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[GDC 2016]世界を狙う「モンスターハンター」のローカライズ担当者が苦労を語る「Taking Monster Hunter Worldwide」をレポート
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印刷2016/03/18 18:28

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[GDC 2016]世界を狙う「モンスターハンター」のローカライズ担当者が苦労を語る「Taking Monster Hunter Worldwide」をレポート

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 北米時間の2016年3月17日,サンフランシスコで開催中のGame Developers Conference 2016で,カプコンの「モンスターハンター」に関連したレクチャーが行われた。「Taking Monster Hunter Worldwide」と題されたこのレクチャーは,北米で2015年2月にリリースされた「Monster Hunter 4 Ultimate」(邦題:モンスターハンター4G。以下,MH4U)のローカライズに関するもので,登壇したのはカプコンでローカライズディレクターを務めるAndrew Alfonso氏だ。

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「モンスターハンター4G」公式サイト


Andrew Alfonso氏
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 Alfonso氏によれば,ローカライズディレクターとは単に言語を翻訳するだけでなく,プロデューサーやディレクターなどの開発スタッフと密接に関わって魅力的な作品を作っていく仕事であるという。目的の1つは,“ローカライズされた”とは思えないようなゲームを世界中に届けることだ。

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 とはいえ,北米で2013年3月に発売された「Monster Hunter 3 Ultimate」(邦題:モンスターハンター3(トライ)G,Wii U/3DS。以下,MH3U)のローカライズについての評価は必ずしも高くはなく,同作を取り上げた北米メディアの10〜20%は翻訳の問題について言及していたという。日本語はどうしても冗長になる傾向があるので,長すぎる日本語を適宜省略して分かりやすくすると同時に,セリフの背後にあるものは失わないようにする必要があるとAlfonso氏は述べた。スライドでは,MH3Uで32行あった日本語ダイアログを,26行の英文に翻訳した例などが紹介された。

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 また,初めて「モンスターハンター」に触れるユーザーにも理解しやすいよう,省略された用語も減らすことが必要であると考え,ドイツ語版のMH3Uを調べたところ,至るところに省略語が使われていて改めて驚いたとのこと。
 さらに,Wii U版では素晴らしかったフォントが,ニンテンドー3DS版では画面解像度のために読みにくいものになっていることが分かり,その点も考慮すべき問題として認識した。

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 以上のような,さまざまな問題点を修正するのはゲームの開発レベルの作業であり,一般的な“ローカライズ”の範囲を超えているように思えるが,カプコンはこうしたラディカルな変更については経験がある。その一例としてAlfonso氏が挙げたのが,「Devil Kings」として北米でリリースされた「戦国BASARA」で,そこでは織田信長がDevil Kingに,また伊達政宗がAzure Dragonに変更されていたという。

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 かくして,“MH3Uの100倍良いものにする”ことを目標に,MH4Uのローカライズがスタートした。日本に比べて,北米での「モンスターハンター」の認知度は必ずしも高くない。そのため,ビギナーでもゲームを進めやすくするためにチュートリアルのリワードを増やしたり,モンスターの特徴を文字ではなくアイコンを使って説明したりというローカライズを提案したのだが,これは開発スタッフからノーを突きつけられてしまう。

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 これはもちろん,開発スケジュールや予算などがその理由だが,ここでAlfonso氏は,日本企業の意思決定について言及した。イギリスやフランス,中国企業のトップダウン式に比べて,日本ではコンセンサスが重要になるとAlfonso氏は言う。そこで彼は開発スタッフの一人ひとりに会って話をし,やがてプロデューサーやディレクターの承認を得ることに成功したと述べた。
 とはいえ,望んだことがすべてできるわけではないことに変わりはなく,少ないリソースで効果的なローカライズが必要になる。ホームランではなく,ヒットを狙うのだ。

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 というわけで,ローカライズの続き。まずはチュートリアルからで,調べてみると「もう一度聞きますか?」という選択肢がチュートリアルには80か所も出てくる。カーソルの初期位置は「はい」だ。MH3Uのプレイヤーは,90%が男性で年齢は19歳〜34歳,大半がコアゲーマーとは呼べないまでも,ゲームをよくプレイする層だ。「モンスターハンター」は時間消費型のゲームだが,日本の高校生を中心としたプレイヤーとは異なり,欧米のプレイヤーはあまりゲームを長時間プレイできる環境にはない。
 そこで「いいえ」をデフォルトにして,うっかり同じことを何度も繰り返さないようにし,さらにダイアログの早送りやスキップを可能にして,プレイのピッチを上げたという。

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 さらに上にも書いたように,省略語を廃した翻訳に徹したが,時にはそれが難しいこともあった。例えば,「捕獲」と書かれたタグは日本語では2文字だが,英語では「Capture」と長くなる。同様に,表中の「火」の文字も,省略しないなら4文字必要だ。そのため,そこにアイコンを置いて表現するという方法を採用したとのこと。
 チュートリアルのメッセージをポーズできないとか,ターゲットカメラが自動的に起動してしまうといった,修正しきれない部分も残ったものの,こうした細かい努力を積み重ねていったという。

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 プロモーションとしては,Nintendo eShopで配信されるデモ版が重要だと考えたとAlfonso氏は述べる。日本では,大きなファン層を持つ「モンスターハンター」だけにゲームの内容もよく知られているが,北米では,これまでプレイしたことのない人々を対象にしていくことになる。そのため,デモ版を遊んで十分に認知してもらいたかったのだ。
 プログラマーのスケジュールなど,解決すべき問題も多かったが,日本で配信されたデモ版をベースに,プレイヤースキルによるマルチプレイのマッチングや,より多くの要素を詰め込んだビギナーモードの追加,さらなる難度の調整などを行ったデモ版の配信にこぎつけた。これにより,ゲームのコアになる部分を欧米のプレイヤーに理解してもらうことができた。
 日本の「モンハン部」にならって,Twitterを使ったプロモーションも行い,そこではビギナー向けのTipsをムービーで紹介するということも行った。

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 こうした努力の結果,MH3Uの時のようなローカライズの問題を指摘されることがなく,反対に多くのメディアから高い評価を得ることになったとAlfonso氏は言う。
 そして氏は,会場に集まったゲーム関係者達に今回のローカライズで得たものとして,次のように結論付けた。
 それは「優れたローカライズは,その国のゲームのように感じてもらえる」「ローカライズマネージャーは,地域を超えて利益を挙げる指針になる」「職場の仲間と協力していく以外に方法はない」「一足飛びの変更ではなく,計測可能な部分に目を向ける」というものだ。そして最後に,「ともあれ絶対にあきらめないこと」という知見を述べて,レクチャーを締めくくった。ローカライズマネージャーにここまでの権限を与えているメーカーがほかにあるのかは分からないが,「モンスターハンター」を世界のゲーマーに広めるために奮闘する,若いAlfonso氏の姿が印象的なレクチャーだった。

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