レビュー
Pascal世代最初のGeForce,見どころは絶対性能と消費電力対性能比
GeForce GTX 1080
(GeForce GTX 1080 Founders Edition)
GTX 1080とGTX 1070はいずれもNVIDIAの新世代GPUアーキテクチャ「Pascal」(パスカル)を採用。製品型番が示すとおり,「GeForce GTX 980」「GeForce GTX 970」を置き換える製品だ。
GTX 1080の北米市場におけるメーカー想定売価が599ドル(税別)のところ,NVIDIAは,従来よりもリッチな設計だというリファレンスカードを「Founders Edition」として同699ドルで販売することを予告済みだが,今回4Gamerでは,このFounders Editionの貸し出しをNVIDIAから受けることができたので,その実力に迫ってみよう。Pascalアーキテクチャを採用する最初のGeForceは,新世代を感じられるものに仕上がっているだろうか。
GTX 980と似たGPU構成ながら,かなりの高クロックで動作するGTX 1080
128基のCUDA Coreとスケジューラやロード/ストアユニット,超越関数ユニット(以下,SFU),L1キャッシュ,テクスチャユニット,そしてジオメトリエンジン「PolyMoprh Engine」を組み合わせて,演算ユニットたる「Streaming Multiprocessor」(以下,SM)を構成するところ,そして,複数のSMを束ねて,そこにラスタライザたる「Raster Engine」を与えて1つのミニGPUコア「Graphics Processing Cluster」(以下,GPC)とするところまでは,第2世代Maxwellアーキテクチャと同じ(※正確を期せば,PolyMorph Engineは世代の刷新が入っている)。GPCの数が4基なのも変わらない。
ただし,置き換え対象となるGTX 980の「GM204」コアだと,GPCを構成するSMの数は4基なのに対し,GP104では5基となっている。そのため,シェーダプロセッサの総数は,GM204の2048基(32
GTX 1080のリファレンスだとベース1.607GHz,ブースト1.733GHz。これにより,前世代のGPUを圧倒する3D性能が得られるというのが,NVIDIAの言い分である。
GDDR5Xの詳細は大原雄介氏による解説記事を参照してほしいが,簡単にいえば,データ転送レートがGDDR5比で2倍になった規格である。
それでもGTX TITAN Xの384bitメモリバスで336GB/sというスペックには届かないが,NVIDIAは,「新しいメモリ圧縮手法の採用により,グラフィックスメモリの利用効率はGP104でGM204の約1.2倍に達する」としているので,実効性能としては前世代のトップエンドを超えるということなのだろう。
なお,後述するテスト環境と,MSI製のオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.2.0)を使ってテスト中の動作クロックを確認したところ,GTX 1080の動作クロックは1809MHzまで上がるのを確認できた。
Founders Editionは特別版か,“ただの”リファレンスカードなのか
カード長は実測約267mm(※突起部除く)。GTX 980のリファレンスカードは同268mmなので,「カード長は同じ」と言ってしまって差し支えない。
GPUクーラーは2スロット&外排気仕様。ポリゴンをイメージした(?)三角形状の凹凸が付いており,GPU型番の彫り込み部分がメッキ加工されているという違いはあるものの,銀と黒を基調にしたデザインは,これまでのNVIDIA製リファレンスデザインを踏襲している印象だ。言い換えると,「Founders Editionとしての特別感」はない。
カード背面に補強板兼放熱板を持たないGTX TITAN Xのリリース時,NVIDIAは「背面側の放熱板はないほうがエアフロー的には効率がいい」と述べていたので(関連記事),エアフロー重視で外せるようにするくらいなら,初めから付けなければいいのではないかという気がしないでもないが,いずれにせよここは,GTX 1080 Founders Editionの特徴ということになりそうだ。
補助電源コネクタはリファレンスどおり8ピン
より高速で動作するというSLIブリッジコネクタ「SLI HB Bridge」に対応するインタフェース部は,従来型のSLIブリッジコネクタとの互換性があることもあり,見た目には何も変わっていない。
カード背面側の補強板兼放熱板を取り外したところ。基板前方側を覆う金属板には熱伝導シートが貼られ,確かに放熱板として機能するよう設計してあるのが分かる |
GPUクーラー本体を取り外したところ。カード後方はほぼ電源部だが,意外に余裕があるのが見て取れるだろう。部材の小型化が奏功している印象だ |
