レビュー
PS Vitaで帰ってきた「マリシアス リバース」をプレイ。対時間,対金額のコストパフォーマンスの高さと興味深い世界観に注目する
さらに,ゲームに慣れた人ほど,この「敵を倒す」という手段は目的化していく傾向にあるように思う。オープニングを飛ばし,なぜ自分が戦っているのかなんて理由は二の次でいきなり攻撃を始める。最近は,敵を倒しながらチェックポイントなりに沿って進んでいけば,エンディングへと導かれる親切設計の作品が多いので,こういう傾向は一層強まっているように感じる。
アクションゲームに爽快感を求めるプレイヤーもいるはずなので,それはそれで良いのだが,稀に「目の前の敵を倒している自分は,本当に正しいのか」という疑念を抱かせてくれる作品に出会うことがある。今回取り上げる「マリシアス リバース」は,まさにそういう作品だ。
価格やアクションゲームとしての出来を語られることの多いマリシアスだが,今回はあえて物語や世界観にも焦点を当てながら紹介していきたい。というのも,マリシアスが抱かせてくれる「目の前の敵を倒すことに対する疑念」は,もしかすると800円,1500円といった価格設定が生み出した副産物だからかもしれないからだ。
語られない,多くの謎に吸い込まれていく
まずは物語を整理しておこう。
マリシアス リバースには,PS3版と同内容の「討伐編」と,PS Vitaで新たに追加された「再誕編」という2つのシナリオが収録されている。
討伐編では,預言者と名乗る人物達に“討伐者”として呼び出された主人公(プレイヤー)が,間もなく訪れるという災厄“マリシアス”を倒すために戦っていく。かつて預言者達は,とある女王とその臣下達にマリシアスと戦うための力を与えたが,彼女達はその力を我が物としてしまった。そこで討伐者は,マリシアスを倒すための武器“灰の外套”の力を解放するために,“狂王”へと変貌した女王とその臣下達を倒すべく各地へと向かう。
新シナリオ再誕編では,討伐編でマリシアスと戦ったあとの話が描かれる。狂王を失った国は,統率が乱れたためか混沌に包まれた。そんな国の覇権をめぐって4人の王達が各地で争い始めると,世界には負の感情が満ち,再びマリシアスを呼び起こす事態となってしまう。そこで預言者達が,眠りについていた討伐者を再度目覚めさせ,事態の収拾に向かわせるというわけだ。
ゲームの流れは単純で,討伐者と預言者のいる白の間と呼ばれる場所から,討伐対象の待つ各ステージへと直接移動して敵を倒すだけ。そこでは細かいイベントや会話も発生しないため,敵の思惑などは一切分からないままだ。ただ,アクションゲームとして本作を楽しむうえで必要なあらすじはここまでで,普通にプレイすればマリシアスを倒して,めでたしめでたしで終わりである。
一見すると世界を危機から救うために勇者が戦うというオーソドックスな冒険活劇に見えるのだが,プレイしていると,しばしば「そうではないらしい」ことがほのめかされる場面に出くわす。
例えば,討伐編で狂王達の配下として出てくる無数の雑魚敵は,実は国に仕える生身の人間であることが,預言者達の話から読み取れる。
討伐者は「魂の器」という人間の形を模した“何か”を媒介としているようで,その器は四肢がちぎれても雑魚敵(ほとんどは人間の兵士)から吸収した「オーラ」ですぐに回復する。オーラは攻撃にも使える非常に便利なリソースなのだが,敵の兵士を倒して得られることから,それが人の命とか,魂といったたぐいの力であることは,なんとなく想像できるだろう。
敵の兵士視点で考えてみれば,灰の外套という人外の力を操り,さらに不死身の肉体まで持った得体の知れないヤツが,“討伐者”として命を吸いにくるのだからたまったものではない。安く見積もっても,プレイヤーは「死神」か「悪魔」くらいには思われているはずだ。
討伐者の倒す人間達が,見るからに救いようがなければ多少は罪悪感も和らぐかもしれないが,本編とは別に収録されている「BACK STORY」では,狂王とその臣下達,おそらくそれに仕える兵士達も,彼らなりの正義の下に戦っていたことがはっきりと書かれている。
