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[CEDEC 2020]キービジュアルの原画は……えっ,捨てた!? 手書き原画の発掘と保存,そして価値を伝えるバンダイナムコのセッションをレポート
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印刷2020/09/02 21:41

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[CEDEC 2020]キービジュアルの原画は……えっ,捨てた!? 手書き原画の発掘と保存,そして価値を伝えるバンダイナムコのセッションをレポート

 ゲーム開発者向けカンファレンス・CEDEC 2020の初日となる2020年9月2日,「オールドビデオゲームのキービジュアルを読み解く〜歴史の中での役割とその価値の再発見〜」と題したセッションが行われた。

バンダイナムコスタジオの指田 稔氏
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「CEDEC 2020」記事一覧


 バンダイナムコスタジオでアートディレクター/デザイナーを務める指田 稔氏が,ビデオゲームの顔となる「キービジュアル」の手描き原画の発掘と整理保存の現状を伝える興味深い内容となっていたので,その模様をお伝えしよう。

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 まず指田氏は,「えっ捨てた!?」と衝撃的な見出しで,キービジュアルのサルベージレポートを紹介した。バンダイナムコスタジオには,ナムコ時代からの開発者が今も多数在籍しており,1970年代のビデオゲーム黎明期からの開発資産の管理を行っている。その1つに,製品キービジュアルの原画がある。

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 かつては,キービジュアルは手書きの原画をイラストレーターや画家に発注するものだった。納品された原画は写真撮影され,素材(ポジフィルム)として関係各所に配布されることになる。つまり原画は,いくら手書きで存在感のある素晴らしいアートだとしても,素材となったあとは役割がなくなる,中間制作物と言える。

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 指田氏はゲーム好きとして,ふと「社内にあるなら,原画を見てみたいな」「会社のどこかで大事に管理・保管されているだろうな」と考えたという。
 2010年頃には,ライセンス商品としてアーケードゲームの復刻ポスターが販売されたことがあり,そのときに「なんだ,やっぱりあるじゃん」と喜んだそうなのだが……実は原画は残っておらず,印刷物から復刻されたのだと耳にしたそうだ。

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 キービジュアルの原画はおそらく廃棄されてしまっていることを知り,ショックを受けた指田氏。そこから,どの原画が現存しているのかを探るべく,趣味からの行動で社内でヒアリングを始めた。すると,誰に聞いても「多分どこかにあるんじゃない?」という曖昧な答えで,どう考えても一元管理が行われていないことが分かってしまった。
 さらに状況を整理してみると,担当者の退職で行方不明になっていたり,倉庫を引き払う際に処分されていたりといった,悲しい証言も出てくるではないか。

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 一方で,幸いにも,コンシューマゲーム用に使われたキービジュアルは,丁寧に保管されていることが判明した。当時はアーケードゲームのヒット作をコンシューマに移植するビジネスが行われていた時代で,原画をパッケージなどに流用するため,コンシューマの部署に原画がわたっており,廃棄を免れたのだ。
 とはいえ,それも一部であって,1980年代初頭までのアーケードゲームの大半の原画は,もう絶望的だと指田氏も思っていたという。

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 ところが,そんな指田氏にある情報が舞い込む。それは「埋立地の倉庫に,鍵が紛失して開かないままになっている,当時の販促の保管ロッカーがあるらしい」というものだ。何のゲームのクエストなのか,という感じの内容だが,どうしても気になった指田氏はある日,社内の有志を募って,その倉庫に足を運んだ。電動ドリルやバールを装備し,ロッカーを破壊して中を見てみると……なんと1980年代半ばから1990年代半ばまでのタイトルの原画が収められているではないか。ここで,数十点のタイトルのサルベージに成功する。
 ただ,これと同時に当時の人気タイトルの原画はイベントでの展示などに駆り出され,封印されていなかったため,逆にその後処分されてしまっていることが確定し,その点は残念だったと指田氏は話していた。

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 バンダイナムコスタジオは2015年に本社を移しているが,指田氏はその際に全社に向けて連絡して,社内に散逸している原画を集約したという。ものによっては捨てる直前のものをゴミ集積所から回収した例もあり,こうした原画は思い入れのある誰かが声を上げないと,簡単に失われてしまうと思い知ったそうだ。

