レビュー
他人の人生を面白おかしく遊んでしまおう
The Sims 4
エレクトロニック・アーツが2014年9月4日に発売した「The Sims 4」(PC/Mac)は,世界的に大人気のシミュレーションゲームシリーズの最新作だ。プレイヤーは「シム」と呼ばれるキャラクターを操作/誘導し,ミクロな視点で彼らの日々の生活に深く介入したりしなかったりして楽しむという,他に類を見ないシステムが採用されている。
「The Sims 4」公式サイト
2000年に第1作「The Sims」(日本版タイトル「シムピープル」)が発売されヒットしたことからシリーズを重ね,2010年の10周年時点では,拡張パックなどを含めて世界累積の販売本数が1億本を軽く超えたという本シリーズ(関連記事)。シリーズ4作目となる「The Sims 4」の登場は,日本にも数多いファンにとって待望の新作となるわけなのだが,実を言うと筆者は,長年,「シムシティ」シリーズで市長を続けてきたものの,残念ながらこちらは,プレイするタイミングを逃し続けていたのだ。
しかし今回,発売前の「The Sims 4」をプレイできる機会があったので,ここで,そのプレイフィールなどを簡単にお届けしたい。なにぶんシリーズ未経験なので,本稿では旧作との比較とかはしたくてもできない。そこで,主に「タイトルは知っていたがプレイしたことはなかった」とか「興味があったけど,具体的にどんなゲームか分からない」という人に向けた記事になっている。新たにシムの世界に参加しようかと迷っている人達の参考に,少しでもなれば幸いだ。
「こだわり派」と「お手軽派」,どっちも納得できそうなキャラクターメイキング
外見の設定を終えたら,お次はシムの内面を決めていく。項目は大まかに「願望」と「特質」に分かれており,前者を1つ,後者は最大3つまで設定できる。簡単にまとめると,「願望」は人生の大きな目標設定,「特質」は感情や性格という感じで,それぞれさまざまなボーナスやマイナス効果がシムに付与されるのだ。
「願望」はゲーム中,いつでも変えられるので気軽に選んでかまわないが,「特質」はあとから変更できないため,最初にしっかりと決めたい。
面白いのは「特質」で,明らかにネガティブっぽいものでも,マイナス効果だけでは終わらないことだ。例えば,「陽気」と「陰気」では人付き合いのことを考えると前者のほうが好ましいように思えるが,陰気なシムは悲しくなると創造性が高まり,さまざまな創作活動に有利に働くというメリットがあったりする。陽気と陰気のような相反する特質は同時に設定することができないので,割り切ってガチガチにネガティブなシムを作ってみるのも面白そうだ。
筆者は時間的な都合もあり,プリセットのシムを少しだけいじって,筋肉質の黒人男性を分身とすることにした。元は白人の太っちょ男だったのだが,顔と体型と肌の色をポンポンと選ぶだけで,原型が残らないぐらい容姿を簡単に作成できた。いちおう脳内では「海外に派兵されて疲れ果てた軍人が,退役後,心の傷を癒やすため心機一転引っ越してきた」という設定を考え,それっぽい特質の「陰気」も選んでみたのだが,果たしてどうなるだろうか。
さあ街へ引っ越して,新たな生活を始めよう!
シムを作成すれば次は引っ越し場所の選定となる。とは言っても大きな家に住もうと思えばお金(シムオリオン)がかかるし,最初にもらえる支度金も潤沢ではないので,最初におすすめされる小さな家を素直に選ぶのがいいだろう。詳しくは後述するが,あまりここでお金を使ってしまうと生活が立ちゆかなくなってしまうのだ。
引っ越しが無事に終われば,シムは新たなマイホームの前に立ち,ここから新たな生活が始まる。本作にはとくに「やらなければいけないこと」が設定されているわけではなく,要するにここからは完全に自由だ。倒すべきテロリストや魔王がいるわけでもなく,世界に危機が迫っているというわけでもない。プレイヤーは存分に“日常生活”を満喫できるのだ。
自由といってもやるべきことがまったくないわけではなく,短期的にはシムの「欲求」と「気まぐれ」を満たしていくことが目的になる。「欲求」は簡単に言ってしまえばシムが生きていくために必要な一連の事柄で,左端のアイコンをクリックすることでゲージが表示され,そこに「空腹」や「体力」や「衛生」といったものがあることが確認できる。例えば時間が経ってお腹が減れば空腹ゲージが減るし,動き続ければ体力が減るので寝る必要があるという感じだ。まあ,基本的にあなたや私など,普通の人間が必要とするものとおんなじ。
欲求ゲージがある程度まで減ると心身に悪影響が生じ,気分が悪くなったりペナルティが発生したりする。これがさらに低いレベルになると,シムは自分で行動を起こして問題を解決しようとするが,逆に言えば,そうなるまでは対処しなくてもいいっちゃいいわけだ。
