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「隼」レバーはなぜ斜め上に入りにくいのか。HORI「ファイティングエッジ」開発陣とプロゲーマー・sako氏に聞く,アーケードスティックの最前線
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印刷2015/06/27 18:40

インタビュー

「隼」レバーはなぜ斜め上に入りにくいのか。HORI「ファイティングエッジ」開発陣とプロゲーマー・sako氏に聞く,アーケードスティックの最前線

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 プロゲーマー・sako選手の全面監修を受けて制作されたHORIのアーケードスティック「ファイティングエッジ」の登場より丸3年。元々「ファイティングエッジ」の組み込みパーツとして登場した,HORIの独自開発によるプロ志向レバー&ボタンユニット「隼」「玄」も,現在では同社の普及モデルである「リアルアーケードPro.」シリーズにも標準搭載されるに至り,さらなる普及を見せている。

 それに伴い,アーケードスティックのパーツ事情も,ここ3年で大きく変わってきた。三和電子からは,一昔前では考えられなかった静音仕様のレバー&ボタンが登場し,次いでHORIからも「隼」「玄」をベースにした静音パーツが登場。各パーツブランドごとの操作感の違いが,ファンの間で語られる機会も増えてきた。
 「三和電子製レバーと比べて,隼は斜め上に入りにくい」という意見などは,その代表と言え,そこには実際にどんな理由があるのか,気になっている格闘ゲーマーも少なくないのではなかろうか。

 そこで4Gamerでは,「隼」レバーの製作を担当したHORIの小西良典氏浅葉祐輔氏,監修を行ったプロゲーマーsako氏とsako嫁として知られるakikiさんにお話をうかがった。「隼」が斜め上に入りにくいと感じる理由を,その構造から明らかにしてもらっているので,その辺りが気になっているファンは,ぜひご一読をいただきたい。
 さらには,静音パーツをはじめとする「リアルアーケードPro.」シリーズの今後,またプロゲーマー・sako氏の今後についてもトピックを広げ,話をうかがっている。こちらも合わせてチェックしてほしい。

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HORI 公式サイト




「隼」はなぜ斜めに入りにくいのか


4Gamer:
 今日はHORIのアーケードスティック事業,とくに「リアルアーケードPro.」(以下,RAP)シリーズに採用されている独自のレバー&ボタンユニット「隼」と「玄」について詳しく話を聞きたいと思っています。まずは現状について,簡単に説明をお願いできますか。

小西良典氏(以下,小西氏):
 はい。「隼」「玄」の企画が立ち上がったのは,実は7〜8年ほど前になります。

4Gamer:
 7〜8年というと,初代「ストリートファイターIV」がアーケードに登場する前ですよね。そんな前からですか?

小西氏:
 はい。アーケードスティックにとってのレバーやボタンは,いわば心臓部ですから,自分達で作り上げなくてはと考えたのが切っ掛けです。

HORI 浅葉祐輔氏
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浅葉祐輔氏(以下,浅葉氏):
 さらに言えば,他社さんのパーツに頼り続けていては,仕様変更や値上げがあったときに,実際に製品を手にするユーザーの皆様にも影響が出てしまいます。

4Gamer:
 とはいえ,プレイヤーがアーケードスティックに望むのは“アーケードと同じ”環境であること。つまり,格闘ゲームで言えば,三和電子(以下,三和)製のパーツが搭載されることだと思うのですが。

小西氏:
 ええ,そこは我々も分かっているつもりです。なので,「隼」「玄」のプレイフィールは,三和さんのパーツの手触りを残しつつ,我々独自の調査/見解を元に,既存の不満点を改善する方向を考えました。そこには,もちろん弊社の所属プロゲーマーであるsakoさんの意見を取り入れています。

4Gamer:
 なるほど。では,実際のプレイヤーからの反響はどうなのでしょうか。「ファイティングエッジ」の組み込み用パーツとして登場してから3年余りが経ち,最近ではアーケードでも一部採用している店舗があるとのことですが,

浅葉氏:
 アーケード向けに提供を始めてからは,1年ほどになります。国内の家庭用に限って言えば……具体的な数字こそ出せませんが,多くのシェアをいただいています。

小西氏:
 アーケード向けに提供を始めたのは,実はお客さんから声がきっかけなんです。とあるメーカーさんからご連絡をいただき,試験的に導入してみるところからスタートしました。