またNVIDIAは電源部について,「キャパシタ(=コンデンサ)を追加して,電力供給ラインのインピーダンスを下げ,それにより電源効率をざっくり6%改善し,かつ,電流の変動に伴う電圧変動をGTX 980の209mVから120mVに下げてオーバークロック性能を向上させた」と述べている。そこで電源部を見てみると,GPU用電源フェーズでは,「470」という刻印のあるコンデンサをコイルあたり2個用意し,さらにメモリ用電源フェーズでは「330」刻印入りのコンデンサを4個並列で使って,それぞれ確かにインピーダンスを下げようとしている気配が感じられた。
GTX TITAN XやGTX 980のリファレンスデザインでは,コイルとコンデンサの数に相関関係がなかった(ように見えた)。GTX 1080では,このあたりの並列化によってインピーダンスを下げ,GPUに流れる電流量が激しく変動しても一定の電圧を保つようにし,ひいてはブーストクロックやオーバークロック時の安定性を確保しているということなのではなかろうか。
GTX TITAN X,GTX 980,R9 Fury X,そしてGTX 980の2-way SLIと比較。DX12テストも実施
比較対象としては,直接の置き換え対象であるGTX 980と,第2世代MaxwellのトップエンドであるGTX TITAN X,そして競合のシングルGPUトップエンドであるR9 Fury Xを用意。さらに,NVIDIAは発表時点でGTX 1080について「GTX 980の2-way SLIよりも性能が高い」と謳っていることから,GTX 980の2-way SLI構成(以下,GTX 980 SLI)も比較対象として追加することにした。今回用意できたのは,幸いにもすべてリファレンスカードとなる。
テストに用いるグラフィックスドライバは,GeForce用が,NVIDIAから全世界のレビュワーに配布された「GeForce 368.13 Driver」。一方のR9 Fury Xでは,テスト開始時点の最新版となる「Radeon Software Crimson Editon 16.5.2 Hotfix」を用いる。
そのほかテスト環境は表2のとおりだ。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただ,西川氏の解説記事にもあるとおり,Pascal世代では,Maxwell世代のGPUが抱えていた「DirectX 12のAsynchronous Compute(Async Compute)を活用できない」問題が解決したとされているので,それを確認すべく,「Ashes of the Singularity」(以下,AotS)もテストに追加した。
また,VR(Virtual Reality)周りでも改善があるとNVIDIAが主張していることから,今回は「SteamVR Performance Test」も実行したいと思う。
AotSのテストでは,ゲームに用意されたベンチマークモードを利用する。グラフィックス設定は「Standard」「Extreme」の2つを選択しているが,両プリセットの詳細は,以前実施したAotSのテスト記事を参照してほしい。
SteamVR Performance Testは,Valveの「Apertureロボット修理 VRデモ」を使って,視覚忠実度がどのくらいかを見るものだ。本テストのみはグラフではなく,スクリーンショットで比較することになる。
解像度はGTX 1080がハイエンド市場向けということもあり,3840×2160ドットと,16:9アスペクトで一段下となる2560×1440ドットを採用した。
なお,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,テスト状況によってその効果に違いが生じる可能性を排除する目的で,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化していることを,あらかじめお断りしておきたい。
GTX TITAN Xを大きく上回り,GTX 980 SLIと同等以上に立ち回るGTX 1080
順にテスト結果を見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 2.0.2067)の総合スコアをまとめたものだ。GTX 1080はいきなりGTX 980 SLIの91〜95%というところに留まり,やや不安を感じさせるものとなった。ただ,対GTX TITAN Xでは122〜123%程度,対GTX 980では161〜162%程度,対R9 Fury Xでは127〜130%程度と,従来世代のシングルGPUを圧倒する成績を残しているのは確かだ。
次にグラフ2,3は「Far Cry Primal」の結果となるが,ここでは3DMarkとは打って変わって,テストした全条件でGTX 1080のスコアがGTX 980 SLIのそれを上回った。描画負荷が高まるに連れてスコア差を詰められるものの,それでも2〜11%程度高いというのは立派である。
NVIDIAの言う「GTX 980 SLIより速い」というのは,少なくとも条件付きならば正しいことが実証されたわけだ。
対シングルGPUだと,「最高設定」でGTX TITAN Xに約31%,GTX 980に67〜75%程度高いスコアを叩き出しているのが目を引く。HBMメモリの採用によって高解像度設定に強くなっているR9 Fury Xに対しても,ギャップは約35%ある。
