イベント
[GDC 2015]ゲームプレイについて親身に考え,注力していくのが長寿ヒットの秘訣。「クラッシュ・オブ・クラン」の開発者がレクチャー
コラロス氏はアメリカ生まれのゲーム開発者で,2007年に大学卒業とともにフィンランドの企業に就職。しかし,その会社では4か月しか雇用されず,結果として起業したばかりのSupercellに雇われることになった。Supercellは,Nokiaに勤めていたプログラマーらが,その経営悪化によって解雇されることで独立したメーカーだが,同国では「Angry Birds」(iOS/Android)のRovio Mobileなども同じパターンで誕生しており,結果として国内のゲーム産業を発達させるきっかけになっている。
クラッシュ・オブ・クラン成功の秘訣とは?
クラッシュ・オブ・クランは,2012年8月にiOS用としてリリースされたモバイル用のオンラインストラテジーゲームで,プレイヤーは兵隊を組織し,資源の採取によってクランを成長させつつ,ほかの村を襲撃してランキングを競い合うというタイトルだ。配信以降,徐々に評価を獲得し,2012年12月にApp StoreでTOP 5に躍り出てからは,現在に至るまで,世界中,多くの地域で人気を保っている。
2012年は年間で1億100万ドルの収益だったが,2013年になると1日平均で850万人がアクセスし,年間8億9200万ドルものとてつもない収益を得ることになる。計算すると,1日あたりの収益は日本円で約2億5000万円。とてつもないサクセスストーリーだ。
しかも,本作を生み出したのは8人のプログラマー兼アーティスト,そして1人のデザイン担当専用とテスターという,たった10人のメンバー。その後に加入した品質管理,コミュニティマネージャー,そしてデータ分析官の3人を入れても,まだ13人しかいない少数精鋭チームである。
そんなSupercellのコラロス氏は,モバイルゲームを「Everyday Entertainment」(毎日接する娯楽)と規定する。モバイルゲーム市場は,毎日何百という新作アプリがリリースされる混沌とした市場だが,その中でも1人1人のプレイヤーが毎日アクセスするものは,数個ほどしかないはず。その数個に選ばれるのが最も重要なのだが,ヒットする作品ほどコピーされることも多く,常に人気を持続するというのは並大抵のことではない。
しかし,コラロス氏は,「我々のゲームのコピーを生み出そうとしたり,成功の秘訣を見つけようとゲームデザインを研究している人も多いですが,そのときのゲームの状態だけを考慮しても意味はありません。なぜなら,現代のゲームデザインは完結しているものではなく,常に変化していくものなのですから」と,今回のセッションの核心を述べる。Supercellでは,13人全員が,自分達の持ち場の観点からゲームデザインや変更について発言できる平等な権限を持っているとのことだが,それ故にゲームプレイについても親身に考え,注力しているというのである。
実際,もともとクラッシュ・オブ・クランが欧米でリリースされたころは,兵士達がくつろぐ「アーミーキャンプ」が別のプレイヤーに破壊されると,兵士達も死んでしまうという,いわゆるパーマデスが採用されていた。これでは,アクセスしてみたら兵士が全員死んでいたという状況になってしまい,プレイヤーは再び人員を補強するという,面倒な反復作業を行わなければならない。そこでSupercellは,こうした状況を頻繁なアップデートで改善していくことで,クラッシュ・オブ・クランをより良いゲームに仕上げていった。リリースされてから,ゲームプレイの品質を上げていくというのは,オンラインゲームならではの手法と言えるだろう。
こうして1年以上にわたってゲームを細かくチューニングした後で,Supercellはようやくビジネスの拡張について考え始める。とくに日本は重要な市場であると認識していたようで,2013年6月には日本語に対応。そしてAndroid版は各国向けに2013年10月にローンチされている。
コラロス氏は,「『ゲームデザインにフォーカスし,それから拡張のことを考えろ』というのは,あまりにもありきたりのことかも知れません。でも,皆さんのゲームが,もしその真逆のアプローチであったならどうですか? ゲームプレイを改善する前に,各国語版や別のプラットフォームへの対応を優先させたなら,クラッシュ・オブ・クランはここまで成功していたでしょうか?」と話し,集まった会場を埋めた開発者達を唸らせていた。
もちろん,クラッシュ・オブ・クランのようにFree-to-Playゲームとしてリリースされるのであれば,ビジネスとして成り立たせる上でマネタイゼーションは避けて通れないことだ。コラロス氏は,これについては多くを語らなかったものの,「マネタイゼーションはゲームデザインの要素であって,その目的となるべきではありません」と話していた。
最後に,コロラス氏は「Supercellはプレイヤーデータは公表しない主義ですが,1つだけご紹介します」と切り出し,「10人に1人」というデータを紹介する。読者の皆さんは,これが何の数字が見当が付くだろうか? これは,「2年前にクラッシュ・オブ・クランでプレイするのを止めてしまった人が,戻ってくる率」であるという。10人に1人が多いのか少ないのかは皆さんの判断に委ねるが,長期的なビジネス戦略を考えるのであれば,この10%は決して少ない数ではないと筆者は考える。
GDC公式Webサイト
4GamerのGDC 2015関連記事一覧
- 関連タイトル:
クラッシュ・オブ・クラン
- 関連タイトル:
クラッシュ・オブ・クラン
- この記事のURL:
キーワード
(C) 2012 Supercell
(C) 2012 Supercell