インタビュー
「リングドリーム 女子プロレス大戦」のサービス終了後もシリーズは続きます。原作者 でいしろう氏とプロデューサーにインタビュー
そこで今回,でいしろう氏と「リンドリ」プロデューサーの南 佑典氏に,サービス終了の経緯や,シリーズの今後の展開などを語ってもらった。
Flash問題をきっかけに,ゲームシステムや開発体制を見直そうと考えた
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。「リンドリ」のサービス終了が発表されてしまいましたが,やはりFlashのサポートが終わってしまうからですか?
でいしろう氏:
それもありますが,いくつかの理由による判断です。
4Gamer:
サクセスさんは「英雄クロニクル」を自社でHTML5化していますが,「リンドリ」は何もお話が聞こえてこなかったので,もしやとは思っていましたが……。
もちろん,HTML5化するという選択肢はあったのですが,それだと今のゲームシステムのままサービスを継続しなければなりません。正直なところ,システム的にかなり古いゲームなので,この機会にリフレッシュしたほうがいいだろうというのも有力な理由の一つでした。
南 佑典氏(以下,南氏):
今や,プレイヤーの皆さんが楽しみにしているのも,ゲームシステムではなくシナリオ更新です。それをそのままHTML5化しても,新規プレイヤー獲得にはつながらないだろうと考えました。それであれば,一旦「第1部完結」という形で終了し,準備期間を経て次のプロジェクトを進めましょうと。
でいしろう氏:
あと,社内の開発体制を見直したかったというのもあります。
4Gamer:
開発体制と言えば,「リンドリ」のウリの1つは頻繁なシナリオ更新ですが,あれはでいしろうさんが書き続けているんですよね?
でいしろう氏:
ええ,特定のイベントを除くと,基本毎日更新で,番外やコラボ以外は全部僕が書いてきました。
4Gamer:
……2012年のサービス開始からずっとですか?
でいしろう氏:
そうですよ。ただ,最初の3〜4年はけっこう書けていたんですけど,だんだん時間がかかるようになってしまって。以前は1日に2本書けたのに,今は1日1本書けるかどうかですから。
4Gamer:
毎日書いているんですか? まとめて書いて,小分けにして更新とかではなく?
でいしろう氏:
はい。メンテナンス日に7人のボスのデータを用意して,そのボスに合わせて話をどう作るか考えていくので,結果的に毎日書いています。これは決して褒められたことではないのですが,更新をかける2時間前にシナリオをアップするようなことも起きますから,現場には迷惑をかけていますけど。
「リンドリ」はプレイヤー同士が戦うので,どうしても勝ち負けでシナリオが異なってきます。試合経過がこうだったから話はこうなる,と熱量を込めて,さらにプレイヤーの皆さんが納得する形でシナリオを用意するには,その試合のイベントが終わってからでないと書けないんですよね。
でいしろう氏:
あらかじめ勝った場合と負けた場合の2つのシナリオを用意していると思っているプレイヤーもいるかもしれませんが,そうではないんです。使わないパターンを書く手間をかけるくらいなら,イベントが終わってから熱を入れて書いたほうが絶対にいい。
南氏:
仕様上,1試合につき約半数のプレイヤーが負けてしまうことになるので,そちらにも納得していただけるシナリオを書くのは難題なんですよ。
でいしろう氏:
全員を満足させているとは思っていません。負けた時点で満足できていないはずですから。そこは後日談などで補完する形にしています。
また,ずっと締め切りに追われている状態なので,気配りが足りなくなり,急いで書いた表現が誤解を生んでしまうことなどは反省しています。
4Gamer:
でいしろうさんのそうした熱量が,シナリオの魅力につながっているのは分かりますけど,ものすごいワンマンな開発体制ですよね。よくずっと回してきましたね。
でいしろう氏:
さすがに,次のプロジェクトでは分業体制にしたいです。「リンドリ」も,当初は助っ人を頼むことも検討したんですが,短期間の助っ人だとすり合わせの労力のほうが大きくなってしまい,結果的に1人でやることになってしまいました。
4Gamer:
7年ずっと書き続けてきて,大変だったのはどんなときでしたか?