浅葉氏:
 我々としても,そうなったら嬉しいと思っていたこともあって,協力させていただきました。ただ,あくまで保守パーツ扱いなので,能動的に使いたいと考えてくださるオペレーターさんに向けて提供している形です。シェアとしては微々たるものですし,我々もそれ以上のことは求めていません。

4Gamer:
 実際のプレイヤーからの意見には,どんなものがありますか。

HORI 小西良典氏
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小西氏:
 家庭用でRAPシリーズを使ってくれている人は,アーケードでも同じものを使いたいと考えているようで,好評をいただいています。とある都内の店舗さんでは,「隼&玄への換装を望むRAPユーザーが増えている」という話をオペレーターさんから聞きしました。

浅葉氏:
 一方で,三和さんやセイミツ工業さんのパーツを好むアーケードゲーマーからは,「ちょっと違う」という意見を聞くこともあって,賛否は両論です。

4Gamer:
 その「ちょっと違う」部分についてですが,とくにレバーの「隼」で,「斜め上が入りにくい」という声をよく耳にします。とくに低空ダッシュを多用するタイトル――「BLAZBLUE」シリーズや「GUILTY GEAR Xrd」のプレイヤーに多いようですが,この点は……。

※低空ダッシュ……96と入力することで,ジャンプ直後に空中ダッシュを行う操作。「BLAZBLUE」シリーズや「GUILTY GEAR Xrd」など,アークシステムワークスのタイトルでは,攻め手や連続技のつなぎとして多用される。

sako選手:
 ああ,その辺のタイトルはは実際入れにくいと思う。「ヴァンパイアセイヴァー」(以下,セイヴァー)も低空ダッシュを多用するけど,「隼」やと慣れるまでちょっと出しにくいもん。斜め上にガッと入れないと……真上や前入力になりやすい。

4Gamer:
 sakoさんもそう感じるんですね。これはその……なぜなんですか?

小西氏:
 「隼」の設計値は,実は三和レバーとほとんど変わりません。ただ1点だけ違うのが,レバーシャフトのカムが接触するハウジングの形状です。

4Gamer:
 ハウジングというと?

小西氏:
 ハウジングというのは,レバーの基部(カム)を支えるパーツのことで,言わばレバーの受け皿になる部分です。カムと物理的に接触するポイントなので,この構造が操作感に大きく影響します。

4Gamer:
 ははあ。

小西氏:
 図を見ていただいた方が早いですね(笑)。こういう感じになってまして……。

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4Gamer:
 ああ,これは分かりやすいですね。ハウジングとカムが接触する部分の面積が違うと。

小西氏:
 ええ。“ハウジングとカムの接触部に沿ってレバーが動く”というのがジョイスティックの基本構造ですが,三和レバーの構造だと,レバーを動かしたときにガタツキが発生しやすい。一方で,「隼」の場合は接触面が少ないため,操作がきっちりと入力に反映されます。

浅葉氏:
 レバーの上下左右にはマイクロスイッチがあって,これにレバーが触れることで入力が検知される仕組みです。つまり,「隼」のほうが狙ったマイクロスイッチを正確に押すことができるんです。

「隼」を分解してみたところ。プラスチックの土台中央に空いた穴がハウジング(左写真)で,レバーシャフトにくっついているお椀型の部品がカム(右写真)だ。なお,カムが白い方は三和製レバーの部品で,形状にはほとんど違いがないことが分かる
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ハウジングとカムを組み合わせたところ。レバーシャフトはカムとハウジングの部分で土台と接触し,ここを支点として動く仕組みになっている。土台の下部にはマイクロスイッチが四方に配置されていて,これにシャフトが触れることで,入力が検知される
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4Gamer:
 ということは,三和レバーはその辺りが割とアバウトだということですか。適当にレバーを入力しても,斜め方向に入ってしまうと?