彼らの背景を知ると,プレイヤーである討伐者が途端に“人形”のように儚くなり,それを制御している預言者達が不気味な集団に見えてくる。そして,討伐者自身に疑念が湧くと,目の前の敵へ出す刃も鈍るというわけである。
1500円という価格で配信されるために,多くの要素がそぎ落とされたマリシアス リバースには,結果としてプレイヤーの想像する余地が多分に残されている。この世界は,アクションゲームとして目の前の敵を倒していったプレイヤーと,背景の設定を想像しながら進めていったプレイヤーとで,まったく違う印象になるのかもしれない。
「討伐編」は爽快系,「再誕編」は防御系
せっかくなので,少しアクション部分にも触れておきたい。
マリシアス リバースのアクションは,PS3版と同内容となる討伐編では灰の外套による変幻自在の攻防と,ハイスピードで縦横無尽な滑空/飛翔がメインとなる。灰の外套の能力は,ステージをクリアするたびに解放されるため,討伐者は徐々に強くなっていく。討伐編で解放できる能力は下記の5つで,ゲーム内ではこれらをリアルタイムに切り替えながら戦うことになる。
どのステージでも,討伐対象となるボスと,その取り巻きがわんさか沸いて出てくる。ボスはかなり耐久力が高いため,取り巻きを倒してオーラを溜め,それをうまく使うのが攻略のポイントだ。
物語の説明で少し触れたとおり,オーラはその力を解放して攻撃力を高めるためにも使うが,消耗した魂の器を回復するためにも消費する。本作には目に見えるHPというものが(プレイヤー側に)なく,代わりにこの魂の器(要するにプレイヤーキャラクターの見た目)の損傷具合によって,優勢劣勢を見極めなければならない。魂の器は,敵の攻撃を受けるたびに四肢のいずれかを失い,胴体だけの状態で一定の攻撃を受けるとゲームオーバーとなる。
再誕編では,さらに灰の外套をパワーアップしながら物語を進めていくのだが,こちらは難度が高い。討伐編は灰の外套による圧倒的な制圧力でもって一対多の爽快感溢れる戦いを楽しめるが,再誕編ではステージによって取り巻きの攻撃も厳しくなるため,防御と回避のテクニックを駆使した冷静な立ち回りを求められる。
ちなみに,討伐編のボスの挙動や討伐者の一部アクションは,PS3版から調整されているようだ。例えば防御+移動で発動する回避アクションが,PS3版では同時押しだったのに対し,本作では防御状態からスティックを倒すという後追い入力でも可能になっていた。この変更で回避がかなり楽になったため,討伐編はPS3版ほど苦労せずにクリアできるだろう。
また,本作では新たに魂の器の衣装を設定できるようになっている。追加された衣装はざっくりと分けると「攻撃特化タイプ」「防御特化タイプ」「オーラ攻撃特化タイプ」の3種類で,変更すると能力と見た目が変化する。アクションが苦手な人でも,防御特化タイプを選んでおけば大胆に立ち回れるのでオススメだ。
槍を強化した鞭(ウィップ) |
通常攻撃(魔弾)を強化した魔針(ニードル) |
拳を強化した爪(クロー) |
剣を強化した鎚(ハンマー) |
討伐者の黒衣 |
王族の衣 |
預言者の衣 |
1500円では考えられないコストパフォーマンスの高さ
マリシアス リバースは,物語面でもアクション面でも,間違いなく1500円以上の価値のある体験をさせてくれる。長くプレイしても10時間はかからずにシナリオをクリアできるくらいのボリュームなので,ゲームに時間が取れないという人が気軽に遊べるのも嬉しい。
ただし,とっつきやすい反面,時間があり,もっとこの世界を堪能したいと思うプレイヤーは,物足りなさを感じる可能性が高い。そういう場合は,ぜひBACK STORYなどに目をとおして,物語の背景に思いを巡らせてみてほしい。アクションパートを楽しみたい場合は,オンラインでのタイムアタックやスコアアタックにチャレンジするのもいい。
ともあれ,マリシアス リバースは価格に対して得られる体験という意味では誰にでもオススメできるタイトルだ。対時間,対金額,どちらのコストパフォーマンスもかなり高いので,サクッと面白いゲームをプレイしたいという人は,迷わず手を伸ばそう。
「マリシアス リバース」公式サイト
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