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 この話を聞くと「なんで捨ててしまうんだ」と思うが,先に述べたとおり,原画は中間制作物である。用が済んだものであり,置いておくにもコストがかかるのだから,保護しようとしなければ処分されてしまうのは当然の話だ。
 そのため指田氏は新たに原画の価値を定義し,その価値を高める施策を行おうと考えた。オールドIPのビジュアルは現代でも即商品化可能な素材であり,保管と整理を行えば,有効利用できる。またアートとしての価値を持つものであり,開発資産にもなるというわけだ。

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 できることをコツコツとやろうと最初に始めたのが,新社屋の社内展示だ。これは現在でも続けられており,2か月おきに中身を差し替える形で立派な額に入れられた原画が解説付きで飾られている。もともと印刷物でしか見ることのなかったキービジュアルだが,手書きの原画だけあって,照明を当てて展示した生の迫力は圧倒的だと指田氏は語る。デジタル作画に慣れた目には相当なインパクトであり,若い社員にも驚きを与えているそうだ。
 さらに,原画を展示したことで現存しているということが広まり,許諾商品での使用や周年イベントでの使用といったニーズも増えていった。

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 これにより,指田氏の趣味での行いから仕事として昇華され,2019年には集約された原画の精査とデータベース化,保管環境の改善が行えることとなった。古文書や古美術の扱いに慣れた専門スタッフを招き,400点ほどの原画を保護し,リスト化を進めたのだ。
 ただ,中には調査しても何の原画が分からないものもあり,現在もリスト化の作業は続いているという。

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例えばこの謎の点の原画。何だか分からず困っていたが,「ファミリーテニス」のビジュアルのキャラクター背面の効果に使われているものだと気づいたそうだ。こうした用途が確認し辛い原画も多数あるらしい
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「これは分からん」という原画。おそらく,「ワルキューレ」か何かの取説で使われたものではないかという
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 現代で原画データを使うため,デジタルデータ化も進められている。主にスキャナーによるデジタル化を行い,ゴミ・ノイズ修正や色調補正を行っているが,代表的な原画は写真撮影による高解像度のリマスター化もなされている。現在,140点ほどがデジタルデータ化され,そのうち十数点はリマスター化したものだそうだ。

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デジタルデータの使用例。VR施設MAZARIAで,SF系の原画をポスターにして展示していた。当時使用していなかった大きなサイズでの展示も可能になり,リマスター化の効果が表れている
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フランスのアートウォッチブランドとのコラボでは,ライセンス商品としては初出の原画ばかりを用いたものが製品化されている
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 こうして,保護が進められているキービジュルだが,今後は課題もあるという。1990年代後半から2000年代になると,手書き原画ではなくデジタル作画へと移行していくが,実はこれのデータベース化が難しいと指田氏。デジタルならやりやすいのではないのかと思ってしまうが,「誰かのPCにしか入っていない」など,手書き原画以上に所在が不明で,解像度もそもそも低いので,難航が予想されるとのことだ。

 続いて指田氏は,当時のキービジュアルを読み解いていった。
 キービジュアルというものは,商品のコンセプトを的確にユーザーに伝えるためのものだ。「面白そう!やってみたい」という意識を喚起させるものでなくてはならない。

 1979年の「ギャラクシアン」は,ナムコのキービジュアルにおける第一号だと指田氏は述べる。それ以前は,キャラクターのビジュアルを単独で作って運用されていたが,一枚絵が用意されたのはギャラクシアンが初だという。
 この一枚絵を用いたポスターをよく見てみると,なかなかに面白い。キャッチコピーが「文明への挑戦か 宇宙怪獣来襲! たて! 銀河戦士!!」というものなのだが,そもそも宇宙怪獣がどこにも描かれていない。中央の虫のようなメカはなんなのか。これに乗っているのが銀河戦士なのか。世界観は提示されているが,ゲームとの整合性がまったく見られないのだ。

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 表現力が低かった当時のビデオゲームにおいて,キービジュアルは「こういう世界だったらいいな」というイメージを共有するものだった。それにしても,ギャラクシアンはあまりにかけ離れているが,1970年代のビデオゲームではそうしたケースも見受けられるという。当時は,アーケードゲームを出せば売れる時代であり,そのあたりの整合性は求められず,メーカー側からデザイナーへの要望も,それほどシビアではなかったのではないかと,指田氏は予想していた。