反面,欲求を高いレベルで満たしてやると心身が健康になり,ボーナスが得られる。そのため,幸福状態を目指すなら,シムのお腹がすいたら冷蔵庫や電子レンジをクリックして食事を食べさせ,体力が減ったらベッドに誘導するといった操作を行えばいい。
「なにそれー。食事させたりトイレ行かせたりするのがゲーム?」と思う人もいるだろう。筆者も最初は,こんなチマチマした作業をしていられるかという気分だったが,シム達の行動はよく作り込まれていて,表情やしぐさも豊かであるため,やってみるとこれがなかなか楽しいんだよねー。
また,「気まぐれ」とはゲーム開始直後から左下に常時表示される吹き出しのことで,「誰かと会話したい」とか「運動をする」といった彼らの希望だ。作成したシムの個性や状況に合った簡単な行動目標が設定されるのだが,筆者の場合は筋肉質のボディビルダーを目指す願望を持ったシムを作成したため,体を鍛える行動がよく表示される。
これらの「気まぐれ」は無視をしてもとくにペナルティがあるわけではないが,実行すると気分がよくなってその後の行動にブーストがかかったりするほか,「満足度報酬」が得られる。報酬を貯めて右下の「願望」タブの中にある「報酬ストア」で使うことができ,一瞬で体力が回復できる薬や,上記の各種欲求の減り方を大幅に低下させるスキルが手に入ったりする。要するに,やって損はないので,ヒマならどんどん実行していこう。
食って寝るだけの人生じゃ寂しい! でも何をしよう?
欲求を満たし,気まぐれを実行していくだけもとりあえずの生活はできるが,やはりそれだけでは何となく味気なくなってくる。これじゃ,筆者の人生と同じではないか。せっかく新天地で生活を始めたのだから,中長期的なプランを見つけて暮らしてみよう。
もちろん,決められた道を行くばかりではない。例えば,本作ではキッチンに向かえば料理ができ,特定の水辺に行けば釣りが可能で,さらに庭でガーデニングを楽しむこともできるし,PCを買ってゲームや小説執筆や掲示板荒らしに励むこともできる。これらには個別にスキルが設定されていて,繰り返すほどレベルが向上していく仕掛けだ。
スキルだけではなく,マイホームや財産にこだわる遊び方もある。自宅はまさに自分の城となる日々の生活の拠点だが,暮らしていくうちに,だんだんと不満が湧いてくるものだ。狭い,ベッドの寝心地が悪い,テレビが小さすぎ,水回りの故障がひどい,オーディオ機器がない……など,シムの生活が少し向上すると,次々に不満が出てくるのだ。ああ,人間の欲望に限りはない。
実際問題として低品質(つまり安い)の家財道具はいろいろと故障しやすく,故障するとシムの気分に悪影響を与えるので,たとえ上昇指向がないプレイヤーでも,「もうちょっと何とかならんのか」となってくるのだ。
肝心の家だって,一人暮らしならまあいいが,ほかのシムと同居を始めたり,結婚して子供ができたりすれば,自然と手狭になっていく。そんなときに活躍するのが「建築モード」で,新しい家具や家電を設置できるほか,家自体を増改築したり,丸ごと更地にして一から作り直したりできる。屋外用のアイテムもあるため,ガーデニングが趣味なら,立派な菜園を作ってみるのもいいだろう。建て増しをして階数を増やすことも可能なので,まさに夢のマイホーム計画がいくらでも膨らむという感じだ。
とはいえ,家具にしても増築にしても,先立つものがなくてはどうしようもない。たとえ家具家電をあきらめて贅沢をしなくても食費は必要だし,電気や水道代などの維持費は家にいるだけもかかる。そう,現代社会で生きていくにはお金が必要なのだ。
働くべきか働かざるべきか,それが問題だ
働くためには,最初から持っているスマートフォンか,あるいはPCを使って「仕事を探す」を選択すればいい。その日に就職可能な職業一覧が表示され,面倒な面接などは一切なしに好きな職業に就くことができる。職業にはキャリアアップの概念があり,条件を満たして地位が上がるほど給料や待遇がよくなるので,自分のスキルや特徴に向いたものを選ぶと若干有利に進められるはずだ。
就職すると始業時間にシムは自動的で職場にお出かけし,終業時間になると帰ってくる,というサイクルを繰り返す。いちおう就業時に労働態度の調節ができるが,基本的に「仕事に行ったらキャラが消える」という仕様になっており,具体的にどこで何をしているのかは一切表示されないし,詳細も分からない。子供の場合は仕事の代わりに学校に行くことになるが,これも基本は同じだ。個人的には日常生活と同じように労働にも介入できたら,楽しみの幅も広がったかもしれないと感じたが,いずれ,自宅で商売ができたりするようになるのかもしれない。