でいしろう氏:
ボイス収録用の台本書きと重なるときは大変でしたね。
それと,キャラクターが増えれば増えるほど大変になります。私だけで全キャラクターの性格を把握して,相互関係も含めて自由に書くのは,小中学校の1クラス分,40人くらいが限界です。それ以上は把握しきれなくなってきて,200人,300人となると,急いで書いているときに混同してしまうこともあります……。
南氏:
そんなわけで「リンドリ」は終了しますが,最後のシナリオは,その先の展開ありきで終わらせる予定です。最後に対戦系のイベントを用意していますが,その最後のタイトルを取って終わりという形にはしたくないですから。
「リングドリーム ストーリーズ」はキャラに焦点を当てたビジュアルノベル
4Gamer:
公式サイトには,「リングドリーム」シリーズの今後の展開について,「レスラーそのものに焦点をあてた番外編的な物語群」と「今作の長所だったところを活かし,また反省点を踏まえた新たなゲーム」とあります。つまり,2つのプロジェクトが動いているわけですか?
でいしろう氏:
「ストーリーズ」と,ここでは仮に「リンドリ2」と呼んでおきますが,その2つを予定しています。
4Gamer:
では,順にお話できる範囲で教えてください。
でいしろう氏:
「ストーリーズ」はキャラクターに焦点を当てたビジュアルノベルです。
南氏:
外伝などで触れることができなかったキャラクターも多いので,「これまで書いてみたかったけど書けなかった」というものをビジュアルノベル化します。「リンドリ」のシナリオを楽しみにしている人が多いことは我々も理解しているので,もしその人達が「リンドリ2」を待ってくださるのであれば,その準備期間にもシナリオを提供できる場を作ることが「ストーリーズ」の狙いですね。
でいしろう氏:
まだプロットを書いている最中なので断言はできませんが,「ストーリーズ」の時間軸は,本編と同じとは限りません。過去かもしれないし,未来かもしれない。
4Gamer:
最初に誰をピックアップするかは決まっているんですか?
でいしろう氏:
それも未定ですけど,有力候補は鈴森か姫小路あたりです。ただ,僕なので急に変えることはあり得ます。
世の中の作家には,最初にプロットをかっちり練ってそれに沿って最後まで書くタイプと,書き始めてから閃いたものをテキストにしていくタイプがあって,僕は断然後者なんです。良いアイデアが閃いたらそっちを書いてしまうので,きちんとプロットに沿って書ける作家さんはすごいと思いますね。
4Gamer:
「ストーリーズ」の販売形態はどうなるのでしょう。ビジュアルノベルということは買い切りですか?
でいしろう氏:
そうです。ちょっとしたライトノベル感覚で買っていただければと思います。
4Gamer:
どのくらいのスパンでリリースしていく予定なのでしょう。
でいしろう氏:
1キャラクターにつき3話構成で,10日に1話ずつ出して1か月で完結くらいが理想です。あくまで理想なので,これも変わることがあります。
以前「レッスルエンジェルス」のときも,「レッスルエンジェルス愛」というフィーチャーフォン向けコンテンツの中で,同じようにキャラクターのシナリオを毎月配信していたことがあります。
4Gamer:
「リンドリ2」の準備期間に「ストーリーズ」を展開するんですよね? でいしろうさん,そのスケジュールで充電できるんですか……?
でいしろう氏:
いやあ,社内で企画が通ってから,けっこう大変なことに気づきました(笑)。最初は,「リンドリ2」が始まるまで,「リンドリ」のことを覚えていてもらえるようにと軽くスタートしたはずだったんですが。
南氏:
正直,企画を出したときは,本当に大丈夫なのかなと思いましたけど,がんばってくださると信じています。
4Gamer:
「ストーリーズ」では,何キャラくらいのシナリオを予定しているのでしょうか。
できる限りです。おそらくですが,「ストーリーズ」で作ったビジュアルノベルの技術は「リンドリ2」にも応用できると思うんですよ。そうなると,お話自体も次に続くような内容になるんじゃないかと思いますから,「リンドリ2」が始まるまで毎月続けたいですね。
南氏:
ゲーム内では今,いろんな派閥のトップが引退したり,後続への引き継ぎをしたりといった話になっているので,そこから「リンドリ2」にどうつながるのか,僕自身も楽しみです。後続世代が活躍するのか,新しいキャラクターが出てくるのか。
でいしろう氏:
もちろん新キャラクターも出てくるでしょうね。また,今のキャラクターを切り捨てることは,まずありません。ただ,「リンドリ2」がいつになるかまだ分からないので,同じ作家さんや声優さんにお願いできるとは限らないということは,お伝えしておきたいと思います。できたら引き続きお願いしたいですが,今ですら引退を理由に交代した作家さんや声優さんがいますからね。
南氏:
収録当時は新人で頼みやすかった声優さんが,年々人気が出てなかなかスケジュールを取れなくなった例もあります。
4Gamer:
サービス開始から7年ですからねぇ。
「リンドリ2」はプレイヤーの年齢層を考えて身体に優しいゲームを目指す
4Gamer:
現状,「リンドリ2」はどのくらいまで企画が進んでいるのでしょうか。
でいしろう氏:
まだ腹案レベルです。社長からは「やれ」と言われていますが。
あとは,もうPCオンリーは厳しいので,スマホでも遊べるようにしたいとは考えています。でも,ネイティブ型のスマホゲームは無理かな……審査に通らないだろうし。
4Gamer:
肌の露出的に厳しそうですね。
でいしろう氏:
作家さんはギリギリを攻めたがるんですよ。規制に引っかからないようにお願いすると,「これなら大丈夫ですか?」って聞いてきます。僕も書き手なので気持ちは分かりますけども(笑)。
4Gamer:
シナリオはどういった形での更新を想定していますか?
