにeスポーツにおいては「1ラウンド1〜2分のゲームでは,指示していては間に合わない。全員が戦況にあわせて自分で決断する必要がある」という部分で至らないというのが見解だ。
その一方で,研究熱心かつ古い世代からゲームに触れている土壌のある日本人は,そうした至らない部分を補う努力をすることで,世界に通用するセンスも持ち合わせているとも話している。
ここで黒川氏は「コーチや監督の存在」について質問したが,それに対し,谷口氏は世界レベルのチームにはコーチや監督の他に,アナリスト,メンタリスト,体力面をカバーするコーチといった人材が存在すると答えた。また,国内においても資金力に余裕があるチームであれば,そうした人材を雇え,チームのボトムアップが可能で,事実,国内でも「野良連合」のように,アナリストを置いているチームも存在すると説明した。
一方で,そうした人材を集められなければ選手自身が,アナリストやメンタリストの役目もこなす必要があると語る。やはりこうした選手をサポートする存在は重要で,チーム専属ではないにしても,有志の人の協力を仰ぐのもひとつの手段だと語った。
現在は国内外のeスポーツシーンをメーカーの立場から見守る谷口氏だが,黒川氏が「現役に復帰したいという気持ちはありますか?」と問いかけると,「そういう気持ちもまだある」と返答。現在31歳という谷口氏だが,30歳を超えると集中できる時間が短くなり,1日8時間も戦うような大会でモチベーションを維持できるのかという懸念がある一方で,長時間戦える体力的な面を鍛えればもしかしたら……と続ける。またコーチやアナリストのような立場にも興味を持っているそうだ。
これまでの経験を踏まえ,現在の日本のeスポーツ界をどう受け止めているかという問いには,「もし覚悟を決めているなら,自分から動かないと道は切り開けない」と述べる。eスポーツが盛り上がりつつあるものの,待っているだけでどうにかなる状態ではないので,決意があればすぐ行動するようなアグレッシブさを持ってもらいたいと続ける。
「認知度は上がっているけど,実体が伴っていないような気もする」という黒川氏の所感に対しては,「現在の流れにおいて,ゲームの対戦文化が普及してきたのは大変いいこと」と前置きし,「そこからeスポーツの実体をどう伸ばしていくのかが現在の課題」と語った。
また今のeスポーツ界において,日本が海外に至らないものは何なのかという点については,「僕個人の意見としては,“覚悟”だと思う」と谷口氏。海外トップレベルのチームは個人単位で1日10時間以上の練習を行っていて,それを実行する覚悟があるかどうかが海外との差を実感するところなのだという。いわゆる「ティア1」と呼ばれるタイトルにおいては,1歩どころか2歩3歩以上の差があり,そこを埋めるには,世界トップレベルの選手以上の努力をしないと,一方的に離されてしまうと述べている。
最後のトークでは,来場者からの質疑に谷口氏が対応した。今の高校生がeスポーツの世界一を目指そうと決意したときにどうアドバイスするのかという質問に対し,谷口氏は「道は3つあります」と回答。
まずは高校卒業後,大学に進んで学業と並行してプロを目指す道だ。学校に通いながらプロを目指すことも可能だが,ある程度のレベルに到達したときに,前述のように世界トップクラスのチーム以上の練習が必要となったときに,そのまま学校に通うかどうかの選択を迫られると示唆する。
次に高校生の段階である程度のレベルまで達しているという人には,最近増えている「eスポーツの専門学校」に進むという道を提示。ここでは自分の好きなタイトルを練習しながら,eスポーツ業界にも進めるようなバックグラウンドを学べる利点を挙げた。
そして最後は,高校卒業後に覚悟を決めてプロチームに入ったり,自身でチームを立ち上げたりして,1日10時間以上の練習を積んで世界に出て行くという道だ。もしアドバイスする機会があれば,この3つを提示するそうだ。
また会場には実際にCSのチームで活動をしているという来場者もいて,今年高校を卒業したら谷口氏と同様に海外に渡って質の高い練習をしたいという希望があり,もし行くのならどの国がお薦めか質問した。
質問者がチームではなく1人で渡航し,さらに多少の英語ができるということを踏まえて答えたのはアメリカだ。アメリカは現在もCSシーンが盛り上がっていて,留学のハードルがさほど高くない点も付け加えた。
ヨーロッパ圏の英語が通じる国や中国という選択肢もあるが,前者は谷口氏が留学したスウェーデンのように,滞在に関する規定が国によって異なり,ややハードルが高め。後者の中国には言葉の壁があることを挙げ,総合的にはやはりアメリカがベストなのではないかという結論となった。
NVIDIAでは,谷口氏が提案する「PUBG」のコミュニティイベントを2019年1月23日に開催予定となのこと。詳細はGeForceのTwitterアカウントで告知されるそうなので,eスポーツに興味のある人は足を運んでみてほしい。
- 関連タイトル:
Counter-Strike: Global Offensive
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