ただ,仕事に就いても,日常生活自体に出る影響はそれほど大きくない。むしろ欲求の管理をする必要がなくなり,そういう点では楽だ。問題は趣味や芸術などのスキルを高めたい場合で,これがとくに下っ端の仕事をしていると,つぎ込める時間が本当に少ない。
前述のとおり,作成した新しいシムには支度金が用意され,安価な家具付きの家を選ぶ場合は,ある程度の資金が手元に残るようになっている。最初はあえて仕事に就かず,この資金を元手にできるだけスキルを高めたりと,やりたいことをやっておくのも手だろう。スキルが高まると,能力がブーストされたり,簡単に友好関係が広められたり,あるいは副収入をゲットできたりなど,さまざまな特典があるからだ。
筆者について言えば,とりあえず日々食うために料理を続けていたらスキルが地味に上昇していったため,そのまま料理が生かせるシェフの職に就き,あまり苦労せず短時間で出世できた。無計画の棚からボタ餅的な展開だが,もし早々に就職していたら,恐らく食事は冷蔵庫か電子レンジの軽食で済ませていたはずで,こういうルートでの生活はできなかったはず。人生って,何が幸いするか分からないものだ。
たった一人で超人を目指すか,大家族で財をなすか
それぞれのフリーダムな世界をしゃぶりつくそう
最後になったが,本作の主役であるシムそのものについて説明しておこう。見た目や各種欲求を見れば分かるように,彼らは基本的に人間とあまり変わらない。日々の生活の中で喜び,笑い,泣き,友情が芽生えれば仲良くなり,愛が育まれれば結婚し,子供も生まれる。違いは寿命がかなり短いことで,子供からティーンエイジまでは13日,成人からシニア(老齢)まででも20日ぐらいしかない。プレイ時間から考えるとそこまで短いというわけでもないが,例えば豪邸を建てたいというような大目標がある場合,数世代にわたった継続作業が必要になりそうだ。
「寿命が短すぎるのでは?」と心配する向きも安心してほしい。実は設定変更で加齢はいつでも止めることが可能であり,これによるデメリットは一切ない。これなら(ユーザーの時間さえあれば)たった一人でもあらゆる職を極めたり,マップの隅々まで探索したり,豪邸に住んだりすることもできるだろう。独り身にも嬉しい配慮ではないかと思う。
プレイ時間の関係上,筆者のシムは就職から結婚,そして出産から子供への成長あたりまでしか体験できなかったが,はっきり言って,まだまだやりたいことはいっぱい残っている。当初の目的だったボディビルダーへの道は絶賛放置中だし,料理の仕事はまだ道半ば。ガーデニングは庭の端で申し訳程度にやってるだけだし,釣りは魚を1匹釣っただけ。芸術関係はほぼ手つかずのうえ,家具の買い換えもしたい,家だって広げたい。時間(ゲームとリアルタイムの両方)とお金(これはゲーム内のシムオリオン)が全然足りない! といった感じだ。
気になる部分として,名前が英語のままのシムがいたり,一部のアイテムをシムが変な場所に置いてしまったりといったことはあったものの,全体として大きなトラブルはなく,スムーズにプレイすることができたのも嬉しい。
本作の魅力を文章で伝えるのはなかなか難しいのだが,あえて一言で表せば「開拓の面白さ」ではないかと思う。
人間に極めて近い,時間やお金や体調などの限られたリソースを配分して生活しているシム達を操作して,新たなスキルや仕事や自宅を徐々に開拓していく面白さ,これが根底にあるように感じる。
あえて言ってしまえば,シムシティでニューゲームを始めて,予算や地形を気にかけながらも,「次はどんな街を作ろうかな」とワクワクしながら平地に発電所や道路や住宅地を造っていく……。舞台や視点はまったく違うが,シムに関わっていく生活は,そんな楽しさに近いように思えたのだ。
締め切りが迫っているにも関わらず「あとちょっと,あと少しだけだから!」とプレイを続けてしまった結果,ヒーヒーいいながら急いで原稿を書く羽目になっている。かつて市長職を満喫していたときも,一段落して気がついたら真夜中だった,という過去を思い出してしまったのは秘密だ。
「The Sims 4」はタイトルを見て分かるようにシリーズものの新作だが,内容は個々のプレイヤーがシムを通してさまざまな人生を織りなしていくシミュレーションゲームであり,旧作を知らなければ楽しめないようなものでは一切ない。筆者同様,シリーズ未経験であっても遠慮する必要はまったくなく,むしろさまざまなことが可能になった最新作が発売された今こそ,プレイを始めるべき絶好のタイミングではないだろうか。
本作に興味を感じたら,ぜひシム達の暮らす世界に飛び込んでいってほしい。そこには自由だけれどままならない,だからこそ長い間いたくなる,何とも魅力的な世界が広がっている。
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