インタビュー
2vs.2という“ジャンル”を世界へ。「ライズ・オブ・インカーネイト」を手がける馬場龍一郎氏,村野大輔氏,マイケル・ムレイ氏へのインタビュー
ではなぜROIは,EXVS.シリーズの新作としてではなく,新たな名前を与えられてリリースされることになったのか。4Gamerでは,EXVS.シリーズのプロデューサーとして知られ,ROIを立ち上げた馬場龍一郎氏,ROIのプロデューサーを務める村野大輔氏,マイケル・ムレイ氏に,本作に込める思いを聞いてみた。
2vs.2という「ジャンル」を世界に広げたい
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは,みなさんがこれまで携わってきたタイトルなどの自己紹介からお願いできないでしょうか。馬場さんはEXVS.シリーズの大会などでプレイヤーにもおなじみだと思いますが,改めてお願いできればと。
はい。私はずっとアーケード畑を歩いてきて,「機動戦士ガンダムVS.シリーズ」から始まり,その後EXVS.を立ち上げて,今に至るまでを見ています。ガンダムとの関わりはもう16年で,ほかにも「戦場の絆」や「カードビルダー」などを手がけています。ROIについては,開発が軌道に乗るまでは細かいところも見ていましたが,今は基本的にプロデューサーの2人に任せているという感じです。
4Gamer:
さきほどいただいた名刺には「ゼネラルマネージャー」とありましたが,現在はいくつかのタイトルを管理されている立場ということでよろしいでしょうか。
馬場氏:
はい。ガンダム関連タイトルや,スーパーロボット大戦,鉄拳,エースコンバット,ソウルキャリバーといったシリーズの責任者になっています。私1人が見ているわけではなく,鉄拳ならみなさんご存じの原田(勝弘氏)のように,ほかにも同様の立場のものはおります。
4Gamer:
ロボットや戦闘機ものに対戦格闘と,男性プレイヤー向けの色が強いタイトルばかりですね。
馬場氏:
ええ。スタッフも男性の比率が高くて,体育会系の雰囲気です。数少ない女性スタッフは「マネージャー」とか呼ばれてますから(笑)。
4Gamer:
ゲーム会社で体育会系の雰囲気というのは珍しいかもしれません(笑)。では,村野さんやマイケルさんはどのようなタイトルを手がけられてきたのでしょうか。
村野大輔氏(以下,村野氏):
「エースコンバット」「ソウルキャリバー」シリーズなどを担当した後,数年前に馬場から「うちのチームに来ないか」と誘われまして。馬場の下でしばらくEXVS.シリーズに携わってから,ROIをプロデューサーとして立ち上げました。
マイケル・ムレイ氏(以下,ムレイ氏):
2001年に当時のナムコに入って,それまで社内になかったローカライズの部署を立ち上げました。主にソウルキャリバーや鉄拳シリーズのローカライズをやっていましたが,その後企画にも参加するようになって,ROIでは村野と一緒にプロデューサーを担当しています。
村野大輔氏 |
マイケル・ムレイ氏 |
4Gamer:
EXVS.を手がけた馬場さんと村野さん,ローカライズの経験があるムレイさんという組み合わせから推測すると,やはりROIはEXVS.の海外版という位置づけなのでしょうか。公式にもEXVS.のノウハウを生かして開発ということが謳われていますし,基本システムは非常に似ていますよね。
馬場氏:
そう取られてしまうのも仕方がないのですが,私たちとしてはEXVS.の海外版として作っているわけではありません。まず説明させていただきたいのは,私たちにとって「2vs.2」は“ジャンル”だということです。
4Gamer:
プレイ人数や対戦形式ではなくて,ジャンルですか。
馬場氏:
はい。RPGやFPS,シューティング,対戦格闘などのように,ジャンルの1つだと考えてください。ずっと2vs.2というジャンルのゲームをガンダムという題材でやってきたわけですが,そろそろこのジャンルで新しい展開を見せたい,と思ったのが,ROI開発のそもそものきっかけです。
4Gamer:
2vs.2がジャンルというのは少々意外でした。ただ,言われてみれば,1vs.1で,コマンド入力によって技を出し,相手の体力ゲージを削っていく……という同じ基本システムのタイトルが数多く出ていて,それが「対戦格闘」というジャンルになっているのであれば,2vs.2も,今後タイトルが増えていくことでジャンルとして認知されていくのかもしれませんね。