 1983年の「ゼビウス」は,とくにビジュアルに力が入っていたタイトルだ。世界設定が丁寧に作られ,敵機や構造物などのデザインを決めたうえでゲームに落とし込まれている。現在では当たり前のことだが,当時は順序立てて制作されたものは少なかったという。ゲーム自体も,100円を入れてスコアアタックするだけでなく,そこから一段階上の世界観まで楽しめるものとなっていた。
 自機ソルバルウの原画がゲーム画面に向かっていくビジュアルは,そんなゼビウスにふさわしいものだと言えよう。

グラフィックスや質感がゼビウスのセールスポイントであったことは,当時のチラシからも伝わってくる
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 ちなみに現在残っているソルバルウの原画と,当時チラシなどで使われていたイラストは細部のエフェクトが異なっている。指田氏は,原画が2種類あるのかと思ったのだが,調べてみると,どうやらポジフィルム化が行われたあと,ナムコの広報誌の表紙に使うために,原画を再利用して背景と噴射炎が後から描き加えられたようだ。

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1985年の「ドラゴンバスター」の美麗すぎるキービジュアル。残念ながら,この原画は失われてしまっている
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 少し時代が飛んで,1994年のPlayStationローンチタイトルである「リッジレーサー」。実は本作におけるパッケージのジャケットは3DCGであり,この手書きのビジュアルは背面に載っているだけだ。
 ゲームの3D化はゲーム史における革新的な出来事であり,キービジュアルではそのセールスポイントを押し出した形になっているわけである。これ以降,手書きよりも,CGのキービジュアルの比率が増えていくことになる。

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 1995年の「Jリーグサッカー プライムゴールEX」もそうだ。「Jリーグサッカー プライムゴール」シリーズは,スーパーファミコンで3作発売されており,そのキービジュアルは楽しそうなキャラクター達で表現されていた。それがPlayStationソフトになると,「今度はCD-ROMですよ」ということを最優先に押し出したキービジュアルとなった。この時代のCD-ROMという技術への期待が,それだけ大きかったことが読み取れる。

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 懐かしいゲームのキービジュアルの話を続けると,時間がどれだけあっても足りないということで,現代の話に。
 現在のバンダイナムコのキービジュアルは,商品コンセプトをきちんと,魅力を余すことなく表現できているか。あるいはその世界の持つ雰囲気が,キャラクターやビジュアル要素を伴って魅力的に表現できているかを念頭に作られているという。

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 ここで例に挙げられたのは「エースコンバット7 スカイズ・アンノウン」PS4 / Xbox One / PC)だ。このキービジュアルでは,雲を突き抜けて現れる戦闘機により,空を飛ぶゲームであることがすぐに分かり,手前にいるキャラクターにより物語性を表現。キャラクターが宇宙服みたいなものを着て,雲の中の構造物にいることから,近未来感も表している。

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 続いて,現在開発中のタイトルだが,カッコイイので無理を言って借りてきたとして,「テイルズ オブ アライズ」PS4 / Xbox One / PC)のキービジュアルも紹介された。「テイルズ オブ」シリーズの新生をコンセプトにしている本作だが,キービジュアルを見ただけで,これまでとは異なるダークな雰囲気が感じられる。主人公とヒロインが背中を向けている構図も目を引き,間違いなく本作の世界観が魅力的に描かれた1枚だ。

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 最後に指田氏は,オールドIPは,整理,デジタル化することで,新たに価値を持つことができ,さらにそのキービジュアルは,現代においても開発者の資産として価値があると,これまでの内容をまとめた。古きを知って新しいものを作るというのは,ものづくりの基本であり,昔どのような状況下でそのアウトプットに至ったかは,貴重な知見だ。
 また,バンダイナムコスタジオは最先端の開発も行う会社だが,絵という感情を刺激する資産を残すことで,40年以上のゲーム開発の歴史を持つ重厚さも感じられ,企業イメージの向上も図れるのではないかと語っていた。

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 今後氏はゲームのキービジュアルを広く一般に向けに,そのコンテクストとともに紹介することで,アートとしての見方,価値感を共有していきたいとのこと。構想はいくつかあるものの,現時点では新型コロナウイルスの影響もあり,確定した情報は伝えられないそうだが,せっかく保護されたキービジュアルなだけに,我々が目にする機会が企画されることに期待したい。

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