DHARMAPOINTを立ち上げた主要メンバーの一人であるハードウェアデザイナーの
梅村匡明氏が,ゲーマー向け周辺機器の世界に戻ってくるという話を記事として掲載したのは9月中旬のことだ(
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そのとき,復帰後第1作として,ビット・トレード・ワンの製品ブランド「ビットフェローズ」から登場するゲーマー向けキーボード「
BFKB113PBK」の実機を目の当たりにすることはできたものの,いかんせんインタビューが主ということで,その場で実際にゲームで使ったりする機会は得られなかった。
そして9月下旬。10月3日の発売を目前に控えたタイミングで,製品版のサンプルが筆者のところへやってきたので,実際にゲームでがっつり使ってみた印象をメインに,インプレッションをまとめてみたいと思う。
パンタグラフ構造の採用が最大のキモ
Nキーロールオーバーで操作には不安なし
キートップを外してみたところ。キートップの裏に白い部品が見えるが,これがバネの代わりを務めるパンタグラフ構造だ
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発表時に掲載した記事のおさらいとなるが,BFKB113PBKは,パンタグラフ式でキーあたり2000万回の耐久性を持つというメンブレンスイッチを採用した日本語113キーボードだ。英語では「Scissor switch」「Scissor structure」などと呼ばれることが多いパンタグラフ式メンブレンスイッチは,あまりゲーマー向けキーボードで採用された例がないので,馴染みがないかもしれないが,要するに,一般的なノートPCで採用されている,ストロークが短めで,少しペコペコした感触のアレである。
正面から見たBFKB113PBK。クセのないキー配置だ。キートップはカナ印字のない日本語レイアウトになっている。なお,写真では青色LEDインジケータを全部光らせているが,意外とまぶしくなかった。光量は抑えられているようだ
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ビットフェローズが公開している,パンタグラフ式機構の3Dイメージ
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パンタグラフ式の懸念材料として挙げられるのが,このペコペコした打鍵感の薄さなのだが,BFKB113PBKについていえば,実際にゲームで使ってみたり,この原稿を書いたりしてみても,打鍵感は悪くない。少なくとも,60g±10gとされる押下圧は,筆者が普段の原稿書き用に使っているASUSTeK Computer製ノートPC「ZENBOOK UX31A」と比べて明らかに大きく,しっかりした打鍵感が得られている。
キーピッチは標準的な19mm。一部で変態的なキーピッチになっていたりもしないため,全体的に余裕がある。同時に,キースイッチの入力に必要な深さは実測1.5mm,キーストロークは同2.5mmと,打鍵するとき,メカニカルキーボードのような――つまり,一般的なメンブレンスイッチ採用キーボードではなかなか味わえない――スピード感を得られる程度には浅く,また“誤爆”しない程度には深い。これはパンタグラフ式の大きなメリットといえそうだ。
ただ,60g±10gという“重い”押下圧もあって,打鍵時にはほぼ底打ちする。とことん慣れ切れば,メカニカルキーボードのように,スイッチの入る1.5mmという浅さで素早く打鍵できるようになるかもしれないが,おそらく,多くのユーザーは常に底打ちさせながら使っていくことになるだろう。この感覚はメカニカルキーボードにはないものなので,メカニカルキースイッチに慣れていればいるほど,最初は大きな違和感を覚えるのではなかろうか。
筆者は普段,ZOWIE GEAR製の「Cherry MX Brown」搭載キーボード「
CELERITAS」をゲームプレイに使っているのだが,「メカニカル→一般的なメンブレン」の移行と比べると,ストロークや底打ち感が大きく異なるため,「メカニカル→パンタグラフ式メンブレン」のほうが抵抗はあった。まあ,底打ち自体は,慣れてしまえば済む話ではある。
では,操作感はどうか。BFKB113PBKでは,
10キーの同時押しが保証されている(※梅村氏によれば,キーの組み合わせによってだいたい30キーの同時押しが可能だそうだが,保証されているのは10キーまで)。
筆者が頻繁にプレイしている「ARMA2」の「DayZ MOD」,そして「DayZ Standalone」では,FPSタイトルとしては珍しく,複数キーを活用する場面がたびたび生じるので,これを使って検証してみたが,たとえば「[Shift]キーを押しながら[W]キーを押して前方向へダッシュしつつ,10キーの[1]〜[9]キーで首の向きだけ変える」といったDayZシリーズ特有の動きにも,まったく問題なく付いてきてくれた。具体的にはムービーにまとめてみたので,ぜひチェックしてほしい。
今回はFPSでの検証しか行っていないが,左右の指10本による同時押しをサポートしているので,RTSやMOBA,音楽ゲームであっても安心して使えるだろう。
キーボードの表面は光沢加工済み。格好いいと思うかは人それぞれだと思うが,指紋や埃(ほこり)が目立ちやすいのはマイナスポイントといえる
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気になる本体サイズは447(W)
×141(D)×24(H)mmとなっている。一般的なフルキーボードと比べても縦横のサイズは標準的だといえるが,本体の高さは,パンタグラフ式でストロークが短いため,さすがに低い。
なお,本体の背面には折りたたみ式の脚があり,これを立てるとキーボードの高さは32mmになり,使用時の印象は大きく変わる。個人的には脚を立てたときのほうが使いやすいと感じたが,好みに応じて調整できるのはよいことだ。
本体底面の足を立てることでキーボードの傾きを調整可能。側面も光沢加工済みだった
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本体底面には4か所にやや背の高い滑り止めラバーが設けられている。折りたたみ式の脚に滑り止めはないが,本体重量はケーブル込みで約830gあるため,打鍵中に動く心配はまずない |
USBケーブルはビニール皮膜タイプで,長さは約1.8mと十分。ケーブルは少し硬めだが,マウスほど頻繁に動かすものでもないので,気にする必要はないかもしれない |
キーボード自体の機能は非常にシンプルで,追加要素は,10キーの上部に並んだ,サウンド出力の上げ下げ用キーと,押すごとにミュートの有効/無効を切り替えるキー,押すごとに[Windows]キーの無効/有効を切り替える[WinLock]キーのみである。スピーカーを利用してゲームをプレイしている人だと,音量調整を手元で行えるのは重宝するだろう。
実勢価格5400円前後で
ゲーマーが求めるスペックを満たすBFKB113PBK
製品ボックス
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以上,取り急ぎゲームで使っての印象をお伝えしてみた。正直,筆者はペコペコしたパンタグラフ式メンブレンスイッチのキーボードでゲームをプレイするのには否定的だったのだが,BFKB113PBKのようにしっかりとした打鍵感とストロークがあると,後は独特の感触にさえ慣れてしまえば,問題なく打鍵できたのは嬉しい誤算だったといえるだろう。もちろん,高級なメカニカルキースイッチ採用モデルと比べて優れているとまでは言わないが,5400円前後(※2014年10月2日現在)という発売前予約価格と,「ゲーマーが求めるスペックを満たしているかどうか」を考えると,普通にアリなのではないかと思った次第だ。
とくに,ノートPCのキーボードに慣れている人ほど,快適に使えるのではなかろうか。ストロークの短いゲーマー向けキーボードを探している人にとっては有力な選択肢となるだろう。