sako選手:
 うん。それはキーディスプレイを見ててもすぐ分かるんちゃうかな。(三和レバーは)意識せずに斜めに入ってたりするから。

※キーディスプレイ……入力されたキーを表示するモード。昨今の家庭用ゲーム機向け格闘ゲームにはほぼ搭載されており,トレーニングモードなどで自分のキー入力がどのようにゲームに認識されているかを確認できる。

4Gamer:
 なるほど。最近の格闘ゲームは,コマンド入力に一定の遊びが設けられているので,普通にプレイしていると気付かないのかもしれないですね。しかし,今おっしゃったハウジングの構造以外には,本当に違いがないのでしょうか。

小西氏:
 ほかに違いがあるとすれば,マイクロスイッチにおける押し込みの交差ですが,それはほとんど誤差の範囲です。あと,「隼」の方がバネの強度がほんの少し強いかもしれません。いくら設計値を合わせても,「三和レバーと比べて軽い」と感じる方が多かったので,あえて強くした経緯があります。

4Gamer:
 その辺りは,レバーを離したときにニュートラルに戻る速度などに関わる部分ですよね。そこも,あまり変わりはないと。「隼」での低空ダッシュは,個人的にも出しにくいと感じるんですが,それはつまり……。

sako選手:
 ……キーディスプレイが汚い(正確でない)人は,「隼」やとイライラすると思う。

(一同笑)


sako選手:
 きっちり斜めに入れないと,低空ダッシュが出ないからね(笑)。俺も最初は違和感があったけど,すぐに慣れたから練習次第じゃないかな。

浅葉氏:
 構造的に斜めが入りにくいというより,むしろ上下左右として認識される範囲が(三和レバーと比べて)広いんだと思います。そこはもう,慣れと練習で克服していただくしかないかなと。

4Gamer:
 狙ったとおりの入力ができるのはむしろ良いことなわけですし,むしろ自分が練習すべきなんですよね。そういう意味でも「隼」はプロ志向というコンセプトどおりの製品と言えそうです。ちなみに,「玄」のほうはどうなのでしょうか。三和製のボタンと何か違いが?

小西氏:
 「玄」の方が若干キートップの面積が広く,スイッチがオンになるまでの遊びが少ないです。なので,例えばキートップの端を押した場合なんかも,素早く入力が反映されます。

sako選手:
 だけど,セイヴァー勢からはいまいちウケが悪くて。「アドバンシングガードができない!」って言われます。ボタンの角が高くて,連射するとき指が引っ掛かるって。でも,今のは大分低くなったよね。

※アドバンシングガード……ガード硬直中に6回ボタンを押すことで発動できる特殊ガード。そのため,いわゆる“こすり連射”を用いるプレイヤーが多い。

「リアルアーケードPro.V 隼」を分解し,黄色い三和ボタンを取り付けてみた。玄の方がボタンの外枠が低くなっており,その分キートップの角が突出していることが分かるだろう
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浅葉氏:
 そうですね。「隼」「玄」とも少しずつバージョンアップを重ねていて,初期のものとは微妙に違ってきています。例えば「隼」はバネ強度が少し強くなりましたし,「玄」はスイッチの位置が低くなっています。

小西氏:
 現状の「隼」「玄」も,まだ完成形ではありませんし,今後も改良は加えていくつもりです。「ピーキー過ぎて低空ダッシュが出しにくい」「ボタンが誤爆しやすい」「ボタンの角が高くて連打しにくい」といった声は,我々も認識していますので,次のバージョンで改善したいと考えています。

浅葉氏:
 搭載製品の出荷台数が増えたことで,プレイヤーの皆さんからいただく意見も多くなりました。改善すべき方向性も見えてきましたので,今後にもぜひご期待ください。


静音パーツ「サイレント隼&玄」の謎に迫る


4Gamer:
 ここからはちょっと趣向を変えて,RAPシリーズのバリエーション――とくに静音パーツについて聞いてみたいのですが……あれってどういう仕組みになっているんですか?