馬場氏:
新作を作るに当たって,ガンダムではない別の既存IPを題材にして国内展開するような案もありましたが,欧米にはそもそも2vs.2ジャンルのタイトルと呼べるようなものが存在しないという事情がありましたので,やはり,そこを狙って認知を広めるべきだと思ったんです。Free-to-Playにしたのも,まず触ってもらって2vs.2がどういうゲームなのか知ってもらいたいというのが大きな理由の1つです。
4Gamer:
2vs.2を広げるのが目的であれば,EXVS.シリーズをローカライズするという案もあったのではないかと思うのですが,ROIを立ち上げたのはなぜでしょうか。EXVS.はゲーム大会のEVOでもサイドトーナメントが開かれているようですし,素人からすると,本格展開すれば海外でもブレイクする可能性もあるのでは……などと思ってしまうのですが。
馬場氏:
はい。欧米にもEXVS.シリーズをプレイしていただいている方は多いですし,原作であるガンダムの認知度も決して低くはないのですが,自分達で欧米のプレイヤーに響くIPを一から作って,2vs.2を広めるべきだと思いました。
4Gamer:
ROIの企画を練り始めたのはいつごろですか。
馬場氏:
2011年ごろですね。最初は私と村野などのわずかなメンバーが,ほかの仕事の合間に進めるというごくごく小さな規模で。まずは欧米のプレイヤーにEXVS.をプレイしてもらって,「2vs.2ってどう?」という反応を聞くリサーチを行いました。そこで好感触が得られたので,2012年の後半から2013年の前半にかけて開発メンバーを集めるなどして準備を進め,本格的に開発をスタートさせました。
4Gamer:
では欧米では,2vs.2が受ける下地ができていたにも関わらず,そこに入っていくタイトルがなかったということになりますね。なぜ今まで見逃されていたんでしょうか。聞く相手が違うかもしれませんが,もし思い当たるところがあれば聞かせてください。
それは「対戦」と「協力」という2つの要素のバランスにあるんじゃないかと思っています。対戦ゲームといえば,まず思い浮かぶのは鉄拳のような1対1の格闘ゲームですよね。一方で,複数のプレイヤーが協力して,チームとして戦うものとなると,FPSのマルチプレイのような,4人や5人,あるいはそれ以上のプレイヤー数が主流です。2vs.2は味方と協力しつつも,対戦格闘のような感覚が味わえるというジャンルですから,ちょうどその間に位置するんです。
4Gamer:
マルチプレイは参加人数の多さが売りになったりしますから,そういった状況で2vs.2をメインにしたゲームという発想はなかなか出てこないかもしれませんね。協力しつつ対戦格闘のような感覚が味わえるというお話がありましたが,2vs.2ならではの面白さを,もう少し詳しく聞かせてください。
馬場氏:
はい。まず1vs.1との違いでは,さまざまな特性を持つキャラクターで,どのようなチームを組むかという組み合わせの妙や,プレイに前衛・後衛といった役割が生まれるといったところが大きいと思います。
4Gamer:
確かにそこはシングルプレイでは味わえない要素ですね。では多人数のマルチプレイとの違いはどのあたりになるでしょうか。
馬場氏:
密なコミュニケーションや連帯感,連携感といったところになると思います。多人数になると,どうしても味方全員の行動を把握するのは難しくなりますし,責任感も薄くなってきますよね。2vs.2は,まさにテニスのダブルスのように,敵だけでなく,味方の行動もしっかり確認したうえで,自分がどう動くべきかを判断するという戦術面の面白さがあるんです。
4Gamer:
村野さんとムレイさんにも2vs.2ならではの魅力についてお聞きしたいのですが,いかがでしょうか。
やはり2人の距離感が絶妙,というところですね。さきほどテニスの話が出ましたが,テニスや卓球にダブルスがあって3人制が無い理由は,やはり呼吸を合わせられるのは2人までだからだと思うんです。
4Gamer:
「阿吽の呼吸」というやつですね。
村野氏:
僕もFPSのマルチプレイはよくやるんですが,それほど“ガチ”志向じゃないチームのボイスチャットでは,ゲーム中の指示とか連絡じゃなくて,世間話をするようなことが結構あるんです。でも,ROIでは,それほど真剣にプレイしていなくても,自然と味方のプレイヤーに指示を出してますね。
4Gamer:
それはちょっと面白いですね。自然とゲームに集中できると。確かに2人なら呼びかける相手の名前を出さなくても分かるし,指示しやすいでしょうね。
村野氏:
ゲーム中での世間話がつまらないという話ではなく,ROIではそういった2vs.2ならではの濃い体験ができるということです。
4Gamer:
なるほど。ムレイさんはどうでしょうか。
ムレイ氏:
ROIやEXVS.シリーズでいうと,操作が簡単で,とても入りやすいというのが魅力の1つだと思っています。格闘ゲームのような難しいコマンド入力はありませんし,どのキャラクターを使ってもコマンドはほぼ共通です。技のフレーム数まで考えた組み立てや,起き上がり時の攻防といった,初心者にはハードルが高い要素もありません。
4Gamer:
私もプレイしてみましたが,操作自体はとても簡単なんですね。
ムレイ氏:
ただ,思い通りに操作できるだけでは勝てないんです。さきほどから話に出ているように,仲間と連携して,うまい位置取りをしたり,相手のどちらを狙うかを考えたりしなければならないですから。
4Gamer:
そこが2vs.2の本当に面白いところだと。
ムレイ氏:
ええ。私は海外のイベントなどで,現地のプレイヤーがROIを初めてプレイするところによく立ち会うのですが,1戦目2戦目で基本の操作を覚えて,3戦目あたりから,仲間との連携が重要なんだと分かってくれて,声を出し始めるというケースが多いんですよね。対戦格闘だと,相手との駆け引きという本当の面白さにたどり着くまでが結構大変なのですが,ROIではすぐに醍醐味が味わえると思います。
村野氏:
EXVS.にはないシステムの「タッグコンボ」を決めたときに,面白さを分かってくれる人が多いですね。
馬場氏:
見知らぬ人同士でハイタッチしたりね(笑)。
村野氏:
そうなんです。アイデアが出たときは「余計なお世話なんじゃないか」と感じるスタッフも結構いたんですが,実際にこれをゲームに入れてプレイしてみると,予想以上に連携している感じが出るんですよ。
馬場氏:
こういう新しいシステムを入れられたのも,シリーズや原作の縛りがない,新規IPだからだと思います。
自由になった分,難航したキャラクター作り
4Gamer:
今お話に出ましたが,“原作”が無いROIでは,作業のやり方も変わってきますよね。ROIの「神や悪魔の力を得た人間達」というキャラクター設定はどうやって生まれたのでしょうか。
馬場氏:
世界中の人がある程度認知できているものって何だろうとまず考えて,スポーツとか,動物とか,いろいろとアイデアは出ましたけれど,さらに「飛んで,撃って,戦う」という条件をつけると(笑),やはり神話じゃないかと。
4Gamer:
なるほど。
馬場氏:
世界各地の神様や悪魔が出てくれば,その地域のプレイヤーも盛り上がってくれると思いますし。
4Gamer:
あぁ,なるほど。スポーツのナショナルチームみたいな要素もありますね。その「神や悪魔」というテーマこそありますが,キャラクター作りはEXVS.と比べてかなり自由になったのではないでしょうか。
村野氏:
はい。自分の発想力を思う存分発揮できる,という点は開発者として素直に嬉しいところですね。ROIに出てくるキャラクターはまったく違う個性を持っていて,それぞれの技にも似たものがないと自負していますが,それを実現できたのは,そこはチームがじっくりキャラクターの見た目から,遊び方までをしっかり考え抜いたからだと思っています。
4Gamer:
確かにどのキャラクターも尖っていますね。
ただ,原作がないだけに,キャラクターイメージの共有や,固定化には苦労しました。ガンダムであれば,アニメなどを見ればだいたいのイメージをつかめますが,ROIの神や悪魔となると,名前ぐらいは知っていても,もっているイメージは人それぞれですから。ゼウスやアレスは近距離型か遠距離型か,みたいな話になると,もうバラバラなんです。
4Gamer:
では最終的にどうやって今の形に落ち着いたのでしょうか。
馬場氏:
徹底的に調査しました。
4Gamer:
調査ですか?