「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のスコアをまとめたものがグラフ4,5である。
ゲーム側がまだマルチGPU環境をサポートしていないため,GTX 980 SLIがGTX 980と同じスコアに留まるのは仕様ということで,ここではシングルGPU同士の比較を行うことになるが,GTX 1080と従来製品とのスコア差はさらに開いた。
ここでも注目したいのはより描画負荷の高い「High」条件で,GTX TITAN Xに39〜40%程度,GTX 980に86〜90%程度,そしてR9 Fury Xに対しては約53%というスコア差を付けているのは圧巻と言うしかない。計算上のメモリバス帯域幅でGTX TITAN XやR9 Fury Xを下回るGTX 1080が,より高負荷な条件でスコア差を広げているわけで,NVIDIAの主張するメモリ周りの最適化効果をここに感じられよう。
残念ながら,そんなGTX 1080をもってしても,レギュレーション18.0で合格ラインとする平均55fpsには解像度2560
「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)のテスト結果がグラフ6,7だが,一言でまとめると,その傾向は,3DMarkとFar Cry Primelの中間といったところだ。
GTX 1080のスコアはGTX 980 SLIと互角で,GTX TITAN Xに対しては16〜23%程度,GTX 980に対しては51〜54%程度高い結果となった。
グラフ8,9は「Fallout 4」の結果だが,GTX 1080とGTX 980 SLIの力関係はおおむねFar Cry Primalを踏襲する印象を受ける。
むしろここで注目したいのは実フレームレートで,3840
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)の結果がグラフ10,11である。
「標準品質(デスクトップPC)」の2560
対シングルGPUでは,GTX TITAN Xの129〜135%程度,GTX 980の172〜178%程度,R9 Fury Xの142〜154%程度と,ここでも圧倒している。今回も例によって,下のグラフ画像をクリックすると,平均フレームレートベースのスコアを示すようにしてあるが,従来世代のトップエンドモデルが平均30fps台に留まる3840
グラフ12,13は「Project CARS」の結果となるが,本テストではGTX 1080がGTX 980 SLIに対して互角以上に立ち回っている。体感レベルでは互角だろうが,インパクトのある結果なのは確かだ。
また,Project CARSではRadeonのスコアが現状,今ひとつ振るわないのだが,そんなR9 Fury Xに対して高負荷設定の3840
DirectX 12のテストとなるAotSの結果がグラフ14,15だ。
以前実施したAotSのテストでは,「Async Compute問題」を抱える第2世代MaxwellのGeForceシリーズが芳しくない結果に終わっていた。それは,今回のテスト結果でGTX TITAN XがR9 Fury Xの後塵を拝していることからも窺える。
ではGTX 1080はどうかだが,GP104でNVIDIAは,グラフィックス描画のスレッドとGPGPUスレッドの発行を並列に仕掛けた場合,その実行スレッドの切り換えを100μs未満で行えるようにすることで問題への対処を行っており(関連記事),その効果はGTX 1080がR9 Fury Xに対して10〜17%程度のスコア差を付けていることから確認できよう。
かねてからの予告どおり,NVIDIAはPascal世代で「Async Compute問題」に対して一定の解決を見たと判断してよさそうだ。もっとも冷静にスコアを見てみると,R9 Fury Xに対してはもう少しスコア差を付けてほしかったというか,GPUのポテンシャルだけで押し切った印象もあり,次世代Radeonが出てきたとき,どういう結果を生むのかはちょっと興味深いが。
最後はSteamVR Performance Testだが,下に示したスクリーンショットのとおり,Valveの示す指標の最上位「レディ」に,テスト対象はすべて入った。だが,細かく見てみると,最上段のバーを右に振り切ったのはGTX 1080とGTX TITAN X,そしてR9 Fury X。そのうえで「忠実度」がビクともせず上に貼り付いたのがGTX 1080とGTX TITAN Xだった。そこで「平均忠実度」を見ると,GTX 1080は11で,GTX TITAN Xの10.7を上回る,という結果である。
今回のテスト対象では90fps割れのフレームはゼロなので,現状のVRコンテンツをプレイするにあたって優劣を語るのはあまり意味がなさそうだが,あえていえば,GTX 1080のスコアが最も高いということになる。
消費電力はGTX 980+α。絶対性能を考えると衝撃的