小西氏:
 レバーユニットである「サイレント隼」は,マイクロスイッチの代わりにフォトトランジスタを使っています。赤外線がスイッチの代わりを果たしていて,光の道筋が遮られるとオンになるという。いわゆる光学式です。

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4Gamer:
 光学式なので,スイッチの作動音がないと。その昔,三和さんも光学式のレバーを出していましたが,基本は同じ仕組みですか。

小西氏:
 同じですね。光学式と言えば,アスキーさんがPlayStaion用に発売した「アスキースティック3」もありました。

4Gamer:
 ああ,黒い筐体で,メモリ機能が付いていたやつですね。当時はHORIのコマコンとともにお世話になりました(笑)。

※コマコン……コマンドコントローラ。ここではHORIから発売されていた「コマンドスティックPS」「コマンドスティックPSカスタム」のことを指している。コマンド入力を保存/再生する機能があり,トレーニングモードにキーレコーディング機能のない時代に,攻略を進めるのに重宝した。

小西氏:
 ありがとうございます(笑)。一方で,今現在三和さんが発売している静音レバーは,ホール素子による磁気センサを利用したタイプです。これは非接触型のスイッチとして一般的なもので,調達が簡単である半面,仕組みの上でどうしても入力の誤差が発生しやすい傾向にあります。

※磁気センサ……磁石の接近によって変化する磁界を検出する装置。スイッチとして用いる場合,磁束密度の閾値をトリガーにオンオフを切り替えるが,構造自体は比較的アナログな作りとなる。

4Gamer:
 オンオフの境目が安定しないというような?

小西氏:
 そうですね。対して光学式なら誤差はまったく発生しないので,細かな操作を正確に検出できます。ノーマルな「隼」との違いとしては,あとはバネ圧くらいですね。マイクロスイッチを押すときの加重がないので,その分だけ強くしてあります。

レバーの周囲にある凹状部品の直線上にあるのがフォトトランジスタ。ここから伸びた光線をレバーが遮ったとき,スイッチがオンになる。レバーを外枠に触れさせなければ,操作時に全く音が発生しないため,sako選手曰く「使いこなせば,隣り合わせ対戦では最強」とのこと
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4Gamer:
 そこなんです。通常のレバーにある,あのカチカチというクリック感が静音レバーに存在しないのは,マイクロスイッチがないからなんですよね。無茶な話なのは重々承知ですが,静音レバーにあのクリック感“だけ”を持たせることって,できないのでしょうか。

小西氏:
 そういったご要望は,たくさんいただいています(笑)。社内でもよく話題に上りますし,カム部分を工夫して再現できないかなど,実際に実験もしているんです。ですが,今のところ広く提供できるレベルには至っていない,というのが正直なところです。

4Gamer:
 “音を鳴らすな,でもクリック感は残せ”なんて,虫が良すぎますかね(笑)。あと,レバーがガイドに当たって出る音――いわゆるガコガコ音も今後の課題という気がしますが,こちらはいかがですか。

小西氏:
 こちらも研究を進めていて,例えば外枠に吸音素材を使うなどは試しているんです。ただそうすると,レバー操作時の“アタリ”と言いますか,感触が柔らかくなってしまうんですね。
 これは「サイレント玄」も同じで,現在は三和さんと同じ,吸音シートを貼る方式ですが,こうした物理的接触による音を抑えようとすると,どうしても操作時に違和感が出てしまいます。

浅葉氏:
 指先勝負の世界なので,そこの感触があまりにも違うと練習用としても使いにくくなってしまいますから。難しいところですね。

4Gamer:
 確かに。そこは静音パーツの永遠の課題かもしれませんね。あと,これは静音とは直接関係がないのですが,RAPシリーズは,底面の滑り止めにゴム足が使われていますよね。個人的には,ファイティングエッジ同様,滑り止めシートになったら最高だと思うのですが……。

小西氏:
 ああ,そうした要望もよくいただいています。これはもう,純粋にコストの問題です。

浅葉氏:
 ファイティングエッジに使用している滑り止めシートは,ただ摩擦係数が高いという理由だけでなく,さまざまな角度から検証した結果,あの素材+形状+厚みが採用されています。単純に見えて,コストがかなりかかっているんですよ。

Team HORI所属プロゲーマー・sako選手
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sako選手:
 ファイティングエッジは押したときだけじゃなく,引っ張っても全然動かないしね。