馬場氏:
海外のプレイヤーが持っているイメージを確認するために,何パターンも絵を作って,見てもらいました。
4Gamer:
かなり初期の段階からプレイヤーの反応を探っていたんですね。
馬場氏:
国内向けに作ったものを海外に持って行く,ということはやっていましたが,最初から海外に向けてタイトルを作るという経験は初めてでしたから。その調査を始める前にはJRPGに出てくるモンスターのようなキャラクターもいたんですが,マイケルをはじめとして,海外出身の社員から「これじゃちょっと……」とダメ出しされました。問題なのは,日本人の私たちにはなぜダメなのかが分からないことなんです。
4Gamer:
あぁ,その溝は大きいですねぇ。
馬場氏:
グラフィックスはいろいろな面で,開発当初から大きく変わりました。一時期は「アメコミ風のトゥーンシェードがいいんじゃないか」という案も出たくらいですし。結局はリアルな方向性で行くことになりましたが,それでも雰囲気はだいぶ変わりましたね。ほかにも髪型とか,女性の表現といったところではチーム内でもかなり議論しました。
4Gamer:
そういった地域によっての感覚の違いというのは,ムレイさんが一番実感されていると思うのですが,例えば欧米とか日本の好みの傾向ってどんなものがあるんでしょうか。
地域だとちょっとあいまいなので,「Steamのゲームをプレイしている世界各国の人」という前提にさせてもらいたいんですが,大まかな傾向として,日本は「キレイ」,欧米は「リアル」を求めているような感じは受けます。
4Gamer:
「キレイ」と「リアル」ですか。もう少し詳しく聞かせてください。
ムレイ氏:
欧米の人たちは,「こういうアクションをするキャラクターなら,こういう姿をしているべきだ」というリアルさを求めるんです。ROIに出てくるフェンリルの変身前の姿は,大きな弓を易々と使いこなす軍人なんですが,国内向けのゲームではあまり出てこない,筋肉ムキムキのタイプです。逆にROIには,細身の美少年といった,日本のゲームでは定番となっているタイプのキャラクターはいません。
4Gamer:
なるほど。大きな弓を扱えるなら,それなりの筋肉が必要だろうと。
ムレイ氏:
「メフィストフェレス」の変身前の姿はキレイめの若者で,剣を使うという,ROIだと相当“日本寄り”のキャラではあるのですが,それでも体つきはがっしりしていて,剣を振り回して戦えそうなリアルさがあると思います。
馬場氏:
開発チームで共有している言葉が「Believable」なんです。本当にいそうだ,信じられそうだという設定をしっかり作ろうということです。そこをしっかりやれば,すでに神話という大元の設定はプレイヤーのみなさんも知っているわけですから,世界観が確立するはずだと思っています。
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