GTX 1080のTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)は180Wであり,置き換え対象となるGTX 980の165Wより若干高いものの,GTX TITAN Xの250Wと比べるとかなり低い。このあたりは待望の16nm FinFETプロセス技術の恩恵といえそうだが,実際の消費電力はどうか。例によって,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を使い,システム全体の消費電力を比較してみよう。
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値が記録された時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ16だが,端的に述べて衝撃的なものになっている。アイドル時の消費電力はGTX 1080が若干低めだが,何よりも注目しなければならないのは3Dアプリケーション実行時だろう。TDPからイメージされる以上に,GTX 1080とGTX 980の消費電力差は小さい。そして,性能的にほぼ互角のGTX 980 SLIと比べると(SLIが有効に機能していないARKを除いて)消費電力は126〜190W低く,GTX TITAN Xより50〜78W低く,R9 Fury Xより69〜129W低い。
新世代プロセス技術採用製品の一発めなので,評価しづらいのは確かだが,従来世代と比べて圧倒的に消費電力が下がっているのは間違いないところだ。
ちなみに,NVIDIAが推奨する電源ユニット容量は500W以上で,これはGTX 980と同じ。GTX 980搭載のゲームPCを使っている人なら,そのままGTX 1080へ乗り換えられるだろう。
最後に「GPU-Z」(Version 0.8.8)を用いて,GPUの温度も確認しておきたい。
ここでは,温度24℃の室内で,テストシステムをPCケースに組み込まず,いわゆるバラックに置いた状態から,3DMarkの30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,GPU-Zから温度を取得することにした。その結果がグラフ17だ。
GPUごとに温度センサーの位置も温度の制御法もGPUクーラーも異なるため,横並びの比較に意味はないと断ってから続けるが,そのスコアはリファレンスカードらしいものといったところ。NVIDIAのリファレンスカードは高負荷時のGPU温度をおおむね80℃台前半で抑えようとする傾向があるが,GTX 1080 Founders Editionもその例に漏れない。
なお,高負荷時におけるR9 Fury XのGPU温度が群を抜いて低いのは,同製品のみ標準で簡易液冷クーラーを搭載するためである。
さて,GTX 1080のGPUクーラーの動作音だが,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,「静音性にとても優れる」とは言えない。ただ,うるさいほどではなく,ざっくりまとめるなら,GTX 980リファレンスカードのそれと大差ない印象である。
性能はもちろんのこと,消費電力対性能比が非常に魅力的。懸案は国内価格だけか
NVIDIAの言う「GTX 980 SLIより速い」というのは「特定のゲームタイトルで」という但し書きが付く印象であるものの,シングルGPUでGTX 980 SLIと同等の性能というのは,「速い」と結論づけてしまってまったく問題ないだろう。第2世代MaxwellのトップエンドGPUであるGTX TITAN Xを子供扱いしている点も見事で,少なくとも,4Kまでの解像度でゲームをプレイするなら,GTX 1080の「256bitメモリインタフェース」はまったくボトルネックにならない。
ただ性能を引き上げただけでなく,メモリ周りやAsync Compute周りといった前世代の弱点を確実に潰してきた点も,高く評価したいところだ。
また,「GTX TITAN Xより速いと言ってもだいたい20〜40%でしょ?」という声に対するカウンターとなる,圧倒的に低い消費電力も目を引く。このスコアから計算できる消費電力対性能比を見ると,GTX TITAN X(や,今回は時間の都合でテストしていないが,「GeForce GTX 980 Ti」)のユーザーもくらっとくるのではなかろうか。
GTX 1080の性能と消費電力は,新世代の幕開けに相応しいものだと言えるだろう。
さて,そんなGTX 1080 Founders Editionの販売解禁は,北米時間2016年5月27日となっている。深夜販売イベントが行われない前提で話をするなら,国内で店頭に並ぶのは日本時間28日朝となるはずだ。
GeForce新製品の場合,最終の国内店頭価格は,販売開始の数日前まで調整が続くことが多い。果たして税別699ドルが日本円で税込いくらになるのか,日本市場特有の価格設定事情を理解しつつ,注目して待ちたいところだ。
NVIDIAのGTX 1080製品情報ページ
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GeForce GTX 10
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