浅葉氏:
 実は北米や欧州向けにローカライズしたRAPは,底面が滑り止めマットになっています。日本では“改シリーズ”として,3年ほど前にAmazon限定で発売したモデルになります。ただ,価格は少し高くなってしまいますね。

sako選手:
 でも俺も滑り止めシートの方がええな。うちのRAPも100均で滑り止めシート買ってきて張ってあるし。

4Gamer:
 じゃあ,オプションで滑り止めシートを別売するというのはどうでしょう。

浅葉氏:
 それはアリかもしれませんね。ただ,弊社製品の場合,とくにRAPシリーズのユーザーは,いわゆるカジュアル層が多いので需要があるかどうか……。

小西氏:
 例えば,弊社製品では「リアルーケードPro. Premium VLX」でのみ採用している天面の開閉機構なども,要望としては多くいただいています。しかし,あの構造にはかなりのコストがかかりますし,それはそのまま値段に乗っかってしまいます。もちろんニーズに応えることは大事だと思っていますが,一方で“大多数のお客さんが求める価格帯”からは離れた製品になってしまう。やはりHORIとしては,なるべく多くの方にゲームを楽しんでもらいたいですから,バランスを重視した製品設計をせざるを得ないんです。

4Gamer:
 ちなみに自分でメンテして,あまつさえ改造しちゃうようなコア層って,割合で言うとどのくらいなのでしょうか。

浅葉氏:
 「ご自身でメンテや改造をしない」を広義の意味でカジュアル層と捉えるなら,9割がそれにあたりますので……1割もいないと思います。逆に言えば,天面の開閉機構を付けたとしても,ほとんどの人は自分で開けてメンテナンスしようとは考えない。サポートを頼られる方ばかりですよ。

akikiさん:
 私のTwitterにも「ボタンが効かなくなった」みたいな質問,よく来てるんですけど……。

(一同笑)

浅葉氏:
 困ったときは,弊社の製品サポートまでお願いします! akikiさんはサポート窓口ではないですし,Twitterでは基本的に回答できません。「飲み物をこぼしてしまった」「ケーブルをペットに噛み切られた」など,製品の枠内でのトラブルであれば,それほど高くない金額で何とか出来ると思いますので。

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プロゲーマー・sakoの2015年と,レギュレーション問題


4Gamer:
 今日はせっかくsakoさんにも同席いただいたので,プロゲーマーとしての2015年の活動について聞かせてください。7月に開催されるEvolution 2015(以下,EVO2105)にはもちろん参加されると思うのですが,そのほかについてはいかがですか。

sako選手:
 時間が取れなくて,海外の大会にはなかなか出られないんやけど……Capcom Cupは出たいなあ。

akikiさん:
 あの……sakoが海外の大会にあまり出てこないことで,ファンの皆さんをヤキモキさせている部分があると思うんです。でも,これは単純に時間とコストの問題で,sakoのモチベーションが下がっているわけじゃなくて。むしろこのところ毎日やってるよね。

sako選手:
 せや(笑)。

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akikiさん:
 そこは今日,ちゃんと言っておきたいと思ってました。

4Gamer:
 なるほど。じゃあ,Capcom Cupに参戦する意思は,十分にあるわけですね。それはやっぱり,賞金が大きいからですか?

sako選手:
 うーん,賞金が欲しいかと言われたら,全然そんなことはないんやけど(笑)。でも,そのおかげで格闘ゲームが色んな人から注目されたり,大会が盛り上がったりするのは,いいと思う。

4Gamer:
 あ,あれ? 賞金にはあまり興味がないんですか。ウメハラさんとか,かなり燃えてるみたいでしたけど。

sako選手:
 もちろん結果としてもらえるなら嬉しいけど,賞金を取りにいこうって考えてプレイすると,俺の場合は逆に勝てなくなるし……なにより楽しくないから。そこを楽しめるプレイヤーもいるので,あくまで“自分は”ですけどね。

4Gamer:
 ああ,sakoさんはそういうタイプなんですね。では,まずは目先のEVO2015で活躍し,そこでCapcom Cupへの挑戦権を獲得するのが目標になりそうです。今年もカスタム版のファイティングエッジでの参戦ですか?