南氏:
週ごとのイベントのシナリオを,分業で作家さん達に担当していただく予定です。
でいしろう氏:
作家さんごとにキャラクター1人を担当してもらうようなイメージですね。メインシナリオとキャラクターの監修を僕がやります。
4Gamer:
ゲームシステム的にチャレンジしたいことはありますか?
筋肉キャラが勝てる舞台を整えたいです。「リンドリ」は,とにかく人気キャラが勝つ仕組みでしたから。それはそれで,プレイヤーの皆さんの意思ですから悪いことではありません。ただ,それ以外の舞台がないので,別枠の勝負体制を並行して作りたいんです。
容姿と性格で勝負が決まってしまうと,新キャラクターやシナリオのパターンも決まってしまうんですよ。例えば,完全な悪役キャラクターを出すと,負けが決まっているようなものなので,なんちゃってヒールしか出せなくなってしまうんです。
4Gamer:
いろんなキャラクターにスポットが当たるような仕組みを作ろうというわけですね。今の対戦の仕組み自体は残るんですか?
でいしろう氏:
そこは残したいですね,プレイヤーの意思が反映される対戦は,「リンドリ」のキモですから。ただ,もっと楽にしたいです。今は人気キャラを応援するために,ずっと張り付いているプレイヤーもいます。中には,その様子を配信している人もいて,それを見たときは「お願いだから寝てください!」と思いました……。
南氏:
「リンドリ」のイベントはランキング形式を採用しているので,「このキャラクターを主軸にシナリオを展開してほしい」という思いが,がんばりに直結しているんですよね。
でいしろう氏:
その熱意は否定したくありませんが,ドクターストップまで行ったら問題ですから。その境界線をどこに引くかが目下の悩みどころです。
「リンドリ」からずっと遊んでくださっているプレイヤーの皆さんの中には,「リンドリ2」で10年選手になる人もいるでしょう。そうなると当時20代だった人は30代,30代だった人は40代になります。「リンドリ」プレイヤーの平均年齢は40代ですから,次は50代になるかもしれません。
南氏:
なので,身体に優しい新作にしたいなと……。
でいしろう氏:
シリーズの始まりが,そもそも1993年の「ガープス・リング★ドリーム 女子プロレス最強伝説」ですからね。そりゃあ歳も取ります。
南氏:
それだけの歴史があるシリーズですから,次につなげたいという気持ちは強いです。いったん区切りを付けますが,これからの展開も楽しみにしていてください。
でいしろう氏:
その前に,開発スタッフやプレイヤーで一緒に何かやりたいですね。
南氏:
サービス終了当日に生放送の予定はありますよ。
でいしろう氏:
そうでした,カウントダウン生放送をやります。僕が「リンドリ」のこれまでを振り返って,最後にプレイヤーの皆さんに感謝を述べてサーバーを閉じるような内容になる予定です。
4Gamer:
「リンドリ」の終了日は3月26日ですが,「ストーリーズ」の最初の配信はいつ頃を予定しているのでしょうか。
南氏:
4月1日を予定しています。
4Gamer:
え,6日後!? でいしろうさん,サービス終了までは毎日シナリオを書くんですよね。「ストーリーズ」の更新分はどこから出てくるんですか?
でいしろう氏:
(笑)。
ともあれ,2012年12月から7年ちょっとの間,「リングドリーム 女子プロレス大戦」を応援していただきありがとうございました。ほとんど休まずに「ストーリーズ」が始まりますので,ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
「リングドリーム 女子プロレス大戦」公式サイト
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リングドリーム ストーリーズ
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