浅葉氏:
 ああ,sakoさんのあのカスタム版――正確にはプロトタイプモデルと呼んでいるんですが,これついては,自分から説明させてください。というのも,昨年のEVO以来,問い合わせをたくさんいただいてまして(苦笑)。

4Gamer:
 ボタン配置がどうなっているのか,ですよね。確かに気になります(笑)。

浅葉氏:
 ええ。実はこういう配置になっています。

プロトタイプ版ファイティングエッジのボタン配置
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4Gamer:
 あれ……[L3][R3]ボタンが追加されてますね。てっきり辻式用の[SELECT]ボタンが増えているのかと思ったのですが,そうではない?

※辻式……「ストリートファイターIV」シリーズで用いられる特殊入力方法。任意のボタンと[SELECT]ボタンを1フレーム(約16ms)ズラして押すことで,目押しコンボの入力難度を大幅に引き下げるテクニック。

浅葉氏:
 はい。この実はこのプロトタイプのコンセプトは,「純正パッドと同数の入力機構を持つジョイスティック」なんです。前回のインタビューでお話したように,ファイティングエッジはアーケード環境の模倣ではなく,家庭用に最適化されたプレイ環境を目指すというのが,そもそものコンセプトになっています。であれば,1レバー+8ボタンというフォーマットに縛られる必要はない。

4Gamer:
 確かにおっしゃる通りですね。じゃあ,[L3][R3]ボタンはトレーニングモード用に?

浅葉氏:
 はい。以前sakoさんが言っていたのですが,そもそもアケコンを使っている時間のうち,99%はトレーニングモードをプレイしているわけです。使用時間のほとんどが練習なら,トレーニングモードでの操作がやりにくいのは大きなマイナスになりかねない。

sako選手:
 [L3][R3]はポジションリセットとかで使うから,ないと困る。

akikiさん:
 ボタンが多いせいで,色々と邪推されることもありましたけど。「マクロなんじゃないか」とか。

小西氏:
 内部の配線の数は既存のジョイスティックと同じですから,そんなことはありえません。もちろん,将来的には既存のボタンアサイン機能を拡張する形にできないかと思っていますが,今のところはそれもありません。

4Gamer:
 では,次期ファイティングエッジは,このプロトタイプモデルをベースとしたものになるのですか。

浅葉氏:
 そうですね。ただ時期などは決まっていませんし,急いで出すというものでもありません。現段階ではもっと純粋に,「次のファイティングエッジはどうあるべきか」という仕様の方向性を精査している段階です。もちろん,その中にはPlayStation 4やXbox Oneへの対応も含まれています。

4Gamer:
 単に現行のファイティングエッジを,ただPlayStation 4版やXbox One版に対応させることはしないと?

浅葉氏:
 はい。ボタン配置やアサイン機能から,タッチパネルや筐体の形状,スティックの切り替え機能などなど,実戦と練習双方での使い勝手を総合的に考えたうえで,我々の中での答えが出てから,新しい製品をお披露目するつもりです。

EVO2014より,世界の舞台で戦うsako選手
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4Gamer:
 分かりました。楽しみにしたいと思います。
 ちなみに,ボタンアサイン機能と言えば,「リアルアーケードPro.V 隼 for PlayStation 4 / PlayStation 3」(以下,RAPV隼)の新機能が話題になりました。この“1つのボタンに3つまでボタンをアサインできる”機能は,海外大会のレギュレーションに抵触する可能性が高そうですが……。

浅葉氏:
 ああ(苦笑)。RAPV隼については,sakoさんはまったく関わっていませんし,あくまでも我々がユーザーさんから多くいただいていたご要望に挑戦した製品になります。なので,あくまでカジュアル層向けに設計した製品なんです。ですが,ボタンアサイン機能への反響が予想以上に大きくて,僕らも驚いています。

4Gamer:
 まあ,国内で使う限りは,まったく問題ないですし。では,今後の製品には,このボタンアサイン機能が搭載されていくのですか。

小西氏:
 今のところは,現行で流通しているRAPV隼とサイレント隼のみで,VEWLIX隼はファイティングエッジと同様の1ボタンのみのアサイン機能になります。次のバージョンに搭載するかどうかは,皆さんの御意見や国内のトーナメントシーンの状況を見ながら,しっかりと議論して決めたいと考えています。

4Gamer:
 では,ボタンに方向キーをアサインする機能はいかがでしょう。これは海外大会のレギュレーションにも抵触しませんよね。

浅葉氏:
 もちろん技術的には可能ですし,面白いとも思いますが……悩みの種でもあります。作るとしたら本当にコア向けの機能になりますし,どう受け止められるかも分からないので。

4Gamer:
 ちなみにsakoさんは,レバー入力をボタンに割り振ることについてはどうお考えですか。いわゆる“情熱ボタン”ですけれど。

※情熱ボタン……Team Mad Catzに所属するプロゲーマー,ときど選手が一時期アケコンを改造して取り付けていた,8を割り当てたボタンのこと。これを利用することで,豪鬼のウルトラコンボである天衝海轢刃を,立ち状態から素早く出せるようになり,対空として活用しやすくなる。海外大会のレギュレーションには抵触しないものの,その是非についてさまざまな議論が起こり,本人自ら使用を取りやめた経緯がある。

sako選手:
 それができたら,戦略がまた変わっちゃいますよね。ボタンの配置変え自体はありやと思うけど……俺はレバーの割り振りはやらんかな。

4Gamer:
 なるほど。この手の問題の根元には”大会レギュレーションの曖昧さ”があるわけで,今後はより多くの議論が必要なるでしょうね。格闘ゲームは現状ワンデイトーナメントが主流なので,厳しくし過ぎるとチェックが追い付かない,という運用上の理由もあると思います。

浅葉氏:
 PCゲームのトーナメントシーンなどと比べると,格闘ゲームのトーナメントシーンは,ショービジネスとして成熟していない印象もあります。対戦が隣り合わせで行われること自体,どうなのかという話もありますし。

sako選手:
 隣り合わせの対戦,あれ,やる側はめっちゃ嫌やねんけどな。

akikiさん:
 海外だとアケコンを自作する人が多くて,レギュレーションをあまり厳しくできないのもあるのかもしれないですね。若いプレイヤーの中にはお金がなくて,仕方なく自作する子もいるみたいですし。

4Gamer:
 ああ,そういうのもあるんですね。アーケードで育ってきた我々とは,やっぱり文化が違うのかも。長らく話をお聞きしてきましたが,そろそろお時間のようです。最後に何かありましたら,コメントをいただけますか。

sako選手:
 EVO2015が久々の海外大会参加になります。今回も頑張りますので,引き続き応援よろしくお願いします!

浅葉氏:
 「隼」スティックが世の中に登場してから,おかげさまで3年が経ちましたが,まだまだこれからだと思っています。我々としても「やっぱりHORI製!」と言っていただける製品を目指し,これからも開発を続けていくつもりです。なので,今後とも弊社のアーケードスティックをよろしくお願いします。次期「ファイティングエッジ」についても,時が来ればお話できると思いますので(笑)。

4Gamer:
 はい,期待したいと思います。本日はありがとうございました。



 インタビューの折,個人的な要望として,「コマコンを出すつもりはもうないのか」とも聞いてみたのだが,浅葉氏曰く「面白いが,オンライン対戦で悪用される可能性があるので……」とのことだった。考えてみれば当たり前の話なのだが,アーケードスティックメーカーとしても,格闘ゲームの競技性や大会レギュレーションに配慮せざるを得ない時代であることを象徴するエピソードと言えるのではなかろうか。

 Capcom Cup 2015では,総額として約6000万円という高額賞金がかけられたことで,改造をはじめとするレギュレーションをめぐる議論は,今後より紛糾していくだろう。日本ではアーケード文化が根強いこともあり,環境の違いに違和感を覚える向きが多いが,アーケードスティックの多様性を認める海外の文化もまた,尊重すべきなのではないだろうか。

 インタビューで少し触れられた次期ファイティングエッジが,どんな形で登場するのかはまだ分からない。だが初代と同様,挑戦的な製品であってほしいと筆者は思う。ひとまず,sako選手の今後と活躍,そしてHORI製品のこれからに期待しておこう。

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HORI 公式サイト

  • 関連タイトル:

    ファイティングエッジ,リアルアーケードPro.

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